
パエリアやパスタなどで、その存在感を放つ「ムール貝」。
美味しい食べ方として「酒蒸し」が有名ですが、日本では料理酒や白ワインで蒸すのが一般的です。
中でも私たちビール好きが注目したいのは、「ビール蒸し」!
ビール大国であるベルギーでは“国民食”と言っても過言ではなく、家庭やブラッスリー(ビアホールのような飲食店)でも定番料理として提供されています。また、日本にあるベルギー専門のビアバーや飲食店でも数多く提供されています。
▲編集部メンバーがベルギーで実際に食べた「ムール貝のビール蒸し(チーズがけ)」ビール蒸しで使用されるビールは、ベルギーではホワイトビールが多い一方、日本で「ビール蒸し」のレシピを検索すると、大手ビールメーカーのピルスナーで蒸す方法がちらほら見られます。クセが強くなく優しい風味のホワイトビールが貝特有の旨味とマッチするのは想像できるけど、意外にもピルスナーと貝の相性も良いらしい……
そこで、『どんなビールで蒸しても、美味しく仕上がるのか?』『使うビールによって味わいがどう変わるのか?』と、ふと疑問に思った筆者。

さっそく試してみたので、今回は作ってみた感想を皆さんにシェアしたいと思います!
6種類のビールを使ってみた

今回調理するにあたって、6つのビールを用意しました!選定基準は2つ。
1.手に入りやすいビールで
やってみたい!という方に参考にしてもらえるよう、身近なスーパーや酒屋で入手しやすいものを選びました。
2.ビアスタイル(ビールの種類)は被らないように
今回の実験では、
①どんなビールでも美味しくなるのか?
②使うビールによって味わいが変わるのか?
という2つの疑問を検証するため、全て個性が違うものをチョイス。
ちなみに、「どんなビールでも美味しくなるのか?」という疑問に対しては、この世にある全てのビールで試せるわけではないので、ある1つの仮説を立てました。
それは、「麦の旨味が特徴のビールは酒蒸しとして成立する。一方、ホップの香りが特徴のビールは酒蒸しとして成立しない」という説。

ムール貝を酒蒸しにするのは、魚介特有の臭みを消すためでもあります。そして、一般的なレシピに採用されている「ホワイトビール」「ピルスナー」は、ビールの原材料(麦芽・酵母・ホップ・水の4つ)の中でも「麦芽」と「酵母」の個性を感じやすく、淡白な味わいなので、火を通してアルコールを飛ばすとビールの味も貝に馴染んでまろやかになり、料理として完成することが想像できます。
一方、ビターやフローラルな風味を特徴とする「ホップ」の個性が強いビールを酒蒸しに使用すると、貝の臭みは消えたとしても、貝の旨味とホップの香りが喧嘩してしまい、独特なえぐみが生まれてしまうのではないか?と考えました。
そんな仮説を検証できれば、ムール貝に合うビールの傾向がわかり、ビール選びのヒントを導き出せるかもしれない。ということで、安全牌なビールに限らず、ホップが強めなビールにも挑戦しました。
具体的には、こちらの6種類。
■アサヒスーパードライ(ピルスナー/5.0%)

日本で最も入手しやすいということと、日本の「ムール貝のビール蒸し」レシピではよく使用されているという観点から、必須で入れた大手ビールメーカーの“ピルスナー”。その中でも、他のラインナップとの味の差が明確にわかるよう、特に淡い味わいでキレがあるものにしようと思い、アサヒビール『アサヒスーパードライ』を選びました。
■ヒューガルデンホワイト(ベルジャンホワイト/4.9%)

ベルギー発祥で、フルーティで優しい味わいのビアスタイル“ベルジャンホワイト”は、本場ベルギーの「ムール貝のビール蒸し」で最も使用されているため、本命ビールとして必須でラインナップに。中でも日本で最も入手しやすいという観点から、『ヒューガルデンホワイト』をチョイスしました!オレンジのような柑橘香をふわっと感じる優しいビールですが、そんな個性もムール貝に反映されるのか、試してみたいと思います。
■銀河高原ビール(ヴァイツェン/5.5%)

ドイツ発祥のビアスタイル“ヴァイツェン”。ビアスタイルとしては、ベルジャンホワイトと同じホワイトビールに分類されますが、ヴァイツェン酵母由来のバナナのような風味が特徴で、また違う個性が楽しめます。そこで、同じホワイトビールでもムール貝の味わいに違いが生まれるのか、という疑問を検証するためラインナップに入れてみました!中でも入手しやすい『銀河高原ビール』をチョイス。
■毬花-Marihana(セッションIPA/4.5%)

「ホップ」が特徴のビール代表として採用した、COEDOビール『毬花-Marihana』。シトラスを思わせる爽やかな香りと苦みが特徴です。セッションIPAなので軽やかな苦みではありますが、これでムール貝を蒸したらどんな味わいになるのか…楽しみです。
■よなよなエール(アメリカンペールエール/5.5%)

同じく、ホップの個性が目立つビールとして採用したヤッホーブルーイングの『よなよなエール』。セッションIPAの「毬花」に比べ、より芳醇で甘みも感じる味わいなので、ホップ系の中でもどんな違いが生まれるのか試してみようと、採用しました。
■ドラフトギネス(スタウト/4.5%)

最後は黒ビール!実は黒ビールも、ベルギーではお肉の煮込み料理などに使われることが多かったり、日本でも「黒ビールを使ったカレー」があったりと、料理酒として有能なビールの1つ。黒ビールの中でもギネスは軽やかで、尚且つ麦の旨味を直球で感じられるビールなので、ムール貝とマッチする期待も高まります。
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材料・作り方
今回の検証では、次の材料で作ってみました。【材料】
〇ムール貝:7粒(約100g)〇ビール各種:70ml
〇水:70ml
〇ニンニク:1/2片
〇玉ねぎ:少々
〇オリーブオイル:小さじ1
一般的なレシピを調べてみると、ビールだけで蒸す方法や水も加える方法など様々ですが、今回は「ビール:水=1:1」で試してみました。

ムール貝は冷凍のものを使用。業務スーパーで、500gのものが300円前後で購入できました!相当安いと思います。
作り方も超簡単!
【作り方】
①ムール貝を自然解凍する。貝に汚れがついていた場合は軽くタワシで落とし、ヒゲがついていた場合は抜く。②鍋にオリーブオイルを引き、スライスしたニンニクと玉ねぎを入れ、火にかける。
③フツフツしてきたらムール貝、水、ビールを投入。
④蓋をして強火で3分蒸したら、完成!

アサヒスーパードライ…

ヒューガルデン…

銀河高原ビール…

毬花…

よなよなエール…

最後にギネス!

今回は実験なので、1回分のムール貝の数は少なくしてしまいましたが、2人前で500g(約30〜40粒)は余裕でペロッといけちゃいます!ご自宅で作るときは、たっぷりのムール貝で試してみてください。
実食!

6種類全て並べるとこんな感じ!煮汁(スープ)の色がわかりやすいように、今回は白い紙皿に盛り付けてみました。
1つずつ食べていきたいと思います。
■ムール貝のアサヒスーパードライ蒸し

まずはアサヒスーパードライ蒸し。一口食べてみると……うま〜〜!!!貝の身にスーパードライらしい苦みは特に感じられず、全く旨みの邪魔をしていません。むしろキュッと味が引き締まった印象。アルコールが飛んで、しっかり料理に溶け込んでいます。
スープはちょっと苦みが感じられました。ちなみに、今回の検証では全体的にスープに苦みがありましたが、プロが作った「ムール貝のビール蒸し」を食べた時は飲み干せるほど美味しかったので、もしかしたら今回は下処理が甘く臭みがとりきれなかった可能性があります。
皆さんがご自宅で作るときは、信頼できるレシピを調べて作ってみて、ぜひスープにもチャレンジしてみてください!残ったスープでリゾットなどにすると、最後まで美味しくて幸せです。
■ムール貝のヒューガルデン蒸し

本場の味・ヒューガルデン蒸しは、間違いないおいしさ!スーパードライと比較して、ムール貝がよりふっくら柔らかくなっているように感じました。スープの味もまろやかで、柔らかい…!冬にぴったりな温まる味です。ビールをそのまま飲んだ時に感じる柑橘香は特に強く感じず、ムール貝に綺麗に溶け込んでいました。
■ムール貝の銀河高原ビール蒸し

ヴァイツェンで蒸したムール貝も、ベルジャンホワイトと同様まろやかで柔らかい味わいになり、美味しい結果になりました!味もベルジャンホワイトver.と大きく変わらず、ヴァイツェン特有のバナナ香もあまり感じませんでした。
ただ、苦手な人は少量でも敏感に感じ取れると思うので、ヴァイツェンのバナナ香が苦手な人からしたらスープが美味しく感じられないかもしれません。元々苦手な方は避けるのが吉です。
■ムール貝の毬花蒸し

個人的には今回の検証で最も気になっていた組み合わせ。実際食べてみると…貝の身は他と同じように問題なくおいしく食べられました!ホップの香りも貝に移っているようには感じませんでした。
ただ、スープの方にはホップの香りが強く残り、やはり貝の旨味と喧嘩してえぐみが発生してしまい、飲めるものではありませんでした。玉ねぎやニンニクにもスープが染み込んでしまっていて、美味しく完食できない可能性が。「スープは飲まない、貝以外の具材は一切入れない。貝の身だけ食べる!」という方は試してみる価値ありです。
■ムール貝のよなよなエール蒸し

よなよなエール蒸しは、貝の身にも少し風味が移っているように感じました。香りが強く芳醇なビールだと、蒸している時にビールの香りが湯気として広がり、移りやすいのかもしれません。とはいえほんのり程度だったので不快感はなく、おいしく食べることはできました。ただ、スープに関しては「毬花」と同様イマイチ。やはりホップが効いているビールは、酒蒸しには適していないかもしれません。
■ムール貝のギネス蒸し

最後は、料理酒として使うこともある黒ビール!ほんの少しですが、他のビール蒸しに比べて貝の身にも厚みが出たように感じました。ふっくらして、芳醇で美味しい。ただし、ギネスよりも濃厚で個性の強い黒ビールだと、おいしく仕上がらなそうな印象。黒ビールで作る場合は、クセがなくあっさりしたタイプの方が良さそうです。
まとめ

結果、どのビールを使っても貝の身には大きな影響はなく、美味しく食べられました!ただ、やはりホップが効いたビールを使って蒸したものは、スープにえぐみがうまれてしまったり、多少貝にも香りが移ってしまったりと、ビール蒸しには向いていないことがわかりました。
「ムール貝のビール蒸し」を作る時は、比較的淡白で、麦の旨味が個性の中心になっているビールを選ぶのが無難でおすすめです!
そして、今回はあくまで実験なので、もっとおいしい調理の仕方はきっとたくさんあると思います。やってみたい!と思う方は、ぜひ自分なりの最高な「ムール貝のビール蒸し」に挑戦してみてくださいね!
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