Column ポートランドのブルワリーから受け継ぎ進化するビール造り 〜 Izumi Brewery 〜

2018/06/18


狛江駅から歩くこと10分少々。住宅街に佇むビルの1F、窓から小空間ながら立派な醸造設備が見えてきます。2018年4月に醸造開始したばかりの、Izumi Brewery(和泉ブルワリー)。

初お披露目のビール『3A Farmhouse Ale(トリプルエー ファームハウスエール)』はポートランドのブルワリーの中でも注目を集めたCommons Breweryのレシピに基づいたもの。醸造開始までのストーリーや、これからのIzumi Breweryについてブルワーの和泉俊介さんに伺いました。



アメリカの醸造家育成プログラムでビール造りの基礎を学ぶ

和泉さんはIzumi Breweryをオープンする前に、ブルワーとして修行するためにアメリカの醸造家育成プログラム『American Brewers Guild』でビールについて学びました。

6ヶ月コースで年2回実施。アメリカ全土から応募が途絶えない人気のコースです。最初の約5ヶ月は通信教育。残りの5週間は現地実習。研修先は自分で決められるのですが、Commons Breweryを選んだ和泉さん。その理由は何でしょうか。

「ブルワリーが1区画につき多い地域で選び、かつ信頼できる人が薦めていたCommons Breweryを選びました」と和泉さん。サンディエゴ、コロラド、ポートランド、ニューヨークなど、場所の候補はいろいろあったそう。最終的にポートランドに決めたのは、『ビール天国(Beervana)』と言われているだけありクラフトビールの醸造所の密集度が高かったから。

せっかくアメリカまで行って修行するからには、様々なブルワリーを巡りたい、出来る限り現地のブルワリーで味わい吸収したいという想いがあったからなのです。


ポートランドのCommons Breweryで醸造修行

興味がある旨を話したら「すごくいいから行った方がいい」と言われたそう。また、インターンシップ先としても実績があったので受け入れてくると考え選んだそうです。


Commons Breweryで研修中の和泉さん。顕微鏡を覗いて酵母の確認をしているところ


滞在先を決めた和泉さんは、ポートランド在住でブルワリーツアーをやっているレッドさんの『オ州酒ブログ』をみて情報収集。そのブログの中からCommons Breweryを見つけ、レッドさんに直接コンタクトしました。


入って早々、とんでもない勘違い!

研修先としてCommons Breweryを選び、受け入れられた和泉さん。ところが入ってすぐにとんでもない『勘違い』をしていたことに気付きます。

和泉さんは元々ペールエールIPAが大好きで、ぜひこの2種類は醸造したいと考えていたそう。ところがCommons Breweryは、"ベルジャンスタイル" を得意とするブルワリーだったのです。

Commons Breweryのオーナーは、「ペールエールやIPAも美味しいけど人気が強くて一人歩きしていると感じ、自分たちはそれ以外のビアスタイルを…」という事で最初に造ったビールが『Urban Farmhouse Ale』。まさにベルジャンスタイルのビールなのです。


Commons Breweryのビール。左から2,3番目が『Urban Farmhouse Ale』. 現在Izumi Brewery併設のボトルショップ兼タップルームで販売中


事前にブルワリーのページを見ていたのだけど、英語なのでベルジャンスタイルが主軸だという事に気付けなかったのだとか!? 

それでも1ヶ月間ブルワリーで仕事を経験し、飲んでいる内に大好きになってしまったそう! 研修を終える頃にオーナーは「お前はここで働いたからレシピを知っているんだ。それでビールを醸造すれば?」となんとも太っ腹な提案をしてくれました。

和泉さんとしても大好きになったビールのレシピで造りたい。

最終的に正式に許可をもらい帰国後Izumi Breweryの記念すべき初ビールとしてCommons Breweryのフラッグシップビール『Urban Farmhouse Ale』のレシピに基づいたビール『3A Farmhouse ale』を醸造しました。


Izumi Brewery初醸造ビール"3A Farmhouse Ale" 酵母の甘みとほのかな酸味、しっかりとした味わい。バランスがよくさすがに美味しい


目に見えるものを造りたい=ビールを造りたいと確信

ところで、和泉さんがブルワーになりたい、アメリカのプログラムで醸造を学びたいと思ったきっかけは何でしょうか。

元々ビールが大好きだった和泉さんは、新橋某所でビアバーの店長募集記事を見て面接を受けにいきました。そのビアバーの当時の店長は注ぎ方に定評がありビールに精通している知るひとぞ知るカリスマ的な人。現在は「ピルゼンアレイ」のオーナーである佐藤さんでした。


佐藤さんと会話をする内に、ふとビールを売る側ではなく『造りたい』と話していたのだとか。もちろんビールを売る側のお店の面接なのでそんな話しをするつもりはなかったのですが、会話をしている内に気付いてしまったのです。

和泉さんは営業職としてキャリアを積んでいて、形のない見えないものに関して作り上げてきました。でもいつか、目に見えるものを作りたいと思っていたのだとか。それが『ビールを造る』と結びついた瞬間でした。

すると佐藤さんからこんなアドバイスが。「売り側からの立場からしても海外で勉強した方が絶対いい」と。真剣にビールに向き合っている人が言う事だから間違いないと確信した和泉さんは、海外でのビール文化が発展している地で醸造を学べる学校を探しました。それは2013年のことでした。


上司の理解を得て有給休暇でポートランドへ

その1,2ヶ月後にはAmerican Brewers Guildに申込をしたそうです。外資系企業に勤める和泉さんは休職を覚悟しました。ところが6ヶ月コースの研修は、実際は約5ヶ月が通信講座。日本で学べます。最後の5週間のみ実施研修となるので上司に相談したところ、有給扱いで渡米できる事になったそうです。

実はAmerican Brewers Guildはなんと2年待ちだったので、2年後の2015年の有給申請を出し、上司がかわる都度この件を話し理解を得ました。働きながら学ぶ事を心から応援してくれた上司の皆さんには今でも感謝をしているそうです。

こうして技術を取得して日本に帰国。会社員を続けながらIzumi Breweryのオープンに向けて奮闘しました。何かと開業資金がかかるブルワリー。『家族を、娘を不幸にさせない』という約束のもと2足のわらじをはいての運営です。



最初にオープンしたのはボトルショップ(酒屋)でありタップルームとなる『beer cellar tokyo』。2017年10月にオープンしました。

醸造免許がおりて併設するIzumi Breweryが本格始動したのが2018年4月でした。



醸造設備をレンタル。ショールーム兼トレーニングセンターとしての役割

ところでIzumi Breweryには立派な醸造設備が。こちらはポートランドを含むオレゴン州のクラフトビールと醸造設備の輸入を手がける会社ファーマーズの青木さんからの提案で実現した『レンタル』のようなものだとか。

機材を輸入して販売するには、日本にショールームが必要。そこで新しく立ち上げるIzumi Breweryに醸造設備を置き、和泉さんが自由に自身のビール醸造で使えるかわりに、興味がある人が見に来れたり、機械を買った人が研修ができる場所となるのです。ショールーム兼トレーニングセンターとしての役割。この提案は和泉さんにとっても渡りに船。快諾してスタートしました。



取材した日も今後同じ醸造設備を使用して立ち上げる新ブルワリーのブルワー、ドイツ人マリウスさんが研修で入っていました。


Commons breweryの味に近いビールを造りたい

取材時、Izumi Breweryが造っているビールはサワー、ファームハウスエール(2nd)ベルジャンスタウトの3種類。いずれもCommons breweryから教えてもらったレシピを参照し、酵母も同じものを使って醸造しています。ファームハウスエールは2ロット目。だんだん味わいがCommonsの元レシピUrban Faruhouse Aleに近づいてきていると感じているそう。

完璧に同じにしたいとは思わないけど、近づけたいとは思っています。Commonsのレシピがあるから旨いものが出来るのはわかっているので、全く同じじゃなくても後はバランスが良くて美味しいのができればいいなと」と和泉さん。

研修先で出会って大好きになったCommons Breweryのビールのレシピを元に造るのには訳があります。

「日本の一部のクラフトブルワリーを除いて、日本のクラフトビールってこんな味だよねっていうのが、なんとなくある気がするんです。味のベースが日本とアメリカでは違うと感じる事が多くて。「レシピをそのまま使えば限りなく味わいが近づくし、違いを知れると思って」と和泉さん。



さらに言葉を続けます。

「時間的なビハインドがあるんです。20代からやるならゼロからとことん自分でやって突き詰めるのが正しいのかもしれないけど。時間が足りないんです。10年20年の差を埋めるには、ショートカットが必要。

手本になるレシピを真似るのも、アメリカで学ぶのも、誰かと一緒に造るのも。そして、1人で全部やらない。クラフトビールを造る時にはいろんなモノ、いろんな人に頼る。これ戦略です」


今後は海外ブルワリーとのコラボも予定

今後の醸造予定としては、6月末に念願のIPAを仕込むそうです。これはなんとアメリカ、ポートランドのブルワリー「Culmination Brewing」とのコラボ。イングリッシュIPAを造るのだとか。

アメリカの研修先ではIPAを造る機会がなかったけれど、経験の深いブルワリーとのコラボによって造りたかったビアスタイルを自信を持って完成させる事ができるという訳です。

また、研修生としてIzumi Breweryで働いているドイツ人のマウリスさんはヴァイツェンが好み。今後一緒にヴァイツェンを仕込む予定もあるそうです。そしてもちろん今後もCommons Breweryのレシピをベースにしたビールは造り続けていくそうです。

2018年現在、和泉さんの修業先だったCommons Breweryは休業中ですが、感銘を受けたブルワリーのレシピをしっかり受け継いだIzumi Breweryを通して今も造られる美味しい1杯。

ビールが架け橋となってポートランドと東京のブルワリーが結びつき発展していく特別な1杯がそこにはありました。



Beer Cellar Tokyo(ビアセラートーキョー)
※Izumi Brewery併設ボトルショップ&タップルーム
〇住所:東京狛江市和泉本町1-12-1 1F
〇電話:03-5761-7130
〇営業時間:水、木 16:00〜21:00 金 16:00〜22:00 土日祝 12:00〜21:00
〇定休日:月、火曜日
〇URL:http://www.beer-cellar-tokyo.com/

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ライターの紹介

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福岡 桃子 ライター

元海外ツアコン(添乗員)。その後インテリア業界へ転身。 ドイツ、イギリス、チェコ、ベルギーなど海外で多種多様なビールに出会い興味津々に。7年ほど前にデンマークMikkellerのビールを味わい、ラベルデザイン、店舗の美しい内装インテリアなどにもときめき急速にビール愛に目覚める。 国内のビール醸造所をめぐり味わう旅にも喜びを見出す日々。 現在はイベントを通して北欧ビールを食やデザイン、文化とともに一緒に学んでいく会の開催を試み中。

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