東京ビアウィークの終盤、4 月 10 日(金)にまだオープン前の代官山 SPRING VALLEY BREWERY TOKYO(スプリングバレーブルワリー東京、以下、SVB東京)にて、行なわれたクラフトビールトークセッションの模様をほぼ全文書き起こしました。日本のクラフトビール業界の蒼々たる面々が登壇したこのイベント。抽選制のイベントだったため、本当はとても行きたかったけれど残念ながら当日行けなかった方も多かったのではないでしょうか。そんな方も、今回このイベントがあったことを初めて知る方にもお楽しみいただけるよう、少しの補足を加えて本邦初公開! オフレコフラッグや笛も吹かれながら行なわれた白熱の 90 分間に渡る本音トーク。 3 連載の第 3 弾、先に公開した第 1 弾、第 2 弾もまだの方は合わせてどうぞ!
クラフトブリュワーズ・トークイベントとは
4 月 3 日(金)〜 4 月 12 日(日)まで行なわれた“東京ビアウィーク”のメインイベントとしてキリンビールが代官山に新しくオープンするSVB東京にて行なわれたクラフトビール界の重鎮たち7名を集め、日本のクラフトビールのこれまでの歴史や今後をテーマにして白熱した議論を繰り広げたトークセッション。90 分間、延長なしで行なわれた。 ▼これまでの記事はこちら >[ Part1 ]廃れていく地ビールの中生き残ったブルワリーたち。“ビールのためにやる!”>[ Part2 ]自分が飲みたいものをつくりたい!それが本当に愉しいこと
地ビールからクラフトビールになって、地ビールに戻る? 日本のクラフトビールのポジティブな未来
藤原:今後の日本のクラフトビールについて、“ポジティブな”ご意見を。 青木:やはりホームブリューイングが認められないとアメリカのようにはならない。
小田:アメリカに行って、ビール界の知人と 95 年頃、彼とホームブリューイングについて話したとき、僕たちも日本ではホームブリューイングが解禁するのは完全にないと言っていた。でも、今はあるかもしれないという考え。法律ではなかなかまだ課題はあるが。
木内:ウィスキーやワインでも大手メーカーが参入して小さいメーカーを買収したりして、大手が入るとブームが終わる、というコトが起こっているのですが、ビールはそうならないようにがんばって行きたい。
田山:はい、そうならないようにがんばって行きたいですね。こうやって同じフィールドに立てるって夢のようですし、僕はこういうことがやりたかったんだよな、とあらためて思いながら。時代が変わってきたなというのは感じてますし、法律とか規制の話しも出てますが、それもいつまでも続いていくものじゃないなと思っています。産業が活性化していくことが大事だと思うし僕らがそうやって盛り上げていけば国も必ず動くんじゃないかなと思っているので、そこに貢献したい。また、ビールについて言うと、朝霧さんもおっしゃっていましたけど、クラフトビールと繊細な和食のペアリングとか、それに合うビールもまだまだこれから研究していきたい。ブライアンも言ってたけど、日本の地酒のような伝統的な酒造りの技術の中にも秘密が隠れているかもしれない。こういったところで色んな知恵やトライアルが起こることで、世界の中でのジャパニーズクラフトビアが大きく動き出すんじゃないかなというすごいワクワク感を持っている。そんなことが未来に繋がっていけばいいなと思っています。
チャック:オーストラリアでクラフトビールのボリュームが伸びてきている1つの要因として、テレビでの料理番組があって、それが大きく影響を及ぼしていると思う。マスターシェフがテレビに登場し、ビールをつくるときにの原料や工程、味わいについて語っている。そうゆうことができて、世の中も解ってくると素晴らしいクラフトビールを飲む愛飲家が増えてくる。その素晴らしいビールを飲むときにはじっくり飲む、一気に飲むではない。ゆっくり飲んですごく味わう。適量に飲んで食事と一緒に楽しむことが大きな鍵になると思います。 藤原:ここはお料理とのペアリングも楽しめそうだよね。Tボーン楽しみ。今、お話し伺ったようにシェフが料理していく中でビールと合わせるなんて番組が日本でもできるといいなと思います。僕7月からNHK教育でビールの番組担当するんだけど、そういったところで料理にもフォーカスしていきたい。
ブライアン:ビールの将来、あるにちがいない。自分はアメリカに生まれてアメリカでビールを学んで、アメリカのクラフトビールも見た上で何が可能か、わかっている。でも、日本はアメリカじゃない。アメリカの形とは違うものになってくるに違いないと思う。そもそもクラフトビールって何でしょう? 元々、アメリカ人がヨーロッパの伝統的な味わい深いビールづくりを見て、それをクラフトビールと呼んだ。戦後以来、どこの先進国でもビールを薄く薄く薄く、生産性、生産性、生産性、販売しているのはビキニ姿のビールで、それしか誰も手に入れられなかった。だからクラフトビールは生まれた。クラフトビールは昔を振り返って、昔のビールを再現して導入しようとしているわけです。日本はね、企業的な問題や酒税の問題はすぐ終わらない。でも、コンビニに毎日行ってるけど、第三のビールや発泡酒が少なくなって、プレミアムビールが増えたよね。どんどんそういったニーズが増えている。そう考えると、クラフトビールのクラフトって必要じゃないんじゃないか。(多様性ある“ビール”という意味で)日本ではそれが可能になるんじゃないか、僕はそう予測する。会社の規模とか関係ない。ビールのイメージがとりあえずビールもいい、じっくり味わうビールもいい、それが日本では実現するんじゃないか。そういう風に発展していい市場になるんじゃないか。日本の将来はそこにあるんじゃないか。
朝霧:ブライアンの言われた通りで、今、どんどん昔に戻っていっているんじゃないかと思う。ある時期に産業がどんどん発展して、効率を追求してとにかく安く、とにかく速くを突き詰めていったんだけれども、僕たちの食ってどんどん突き詰めて行っても宇宙食にはならない。そうすると、愉しい、美味しい、誰がつくってみたいなところにいく。そこにやはり戻ってくるんですよね、だって愉しいじゃないですか。悲しいかな、僕らは自分たちの地ビールを否定せざる終えなかった時期があった。でも、今のクラフトビールって目指すところの1つにローカリティがある。地ビールから始まって、クラフトビールといって、地ビールに戻っていって、それが顔が見えるものづくりの関係性やていねいにつくることだったりする。これまで世界的に伝統的に見てもビールって地域文化だった。その昔のことを大切にしながらも、新しいスタイルも融合されていく。まさにルネッサンス。この、愉しい時代に今、同時にいられるこの状況をみんなで愉しみましょうよ。 木内弟:あるとき、海外の人に「日本てスゴいよね、大豆でビールをつくれるんですよね」と言われたことがある。大手はすでに大豆のエキスからビールをつくるすごい技術を持っていた。それって酒税法があることによって生まれた技術だったりするわけで、そこから生まれるカルチャーもあり、世界に発信できることがあるかもしれないと思い、だから僕は否定しなかった。で、今、すごく危惧しているのが、大手もキリンさんも始めクラフトビールに参入してきて、ぜひキリンさんは「クラフトという名の発泡酒」だけは・・・(一同爆笑)。 青木:どぶろくってね、美味しいんですよ。特区ができてからうーんと美味しくなりました。クラフトビールもそうなってもらえたらなと。若いブルワリーが志を持って、小さいブルワリーを始めて、年間で4000万とか 5000 万稼げるような世の中にできるよう、僕もそこに力を注ぎたい。 朝霧:そういえば、今、特区と言われましたけど、僕先日行政の方に「ホームブリューング特区ってやったら人口増えますよ」と提案したんですよ。これ、よくないですか? そしたらブルワーも増えるだろうし、やはりビールつくるのって簡単じゃないので、リスペクトももっともっと生まれるでしょうし。 藤原:僕、よくホームブリューング反対派かと思われがちなんですが、そんなことなくて。ぜひ、今のやり方じゃなく、解禁された上できちんとやってもらいたい。そう思っているということを、今日は司会をしてきましたけど、最後に僕からの発言として伝えさせていただきたいですね。 そろそろ時間となりますが、今日はみなさん楽しんでいただけましたか? 〜一同拍手〜 日本の現状、世界の現状色んな話しがでましたが、小田会長、最後ご意見を。
小田:どんどんクラフトビールが成長していくと思っている方が大半だと思うんですが、あと 5 年後、東京オリンピックの年までにどのくらいクラフトビールのシェアがどのくらいになるでしょう?
僕はキリンが 0.5 %、クラフトビール業界が 1.5 %、他 3 社が 0.5 %、合計 3 %を占めてくるのではないかなと。ビール市場の 3 %を 5 年か 6 年先にはクラフトビールが占めてくるんではないかと。以上です。今日はありがとうございました。
会場の来場者からの質問
質問者1:近くのスーパーでクラフトビール人気 1 位と 2 位がバドワイザーとハイネケンだった。いま、クラフトビールのその後にクラフテイは来るか?チャック:クラフトビールはエデュケーションが大事。アメリカやオーストラリアでもセミナーなどを使って伝えていかなきゃいけないという状況もありましたし、今でもアンバサダーなどを含めて伝えていくということが大事。ちなみに、バドワイザーはクラフティではないですよ。
ブライアン:製造者として、僕らはお店もあるし、全てのレベルで参加する。小売りの方々も責任があって、自分たちがなぜそれを置いているか、製造者とどんな関係を結んでいるかが大事。それを消費者に情熱的に伝えていかなきゃいけない。製造だけではない。卸も小売りも革命が必要なんです。ぜひみなさんも参加してください。
質問者2:プロトタイプの #496* はすごくどこにもないビールだなと思ったけど、今回の 496 *は苦くて、どっかにあるビールだなと。本当はどちらにしたかったんですか?
田山:えーっと、模索中です。正直ですみません(笑)。まず最初のやつ(プロトタイプ #496 )で勝負して、色んなお客さんから色んな意見をいただいて。今回のは僕的には苦みの水準をちょっと理想から外した。で、やってみて、どうかなと。最終的にどっちでいくかは今日、この後決めます。 *プロトタイプ#496:2014 年の 7 月にSVBを発表したときにプロトタイプ版の #496 を発売した。その後、顧客アンケートからの声なども得ながら今回、オープンに合わせ「496」がフラッグシップとして醸造された。「496」には一ヶ月の 1〜31 を足すと 496 日ということから、毎日飲めるビールという意味が込められている。 ▼関連記事 >ライフスタイルごと楽しむビール明日予約開始のキリン初クラフトビールを飲んでみた。>お披露目イベントとビールが発表!キリン「スプリングバレーブルワリー」で飲める6種類とは?
質問者3:これからのクラフトビールをどう楽しんでいったらいいと思うか?つくり手として、飲み手側にどういったことを期待するか? 〜1人一言ずつ回答〜
木内:すごい難しい質問だなと。ファッションではなく、流行りじゃなくて本当に自分が「これが好き」と思うかどうかで飲んでください。
青木:酔う美味しさと味の美味しさって別物だと思う。僕、最初にクラフトビール(当時地ビール)を飲んだとき、美味しいのか美味しくなかったのかよくわからなかった。我々は正しい情報、美味しい、美味しくないという情報をお客様に教えなきゃいけないと思っている。 朝霧:とにかく、好きなように飲んでください。 小田:造り手がビールに対してサイエンスを感じるか、アートどう感じるか。お客様もそれに対してどちらを感じるかだと思う。
ブライアン:ダイバーシティ。多様性。ビールほどこんなに多様性あるアルコールはない。種類は数えきれない。毎日飲みたいビールは違ってくる。誰と一緒に飲むか、何を食べるか、季節によって飲みたいビールがある。こういう多様性がある、それがクラフト。
チャック:ビールの4つのRの話しをしたい。 まずはじめに“reflesh” と “relax”。この2つははどんなビールにも通じるR。 次に “referlence” どう飲むか、どんな食べ物と飲むか。 そして最後に “reverence” そのクラフトに対して敬意を払うという意味のR。これがクラフトビールです。 田山:たぶんビールって経験値を高めるほど、色んなビールを飲めば飲むほど好き嫌いの基準が出てくると思うんです。だからできれば好きとか嫌いとかはっきりと言ってもらう。それが我々ブルワーとしても嬉しいと思うし、そうやって自分の意見を持ってもらえばいいかなと思う。とにかく、いっぱい飲むことですね(笑)。 〜以上、2015.4.10 「クラフトブリュワーズ・トークイベントat SPRING VALLEY BREWERY TOKYO」〜
【編集ほとんどしてないけど後記】
かなりの長編になりましたが、日本クラフトビール界の歴史的トークセッション完全書き起こし記事はいかがでしたでしょうか? 本当は途中で笛を吹かれたり、実はほとんど編集の手を入れずに、書き起こさせていただきました(関係各所ごめんなさい)。クラフトビールに大手が続々と参入し、様々な議論がある中、一消費者として感じることは、トークセッション中に藤原ヒロユキ氏が言った「うまいもんはうまい、それだけなんだよね」というこの一言に尽きるのではないでしょうか。美味しいビールがたくさん増え、ブライアン氏の言うビールのダイバーシティをより多くの方が感じ楽しむことができれば、私たちWEBマガジン「ビール女子」も発信者冥利に尽きると感じています。 2012 年は日本におけるクラフトビール元年とも呼ばれていますが、まだまだアーリーアダプターやコアなクラフトビールファンが多かった印象がありました。そこから 2014 年、 2015 年前半のこの盛り上がりを受け、消費者や業界全体がどのように成長していくことができるのか、とっても楽しみです。 最後に、今回のクラフトビールトークセッションを振り返り最後に補足するとすれば、白熱した議論はあったものの今回のパネラーたちやこの場を作ったSVB、東京ビアウィーク実行委員会、そして会場にいた来場者、すべての人たちが今日のクラフトビールに対する熱いリスペクトを持って生まれた議論であったということ。この場が、まさに日本クラフトビールのルネッサンスを象徴しているのではないかと感じました。