みなさんは、尾道を訪れたことはありますか?
尾道をご存知の方は、猫の町、映画の町、サイクリストの聖地、尾道ラーメン…など色々なイメージがあるかと思います。寒暖差の大きい山間、おだやかな瀬戸内海と島々に囲まれた尾道は、山の幸・海の幸に恵まれた食材の宝庫なのです。
そんな尾道に魅了されて2020年に移住をし、ご夫婦でビール醸造を行う「尾道ブルワリー」に行ってきました。
尾道駅から約15分。風に揺れるフラッグが目印
広島県のJR山陽本線 尾道駅出口から、尾道本通り商店街をまっすぐ進んで徒歩15分ほど。左手にモノトーンの壁とガラス張りの大きな窓が見えます。その建物の右手にあるドアを開け、奥へ進んだ場所が今回の目的地「尾道ブルワリー」です。
引き戸を開けると、奥へと続く細い道が…!
古き良き雰囲気のある尾道では、細く長い奥行きのある“うなぎのねどこ”のような古い建物が多く残っています。尾道ブルワリーも、同様の建物を改装した一つです。
(※画像提供:尾道ブルワリー)
迷路のような通路を進んでいくと、古民家を改装した角打ちが登場しました。1894年築の古い蔵を改装した店内は、どこか懐かしさを感じる温かみのある空間が広がっています。
店内には、タップが8つ(通常使用しているのは5つ)。ほか、期間限定のボトルビールが用意されています。そのどれもが、尾道の食材を副原料として使用しているとのこと。これまでに作ったビールは21種類以上!
そんな尾道ブルワリーがビール造りでコンセプトに掲げているのは、“メイドイン尾道”。その理由や、ブルワリーを営むご夫妻が思う尾道の魅力を深掘りしていきたいと思います。
尾道ブルワリーのはじまり
左:真理さん、右:真人さん
尾道ブルワリーを運営するのは、佐々木真人さん・真理さんご夫妻です。はじまりは2020年。お二人は、千葉県から広島県尾道市にIターン移住をしてきました。
それまでは夫婦ともに東京都で異なる仕事をしていましたが、真人さんが体調を崩されたのをきっかけに「これからは違う生き方をしてみない?」と真理さんが真人さんにかけた言葉がきっかけで、移住とビール醸造家の道へと進むことを決意しました。
真理さん「前職の仕事終わりに立ち寄っていたビアバーがとても素敵な場所でした。次の生き方を考えた時に、夫と一緒にブルワリーをするのって良いなと思ったんです。ビアスタイルは色々知ってはいたものの、ビール作りはもちろん未経験。埼玉県で行われている大きなビールイベント『けやきひろばビール祭り』に出店されていた『栃木マイクロブルワリー』の横須賀さんに“弟子にしてください!”と頼みに行きました」
その後、宇都宮にマンスリーマンションを借りて、約1ヶ月ほど「栃木マイクロブルワリー」での研修に参加されたご夫婦。地方創生に興味があったことから、研修後は違う場所に拠点を変えてブルワリーをオープンしたいと考えてはいたものの、広島県尾道市は第一候補ではなかったのだそう。
真理さん「もとは違う場所を候補に考えていました。ですが、広島県の移住フェアに参加した時、尾道市の担当者の方に私たちの思いをとても汲み取っていただいたのです。移住について、店舗の場所について、ビール造りについて、全て“人”で繋がってきたと思っています。」
そんなご縁があり、2020年に移住して2021年2月に「尾道ブルワリー」をオープンしました。
“メイドイン尾道”にこだわった自社醸造ビール
角打ちの奥にある醸造所には、300リットルの発酵・熟成タンクが4基設置されています。
そして、ビールの仕込み釜(湯タンク500リットル1基、マッシュタンク400リットル1基、ケトルタンク400リットル1基)は直火で加熱しています。
真人さん「“クラフト”と言うくらいだから、より手作り感にこだわりたかったので、直火加熱を採用しました。ワールプール用のヘラも、尾道に工房を持つ、日本で唯一手づくりで船の櫓(ろ)をつくる職人に特注で作ってもらったものなんです」とこだわりを教えてくれました。
そしてもう1つ、尾道ブルワリーがビール造りに置いて大切にしているのは、「おかわりしたくなるビールを作ること」。尾道産の副原料を使ったビールは飲みやすいものも多く、副原料から飲みたいビールを選んでみるのも良いかも。
取材日は、尾道産のブドウ「デラウェア」を使ったビール『ショーキーレッドエール』の仕込み前の作業を行う日。たわわに実ったデラウェアがカゴの中にたくさん詰んでありました。300リットルの仕込み量に対して、60kg分のデラウェアをたっぷり使用しているそうです。
ちなみに、ビール名にある「ショーキー」は、尾道で伝統のある祭り「ベッチャー祭」に登場する3体の鬼の一人です。佐々木夫妻は、広島県に来たので赤いビールを作りたかったのだそう。といってもカープをイメージする赤ではなく、尾道で赤といえば「ベッチャー祭」に登場する顔が真っ赤な鬼神・ショーキー!鬼神の名前を使っているので、祭りの際には「一宮神社」に毎年奉納しているそうです。
そして間も無くリリース予定だという、尾道産のキュウリを使用した『キューカンバーセゾン』を含めて、尾道ブルワリーの定番メニューを飲み比べしました。
『尾道エール』(ハーフ:650円、パイント:1,050円)※以降、全て税込表記
尾道ブルワリーのフラッグシップとなる1杯で、尾道産のレモンを使用したイングリッシュペールエール。苦味がほとんどなく、ほんのりとレモンの風味が感じられます。
このビールの面白いポイントは、1年で3回もフレーバーが変わること!その理由は、収穫時期の異なるレモンを使っているから。レモンの収穫時期は、グリーンレモン(11月頃)、イエローレモン(2月頃)、完熟レモン(8月頃)で、果汁処理をして冷凍保管していたものを使用しています。レモンの産地ならではの贅沢を堪能することができます。
このビールの面白いポイントは、1年で3回もフレーバーが変わること!その理由は、収穫時期の異なるレモンを使っているから。レモンの収穫時期は、グリーンレモン(11月頃)、イエローレモン(2月頃)、完熟レモン(8月頃)で、果汁処理をして冷凍保管していたものを使用しています。レモンの産地ならではの贅沢を堪能することができます。
『しまなみゴールデンエール』(ハーフ:650円、パイント:1,050円)
麦芽にピルスナーモルト、ホップにカスケード・シトラ・チヌークの3種類を使用したゴールデンエール。
尾道産の石地ミカンの香りと、すっきりとした味わいが特徴。鼻をスーッと抜ける柑橘系のホップが軽やか!佐々木夫妻曰く、ここ数年で何度も調整を加えていて、尾道ブルワリーの成長を感じて欲しいビールなのだとか。
尾道産の石地ミカンの香りと、すっきりとした味わいが特徴。鼻をスーッと抜ける柑橘系のホップが軽やか!佐々木夫妻曰く、ここ数年で何度も調整を加えていて、尾道ブルワリーの成長を感じて欲しいビールなのだとか。
『キューカンバーセゾン』(ハーフ:650円、パイント:1,050円)
尾道産のキュウリを使ったセゾンビール。フルーティーな香りと喉越しの良さがある。グラスに口を近づけた瞬間からキュウリの存在感をしっかりと感じられます。
尾道に住む猫たちは驚くかもしれないけど、カッパは飛んで喜ぶかも…?セゾンは“農作業のためのビール”と言われているように、まさに農家にこそ飲んでほしい畑の恵みを感じるビール。このビールは熟成が進むにつれて香りが変わる面白いビールです。最初は酵母由来の香りが強いので漬物のよう、熟成が進むと、メロンのような香りに変わっていきます。
尾道に住む猫たちは驚くかもしれないけど、カッパは飛んで喜ぶかも…?セゾンは“農作業のためのビール”と言われているように、まさに農家にこそ飲んでほしい畑の恵みを感じるビール。このビールは熟成が進むにつれて香りが変わる面白いビールです。最初は酵母由来の香りが強いので漬物のよう、熟成が進むと、メロンのような香りに変わっていきます。
「岩子島トマトヴァイツェン」(ハーフ:650円、パイント:1,050円)
岩子島にある「ミーシャンズファーム&みどり農園」「政兵衛ファーム」の完熟トマトをふんだんに使用したヴァイツェン。優しい口当たりと軽やかな後味です。
“トマトビール”と聞くとレッドアイをイメージする方も多いと思いますが、トマトの赤色は沈澱するため、グラスに注いだ見た目は麦芽の色をしています。300リットルに対して、50kg以上ものトマトをふんだんに使用しているため、見た目にはトマトが感じられないものの、一口飲めばトマト感が口いっぱいに広がります。あえてトマトの酸味と青臭さを引き出したビールで、トマト好きには重宝したい逸品になるかも。食事との相性も良さそう。ヴァイツェンが苦手な人も、酸味のあるこちらのビールを気に入る人も多いようです。
“トマトビール”と聞くとレッドアイをイメージする方も多いと思いますが、トマトの赤色は沈澱するため、グラスに注いだ見た目は麦芽の色をしています。300リットルに対して、50kg以上ものトマトをふんだんに使用しているため、見た目にはトマトが感じられないものの、一口飲めばトマト感が口いっぱいに広がります。あえてトマトの酸味と青臭さを引き出したビールで、トマト好きには重宝したい逸品になるかも。食事との相性も良さそう。ヴァイツェンが苦手な人も、酸味のあるこちらのビールを気に入る人も多いようです。
店内では、小さいグラスで「3種飲み比べ」(税込1,100円)も提供しているので、少しずついろんな味わいを楽しみながら、お気に入りを選んでみるのもおすすめです。
おつまみも“メイドイン尾道”のものを厳選
尾道ブルワリーでのビール時間をより格上げする、おつまみ類も“メイドイン尾道”のものを厳選しています。どれにするか迷いますが、今回は「Carp勝男スライス」を頼んでみました。
Carp勝男スライス(400円)
尾道にある鰹節工房「まるじょう」が、鹿児島県枕崎で製造されたかつお節を燻製し厚めに削り、濃いめの調味液に漬け込んだ一品。しっとりとした食感に少し濃いめの味付けがあと引くおいしさです。
おつまみとして提供しているのは、尾道では名だたる名店の商品ばかり。おつまみを通して、尾道観光で得する情報をゲットできるかもしれません。
尾道の魅力にどっぷりとハマる
最後に、2020年に移住してきたお二人から見た「尾道」について、どんな魅力があるのか語ってくださいました。
真理さん「尾道は人の魅力があります。程よい距離のおせっかい焼きが多いです。北前船で栄えた町である所以でしょうか?来るもの拒まず、去る者追わずという気質の方がたくさんいらっしゃいます。応援してくれる方も多く、これまでの3年間で作った21種類のビールの副原料の半分ほどはお客さんの会話から生まれたものです」
真人さん「尾道の人は、尾道のことが大好きです。観光客は尾道のことを聞きたがるので、地元の人と観光客との出会いの場所になっていると思います。自分たちが作ったビールがきっかけとなり、尾道に足を運んでくれたら良いと思います」
尾道は移住者も多く、移住者の活躍を快く受け入れる心の広さがある人たちが住むアットホームな場所。そんな場所であるからこそ、観光で訪れた人たちも、居心地の良さを感じるのかもしれませんね。初めて来たのにどこか懐かしく、帰ってきたくなるような場所。その一つが尾道ブルワリーであると筆者は感じました。
地元の人は当たり前だからこそ気が付かない、そんな尾道の魅力をたくさん発信している尾道ブルワリー。実際に尾道に近い場所に住む筆者ですが、当たり前に見過ごしていた・知らなかったものが、その空間や、ご夫婦の想いにはたくさんありました。
ビールを通じて尾道の名産を知る、尾道ブルワリーを通じて尾道の名所を知る、尾道の魅力を知る人がたくさん増えてくれると嬉しいです。
尾道を訪れたなら、必ず足を運びたい「尾道ブルワリー」。ビールを通してはもちろんのこと、佐々木ご夫婦から聞く尾道の魅力にどっぷりと浸かってしまうはずです。
尾道ブルワリー
〇住所:〒722-0045 広島県尾道市久保1丁目2−24(Googleマップ)〇アクセス:
JR山陽本線「尾道駅」徒歩15分
〇営業時間:
[金・土]13:00-19:00
[日・祝]12:00-17:00
[定休日]月〜木
〇HP:https://onomichibeer.com/
〇Instagram:https://www.instagram.com/onomichibrewery_/