ビール女子のみなさま、こんにちは!ポートランド在住の東リカです。
ポートランドの女子ブルワーをリレー形式で紹介する本企画。今回は、「ウェイファインダー」のケルシーさんが紹介してくれた女子ブルワー、ローレン(Lauren Yap)さんに、彼女の職場「マイグレーション・ブリューイング(Migration Brewing)」でお話を伺いました。
マイグレーション・ブリューイング(Migration Brewing)
「マイグレーション・ブリューイング(Migration Brewing)」は、2010年にノースイーストで創業したクラフトビールブルワリー。昨年のオレゴン・ビール・アワード(Oregon Beer Award)では、Sessionable Hoppy Beers部門で"Infinite Riff"がシルバー、Dark Hoppy Beers部門で"Cannonball"がゴールド、Hazy Hoppy Beers部門で"Mo-HAZE-ic"がシルバーと3部門で入賞しています。
創業以来ファンを着実に増やし、昨年はポートランド郊外のグレシャム(Gresham)に広大な醸造所兼ピザ&ビールパブをオープン。また、クラフトビール初の試みとしてポートランド最大のショッピングモール「ロイドセンター」内のフードコートでクラフトビールとバーガーを提供するお店「バーガーシャック」を出店しました。
今回は、昨年オープンしたグレシャム(Gresham)店にローレンさんを訪ねました。
体験から学ぶブルワー道
ローレンさん、こんにちは!まずは、ビールに興味を持ったきっかけから教えてください。
ローレンさん
サステナブルな資源や農業に興味があってオレゴン州立大学で環境科学を勉強していたんだけど、ホームブリューイングをしている微生物学専攻の友達が多くてね。彼らはビールにすごく詳しくて一緒に飲みに行くたびにビールの面白さについて熱く語るから、すっかり自分もハマっちゃった。大学の側で無数のクラフトビールが飲めたしね。
さすがオレゴンですね。それで大学を卒業してビール業界に入ったのですか?
ローレンさん
在学中にホップ農園を含む農業実習をたくさん行った流れで、卒業後は「ヤキマ・チーフ・ホップス(Yakima Chief Hops)」というホップの会社に就職したの。そこで品質管理のためのビールを造って、ブルワーの仕事に興味が湧いた。
だからワイナリーで少し働いてから、ポートランドの「ベースキャンプ・ブリューイング(Basecamp Brewing)」に就職して2年働いたわ。
なるほど!そのあと「ベースキャンプ」から「マイグレーション」に移ったんですか?
ローレンさん
その間にニュージーランドのワイナリーを5ヶ月間、挟んでる。ニュージーランドからマイグレーションの面接を受けたんだけど、採用されてアメリカに戻ってきた翌日からここで働いているわ(笑)。まだ1ヶ月目なんだけど、色々学べて楽しいの。
なぜ、ニュージーランドのワイナリーを挟もうと思ったのですか?
ローレンさん
ニュージーランドに行った時は、ポートランドに戻ってこようと決めていたわけじゃない。その時に自分がやってみたいことを場所や業界にこだわらずに並べてみて、選んでいるだけだから。
そのとき興味があったのが、たまたまニュージーランドにあったワイナリーだったと。海外も選択肢に入れるのはすごいですね。
ローレンさん
そうかな。欧州のビール造りを実際に見てみたくて、スペイン、イタリア、イギリスなどのブルワリーやワイナリーを周ったこともあるわ。ブルワリーオーナーの家にホームステイさせてもらって、ゲストブルワーとしてブルワリーで働かせてもらったりして。知り合った人たちとは仲良くなって、今も情報交換をしているの。
ローレンさん
うん。後は、ビーキーパー(養蜂家)とかね。最近、モルト会社でも働き始めたし。本などで知識を入れるよりも、自分で体験したい性分なの(笑)。
ローレンさん
今は職場で造ることができるから、ホームブリューイングは大学生の時だけ。でも、ミード(蜂蜜酒)、ハードサイダー、プラムワインなんかは今も仕込んでるわ。オレゴンには美味しい果物がたくさんあるから楽しみたいもの。
「ビール天国」ポートランドの魅力
海外など他の都市と比べて、ポートランドのビールシーンについてどう思われますか?
ローレンさん
すごく進んでるって外に出て再発見したわ。水やホップはもちろん、果樹など食材に恵まれていて、ホームブルワーから大きい醸造所まで、様々な種類の新しいビールを好きなように生み出している。そして、それを消費者が喜んで受け入れてくれる。こんなにブルワーにとって働きやすい場所は多くないと思う。
なるほど。ポートランドでは、女子ブルワーも増えていると思いますが、女子であることで何か違いを感じますか?
ローレンさん
そうね。でもポートランドは、女子ブルワーも働きやすい場所だと思う。この業界に入った瞬間から、他の女子ブルワーにすごく歓迎してもらった。仲間意識が強いの。マイグレーション・ブリューイングもすごくサポート体制が厚くて、男子1人に対して3人の女性スタッフがいるくらい。
ローレンさん
個人的なことを言えば、私は、小柄で若い女子だから、どうしても舐められがちでしょ。身長も低いし、棚の上に届かないとか、重いものを動かせないとか物理的にできない事もある。そんな時に卑屈にならずに誰かに頼めるようにならなきゃって思ってきた。だからこそ、ポートランド以外の場所、ビール以外の業界でもいろんな経験を積んできたの。
例え身体能力で男子に劣っても、知識や経験という部分でブルワリーに貢献できる自信がついたってことですよね。
ローレンさん
そうね、助けを求められるくらいには。25歳の今は自分の限界も知っているし、強みもある程度、分かってる。
ブルワーにとって必要なことの1つにチームワークがあると思うんだけど、ここに来て驚いたのは、ものすごく経験のある男性ブルワーでも率先して床掃除などの雑用も行うってこと。そういう姿勢を尊敬するし、そんなコミュニティの一員であることを光栄に思うの。
その時の自分が反映されるクラフトビール
ローレンさん
ビールを飲み始めた頃はスタウトとかダークビールが好きだったけど、その後、ホップ会社で働いた事もあって、ホップの味が前面に出るノースウェストIPAが大好きになった。
でも、去年までならIPAって答えていたんだけど、今はファームハウススタイルに夢中。ワイナリーで働いた影響で、特にぶどうを使ったものが好き。マイグレーションならマルベック(ぶどうの品種)を使ったセゾン『Maltbec Nouveaux』とか。自分が飲みたい、造りたいと思うビールは、その時々の自分を表していると思うの。
ローレンさん
ニュージーランドに行く直前に、ベースキャンプで「Zwickelmania」や「SheBrew」といったビールフェスティバル用に野生ブラックベリーの花の蜂蜜と新種のホップを使ったペールエール『Pollinator Pale Ale』を造ったんだけど、それもすごくその時の自分らしいビールだと思ってる。
ローレンさんにとって、ビールは自己表現の手段なのですね。将来の夢はありますか?
ローレンさん
たくさんのブルワリーで出来るだけ多くの経験を積んで、最終的には自分のブルワリーを持つことかな。そして自分の理想のビールを作ってみたい。
ローレンさん
自分のしたいことはその時々で変わるんだけど、今興味があるのは、そのまま食べてもそれだけで美味しい、地元でサステナブルに生産された生の食材だけを使った自然発酵ビール。
ローレンさん
ポートランドはもう既に美味しいビールをこれ以上ないほど造っているから、世界のお手本となるような次のステージは、サステナブルな農業のように原料の栽培方法まで含む環境への配慮だと思う。まあこれは、自分の大学の専攻や優れたホップ、モルト造りを見てきたからだと思うんだけどね。
最後に日本のビール女子へのメッセージをお願いします。
ローレンさん
ビール造りは日に日に進化していて、次々に新しいビールが生まれている。それに自分の味覚も変わる。きっと誰にでも美味しいと思えるビールがあるはずだから、諦めずに探す価値はあるんじゃないかな。
国境や業界の境を悠々と超えて、自分がしたいことを貪欲に追求するローレンさん。助けを求められる自信をつけた彼女はもちろん、それを支えるコミュニティがあることは素晴らしいと思いました。さすがポートランド!
この先も、若い世代が中心となって、サステナビリティ、異業種間の交流など、ポートランドのビール業界を進化させてくれることに期待したいです。