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お酒は二十歳になってから。

Column 村上春樹の世界を味わう「村上RADIO」×COEDOのコラボビールを小説を読みながら味わってみた

2021/11/13

ずっと閉じられていたフタが、10月に入りようやく開けられました。

人々は恐る恐るフタをどかして、爽やかな秋の空の下へ向かい出しました。

今年の秋は例年の秋とちょっと違う空気を感じます。

夏が終わってしまうことを冷んやりした夜風に感じて寂しくなってしまう。

これから来たる寒い冬をくるぶしを刺す風に感じて感傷的になってしまう。

いつもはそんな哀愁溢れる季節なのに、今年の秋はソワソワと蠢いているように感じます。


心は浮かれ、見えないフタが開けられた開放感に、無性にビールのフタもプシュっと開けたくなるような。

しかし季節は世界なんて関係なく、私たちに冷たい風と長い夜をもたらします。

何かにゆっくり耽りたくなるような、孤独の時間をじっくり味わいたくなるような長い夜を。


そんな夜長には、少しだけ日常を置いてけぼりにして物語の世界に浸りたくなったりしませんか?


心躍らせビールをプシュっとしながら、長い夜に物語の世界をゆっくり堪能したいーーそんな今年の秋にぴったりなビールがこの度発売されました。

作家の村上春樹さんと、村上さんがDJを務めるラジオ番組「村上RADIO」(TOKYO FM)とCOEDOビールがコラボレーションし、お互いのアイデアから醸造された特別な2種類のビールです。

村上さんの小説「風の歌を聴け」から名付けられたゴールデンエールスタイルの『風歌-Kazeuta-』と、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」作中の<やみくろ>から名付けられたポータースタイルの『闇黒-Yamikuro-』。

村上さんが様々な味わいのCOEDOビールをテイスティングをした上で方向性を決め、COEDOのビール職人さんがオリジナルのレシピを作成されたそうです。

洗練された繊細な表現と深く美しい物語で世界中の人々を魅了する村上さんと、細部にまで目をくばり繊細なバランスをとることを醸造哲学として追求している世界最高水準のビールを醸すCOEDOビール。

今しか飲めないこのコラボビールを、そのネーミングの元となった小説と共に紹介したいと思います。


「風の歌を聴け」×「風歌-Kazeuta-」


村上春樹さんのデビュー作の「風の歌を聴け」。

この小説は、1970年8月8日に始まって同じ年の8月26日に終わる物語。


大学の夏休みのこの期間、海辺の街に帰省していた主人公の<僕>は、友人の<鼠>と共に日々「ジェイズ・バー」に入り浸り、何かに取り憑かれたように一夏をかけて25メートルプール一杯分のビールを飲みながら過ごします。

ある日1人で「ジェイズ・バー」で飲んでいた<僕>は、左手が4本指の酔い潰れていた女性を介抱し、彼女を家まで送り朝を迎えます。

後日、偶然入ったレコード店でその女性と再会して親しくなっていく<僕>。

一方<鼠>は女性のことで悩んでいるよう。

そのことを<僕>に相談したそうにしているけれど相談せずにいる<鼠>。

何気ない夏休みの19日間、人々の心は動き、止まり、交差し、平行する。

それはただ通り過ぎるだけの日常。

まるでビールの泡が弾けてなくなるような。


無駄な時間を楽しむように、何かを忘れるように、日常に溶け込むように、ひたすらビールを飲む描写に、読者のビール欲求は止まらなくなるでしょう。

ここで読みながら「風歌-Kazeuta-」を飲み、ほろ酔いでこの世界に入り込むのも気持ち良さそうですが、私は我慢して読み進める道を選びました。

テンポの良い会話、登場人物の心の揺らぎにどんどん引き込まれていきます。

そして読み終わった後「風歌-Kazeuta-」をグラスに注ぎました。


この物語の空気感を表すような透き通った黄金に、凛とした白い泡が乗ります。

飲む前から鼻に漂う優しい柑橘系のフレッシュな香り。

一口飲むとモルトの甘みと柑橘のホップが優しく広がります。


樹木や海の香りが通り過ぎ、私は口の中でもう一度「風の歌を聴け」を味わいます。

一口飲むごとに、様々な場面や登場人物が蘇り、それを肴にまた一口と飲んでしまう。


それぞれの登場人物の辛い想いに胸を締め付けられる場面もあるのに、その苦しさにまで美しく透明感のある爽やかな匂いが立つこの小説。

でもそれはすっきりとカンカンに晴れ渡っている夏ではなくて、どこか薄曇りが輝いているような不思議な夏の透明感。

その空気が、このビールと一緒になって口の中で溶けていきます。


私の体で「風の歌を聴け」が弾けて、沁みて、無くなっていきました。


「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」×「闇黒-Yamikuro-」


<僕>が主人公の〔世界の終り〕と、<私>が主人公の〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。この2つの話が交互に描かれ進んでいく物語。


〔世界の終り〕の<僕>は、高い壁に囲まれ外界から閉ざされた世界で自分の<影>と切り離され、一角獣の頭骨から古い夢を読む“夢読み”の仕事をしています。そこは穏やかで幻想的で静かな世界。

〔ハードボイルド・ワンダーランド〕の<私>は、脳の中で情報の暗号化を行う優秀な“計算士”。ある天才老科学者に仕事を依頼されるのですが、この老科学者は<私>の意識の核となる部分のある秘密を握っています。老科学者との出会いをきっかけに、<私>は命の危機に晒される波乱の冒険へ向かうことになるのでした。

読み始めは関係性の無いような2つの物語と2人の主人公。

それは幻想と現実との対比のようであり、2本の平行な線が伸びていくよう。

しかしこの2本の線は交わることがなくとも、お互いを無意識の中で意識し合うように繋がり合いっていきます。

2つの物語はどのように交わり、<僕>はどんな運命を選び、<私>にはどんな運命が待っているのか。


ビールの商品名になった<やみくろ>は、〔ハードボイルド・ワンダーランド〕に登場する東京の地下に住み着き闇の中のみに存在し、腐ったものや汚水を飲んで生きる臭く強い憎悪を持った不気味な生き物。

ほとんどの人間はその存在自体知らず、例え知っている人間でもその存在に恐れて<やみくろ>を駆逐することはできません。


どうせなら<やみくろ>の不気味さや憎悪を感じながら飲みたいと思い、私は<やみくろ>が登場する場面で「闇黒-Yamikuro-」をゆっくりとグラスに注ぐことにしました。


落ち着き払った黒色に柔らかい茶白色の泡が乗ります。

その黒の落ち着きは、自分達は絶対に人間に侵されることがないという<やみくろ>の落ち着きなのでしょうか。


そしてゆっくりと一口味わいます。

「闇黒-Yamikuro-」はコクのあるコーヒーを思わせるような香ばしいモルトの香りに、ささやかな柑橘のアロマをフワッと感じ、奥深い旨味を帯びた苦みが舌に残っていきます。

重すぎないキリッとしたポーターのコクや苦みが、地下の<やみくろ>の闇を感じさせながら、秋の夜の体いっぱいにじんわり染み渡っていきました。


<やみくろ>から逃れながら地底を冒険する<私>。その地底の空気感を、右手に揺れる「闇黒-Yamikuro-」で味わいつつ読み進めます。


秋の夜長に読み出した「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」は先が気になり途中で止められず、いつの間にか、私の闇夜が朝の光を連れてこようとしているのがカーテンの隙間から分かりました。

明るくなりつつある外を横目に、もうすぐ読み切ってしまう寂しさ抱えて読んでいると、2つの物語からある同じ音が聴こえてきます。


その音は〔ハードボイルド・ワンダーランド〕の<私>の運命と、〔世界の終り〕の<僕>の住む街の景色や心にそっと寄り添い、そして「闇黒-Yamikuro-」はこの音に溶け込んでいきました。

それは暖かく強く私の胸を打ち、思わず目を瞑り物語を反芻しました。


そこからは穏やかな時の流れの中でこの物語を読み終えて、「闇黒-Yamikuro-」を飲み干し、私は静かな眠りにつきました。






小説は私達を日常とは別の世界へ連れて行ってくれます。

同じことの繰り返しのつまらない日常や、当たり前が当たり前でなくなってしまった辛い日常。

そんな日常を少し忘れて、未知の世界に行くことが出来ます。

しかしそんな未知の世界の中で、感動したり心をくすぐられたり涙したりできるのは、私達の過ぎて行った日常があるからでしょう。


ビールも小説と少し似ている気がします。

日常の中にちょっとだけ違う世界を味わわせてくれる。

そしてその世界で楽しいビールの時間を過ごせるのは、日常の延長線に私が生きているからなのかなと感じたりします。

村上春樹さんの小説を読みながらCOEDOビールとのコラボビールを体に沁み渡らせて、五感で村上さんの世界を堪能し、ちょっと日常と違った世界に入り込んでみる秋の夜長はいかがでしょうか。


 『村上RADIO×COEDO「風歌 -Kazeuta-」』

  • 〇予約販売開始:2021年10月1日(金)
  • 〇ビアスタイル:Golden Ale
  • 〇アルコール度数:5.0%
  • 〇IBU:16.9
  • 〇原材料:麦芽、ホップ(Saphir, Citra, Cascade)
  • 〇仕様:瓶333ml
    〇賞味期限:製造から180日
    〇保存方法:冷暗所にて保管ください
    〇URL:https://webshop-coedobrewery.com/
  • 〇醸造所:コエドブルワリー

 『村上RADIO×COEDO「闇黒-Yamikuro-」』

  • 〇発売日:2021年10月1日(金)
  • 〇ビアスタイル:Porter
  • 〇アルコール度数:5.0%
  • 〇IBU:25.1
  • 〇原材料:麦芽(小麦含む)、ホップ(Saphir, Mosaic)
  • 〇仕様:瓶333ml
    〇本数:12本
    〇賞味期限:製造から180日
    〇保存方法:冷暗所にて保管ください。
  • 〇URL:https://webshop-coedobrewery.com/
  • 〇醸造所:コエドブルワリー

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中林麻依 ライター

「亀がいる、ビールがある、多分そこには私がいる」。クサガメの甲羅♂に晩酌のお相手をしていただき、ビールに浮かぶ泡沫に己を案じる。甲羅とビールと太宰治が、私を生かしてくれている。週末は赤提灯に誘われて、酒場で夜が更けていく…。

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