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Interview 【インタビュー】大切な人にだけ教えたい、ひみつのクラフトビール。三重県で居場所を創るブルワリー「ひみつビール」のこだわりを聞いてみた

2024/08/17

おいしいビールを飲んだとき、皆さんは誰にそのビールを教えたいと思いますか?きっとビールが好きな、あなたにとって大切な人の顔が思い浮かんだのではないでしょうか。


三重県伊勢市にある「ひみつビール」は「これ、ひみつだけど教えてあげるね」と、大切な人に伝えたくなるようなクラフトビールを造るファームハウスブルワリー。2022年、三重県伊勢市出身の同級生である藪木啓太さんと佐々木基岐さんが立ち上げたブルワリーで、原料となる植物や果物を育てながら、地域の素材を使ったファームハウスエールやニュースタイルのビールを醸造しています。

今回は「ひみつビール」合同会社の代表で、ブルワーでもある藪木啓太さんにオンラインインタビューを実施。

高校からの同級生である佐々木さんと二人三脚で「ファームハウスブルワリー」を立ち上げるに至った経緯、「ひみつビール」だからこそ造れるクラフトビールのこだわりや、これから挑戦していきたいことなど、たっぷりお話をお伺いしました!


三重県伊勢市出身の同級生2人が立ち上げたブルワリー

写真左から藪木啓太さんと佐々木基岐さん
伊勢神宮参拝者の宿泊場所として栄えた町、三重県伊勢市二見町

「ひみつビール」を造る醸造所は、旅館街から少し離れ、ゆったりした時間が流れる、自然豊かなエリアにあります。

ブルワーの藪木啓太さんと佐々木基岐さんは高校からの同級生。大学生になってからは「お酒関係で独立したい」という夢を持っていたのだそう。

大学卒業後は日本酒や焼酎の蔵で研修を受け、クラフトビールを造ると決めてからはそれぞれ別のブルワリーに勤めていたというお二人。ブルワリー立ち上げまで、どのようなエピソードがあったのでしょうか。


ー「ひみつビール」が設立されたのは2022年ですが、ブルワリー立ち上げの構想はいつからありましたか?

藪木さん「2人とも飲むのも食べるのも大好きだったので、大学生の頃から『将来2人でお酒関係で独立したい』という話をしていました。当時はその“お酒”がビールなのか、焼酎なのか、日本酒なのかまでは決めていませんでしたが、もちろんビールに興味はありましたね」


ービールで独立しようと決めたのはいつ頃だったのでしょうか?

藪木さん「ビールに決めたのは、2014年頃でした。『UK・スコットランドのブルワリー「Brewdog」がキテる』『ビール業界が面白いことになっている』と佐々木が情報を持ってきてくれたんです。そのときはお互い大学を卒業して、それぞれ違うところに就職していたので2年ほど会っていなかったのですが、一度飲もうという話になって。グランフロント大阪にある『世界のビール博物館』に『PUNK IPA』があるらしいと聞きつけて飲みに行ったんです。4本くらい飲んだんですが、『なんじゃこりゃ』ってめちゃめちゃ衝撃を受けましたね。それが『今すぐ一緒にビール造りをしなきゃいけない』と思ったきっかけです」


ー再会後、すぐにブルワリー立ち上げに向かって動き出したんですね!

藪木さん「一刻も早く業界に入って修行したかったので、とにかく早い方が良いと思いブルワーの求人を半年ほど探し続けましたが、当時はほとんど求人は出ていませんでした。そのなかで『志賀高原ビール』直営のビアバー『TEPPA ROOM』のビアバーのスタッフとして受け入れていただき、ブルワーではなかったんですがビール業界への一歩目が踏み出せましたね。休みの日には社長に電話をしてブルワリーの雑務を手伝わせてもらったりもしたのですが、任期が過ぎたあとは地元の石川に帰りました」


そんななかでも何かできることはないか探していたとき、友達の奥さんの伝手で「知り合いのブルワリーの人がけやきひろばビール祭りに来るから紹介するよ」と言われ、イベントに訪れたといいます。

藪木さん「そのとき紹介してもらったブルワーの空きは半年後。『それまで待つしかないかなぁ』と考えていたとき志賀高原ビールも出店していて、『手伝ってよ!』と一日働くことに。手伝いが終わったあと、社長から『まだ仕事探してるの?ちょっと待ってろ』って紹介していただいたのが、南信州ビールの醸造長その後面接してもらい入社をして、やっとブルワーになることができたんです

じつは当時、ブルワーは業界全体的に人手不足で、公に募集が出ていないことが多かったそう。そんななか、「紹介や信頼できる人になら応募してほしい」という思いが業界のなかで広まり、藪木さんご自身の伝手とけやきでの偶然の出会いにより、ブルワーへの道の第一歩を踏み出すことができたのだとか。

藪木さん「再会したとき佐々木は、日本酒のメーカーの研究職として勤めていたので急に転職するわけにもいかなかったんですが、僕が南信州ビールに入って1年後くらいに『伊勢角屋麦酒』のブルワーの席がひとつ空くことがわかって。佐々木もタイミングよく転職できてビール業界に入ることができました。僕は南信州ビールで3年ほど働かせていただいた後、『ヨロッコビール』でブルワーを3年勤めました」

Instagram(@himitsu_beer)
藪木さんと佐々木さんがビアバーで再会してから6年ほどの歳月を経て、2022年に設立された「ひみつビール」。思わず口ずさみたくなるその名前は、「ひみつだけど、教えてあげる」と、ひみつにしたいけれど大切な人に広めたくなるビールにしたいと思って名付けられたのだそう。

ー声にするとポップで、かわいらしい響きの名前ですよね。

藪木さん「『ひみつビール』の名前が浮かんだときは「これしかない!」と思いましたね。「ひみつ」って、小さな子からおじいちゃん、おばあちゃんまで知っている言葉なので、覚えてもらいやすいキャッチーな名前だなと思ったのがひとつ。あとは、僕たちが造るビールは他社さんのビールと比べると、素材の香りや味わいを存分に引き出したいので発酵期間も非常に長いんです。そんな手間ひまをかけ、大変な思いをして造ったビールを誰に飲んでほしいかなと考えたときに、家族や友達、ご縁があって知り合った人など、大切な人たちに飲んでほしいなと思いました。その次は自分の大切な人にとっての大切な人に広めてもらえたら嬉しいと思っていて。「これひみつなんやけど、あんたにだけ教えたるわ」みたいに、大切な人が繋がっていくようなビールになればと思っているんです」

「ひみつビール」のこだわり〜動物デザインの理由〜

Instagram(@himitsu_beer)
「ひみつビール」は、パッケージに描かれているゆるい動物のキャラクターたちがかわいらしいのも魅力のひとつで、SNSでも「パッケージがかわいい!」とバズることもしばしば。そんなかわいすぎるイラストを描くイラストレーターさんとの出会いや、動物が描かれている理由についてもお伺いしました。

ーパッケージのイラストが特徴的で可愛らしいですが、描かれているイラストレーターさんはお知り合いの方だったのでしょうか?
Instagram(@himitsu_beer)
藪木さん「イラストはイラストレーター兼デザイナーの友人、aoiさんにお願いしています。当時は彼女も駆け出しだったのですが、2人で意見を出し合って探りながら固めていきましたね。最初は“ひみつ”を表す『シー!』という人差し指のイラストでずっと展開していたんですが少しずつ売上も伸び悩んできて。そのとき、日本で人気の高いキャラクター風のイラストを採用することにしたんです」

ー動物のイラストにした理由はあるのでしょうか?
Instagramより。アイコンにもなっているラッコちゃん
藪木さん「ラッコに関しては、僕がラッコ好きなことと、三重県鳥羽市の『鳥羽水族館』にラッコがいることから決まりました。ラベルに描かれている動物は色々なのですが、ほとんどは三重県に関係のある動物です。ビールに描かれた動物が三重県の水族館にいるのだと知ってもらって、水族館や三重県の他の観光地を訪れる機会になったら嬉しいなと。そして、ビールを通して地域全体を盛り上げて、来た方にもお金を落としてもらい、また、若い世代の人たちがまた帰ってきたいと思う場所になればと。そんな想いもあり、パッケージのキャラクターはなるべく三重県にゆかりのあるキャラクターにしています」

実際に、ひみつビールを買った他県の人が「今から鳥羽水族館に行ってきます!」とSNSなどで発信しているのを見つけるなど、小さいながらも経済効果が生まれていると藪木さん。ひみつビールを通して、何か行動を起こしてもらえるのもひみつビールの目標のひとつだと話します。


藪木さん「最初の数ヶ月は正直赤字続きでした。そこでテコ入れしなきゃと思って考えたのが、トレンドのスタイルのビールを造ることキャラクターのイラストをパッケージに描くことでした。トレンドのスタイルを造ろうと思ったのは、おいしいビールを造るということは大前提としてあるなかで、知ってもらえなければ意味がないと思ったんです。SNSでも最初は『パッケージかわいい!』しか言われなかったんですが、そのあと少しずつ『ひみつビールはパッケージもかわいいけど、味もうまい』って言っていただくことも、やっと増えてきたという感じですね」


「ひみつビール」のこだわり〜ビール造り〜


「ひみつビール」は、農産物を使った「ファームハウスエール」に主軸を置いているファームハウスブルワリーであるのが大きな特徴です。


「ファームハウスブルワリー」とは、ベルギーやフランスの農家で伝統的に造られてきたビールの1種、ファームハウスエール(=セゾンビール)をメインに造っているブルワリーのことです。

「ひみつビール」は、農業用に建てられた納屋をリノベーションしてビールを醸造しています。藪木さんは幼い頃から、専業農家だった祖父母と一緒に、野菜やお米などの畑に触れて育ったのだそう。そんなお祖父さんとお祖母さんの生活を支えてくれた納屋をリノベーションして完成した醸造所で、どのような想いを込めてビールを造っているのか。ビール造りのこだわりについても伺いました。


ー「ファームハウスエール」に主軸を置いている理由はありますか?

藪木さん「元々僕らは農家出身なので、農産物など原料の味を大事にしたいと思っていました。『ブリュードッグ』の味に衝撃と感銘を受けてビール業界に入ったので、もちろんホップの味も大好きなのですが、ホップだけでなく酵母や副原料の味も感じられるビールが面白いと考えています。僕たちが造るビールは、1杯のグラスの中でいろいろな味がする、そんな賑やかなビールを目指しているんです」

「ファームハウスエール」に主軸を置き、農家で採れた果物や芋類、ナッツやハーブを使い、伊勢の雰囲気を感じられるジューシービールも造っている「ひみつビール」。原料へのこだわりも、人気のひみつのようです。

ー藪木さんがビール造りで大切にしていることを教えてください。

藪木さん「基本的には原料をリスペクトして、それぞれの持ち味をどうやって生かせるかを常に考えて造っています」


藪木さん「例えばミカンひとつにしても、青い状態だったり、熟していたり、収穫する時期によって違いますよね。これは、定番商品が現状ないっていうところにも通ずるんですが、採れた原料の状態を見て、素材の風味が一番引き立つ造り方を考えているんです。たとえば、同じビール名でも去年と味が違うこともあるかもしれませんが、ビールの名前は同じでも着地点は同じじゃなくて良いと思っていて。それは原料を一番引き立たせる味わいを目指しているからなんです。その違いも楽しんでいただけたら嬉しいです」


藪木さん「また、原料を使い切ることも大切にしています。農家出身だということもあって、原料を作る大変さや苦労は人一倍わかっていると思っています。原料をリスペクトしているからこそ、採れた原料をいかに使い切れるのかも考えています。だからこそ、田舎のビールだなぁとも感じるんですけどね」

ー今では多くのラインナップを取り揃えられていますが、藪木さんおすすめのビールはありますか?

藪木さんお米が入っているライスハックというビールを多く開発しているのですが、『ひみつビール』らしいビールだと思っているので、思い入れがありますね。麦芽は海外からの輸入に頼っていますし、麦芽がないともちろんビールは造ることができないんですが、麦が輸入できなくなったらということは考えてしまっていて。ただ、日本にはたくさん素晴らしい米農家さんがいらっしゃいます。米を使ったビールの割合を増やしたら、輸入に頼る割合も減らすことができると思っていますし、ライスハックビールを通して、お米の割合をどのくらいまで高めてビールらしいものができるか実験をしているんです。そのため、お米が多く収穫できたときにはライスハックビールを造っていますね」

ひみつにしたいけれど教えたい味わいのビール、2種を飲んでみた


今回は豊富なラインナップから、「ひみつビール」を象徴するおすすめの2種類を飲んでみました。

アザラシミルク

大量のホップを使ってトロピカルな風味を強調し、三重県のローカルミルクである大内山牛乳でクリーミーに仕上げられたミルキートリプルIPA。ミルキートリプルIPAは「ひみつビール」が提唱する新しいビールスタイルで、お米とミルクの独自の組み合わせから命名されたのだそう。


藪木さん「白いビールを開発したいと思い、米を使ったということがわかるものをと造ったビールです。最初は思ったより白くならなかったんですが、「味はうまいぞ、これはなんかすごいぞ」となりましたね。米と地元の牛乳を知ってほしくて、牛乳は「入れたいから!」というそれだけの理由で入れました。ファーストバッチはドライな仕上がりになったんですが、今は甘みが残るよう調整し、ボディ感もある「あざらしのおちち」を表現しています。商業的に牛乳を入れたビールを造ったのは、ひみつビールがおそらく初だと思います」


お米とミルクの入ったビールは一体どんな味なのだろう、とドキドキしながら飲んだのですが、フルーティーな香りの後にミルクセーキのようなまったりとした余韻が広がり、はじめてのビール体験になりました!アルコール度数は11%と濃厚な味わいながら、自家栽培のコシヒカリの自然な甘さがクセになるニュータイプのビールです。


バッカルコーン

かわいいクリオネが描かれた「バッカルコーン」。ちなみにバッカルコーンとは、クリオネが餌を捕食するときに頭から出てくる6本の触手のことです。

こちらも自家栽培コシヒカリとローカルミルクを使用した、スーパーミルキーエール。トロピカルながらミルキーな口当たりが特徴で、お米とミルクの濃厚なフレーバー、ピーチやグレープのようにみずみずしくフルーティーな香りが混ざり合います。真っ白な液色に心が躍ります。


藪木さん「大量の自家栽培コシヒカリとローカルミルクを使ったミルキーエールで、サブローホップを主体としたトロピカル感とお米とミルクが織りなす濃厚なマウスフィールが感じられます。このビールは日本酒的な仕込み方法も取り入れて仕込みました。2月に仕込んでじっくりじっくりと発酵させること数ヶ月。ようやく酵母も落ち着いてきて味わいもまとまってきたのでこのタイミングでリリースとなりました。ミルク感やホップフレーバーが濃厚ですが酸味もあるのですいすい飲めてしまいます。お米を大量に使っていることでホップのフレーバーやミルク感がより鮮明に感じられると思います。もちろんお米の優しい甘味もグッドです!」


お米の優しい甘みとミルク感を味わえるビールは「ひみつビール」ならでは!全体の甘みと爽やかな酸味のバランスがよく、アザラシミルクと比べるとさっぱりとしたフルーツジュースのような印象。見た目も白く涼しげなので、暑い日に青空の下でごくごく飲みたくなる一杯です。

ビールを通して“居場所を創る”「ひみつビール」


ー今後はどのようなビールを造っていきたいか、これからの展望がありましたら教えてください。

藪木さん「ビールで独立したいと思って立ち上げましたし、もちろんビールが大好きだからビールを造っているのですが、僕らの会社は居場所を創ることを意義や目標にしています。“ただビールを造りたいから”、ではなく“居場所を創るためにビールを通したコミュニティや繋がり”を大切にしたいんです。居場所を創るため、ビール造り以外にまだまだやりたいことはたくさんあります。例えば直営のバーなどみんなが集まれる場所を作っていきたいと思ってもいるんですが、ビールが造れるようになってやっと1年経ったくらいなので、まずはビールの事業を安定させていくのが今の目標です」

ー素敵な目標ですね!藪木さんは、皆さんにどのように「ひみつビール」を楽しんでいただきたいですか?

藪木さん「僕らが思うビールの一番良い楽しみ方は、何も知らない状態で飲んで、詳しいことは分からなくても『なんやわからんけど、ひみつビールっておいしい』と感じて、楽しんでもらえることだと思っています。『ひみつビール』を好きな人同士が繋がってお店の人と仲良くなったり、コミュニティができたり。居心地の良い場所作りのきっかけや架け橋になったら嬉しいですね」


高校時代からの同級生である、藪木さんと佐々木さんの夢を実現するために立ち上げられた「ひみつビール」。盟友である2人のブルワーがひとつひとつ丁寧に造るビールは、自然豊かな三重県伊勢の恵みをたっぷりと感じられる、特別な風味のビールばかりです。

ビールを通してコミュニティや、人々の居場所が生まれたら、ビール好きにとってこれ以上嬉しいことはないですよね。

「ひみつにしたいけれど、大切な人に広めたくなる」おいしさをぜひ体感し、皆さんの大切な人にも教えてあげてください。

 ひみつビール

〇住所:三重県伊勢市二見町西829番地1
〇オンラインショップ:https://himitsu-beer.myshopify.com
〇Instagram:https://www.instagram.com/himitsu_beer/

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mei ライター

東京都在住、フリーランスのライター・インフルエンサー。WEBメディアを中心に執筆しつつ、商品やイベントのプロデュース、デザインなどSNSを通してマルチに発信中。お酒(ビールは毎日飲んでいます!)と旅と芸術をこよなく愛しています。

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