“日本の温もり”を感じ、どこか懐かしさがあるビール屋さんに行ったことはありますか?
考えてみれば、日本に増え続けるビアバーやブリューパブは、オシャレで現代的なお店が多い印象があります。
そんな場所も良いけれど、実家のように温かい空間でおいしいビールを楽しめるお店もとっても魅力的。『ただいま!』と言いたくなるビール屋さんが存在するなんて、それを理由に近所へ引っ越したいと筆者は考えたこともあります。
そんな、日本人の心をくすぐるノスタルジックなブリューパブを、過去に「ビール女子」が取材をしたことのある中から3つご紹介!
あなたが帰りたくなる場所は、どこ?
【東京・東陽町】ガハハビール
東陽町駅から6分ほどの場所にある「ガハハビール」。2017年、江東区発のビール醸造所兼居酒屋としてオープンしました。
東陽町駅で降り、地図に従って歩いていくと、大きな団地が見えてきます。マップが示す場所をみて不安になった人も大丈夫!このまま団地の敷地内を迷わず進みましょう。そう、なんとガハハビールは団地の中にあるのです!
団地の一角にあるので、この団地で暮らす方や、職場が近いサラリーマンを中心とした人々が足繁く通い、東陽町で生活している地元の人から愛されています。
おいしいごはんの香りや、味のあるラジオが流れる店内。お店全体があたたかくて、実家に帰ってきたような安心感が湧いてきます。店内にはテーブルが14席、カウンターが6席。
そしてテラスにもテーブルやベンチが出ているので、晴れた日は外で飲むのも気持ちがいい。
店名「ガハハビール」の由来は、店主の馬場さんの笑い声。底抜けに明るい「ガハハ!!!」という馬場さんの笑い声に、思わず笑いの連鎖が起こってしまうような、ハッピーオーラ全開な店内です。
ガハハビールでは自家製ビールを定番6種、限定のものも含めると11種のビールをタップに繋げています。限定ビールは月に1〜3種ほど醸造し、その時繋がっているビールがなくなれば入れ替わります。
どれもドリンカビリティ(飲みやすさ)重視で醸造しているため、定番ビールはほとんどアルコール5%以下のものばかり。
ちなみに、ビールの名前もユニークで、ダジャレ多め。例えば、飲むと思わず踊りたくなるような軽やかな小麦系のIPAは、“Shall we dance?”と“ウィート(小麦)”をかけて『シャルウィートダンス』とか。思わず笑ってしまうビール名も必見です。
ガハハビールは「ビアバー」ではなく、あくまでも「居酒屋」であるというこだわりを持っていて、料理とビールを一緒に長く楽しんでもらうために次の1杯を選びやすいビールを造っています。
そのため、ビールと一緒に楽しむ食事も充実!馬場さんが、元々高円寺にある海鮮系の九州料理居酒屋で料理を学んでいたこともあり、鮮度抜群のお魚を使った魚料理が名物です。シンプルに素材の味を楽しむお刺身のほか、それぞれの素材を生かした調理法で仕上げた豊富な魚料理が楽しめるのが魅力。
毎日変わる「昼呑みおつまみセット」もおすすめ!一品一品手が込んでいて、さらにビール付きで税込1,000円……毎日通いたくて、団地に空き部屋がないか思わず探してしまいます。
【埼玉・川口】びぃる食堂ぬとり&ぬとりブルーイング
埼玉県のJR京浜東北線 川口駅西口から道をまっすぐ進んで徒歩10分ほどの場所にある、赤鼻の「ぬとりちゃん」の看板が目印の「びぃる食堂ぬとり&ぬとりブルーイング」。
代表であり醸造責任者の山田泰一(たいち)さんと、副代表の山田小葉(こば)さん(通称:おかみ)ご夫婦が立ち上げ、2020年にオープンしました。
光が差し込む店内には、星形の照明や提灯が天井から下がり、自社のTシャツやグラウラーが壁に飾られ、天井には「祝開店」のポスターや店主のおふたりのイラストが貼られていたり。
木のテーブルはあたたかさを演出してくれ、食堂の椅子然としたプラスチックの椅子は「さあさあ座って」と誘ってくれているよう。
近所の小学生や中学生も通うあかはな図書館。本棚の区画ごとにオーナーがいて、オーナーがおすすめしたいと思う本を並べています。見てみると、講談師の方やライターなどさまざまな方の棚が。それぞれの個性が溢れた棚で眺めているだけでも心躍ります。
ぬとりのビールは、人や場所との“つながり”を大切にし、そこから発想して造っているのだそう。
例えば、草加煎餅でも有名な隣町・草加市のせんべい屋さんと繋がったことで醸造しているラガー(現在醸造中)や、遠野のホップ栽培のコーディネータ・神山(こうやま)さんとイベントを開催したご縁で完成した『遠野とぬとり 2023』など。
どのビールも麦芽の甘みが感じられ、どこかに安心するようなやさしさが感じられるのと同時に、味わいや香りにどこかぬとりらしいスパイスも効いた味わいです。
ぬとりのビールの魅力は、オリジナルビールだけではありません。店内には、直径5ミリと9ミリのスイングカランの2つが設置されています。
スイングカランは、注ぎ手によって、そして注ぎ方によってもまったく異なる味わいのビールを注ぐことができるもの。過去には、お客さんが自分でカラン注ぎを体験してもらうイベントなども開催したそう。
スイングカランでは現在黒ラベルを提供していますが、今後は自社醸造ビールをカランで楽しめるかも。
そして、ぬとりに来たら欠かせないのが、おかみが作る「滋養メシ」。ぬとりでは、おかみのお名前「小葉(こば)」+「小皿料理」として“こばんざい”とも呼ばれています。
いろんな場所へ赴くことが大好きなご夫婦が、同業の仲間のところに行って、インスパイアを受けた料理を提供。例えば、写真右側の『福島のイカ人参』『福島のネギのマリネ』の2品は、福島の「イエロービアワークス」に行った際に食べた郷土料理にインスパイアを受けて作ったのだそう。
また、狩猟免許も持っているというおかみ。今後、おかみが獲ったジビエを食べられる日が来るかもしれません。
そんなぬとりは、こども110番のお店としても機能しているので、子供たちの下校時間に合わせて14時に店を開けているのだそう。
お店に来てくれたお客さんたちだけでなく、街に対する温かさも感じられ、実家のようにホッとするぬとり。都心へのアクセスも良好で住みやすい街として大人気の川口ですが、近所にぬとりがある生活を想像すると、余計に住みたくなります。
【群馬・高崎】シンキチ醸造所
東京駅から北陸新幹線に乗車すること約1時間。群馬県最大のハブ駅となっている高崎駅から10分ほど街を歩くと見えてくるのが「シンキチ醸造所」(以下、シンキチ)。レトロな出で立ちの醸造所で、グリーンのカーテンが涼しげです。
ここは、醸造所とパブが一緒の空間にあるブリューパブ。醸造を行いながら、樽生や瓶でクラフトビールの販売をしています。グラス1杯からはもちろん、グラウラーでの量り売りも可能。
元々は長屋だった家屋の一角を改装して作られたシンキチ。木の引き戸を引いて足を踏み入れると、暖かくてホッとするような店内に、どんなビールがあるんだろうとワクワクが募ります。
いつ行っても、地元の方や遠方からのお客様で賑わう店内。シンキチに集うお客さんはみんな気さくで優しく、なんだか実家の親戚の集まりを思い出すような雰囲気です。
オーナーでありブルワーの堀澤さんは和食の板前でもあり、元々は日本食割烹のお店を経営されていたことも。
そんな堀澤さんはある日、「ビールは最初の一杯にはなるけれど、炭酸も強いし食事と共に最後まで味わうことは難しい。喉で飲むのではなく、舌で飲めるようなビールは造れないのだろうか」と思ったそう。ワインや日本酒が食中酒の主流でしたが、食中酒としてのビールを造れないかと考えたのがシンキチの始まりです。
ビールの醸造は未経験だった堀澤さんは、宇都宮の栃木マイクロブルワリーで醸造の基礎を学ぶべく修行をしたり、海外に行ってクラフトビールを学んだりと知識や経験を深め、シンキチ醸造所をオープン。
そんなシンキチのビールは、「微炭酸」「果実酒のような味わい」が大きな特徴。ホップやアロマの香りがガツンとくるタイプではなく、ビールによって違う素材の繊細な味や香りが楽しめます。
季節によって変わる旬の果物や野菜を使用したビールが得意で、切り干し大根を使ったエールやふきの山菜エールなど、他で飲んだことのないようなおもしろいラインナップ。
ブルワーの堀澤さん曰く「料理に合うようなビールのレシピを考えていたら自然とこうなった」とのことで、あえて変わり種ビールに挑戦しているわけでもないのだそう。
そして“食中酒”であることにもこだわりを持って醸造しています。もちろんビール単体でも楽しめます。
明確な定番ビールというものは設けておらず、季節ごとによって造られるビールも様々なので、行くたびに新しいビールに出会えそう。
料理に合うような“最高の食中酒”を目指しているということは、料理ももちろん抜群においしい。和食を中心に、ビールに合うメニューを取り揃えています。日本酒にも合いそうな、渋いラインナップが最高!チビチビとやりたくなります。
初めて訪れた人にとっても、どこか懐かしい故郷を感じさせるようなシンキチ。個性的で唯一無二なシンキチのクラフトビールが寄り添う生活をしたくなります。