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Interview ”店はひとつの生命体” 新宿駅で最後に残ったビア & カフェ BERG 市原結美さん × なな瀬のビール女子トークセッション(後編)

2015/11/15

新宿駅東口の改札を出てすぐ左。徒歩 1 分もかからない場所に名物カフェ「ベルク」があります。 15 坪ほどの小さな個人店ですが、多くのファンに愛され、今なお 1 日 1500 人もの顧客が昼夜を問わず訪れます。 1970 年に創業のセルフ型のビア & カフェは新宿のほっとくつろげる場所。この度、ビール女子リポーターなな瀬と「ベルク」ビアマネージャー市原結美さんとのスペシャル対談が実現しました! 25 周年を迎える人気店の秘密に、なな瀬が迫るリポート後編です。

▼前編はこちら

”店はひとつの生命体” 新宿駅で最後に残ったビア & カフェ BERG 市原結美さん × なな瀬のビール女子トークセッション(前編)

 

ベルク

 

女性がひとりで飲める店


なな瀬:今のお客様の年代はどれくらいですか? 女性はよくいらっしゃいますか?

市原さん(以下、市原):  30 代〜 40 代の会社員の方が多いんじゃないかと思うんですが、ベビーカーを引いて赤ちゃんを連れて来たママもいらっしゃれば、おじいちゃんおばあちゃんなど、あらゆる年齢の方が来てくれますね。ようやく今は、女の人がひとりでも飲める風潮になりましたが、うちはもともとオーナーが「女の人がひとりで飲める店にしたい!」というのがあって。それが店のテーマでもあるんですよ。

 

なな瀬:女性がひとりで飲める店は嬉しいですね。

市原:オーナーは男性女性とそれぞれいて、我々メンバーも皆お酒が好きで「なんで女の人はひとりで飲んでいると、異様に思われるんだろうね」という話題がよくあって(笑)。 女だって会社帰りに一杯ひっかけて帰りたいじゃんと。だけどなんか赤ちょうちんとかで飲んでいたら。。。

 

なな瀬:・・・以前だとちょっと異色な目で見られたりもしましたよね。

インタビュー10

市原:今はまだよくなったと思いますけど、これって永遠のテーマですよね。あの時はもっと変な目で見られていたような気がします。カウンターでお酒を飲んだり、タバコを一服したっていいじゃないかと。そういうことを女のはなんでできないんだろうと。普通のことを普通にやりたいと思って「女の人がひとりで飲める店にしよう」と決めたんです。

 

なな瀬:ベルクはビアカフェになった時から、いわゆるおひとりさまの女性はいたのですか?

市原:もちろん今ほどではないですけど既にいました。今はもう女性のおひとりさまがいっぱいですよ。女性の年齢も様々です。これだけ長くやっていると、ひとりの女性が学生だったのに、あっという間に結婚して、恋人だった関係から夫婦になり、赤ちゃんを連れて現れ、今度はその子どもがだんだん大きくなっていくという(笑)

 

なな瀬:うわー(笑) お客様の人生の歴史まで丸見えですね! ひとりの方がそんなに長く利用するお店ってそうないですよ。お客さんの立場としても嬉しいですね。私はまだ人生の中で見つけられてないですもん。

市原:ではこれから(笑)

なな瀬:そうですね。

 

 

女性客の味方でいたい


市原: 女性のお客様は、家庭を持って働いている方も多いので、会社が終わって一杯ここでやって、一瞬自分自身に戻って家庭に帰る。このあとごはんをつくったり、子供を迎えに行ったりするんだろうなということを想像します。そういう方はすごく多いんじゃないかな。みなさん短い時間をぬってここに来るので、こちらから話しかけたりはしないですね。ただオーダーもわかっているし、目で合図するだけです(笑)

 

なな瀬:・・・か、かっこいいですね。映画のシーンのようです。そんなビール女子の今と昔の変化や特徴など何かあったら教えてください。ベルクにいらっしゃるビール女子でも、市原さんご自身が飲みに行く時にいるお店のビール女子でもいいです。

市原:今はすごく明るいなと感じますね。昔はどこかこう罪悪感というか、受け入れてくれるかしらという自信のなさとかいうものはありましたよね。今はスーッと入ってきて、パイントグラスを普通に頼んだり、アルコール度高めのビールをグイグイグイとやって、スーッといなくなる(笑) そういうのが当たり前になってきていますね。今はホント多いですよ。

 

なな瀬:市原さんの想いとしては、良くなったと思っていますか?

市原:そうですね。飲みに行きやすくもなりましたしね。でももっと開放的になってもいいのかな。やっぱりうちとかにしても、ナンパしてきたりする男性がいるでしょ。なな瀬さん、声をかけられたりしません?

 

なな瀬:あのですね。。。(一瞬、間を置いて)優しいおじさまたちには声をかけられたり、おごっていただいたりはしますが、私、同世代には全く声をかけられないです。

市原:ほんとに!? でもですよ、ひとりで飲みに来ている時に、そういうの正直勘弁して欲しいというシチュエーションって。。。

インタビュー10

なな瀬:(即座に)あります。

市原:ですよね! そういう空気を察することができず、一方的に話しかけるところを見ると、なんでしょうね。私はそういうのがつい許せなくなり、「うちはそういう店じゃないからやめて!」と言います。女のって顔では笑っているけど、心では泣いている時があるわけですよ。

 

なな瀬:うわー。。。それは心強いです!

市原:女の人が(ナンパしてくる)男性でお困りでしたら、うちでは何でもやりますから。

 

なな瀬:この記事を読んでくれているビール女子読者も心強いはずですよ! 市原さんのような女性がいてくれたらとても安心です。女の子たちはこれを読んだらガンガン行きますよ。

市原:女の人が本当に気持ちよく飲むっていう土壌は、実際のところはまだまだハードルがあると思っているので。だからせめてうちでは、誰かのお母さんでもなく、誰かの恋人でもなく、社員の何とかさんでもない、自分自身に戻って欲しいなって。邪魔するものは私が許さないですよ。

 

なな瀬:カッコいい。。。救世主だ。

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市原:喧嘩上等ですよ(笑) この店はある意味、私たちの守るべきものだから、そこにいらした方には一番いい状態でいて欲しいです。変な男性の話に相槌打ったりとかねぇ。女の人はとにかく大事にしたいというのがあって、特にひとりでくる女の人は陰から見守ってます。それが一番仕事の上で気にかけているところですね。

なな瀬:相槌打っていると疲れちゃいますもんね(本音)。そういった市原さんの接客が、お客様の心をつかむのですね。

 

 

ベルク「らしさ」とは何か


なな瀬:今後ベルクで新しく取り入れたり、展開していく動きはありますか?

市原:結構絶えず新しい企画を行っているんですよね。毎月変わります。ベルク「らしさ」というのがあって。他のお店がやっているようなことでもベルクではやっぱり「らしさ」がないものはやりたくないと。それは毎回考えて企画していますね。

例えばクラフトビールの書籍をうちで PR するとしますよね。お客様が 1 日 1500 人程いらっしゃる中で、クラフトビールに興味がない一般の方でも目に入るという意味では宣伝になるんですよ。なので、少し価格を抑えて書籍からめたビールを出したり、少しでもこの本に興味を持ってもらえるといいなと思って。その他にもやりたいことはたくさんあって何からやろうかというのが楽しみでもあり悩みでもあります。毎回試行錯誤ですね。

 

なな瀬:ちなみにそのベルク「らしさ」とは、何をベースにしているのですか?

市原: 社員同士でよく話すことなのですが、私たちがこれと決めるのではないんです。店が流れの中で動いていて、もしお客様にベルクらしくないと言われてしまいそうなのであればやめようという会話をしています。例えば商品の値段を上げなければいけない時もあるけれど、この値段をなぜ上げるのか。上げる理由があったとしたら、その値段がベルクらしくなかったらやらないとかね。何かあるんですよ、そういうのが。それは店がもってるもので 25 年もやっていると店が勝手に動いていっちゃう。

 

なな瀬:コトバではなく、感覚的なもの?

市原:これが不思議で、お客様がつくったエネルギーとかすごいあって、店がひとつの生き物みたいに感じることがあります。あれ。なんだか怖い話になってきちゃいました? オカルトみたいな話しをするつもりじゃなかったんですけど。

 

なな瀬:いやいや、そんなことないです(笑) ちょっとその域はまだ体感したことはないですけど。仰ってることはなにか理解できます。

市原:私たち店側とお客様で共有しているものがあると思っていて、そこが価値基準であり判断材料になっています。ベルクらしい、らしくないとか勝手に出てきますね。とにかくお客様がお店をつくっていってくださる気がします。常連さんの中には名前も知らない、職業も知らないという間柄で、ここで初めて会って、仲良くなっていくみたいなものであったり、おじさま同士のコミュニティも存在しています。私たちがつくろうと思ってもつくれないですからね。あくまでお客様がつくってくれているのであって。

 

なな瀬:ベルクという共通のアンテナみたいなものがあって、集まる方々が通じ合うのでしょうね。メディアづくりに関わっている立場からしても、こういうベルクさんのような「場」は面白いなと思います。私たちはウェブですが、ベルクさんは店というひとつのメディアですよね。

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市原:ベルクの本は個人的にずっとお客様として来ていた編集の方がある日「本を出しませんか」と声をかけてくださったんです。その編集の方は、「自分が編集の人間だとオープンにするのは、すごく勇気が入りましたが、それでもこのお店の本を出してみたかった」と仰っていました。あとは、もう 5 年くらい前になると思うんですけど、ストリッパーのお客様が「ぜひここで踊りたい」と言ってくださって。

 

なな瀬:え!? ベルクでストリップですか?

市原:全部(脱ぐ)は無理ですけど(笑) でもすごく綺麗で。しかも無料で踊ってくださったんです。本当に素敵でした。お客様もスタッフもボーっとしちゃって。その時にダンサーの方が「ベルクと踊ったような気持ちになった」と仰ったんですよね。

 

なな瀬:名言! 本当に人の心を動かすお店ですね。最後になりますが、世のビール女子にメッセージをお願いします!

市原:女性にとって、ますます楽しんでビールを飲める時代が来るかと思います。飲むときだけは何にもとらわれず、自分自身に戻って飲める世の中を一緒につくっていきましょう!

なな瀬:ありがとうございました。

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平田亜矢子 ライター

日本ビアジャーナリスト協会事務局、ビアジャーナリストアカデミー教務課として、ビールの広く深い愉しさを伝えていく組織の運営に従事。「出張おかみ」として、和をとり入れたイベントを出張先でもてなすという個人活動を不定期で行う。過去には、料亭や庭園のある茶室で”ビア茶会“、”神楽坂フランスビールの会“、”朝落語“などを開催。

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