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Column ホップの里からビールの里への挑戦。岩手県遠野市での取り組みを取材してきた!

2019/09/20

最近、岩手県遠野市がアツイらしい。

遠野といえば、“日本民俗学の父”と呼ばれる柳田國男が「遠野物語」を編んだ場所。カッパをはじめとした妖怪、神々や精霊と共存するまちとしても知られています。そんな歴史あるまち・遠野が「ホップの里からビールの里へ」というキャッチフレーズを掲げ、さまざまな取り組みを行なっているとの情報を聞き、遠野へ取材に行ってきました。

遠野とホップの関係


ビールの原材料の一つであるホップ。ビールに苦みや香りを与える、泡持ちをよくする、殺菌作用など、とても大事な役割があり、ビール造りに欠かせないものです。

ところで、ビール女子の皆さんは、日本でもホップを栽培していることをご存知でしたか?

日本でのホップ栽培は、明治時代の北海道開拓使の時、北海道で自生していたホップの栽培から始まりました。これまでは大手メーカーと農業協同組合との契約栽培や、クラフトビール醸造所での自家栽培がほとんどでしたが、近年、日本各地でもさまざまな団体がホップを栽培する動きが広まってきています。

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今回、取材で訪れた遠野市は日本一のホップ栽培面積を誇り、キリンビール株式会社(以下、キリン)との契約栽培を1963年から始め、その歴史は半世紀を超えました。遠野産ホップを身近に感じることができるのが『一番搾り とれたてホップ生ビール』(以下、「とれたてホップ」)。

「一番搾り とれたてホップ生ビール」10月29日(火)から数量限定で全国発売
このビールに使われるのは、収穫後24時間以内に急速凍結させた遠野産ホップ “IBUKI(いぶき)” です。2004年から販売が始まった「とれたてホップ」、毎年この時期を楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。

日本産ホップの危機

収穫直前のホップ畑
今、日本産ホップは存続の危機に直面していると言われています。全国ホップ連合会「ホップに関する資料」によると、2008年には446tあったホップの生産量が、2018年には202tと約半分近く減っています。ホップ生産者の高齢化や後継者不足により、国内のホップ農家が減少し、それが生産量の減少につながっているのだそうです。

遠野市でもピーク時の5分の1にまで生産量が減っています(2015年時点)。このままでは日本産ホップを使ったビールが飲めなくなるかもしれない。そんな状況を打破しようと2007年に立ち上がったのが遠野市や遠野ホップ農協、キリンなどで組む『TK(遠野×キリン)プロジェクト』。遠野産ホップや遠野の食材を、全国に知ってもらおうと活動を続けています。

「ホップの里からビールの里へ」

遠野ではホップやビールを通じて、さまざまな取り組みが行われています。順番に紹介していきます。

■ローカルブルワリー「遠野醸造」の設立


コミュニティーブルワリーを目指し、2018年5月にオープンした遠野醸造。もともとは酒屋さんだった場所を改装してブルワリーに。特徴として、設備が小さく1回の仕込み量が少ないため、多品種のビールを造ることができます。そのため、実験的なビール造りや、地元の食材を使ったビール造りに挑戦することができるのだとか。これまで白樺の樹液やハスカップを使ったビールを造ったそうです。

代表取締役・醸造担当 太田さん
タップルームを設計する際、最初に考えたことは、ビールを造っている場所を見ながらビールを飲めるお店にすること。そうすることで、飲んでいる人達が「たしかにここ(遠野)はビールの里になっているんだな」と実感できる場所になるようにと考えたそうです。

太田さんの話を聞いて驚いたのは、ブルワリーを手作りしたということ。「天井、壁、床を塗るのはもちろん、醸造タンクや発酵タンクの配管、冷蔵庫の組み立てに至るまで自分たちでやりました。特に輸入したタンクは設計図が無くて写真が送られてきただけなので、それを見て組み立てました。」と太田さん。

代表取締役・店舗担当 袴田さん
続いて、袴田さんがブルワリー設立の経緯をお話ししてくれました。遠野ではホップを栽培しているし、20年前からクラフトビールを造っている上閉伊酒造がありますが、「まち中で地元の樽生ビールを飲める場所がほとんどない」という問題があったそうです。そこで、まちの中心部に遠野のホップや食材を使ったクラフトビール飲むことができるコミュニティーに根ざしたブルワリーを作ろうとプロジェクトが始まったそう。


ブルワリーを作るにあたり、一番大事にしたことが、ブルワリーを作る過程を地域の方と共有するということ。工事が始まる前の何もない状態で行ったキックオフパーティーに地域の方を招待することから始め、一緒に発酵タンクを運んだり、床の塗装をしたり、店内のイスを作ったり、フードメニューの開発までも。

去年は延べ8,000人のお客さんが訪れ、今年は去年を上回る程のお客さんが来店しており人気店に。遠野醸造のビールを飲むために、わざわざ新幹線で来るお客さんも増えてきているそうです。


今後目指すことは、もっとクラフトビールの面白さや楽しさを伝えられるようなビール造りをし、いろんなイベントを仕掛けていきたいとのこと。また、ゆくゆくはビールの市民大学のような講座を開きたいのだそうです。


取材時に提供されていたビールのラインナップ。行く度にラインナップが変わるので、いつ訪れても楽しむことができます。

遠野醸造 Facebook:https://www.facebook.com/tonobrewing/


■「遠野ホップ収穫祭」の開催


遠野産ホップの収穫を祝うお祭りとして始まった「遠野ホップ収穫祭」。2019年8月24・25日の2日間、蔵の道ひろばにて開催されました。5年目となった今年は人口約26,000人の街に2日間で12,000人もの人が訪れました。新幹線の駅から遠野駅までの在来線の電車内は満席、開始時間前には会場の座席が埋まるほどの混雑ぶりで、本当に大勢のファンが集まっているのだなと感じました。

遠野ホップ収穫祭 サンプラザ中野くん
サンプラザ中野くん&パッパラー河合のステージでは、身動きができないくらい人が集まり大盛り上がり。

遠野ホップ収穫祭 オリジナルビール IBUKI
今年は『ホップ収穫祭2019オリジナルビール』が数量限定で発売されました。遠野産ホップ“IBUKI”を使ったIPA。期間中に完売してしまったそうです。その他、「ホップ畑を見学するツアー」や実際にホップに触れることができるホップ体験コーナーもあり、遠野産ホップのことを深く知ることができるイベントです。

遠野ホップ収穫祭 公式HP:https://www.lets-hopping.com/


■「遠野ビアツーリズム」の実施

ホップの収穫の様子
「遠野ビアツーリズム」は、農業法人 BEER EXPERIENCE株式会社(以下、BE社)が始めたばかりの事業で、その特徴はビアツーリズムガイドと共に旅をするということ。
ホップ乾燥場での作業
ホップがある時期はホップ畑を訪問し、ホップ栽培や収穫、ホップ乾燥場の見学もしています。また、遠野市内の2つのブルワリーを訪問することも。さらに、夜バージョンでは3軒ほどの市内の飲食店をビアツーリズムガイドと共に巡ることができます。

遠野ビアツーリズム 公式HP:https://www.beerexperience.jp/


 ■ 新しいビールのおつまみ野菜『遠野パドロン』の量産化

遠野パドロンの素揚げ
コロッとした見た目のパドロンは、スペインではビールのおつまみとして知られています。日本ではビールと枝豆が定番の組み合わせですよね。日本でもビールのおつまみとして楽しんでもらおうと、遠野の特産品としてパドロンの栽培を初めたのがBE社の吉田さん。素揚げするとほろ甘い味わいで、ビールがすすむこと間違いなし!


全国に遠野パドロンを広めようと建設されたオランダ式のパドロンハウスを見学してきました。防護服を着てハウスの中へ。

BEER EXPERIENCE 吉田さん
ここは2019年7月下旬に完成した施設で、サッカーコート1面ほどの広さがあります。オランダの技術を取り入れることにより、これまでの露地栽培に比べ、働く人に優しい設計になっているとのこと。これまでの生産期間は約3か月間でしたが、このハウスだと約10か月間に!いつでもパドロンを食べることができるようになります。

遠野 パドロン パドロンハウス
完熟すると遠野レッドパドロンに変身!旨辛スパイスになるそうです。


■ドイツ式ホップ栽培への挑戦


ホップの安定した生産と高品質を保つため、ホップ生産量世界トップクラスのドイツの栽培方法を習い、国内では初となるドイツ式のホップ畑が完成。機械による作業がしやすいように設計されています。


ドイツで使用されているホップ栽培専用機械を輸入し、作業の効率化を図ります。


ここで育てるのはキリンが開発した新品種「MURAKAMI SEVEN」です。今年で2年目なので、まだ株が小さく、今後の成長が期待されます。来年も訪れて成長を確認しなくては、という気になってしまいますね。



以上、遠野での「ビールの里」に向けての取り組みをご紹介しました。他にも、ホップをハーブとして活用したホップシロップなど、ビールが飲めない方でもホップを楽しむことができる商品が開発されています。

これらの活動は遠野のホップ生産量の減少を食い止める目的だけでなく、「もっと日本のホップやビールのことを知ってもらおう、楽しんでもらおう」という意気込みが感じられ、遠野がその発信地になることを目指しているのだと伝わってきました。今後、さらなる動きがありそうな遠野。行ったことがない人も行ったことがある人も、これからの遠野に注目ですよ。


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数年前に突然ビールの奥深さに目覚めて以来、寝ても覚めてもビールのことばかり考えています。全国の大手ビール工場や醸造所に通い、ビール関連の本を読み漁り、さまざまな勉強会やイベントに参加。日本地ビール協会公認「シニア・ビアジャッジ」として、IBC(インターナショナル・ビアカップ)の審査員を経験(2018年、2019年、2020年)。日本ビール検定2級。日本ビアジャーナリストアカデミー10期生。紙面協力:ライフスタイル情報『CHANTO』。

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