岡山県にある「六島」は、人口約40人、島の周囲が約4.6kmという小さな島。
その島には、大阪から移住してきた男性がたったひとりで営む小さなブルワリー「六島浜醸造所」があります。
岡山県の笠岡市にある港から船に乗り、離島のブルワリーを訪れ、その魅力に触れてきました。
笠岡諸島の最西端「六島」を目指して
岡山県の南西部には、ポツン、ポツンと大小31の島々があり、「笠岡諸島」と呼ばれています。
そのうち有人島は7つ。そのひとつであり笠岡諸島の中でも最西端にあるのが、今回訪れる「六島」です。
六島へ渡るには、JR笠岡駅から徒歩5分ほどの場所にある「笠岡諸島旅客船ターミナル みなとこばなし」から出港する旅客船に乗ります。
笠岡諸島の島々へと渡る島民や観光客のほとんどは、こちらのターミナルを利用しています。
六島へ渡る旅客船は1日往復4便。今回は、13:20出発、14:20到着の高速船を利用しました。
白い灯台と水仙が有名な六島
船の中から島々を眺めていると、あっという間に目的地の六島に到着!
写真提供:岡山県観光連盟
六島は、岡山県最古といわれる白い灯台と1月下旬〜2月中旬頃に咲く水仙が有名です。毎年、水仙の時期になると多くの観光客の方が訪れるのだそう。今回は8月に訪れましたが、丘一面に咲く水仙を見ながらビールを飲むのも素敵ですね。島に暮らす島民はわずか約40人。そのほとんどが漁業などの水産業を生業としています。そのため、島内のあちこちには、漁で使う網やタコ壺などが置かれています。
海沿いの民家を改装した小さな醸造所
船が到着した前浦港から、徒歩5分。お目当ての「六島浜醸造所」に到着しました。
醸造所の前には、島の人たちにかわいがられている島猫ちゃんたちがのんびりとくつろいでいます。
築80年の民家を改装したという店内には、クラシカルな振り子時計、ブラウン管テレビなどレトロなアイテムがたくさん置かれていて、まるで昭和の時代で時が止まっているかのよう。
壁を抜いて作ったというこだわりのガラス扉からは、青い空と海、瀬戸内海の「多島美」が望めます。この景色をごちそうにビールが飲めるなんて最高じゃないですか。
大阪生まれ大阪育ちの陽気なお兄ちゃん
井関竜平さんと看板猫のチャッピー
「六島浜醸造所」をたったひとりで営む、井関竜平さんにお話をお聞きしました。井関さんは、大阪生まれ大阪育ちの生粋の関西人。大阪で生まれ育った井関さんが六島に移住したのは、祖父母のご出身だったからなんだそう。
昔は、六島から関西地方へ出稼ぎに行く人が多かったそうで、井関さんの祖父母も同様に大阪に出稼ぎに行っていたのだとか。確かに、六島には関西弁訛りのおっちゃんやおばちゃんたちが多いのに納得。
井関さんは、もともと大阪で食品卸売業の営業職として働いていましたが、自分の今の働き方に疑問を感じ、少しずつ、自分の血のルーツである六島に惹かれ始めます。
「小さい頃は母親と一緒によく帰ってきていましたが、大人になるに連れて帰ってくる回数は減ってきました。“神輿の担ぎ手が居らんから帰って来い”。 そう言われて久しぶりに六島に帰った時に “この島で暮らしたい” 必然とそう思うようになったんです」と話す井関さん。島で暮らすおっちゃんやおばちゃんたちの暮らしを守っていきたいと思ったのだそう。
六島に移住すると決意してから数年後。2016年に笠岡市の地域おこし協力隊として移住してきたものの、最初からビール醸造をするとは決めていなかったのだそう。
「島のおっちゃんやおばちゃんに、昔は麦畑が山のてっぺんまであったって聞いたんです。それなら、その麦畑を復活させようと思いました。同時にビールも作れないかなと思って、岡山の『吉備土手下麦酒』に弟子入りしました。ほかにも、小豆島の『まめまめビール』へ行って、島でのビールを醸造する環境などについて勉強させてもらいました」と話す井関さん。
秋には、麦の収穫に成功。その時に「吉備土手下麦酒」にて初めて仕込んだのが、看板商品『麦のはじまり』の誕生です。
その後も「吉備土手下麦酒」で修行を続けつつ、イベント「六島オクトーバーフェス」などを主催。2019年に海沿いの民家を改装し「六島浜醸造所」をオープンさせました。
タップから注がれるビールは常時3種類
タップから注がれるビールは常時3種類です。右から『麦のはじまり』『ドラム缶会議』『オイスタースタウト』。これらは「六島浜醸造所」の定番品です。井関さんが手書きをしたのであろうタイルの文字に癒されます。
さっそく、定番3種類のビールを頂きました。
『六島麦のはじまり』(税込400円、ボトルビール税込600円)
ビアスタイルは、セゾン。初めて仕込んだ時に、自身で収穫した麦を使用したことから、農業と深い関係のあるセゾンスタイルを採用しました。
酵母由来の甘く複雑な香りと、爽快感のあるゴクッとした喉越しを楽しむことができます。
『オイスタースタウト』(税込400円、ボトルビール税込600円)
六島と同じ笠岡諸島の有人島のひとつ「北木島」産の「喜多嬉(きたき)牡蠣」をまるごと使用したオイスタースタウト。
「勇和水産」が育てた牡蠣は、クリアな味わいと濃厚なうま味があるのが特徴。牡蠣の殻から出るミネラルと、牡蠣の身からでるアミノ酸が、ホップ特有の苦味を打ち消し、まろやかな味と優しいうま味に。
食後に、ゆっくり、ゆっくりと少しずつ味わいたい一杯。
『ドラム缶会議』(税込400円、ボトルビール税込600円)
副原料に六島産の天然ひじきを使用したラオホスタイルのビール。
収穫後すぐに鉄釜で加工し天日干ししたひじきは、ミネラルたっぷり。ひじきのうま味とスモーキーな香りが、飲んでいくうちにクセになる!ラオホ特有のスモーキーな香りに誘われ、看板猫のチャッピーも登場するほど。
商品名の「ドラム缶会議」とは、秋から冬にかけて暖を取るために登場するドラム缶の前でおじちゃんたちが集会をすることに由来。
ビールと一緒に味わいたいのが、バターチキンカレー(税込1,000円、小鉢付き)。カレーは5日前の要予約です。
タイミングがよければ、目の前の海で採れた魚、六島産のひじきが味わえるかもしれませんよ。
そのほか、クリームソーダやコーヒフロート(各500円)の用意もあります。島の散策のお供にボトルビールを購入するのもおすすめです。
心が豊かになる離島のブルワリー
クラフトビール醸造は、基本的に井関さん一人で行うのだそう。
醸造室からは、広範囲に広がる海、集会所で会議を行う島のおっちゃんたちの姿が見えます。
「大体17時くらいになったら、島のおっちゃんたちがこの場所に出てきて、会議を始めます。最終の船が来るまでの40分間を、このコミュニティに混ぜてもらって楽しむお客さんも多いです。40分じゃ足りんくて『帰りたくないなぁ…』って顔をしながら帰るお客さんも多いですよ」と井関さんは言います。
著者自身も今回初めて六島を訪れましたが「帰りたくないなぁ…」と感じました。
娯楽や観光は少ないし、スーパーやコンビニはもちろんありません。だけど心が豊かになる時間の過ごし方が六島にはありました。帰る頃には「また来たいな」と思っているはずです。
ぜひ、旅行がてら「六島醸造所」を訪れてみてはいかがでしょう?
■六島醸造所 HP
https://mushimahamajo.amebaownd.com/