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Column 地球のために、現代を生きるビール好きとして知っておきたいこと〜ソーシャルグッドなビール消費〜

2022/02/07

世界中でビールの価格が高騰する未来がやってくる

そう知ったのは、ビールづくりを学び始めてまだ間もない、2021年の年明けでした。


”自分がビールをつくることでどこかの誰かを苦しめたくはないよなぁ”、というぼんやりとした思いから「ものづくり」と「地球環境」の関係について調べ始めたころ。

中学生のときに学んだ「地球温暖化」という現象が、その緊急さから、「地球温暖化」という生ぬるい表現だけでなく、「気候変動」「気候危機」「気候非常事態」などと呼ばれるようになっていることを知りました。

極めて規模が大きく複雑な問題なので、この記事で気候変動について細かく書くことはできませんが、世界中の専門家たちが警告を混じえて報告するさまざまな科学的データの中には、不安や焦り、怒りといった負の感情を抱かざるをえない現実がたくさんありました。


冒頭から普段の「ビール女子」ではあまり見かけない言葉たちが並んでいますが、もちろん今日もビールの話をします。

新米ビール職人による連載コラム「拝啓、ビール職人になりました。」。

今日のテーマは「地球のために、ビール好きの僕ができること」です。

「地球のため」などと書くと、どうしても規模が大きく感じて自分ゴトとして捉えることが難しくなりますよね。ですが言い換えると、「自分自身と大切な人の命と暮らしのため」という、なによりも自分ゴトなお話です。

「ビール女子」をご覧の方に1番興味を持っていただけそうなのは、下の「もくじ」だと「今日からできるソーシャルグッドなビール消費」の部分なのかな、と思います。

辿り着くまで少し長くなりますが、そこで書く「ビール消費の仕方」がなぜ「ソーシャルグッド(社会に対してポジティブなインパクトがあること)」なのかをきちんと理解していただくために、

気候変動によるビール産業への影響
日本のビール産業全体の環境負荷
ビールづくりの環境負荷

について、順を追って見ていきたいと思います。

「気候変動」と聞くと、なんだか難しそうでついシャットダウンしてしまいがちな同じビール愛好家の方にも、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。


ビールの世界も大きく変える気候変動とは?


この業界に入って1年とちょっと。醸造の勉強と並行して気候変動にも関心を寄せながら、大手ビールメーカーで環境戦略を担当されている方や、多くのブルワー(醸造家)さん、たくさんのビール好きの方々とお話をさせていただいた中で、何度も感じたことがあります。

それは、「ビールづくりの環境負荷」について、まだまだ日本では知られていないこと、わかっていないことが多い、ということ。


地球の平均気温が上がることで、熱波・台風・豪雨・干ばつ・山火事・海面上昇など、人の暮らしを破壊する気象災害・現象の発生頻度が高まり、そして規模が大きくなる。ほかにも、生態系の破壊や、新しい感染症の増加などにもつながります。

日本でもここ数年で熱波や台風、豪雨で被害にあわれる方が急増し、マスメディアでも気候変動と気象災害が関連づけて報道されることも、少しずつですが増えてきました。

それに伴い「どうやら自分たちの未来がマジでやばいらしい」と気候変動に関心を持ち、「何もせずに政治に丸投げして解決する問題ではない」ということを認識しアクションを取る人も増えてきました(僕もそのうちの1人です)。

また気候変動は、命や暮らしに直接的な影響があるだけでなく、農業や物流などへのインパクトも今後大きくなっていくことが予測されています。


サステナビリティの領域で先進的な動きをしているアメリカのブルワリー『New Belgium Brewing』が制作した「CARBON NEUTRAL TOOLKIT FOR CRAFT BREWERS(クラフトブルワーのためのカーボンニュートラルのすすめ)」の中でも、気候変動が引き起こす異常気象による原料栽培に対する影響や、大企業と比べ資金面で劣る中小規模のブルワリーが原料などを調達できなくなるリスクが指摘されています。

他にも2018年には、『Nature』という科学雑誌の中で、「気候変動により原料の価格が上がり、世界でビールの価格が高くなる可能性がある」という研究結果が中国・イギリス・アメリカの研究者たちから報告されました。

そんな、ビール業界はもとより、僕たちの命や暮らしに大きな影響を与えうる気候変動に待ったをかけることができるのは、「今を生きる世代が最後である」という科学者たちからの警告により、「産業革命前と比較して、地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑えること」、そのために「CO2の排出量を2050年までに実質ゼロにすること」が世界共通の目標となりました。

ビール産業の規模を環境負荷の視点から見ると…


それでは次に、ビールづくりの環境負荷について見ていきましょう。

「環境負荷」というといろんな側面がありますが、当記事では、気候変動の1番の原因であるCO2排出量という点に限定して「環境負荷」という言葉を使っていきます。



まずはビール産業を大きく捉え、その後縮尺を小さくしてビールづくりの環境負荷を見ていきたいと思います。

日本のビール会社大手5社(キリン、アサヒ、サッポロ、サントリー、オリオン)によって設立された『ビール酒造組合』から出された報告によると、ビール業界が2018年に排出したCO2の量は「45万トンでした(この数字は、大手5社からの排出量で、それ以外のビール会社・マイクロブルワリーなどの排出量は含まれていません&算出されていません)。

「45万トン」と聞いても、数字が大きすぎてあまりピンときませんよね。

参考までにもっとピンとこない数字を書くと、この年の「食品加工・飲料」業界全体のCO2排出量はおよそ800万トン、「日本全体」だと11億3500万トンでした。

環境省の報告書をもとに筆者が作成した図

ちなみに「食品加工・飲料」部門というのは製造工程における排出量のみをカウントしていて、原料やできあがった商品を運ぶときのCO2排出量は、上のグラフでいうところの「運輸部門」という別のカテゴリーでカウントされています。

もう少し身近な数字でいうと、1世帯あたりのCO2排出量は1年で3トンくらい。つまり、日々おうちで電気をつかったり車を走らせたりすることで家庭で排出される量から考えると、およそ15万世帯が出すのと同じくらいのCO2を大手ビール5社が排出している、というような規模感です。

ビールづくりの環境負荷とは?


では、少しズームインして、ビールづくりの工程について見ていきます。

「ビールづくり」と言うと、「製造(仕込み)」のことが真っ先にイメージされると思いますが、他にも以下のような工程・部門を含みます。

【原料】麦芽やホップなどの原料栽培・加工・輸送など
【製造】醸造所での製造など
【容器】瓶や缶といった容器の製造・輸送・リサイクル・廃棄など
【流通】できあがった商品の輸送など
【小売】自宅保管:販売店や自宅での冷蔵など
【廃棄】廃棄商品の処分など

これら部門ごとのCO2排出量を割合で表すと、このグラフのようになります。

Department of Environmental Qualityの報告書をもとに筆者が作成した図

僕自身、ビールの環境負荷について勉強する前は、なんとなくのイメージで、熱したり冷やしたりとエネルギーをたくさん使う「製造」部門が最も環境負荷が大きいとばかり思っていました。

ですが、ビールづくりの中で圧倒的に多くのCO2を排出するのは、つくり手からは直接見えない部分でもある「容器」部門なんです。

アルミ缶の原料となる「ボーキサイト」や瓶のもととなる「硅砂(けいしゃ)」といった資源の発掘や輸送、容器製造・リサイクル・廃棄などの一連の工程でたくさんのCO2が排出されます(「製造」など他の部門の環境負荷が小さいということでは決してありません)。

この数字はアメリカ・オレゴン州の州政府機関(以下、DEQ)が出しているデータをもとにしているので、日本だと若干数字は変わると思います。アメリカと比べて原料のほとんどを輸入に頼っている日本では、海を渡って運ばれるときにもCO2が排出されるので、「原料」の部門がもう少し大きな値になるかもしれません

国により多少の違いはあれど、「キリンホールディングス」や「アサヒグループ」が発表している数字からも、(ビール以外も含む)飲料産業全体で「容器」や「原料」の部門で多くのCO2を排出していることがよくわかります。


それでは、そんな環境負荷の高い「容器」について、もう少し詳しく見ていきましょう。

ガラスびんリサイクル促進協議会」や「DEQ」の調査結果を見てみると、同じビール容器でも種類によって環境負荷が異なることがわかります。

LCA手法による容器間比較報告書より引用

CO2をたくさん出す順に
「ワンウェイびん」>「缶」>「リターナブルびん」>「ケグ(樽)」

1リットルのビール当たりで計算すると「ワンウェイびん」と「ケグ」とで4倍以上の差になります。

ここでいう「リターナブルびん」とは、ビールが消費されたあとに、回収・洗浄されて再度ビールを入れて販売される瓶のことを指します。大手5社の瓶ビールは、リターナブルびんで流通しています。

一方「ワンウェイびん」は、回収・洗浄・再利用はされずに、1度しか使われない瓶のことを指します。大手5社が回収〜再利用のスキームを確立しているのに対し、ほぼすべてのマイクロブルワリーでは、そのスキームを確立できておらず、基本的にビール瓶として作られた瓶は1度しか使われていないのが現状です。

マイクロブルワリーの容器事情でいうと、1年前に個人的に全国のマイクロブルワリーの容器の使用割合を調べたとき、結果は以下のようになりました(ケグは除きます)。
・缶:4.1%(19ヵ所)
・瓶:74.7%(348ヵ所)
・両方:6.7%(31ヵ所)
・その他:14.6%(68ヵ所)
ここまで書いたことをざっくりまとめると...


・ビールづくりで最もCO2を排出するのは「容器」。
・容器によってCO2排出量は大きく異なる。
・比較的たくさん排出するのが「ワンウェイびん」。
・比較的少ない排出なのが「ケグ」。
・現状、日本のクラフトビールシーンでは「ワンウェイびん」が主流。

という感じです。

今日からできるソーシャルグッドなビール消費


今回注目した「容器」だけでなく他のあらゆる部門で環境負荷を減らすために、つくる側ができることは色々とあります(たくさんの壁はありますが...)。

そのお話はまたの機会にするとして、今回は引き続き環境負荷の大きい「容器」に着目したときに、1人の飲み手としてできることを考えてみようと思います。


まずは、ドラフトビール(ケグ出しのビール)を飲むこと。ご自宅の近くにあるタップルームや飲食店で飲めるとさらにグッドです。

上で少し触れたように、回収・洗浄され何度も再利用される「ケグ」は、ビールを入れる容器の中で環境負荷が最も小さいです。さらに、ブルワリーに併設されている、もしくはブルワリーの近くにある飲食店でドラフトビールを飲めば、トラックなどで輸送するときに排出されるCO2も抑えられます

コロナ禍でお住まいの地域のブルワリーを支援するために「#DrinkLocalBeer(地元のビールを飲もう)」というハッシュタグが世界的に使われたりしましたが、ローカルなビールを飲むことは、地球にとってもすごく良いことなんです。


次に、テイクアウトのときにグラウラーを使うこと、です。

タップルームや飲食店ではなく、自宅でクラフトビールを楽しみたいときは、缶や瓶で買うことに加えて、ぜひグラウラーを選択肢に入れてみてください

缶や瓶と比べると、その環境負荷の大きさはたった5%というデータもあるくらい、何度も使えるグラウラーは地球にやさしい容器です(※繰り返し使ってはじめて、環境負荷は小さくなります)。

関連記事:【たっぷり解説】クラフトビールを持ち運べる水筒「グラウラー」って知ってる?


ここであげた2つの「できること」は、常にそうしなければいけない、という「0」か「100」かの話ではもちろんありません。僕自身、大好きなブルワリーは全国にありますし、お世話になっているボトルショップもあります。海外のビールだって飲みたいです。

ただ、今日書いたような環境への影響を理解し、その上で今までとちょっとだけ飲み方・買い方を変えてみることは結構簡単にできる気がします。

住んでいる地域でつくられているクラフトビールを飲む割合をこれまでよりも少し増やしてみる。

今晩すぐに飲んじゃうビールについては、瓶や缶に入ったビールでなく、タップからグラウラーに入れてもらってテイクアウトする。

これらは、現代に生まれたビール好きだからこそできる“気持ちのいい”ビールの楽しみ方なんだとも思います。


一瞬ビールから話が逸れますが、「Meatless Monday(お肉のない月曜日)」という運動をご存知でしょうか?

健康への影響や畜産業の環境負荷の大きさを考慮し、週に1回・月曜日はお肉を控える試みのことを言います。畜産業は、お肉(特に牛)を育てる過程で大量の温室効果ガスを排出する産業でもあるので、週にたった1度お肉を控えるだけで1人あたり「自動車で560キロ走った分のCO2排出量」の削減につながると言われています。

「Meatless Monday」と比べると、仮に週1回瓶ビール1本をドラフトビール1杯に変えたとしても、削減できるCO2の量は正直だいぶ少ないと思います。ですが、「バタフライ・エフェクト(ブラジルでの蝶の羽ばたきがテキサスでトルネードを引き起こす)」という言葉が表すとおり、資本主義というシステムの中で世界中が極めて複雑かつ密接につながっている現代社会においては、ほんの小さな行動がめぐりめぐって大きな変化につながったりもします

たったひとりのビール好きの小さな変化が集まれば、マイクロブルワリーはもちろん、大手ビール会社、さらには『社会』をもポジティブに変え得る」ということを理解し、ビールを楽しむことで初めて花開く新しいビールカルチャーもきっとあると思います。

少なくとも、待ったなしの気候変動を前に(すべての産業がそうであるように)ビール産業はこれまでに経験したことがないようなスピードで変化をする必要があります。そして、その産業の変化は、生活者の方々の理解や応援がなければ決して起こりえません

偶然にも、そんなチャレンジングな時代に生まれ、ビールをつくることを志した僕自身、ブルワーとしてはもちろん、現代を生きるひとりのビール好きとして、大きいポジティブな変化の、小さな一部になっていきたいと思います。

(だって、自分の子どもや孫ともおいしいビール飲みたいんだもん)


当記事では、ビールづくりの中でも環境負荷が特に大きい「容器」にフォーカスして書きましたが、ビール好きだからこそできる、ビール好きにしかできないことは他にもたくさんあります。

引き続き勉強を進めていく中で、またこのコラムの中で備忘録としてまとめていきたいと思います。

いつもの「ビール女子」とはだいぶ雰囲気の違う、かなり読みづらい記事だったかもしれませんが、最後まで読んでくださった方、どうもありがとうございました。

今週もみなさんがおいしいビールを飲めることを、心より祈っています!

Cheers(乾杯)!


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kai takaba ライター

新米ビール職人。高知県の『Mukai Craft Brewing』での修行を経て、現在、自身の醸造所とブランドを立ち上げ中。ビールづくりを通して「調和を生み出す補助線を引くこと」を目指しています。

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