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お酒は二十歳になってから。

Column 世界と出会い直す「ビール学」を夢想する。

2022/04/04



「ビールって面白い」


2021年のはじめにビール業界に飛び込んで以来、ずっと抱いてきた感覚だが、同じ「面白い」という形容詞でも、その言葉に包まれた「ビール」の姿形は自分にとってずいぶんと変わってきた。


読書が好きで、ビールや醸造、発酵、それに類する本をよく読む。昨年夏にはこの連載の中でも「ビール本」をテーマにしたコラムを書いた。

【関連記事】この夏のビールがもっとおいしくなる、新米ビール職人の読書案内

夏以降も本屋さんや図書館に毎週のように通い、この1年で100冊ほどの本を読んだ。

それらの本から、そして醸造の修行から感じた「ビールの面白さ」が、今回のテーマだ。

  • 【ライター】髙羽 開
    新米ビール職人。高知県の「Mukai Craft Brewing」での修行を経て、現在、自身の醸造所とブランドを立ち上げ中。ビールづくりを通して「調和を生み出す補助線を引くこと」を目指しています。
    Twitter:@kaitakaba

「ビールって面白い」を分解する


そもそもビールが面白いのはなぜなのか?

それは「ビールがさまざまな学問領域に横断的に関わっているから」なんだと思う。(これは、ビールの普遍的な面白さについて言及するものでは全くなく、超個人的に感じている「面白さ」ではあるけれど...)

要するに、ビールを学ぶことで、世の中のさまざまな知の領域に触れることができるのだ。

自然科学でいうと、物理学・化学・生物学など。

人文科学でも、歴史学・哲学・政治学・宗教学・民俗学・文学・美学・文化人類学などなど。

広義な学問領域まで含めると、医学・農学・工学・醸造学・栄養学・調理学・サステイナビリティ学などからもビールを眺めることができる。(これらの学問同士が、重複する部分は多々ある)


じゃあ、「こんなにも様々な領域からビールを見つめることができるのはどうしてなのか?」を考えてみたい。

いろいろあるんだろうけれど、以下の3つの要素が特に大きいのではないかと思う。


・数千年〜1万年とも言われる長い長い歴史を持ち、誕生当初から世界中の多様な身分の人々にさまざまな形で飲まれてきた背景がある。

・麦芽・ホップ・酵母・水という「自然物」と「ヒトの技術」の掛け合わせの産物であり、気候や地域、時代によってその発展の様子も異なる。

・アルコールを含む飲料である。これは「税の対象となり、政治とも密着に関わってきた」という側面と、何よりも「アルコールを含む美味しい飲料として、世界中の人たちに愛され続けてきた」という側面がある。



まとめると、こんなにも社会性の高い、自然の産物であるビールだからこそ、いろんな角度から学び得る「器の大きさ」がとんでもないのだと感じざるを得ないのだ。

ビールを通じて世界と出会い直す


ここまでに書いたように、いろんな角度からビールを学ぶことは、振り子のように様々な領域を行ったり来たりすることができて、とても楽しい。知的好奇心を満たす対象としてもってこいなのだ。

と同時に、この1年間ビールを学んできたことで得られた不思議な感覚が他にもある。

それは「この世界にもっと興味が湧いた」ということだ。


ビールの歴史本を読んだことで、ビール以外の歴史にも興味を持つようになった。

醸造の師匠から(ビールをつくるときに必要な)熱や電気、原子・分子レベルまで分解したビールについて教わったことは、ド文系の自分が化学や物理をゼロから学び直すきっかけにもなった。

他にも、世界の食文化、政治、文学、お酒の恐ろしさ。

五感や脳の働き、おいしさの不思議、ものづくりの環境負荷、情報リテラシーなどなど。

(社会性と自然性の両方が高い)ビールを入り口にこの世界に興味を持つきっかけが増え、それと同時に社会に対する見方や考え方も少なからず変わった。

それぞれの知識も経験もまだまだ浅すぎるけれど、間違いなく、僕はビールを通じてこの世界と出会い直している

ビール学を夢想する


僕たちは、正解のない社会に生きている。先行きの見えない、変化の激しい社会を指して「VUCA(ブーカ)時代」と現代が形容されるようになって久しい。

※VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を並べたもので、これらの要素を含んだ社会情勢のこと。

情報も溢れている。スマホを開けば、現在進行系で続く戦争のニュースと、友人がおいしいビールを飲んでいる写真と、動物の癒やし動画がタイムラインに同時に流れてくる。この世界は、極めて複雑かつ密接につながっている。

そして、僕のこの1年を振り返ったとき(バカげた風に聞こえるかもしれないが)、そんな世界の複雑さの"一端"を知る最初のきっかけに、ビールがなったのだ


この世界を探求するために体系化した知識とその方法を指す、「学問」。

もし「ビール学」という学問が大学にあるとしたら、どんな講義内容になるだろう。

「世界のビール史」「政治に翻弄されたビールたち」「ビールと共にある世界の暮らし」「ビールと資本主義社会」「ビールを愛した文豪たちの言葉」「おいしさの不思議」「ビールと経営」「微生物の世界と発酵の不思議」「アルコールと健康」「未来へ繋がるものづくり」「ビールのフィールドワーク」...。

あらゆる学問領域に触れ得るビールだからこそ、もしも「ビール学」があったなら、その学問にはこの複雑な世界をほぐし紐解くヒントがたくさん隠されてるのかもしれない。




…難しく考えすぎたので、ちょっとビール飲んできます。



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kai takaba ライター

新米ビール職人。高知県の『Mukai Craft Brewing』での修行を経て、現在、自身の醸造所とブランドを立ち上げ中。ビールづくりを通して「調和を生み出す補助線を引くこと」を目指しています。

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