Interview ビールに宿る造り手の物語を共感とわかりやすさで伝える
-サンクトガーレン 中川 美希さん -

2014/06/05

女性にとってビールを”もっと身近に感じてもらう”をテーマに、ビールに関わる女性、ビールが大好きな女性にお話を伺う「ビール女子インタビュー」。
第5回目は、日本の地ビールの元祖とも言われる、サンクトガーレンで広報として働く中川美希さんにお話を伺いました。
-サンクトガーレン – 中川 希美さん -


 
一神奈川県厚木市にあり、日本の地ビールの元祖とも言われるサンクトガーレン。神奈川県産の幻のオレンジを使用した“湘南ゴールド”や、バレンタイン限定の“インペリアルチョコレートスタウト”など、個性的なフレーバービールも数多く展開しています。これからの季節、様々なイベントでサンクトガーレンのビールを楽しむことができます。

ーー日本の地ビールの元祖とも言われていますが、サンクトガーレンの歴史について教えてください。

中川さん(以下、敬称略) もともと飲茶レストランを経営していた現在の社長のお父様が、アメリカでクラフトビールの美味しさに感動して、日本でもこんなビール造りたいと志したところから始まっています。帰国後、日本でもクラフトビールをつくれないかということを模索していたのですが、日本の酒税法の規制が厳しくその時は日本での醸造は断念し、アメリカで免許を取得して醸造したものを輸入して提供するという形をとってビール造りを始めました。

当時は日本人がビール作りをしているのが珍しかったということもあり、TIME紙やNEWS WEEK紙などのアメリカのメディアで、日本の産業規制の問題と合わせて取り上げられました。
さらにその産業規制の問題が日本のメディアでも話題になり、アメリカでビール作りはじめた翌年に酒税法の規制緩和(=地ビール解禁)がされました。

※地ビール解禁
それまで、ビールを醸造するための免許を取得するには、年間2,000キロリットル以上の醸造が条件となっていたが、1994年にその基準が年間60キロリットルに引き下げられた。この酒税法の改定により少量の醸造量のメーカーでもビール業界に参入できるようになった。


ーー地ビール解禁後、すぐにビールを醸造し始めたのですか?

 中川 いえ、その時はアメリカで醸造を始めたばかりだったので、すぐに引き払うわけにもいかず、日本で醸造を開始したのは1997年からでした。当初は飲茶レストランの、ビール部門として運営していましたが、2002年にビールの醸造会社として独立しました。

 

-サンクトガーレン – 中川 希美さん -
厚木市のサンクトガーレン本社。


 

ーー中川さんとサンクトガーレンとの出会いはいつですか?

中川 2005年に、あるビール会社の方にご紹介いただいて知り合いました。当時私が働いていたレジャー施設の企画で、各地のクラフトビールを集めるというイベントがあったのですが、そこでビールについて勉強をしたりもしました。その企画がきっかけで、ビアテイスターの資格も取得しました。

 

-サンクトガーレン – 中川 希美さん -


ーー実際に、サンクトガーレンの業務にかかわるようになったのはいつごろからですか?

中川 2006年の「インペリアルチョコレートスタウト」の企画と、プレスへの案内をするというところからから関わり始めました。その時は正式な社員というわけではなく、ちょっと面白いことしてみようという感じでした。それがとてもヒットして、メディアなどにも取り上げられて、とても反響が大きくなって。高島屋のバイヤーの方からお問い合わせをいただいたり、厚木市や銀行などからも声をかけていただいたりしました。そこから状況が一変して、だんだんと手が回らなくなってきて、正式に入社しました。

 

 

 

ーー中川さんは、ずっと広報畑でいらっしゃるんですよね?

中川 そうですね。やっぱりインペリアルチョコレートスタウトの時もそうだったんですが、広報の力は大きいなという思いがあって。私たちは、どうやっても大手ビールさんには規模とか資金面では勝てないのですが、広報は広告と違って、お金を使わずに知恵を使うので、そこでは大手さんにも勝てることがあります。全体をみると全然かなわないのですが、たとえば百貨店のあるお酒売り場の単月の売上だけ見ると大手さんよりもよかったりとか、そういう面白味があります。

 

ーーそれまで違う業界にいらっしゃた中川さんが、ビール業界に入ろうと思ったきっかけはなんですか?

中川 前職のイベントのためにクラフトビールについて勉強した時に、広報から見てとても面白い素材のある業界だと思いました。各社にストーリーやこだわりがあるのですが、うまく発信できていなくて、もったいないなと。広報目線だと、ネタの宝庫でした(笑)

 

ーー実際にビール業界に入って、印象の違いなどはありましたか?

中川 当時はとても閉ざされた業界だなと感じました。ビアフェスなども、少数のマニアな方しか来ていなくて。お客さんも、業界の中の人もそれでよしとしているような印象がありました。なので、私は「わかりやすく、難しい言葉を使わない、とっつきやすく」ということを意識しました。

実は、2007年頃にビアフェスの広報のお手伝いもさせていただいたのですが、様々な媒体に取り上げていただいて、キャパを超えるくらいの来場があったんです。その結果についても、業界内部で賛否両論あったりして。沢山集客できてよかったという意見と、お客さんが多すぎるという意見があって意外でした。

ちょうどその頃、スイートバニラスタウト、黒糖スイートスタウトを発売したんです。一部の方からは、「サンクトガーレンは本流を捨てた」と批判もあったんですが、それが、その2007年のビアフェスの人気投票で1位を取ったんです。そこで迷いが吹っ切れましたね。マニアックな方々が支えてくれていた面ももちろん大きかったのですが、それでは先に進まないなと。たくさん叩かれましたけどね(笑)

-サンクトガーレン – 中川 希美さん -


 

ーー最近ではクラフトビールブームなどと言われていますが、周囲の変化など感じることはありますか?

中川 サンクトガーレンとしては、突然ブームが来たという感じはないです。売上や注文が急激に増えたということもなくて、積み重ねてきた結果があるという感じです。それでも、周りのブルワーさんなどから、「最近注文が増えた」という話を聞くと、ブームが来たのかなとは思います。サンクトガーレンとしても、樽で卸せるお店が増えたという印象はあります。

 

-サンクトガーレン – 中川 希美さん -ーーサンクトガーレンさんとしては、ブームの恩恵という感じではないんですね。


中川 そうですね。ですが、それでもこの流れは続いてほしいと思います。ビアフェスなども、若いお客さんが増えたと思います。以前は「地ビール=高い割に美味しくない」、という印象を持たれていた方もいらっしゃったと思いますが、若いお客さんは「地ビール」に対してネガティブイメージを持っていないので、その変化は感じます。


あと、特に感じるのは、イベントなどでフレーバービールが売れるようになってきていることですね。以前は、フレーバービールはイベント期間中に2樽売れればいいくらいで、あくまでメインはレギュラービールだったんですが、今年の横浜フリューリングフェストでは、一番売れたのがパイナップルエールでした。そういったところで、変わってきているなぁと感じますね。ずっとやり続けてきて良かったと思います。

 

ーーフレーバービールを積極的に企画されていますが、どういった思いなのでしょうか。

中川 私自身と同じような方に飲んでいただきたいなと思って追います。私はホップがあまり好きじゃなくて、実はIPAとか苦手で(笑) なので、フルーツビールに走ったというのもあります。

あと、クラフトビールの特徴といえば香り高いところだと思うのですが、現物を見たこともない方に、「ホップの香りが」「麦芽の香りが」と言ってもピンとこないと思うんです。でも、「オレンジ」や「バニラ」なら、人はそれを嗅ごうとしてくれて。そうすることで、導入としてわかりやすく伝えることができて、そこからクラフトビールに興味を持ってもらえればいいと思っています。クラフトビールの入口として、わかりやすく伝えられればと。

よく聞くのが、たとえば湘南ゴールドがきっかけでクラフトビールに興味をもって、今は他社さんのビールが好きという方もけっこう多くいらっしゃいます。それはそれでいいかなと(笑)

-サンクトガーレン – 中川 希美さん -サンクトガーレンのビールのラインナップ。
2014横浜フリューリングフェストでも人気を博したパイナップルエール、
オレンジを使用した湘南ゴールド、アップルシナモンエールなど
多彩なフルーツビールが印象的。


 

ーー実はビールが苦手ということですが、今も苦手ですか?

中川 今でも、やっぱりIPAとかは苦手です。フルーツ系、黒系、ヴァイツェン、ベルギー系は好きです。量もそんなには飲めないですね。

ワインとか日本酒とか、他のアルコールも好きなので、それがビールの企画にも活かせるというか、一般の方の目線で考えることはできると思っています。湘南ゴールドひとつとっても、ただオレンジの香りがすればいいというだけではなくて、「誰が、何を期待して飲むのか?」「一般の方が初めて飲んだ時に、オレンジということがわからないとダメだよ」ということをと言っては、社長とよくバトルになります(笑) それでも、議論を重ねて工夫を重ねて、ビールもどんどん変わってきています。

 

-サンクトガーレン – 中川 希美さん -ーー材料にも、かなりこだわっていらっしゃいますよね。

中川 醸造にこだわるのももちろんですが、副原料についても、農家の方の思いが込められているものを使うと、商品にもそういったパワーが宿るような気がしています。いろんな方の思いが詰まって、商品にストーリーが重なっていくということを大事にしています。PRの時にも、ちゃんとそういったストーリーを伝えていくように意識しています。

ーー広報活動を積極的に行われていますが、マニアの方、女性、若い方などターゲットを絞ったりはしているのですか?

中川 私が入ることで、必然的に女性の目線は入るとは思うのですが、特に細かいターゲティングなどはしていません。とにかくクラフトビールを知ってもらいたいと思っているので、様々な方に広く目に触れてほしいと思っています。ただ結果として、女性のお客さんは増えていますね。半分くらいは女性のお客さん、という印象です。

 

ーー広報活動にNAVERまとめを利用したりなど、特徴的な活動も多いですよね。

中川 まとめ記事に関しては、検索に強いということもありますし、あの中にお客さんがたくさんいるので、積極的に利用しています。プラットフォームとしても使いやすいので、重宝しています。

 

ーークラフトビール業界としては、斬新な取組のように見受けられますが。

中川 そうですね、NAVERまとめどころか、ネットショップをやっているところですらも、全体としてはすごく少ないですよね。数人でやられているところも多いので、どうしても広報が後回しになってしまうのはあると思います。サンクトガーレンは、最初から私が広報畑から入ったので、そういったことの大切さをわかっていたので、けっこう力を入れています。やるとやっただけ結果が返ってくるということが実感としてわからないと、力をかけられないということはあると思います。

 

-サンクトガーレン – 中川 希美さん -

 

ーーこれからイベントが目白押しかと思いますが、ビール女子におすすめのビールはありますか?

中川 イベントでは、飲み比べセットを用意しているので、そちらがおすすめです。あとは、やはり定番は湘南ゴールドですね。ホップの苦味が苦手だけど、たとえばコーヒーが好きという方は黒から挑戦するのもおすすめです。私もコーヒーの苦みは大丈夫なので、黒ビールはけっこう好きです。

 

-サンクトガーレン – 中川 希美さん -ーーサイトを見ているビール女子に一言お願いします。

中川 私はよく、ビールをケーキに例えるのですが、ケーキにもたくさんの種類があるように、ビールにも本当にいろんな種類があります。いわゆる大手の有名なビールは、メーカーが違っても同じショートケーキみたいなものかなと思います。ショートケーキが苦手でも、モンブランやチョコレートケーキ、チーズケーキなどがありますよね。それと同じように、ビールも一つの種類が苦手でも、それだけでビールをあきらめないでほしいです。

サンクトガーレン有限会社
http://www.sanktgallenbrewery.com/


 

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