
オレンジ色の車両が滑走する「中央線」。都内では東京駅から高尾駅までの約47kmを結び、1889年4月11日に前身となる甲武鉄道が開業して以来、毎日何十万人もの人々を乗せて走っています。
沿線にはブルワリーも数多く点在していますが、それらのブルワリーが一堂に会するクラフトビールイベントが開催されたり、中央線の駅員さんが駅前で育てたホップでビールを醸造する「ぽっぽやエール」プロジェクトを行っていたりと、中央線とビールの結びつきも強くありました。
▶︎参考記事:中央線を彩る18のブルワリーが大集合「中央線ビールフェスティバル 2023 Summer」に行ってきた
こうしてビールを通じて地域との絆を深める活動を行ってきた、JR東日本のグループ会社である「JR中央線コミュニティデザイン」ですが、その輪をさらに広げたいと考え、ついにクラフトビール醸造事業に着手。2025年夏、「中央線」を冠したブルワリーが東小金井駅〜武蔵小金井駅間の高架下に誕生しました!
その名も「中央線ビアワークス」。
元駅員さんがブルワーとして醸造したビールがその場で飲めたり、オリジナルビールに限らず中央線沿線のビールなども提供していたりと、中央線一体のビール文化を盛り上げたいという想いで営まれている醸造所・タップルームです。
どんな想いから誕生したのか。そして、元駅員が造るのは一体どんなビールなのか。詳しくご紹介します。
・中央線高架下「ののみち」内にオープン
・中央線ビアワークスのはじまり
・駅員からブルワーへ転身
・オリジナルビールと、旅に繋がるゲストビール
・おつまみ、オリジナルグッズの販売も
・“中央線”の発信基地
中央線高架下「ののみち」内にオープン

中央線ビアワークスの最寄駅は2つ。武蔵小金井駅からは徒歩10分、東小金井駅からは徒歩14分ほどです。

JR中央線東小金井駅〜武蔵小金井駅間の高架下空間は「ののみち」と呼ばれ、カフェや保育園、クリニックなどの施設が並んでいますが、中央線ビアワークスもそのなかの1つ。
東小金井駅〜武蔵小金井駅の間には、中央線ビアワークスをはじめ、ベーカリー「キィニョン」や学生寮「中央ラインハウス」が並んでいます。

そんな「ののみち」内に3つ並ぶコンテナのような建物が、今回の目的地「中央線ビアワークス」です。正面から見て一番右の箱がタップルーム、左2つの箱が醸造スペースとなっています。

外からも少し醸造している様子を覗くことができ、胸が高鳴ります。

お店のマークは、駅員さんがホップを運ぶ姿!可愛らしい。

店内は白い壁と木を基調とした、明るくて柔らかい、清潔感のある雰囲気。

L字になった長いカウンターが1つ。そしてテーブルは、立席含め5つ設置されています。
一番奥のスペースは、鉄道のボックスシートのような空間をイメージして作られているそうで、少し天井が低くなっています。

カウンターやテーブルに限らず、窓の縁にあるスペースも椅子やテーブルとして使って良いそうなので、入れる人のキャパシティはかなり大きい。

さらに店先にも長めのベンチがあるので、散歩中に1杯!なんてこともできちゃいます。利用時間は土日の夕方17:00まで。

ちなみに、店内の床に引かれた黒い2本の線は、電車の線路を表現しています。ところどころで鉄道を感じられて楽しい。

また、今回は特別に醸造スペースにも潜入させてもらえました。

高架下に沿って建てられた細長い施設なので、醸造設備から樽が奥にかけてズラッと綺麗に整列しています。
東小金井駅〜武蔵小金井駅の間を電車で駆け抜けている時は、毎回「今まさにこの下でビールを造っているんだな」と想像して楽しい気持ちになりそう。

一番奥の建物には、ビールを缶に充填する機械が。

充填された新鮮なオリジナルビールは、タップルームの中にある冷蔵庫に並んでいて、お土産として購入(※)できます。
※缶・瓶の商品はテイクアウト専用のため、店内及び外のベンチを含む店舗敷地内での開栓はできません。
中央線ビアワークスのはじまり
そんな中央線ビアワークスを運営しているのは、JR東日本のグループ会社「JR中央線コミュニティデザイン」。JR東日本グループに属する2つの会社が合併し、2021年に立ち上がりました。
中央線沿いの高架下にある歩行空間「ののみち」や、武蔵小金井・国立等にある商業施設「nonowa」を運営したり、中央線沿線の事業者が集まる「中央線パンまつり」や「小金井ビールフェスティバル」などのイベントも多数企画したり。
趣味人や文化への興味が高い人々が集まる中央線の個性を大切にしながら、『ここにしかないくらしをつくる』をビジョンに、多様な個性を持つ小さなコミュニティや新たなマーケットを生み出し、中央線の暮らしを盛り上げています。
「中央線ビールフェスティバル」2023年の様子
また2021年より、武蔵境駅前にホップの苗を植え、駅員が水やりをしてホップを育て、最終的にはオリジナルビールを造るという企画がスタート。駅員がホップの日常のお世話を担当、武蔵境駅〜東小金井駅間の高架下にある「26K Brewery」が醸造を担当し、『ぽっぽやエール』を生み出してきました。
水やりしていると、徐々に地域の方に声をかけてもらうことが増え、地域との交流が生まれてきたことを実感した駅員の皆さん。
これまでは駅の商業施設や高架下など鉄道に紐づいた駅立地を中心に仕事をしてきたため、自分たちが街に出て行って地域の方とお話をさせてもらえるような機会はなかなかなかった中で、駅前でのホップの育成を通していろんな方々と交流できていることが嬉しかったのだそう。

そこで、「ホップの栽培に限らず、自分たちが醸造まで手がけることで、更に地域と交流を深めていきたい」という想いが生まれ、中央線ビアワークスのオープンに至りました。

中央線ビアワークスのロゴは、ホップを持って駅員さんが街に出ていく様子が描かれていますが、「自分たちから街に出ていって人々と話をする、という今まではできていなかったことを、ビールというコンテンツを持った上で、率先してやっていこう!」という意思を表現しているのだそう。
駅前でのホップの育成も、今では中央線沿線を中心とした駅や駅ビルの屋上などを含む計15箇所で行われています。

この場所に出店した理由の1つは、中央線沿線にはたくさんブルワリーがあるものの小金井市にはブルワリーが存在していなかったこと。ビールで小金井市を活性化させようと、東小金井駅〜武蔵小金井駅の高架下が選ばれました。
駅員からブルワーへ転身

こうして、2023年からスタートした中央線ビアワークス開業の計画。
オープンする約1年前の2024年春頃には、醸造メンバーの社内公募が行われ、木村美祐里さん(左)と平野智貴さん(右)のお二人がブルワーとして採用されました。
お二人は“元駅員”という、ブルワーとしては異例な経歴の持ち主。平野さんはブルワーになる直前まで、木村さんは5年以上前に駅員を務めていましたが、JR中央線コミュニティデザインは“沿線のくらしづくり”をテーマとした会社であるため、最初は駅に配属されたお二人も鉄道以外への興味も強かったそう。

木村さん「私は、人がやっていないことに興味があって。駅員を経験した後も、当時新規事業として立ち上がった“子ども向けのロボットプログラミング事業”を5年ぐらいやっていました。その後、また新たに“ブルワリー事業”が立ち上がって、いいチャンスだと思ったんです」
平野さん「僕はお酒が元々好きで。また“ものづくり”もすごく好きだったんです。鉄道の仕事も楽しくやらせていただいてたんですけど、ビール造りを社内でやるよって聞いた時に、面白そうだなと思って手を挙げました」

ブルワーになりたいと思ったきっかけが「元々ビールが大好きだった」というわけではなかったお二人は、ビールについて学ぶため、研修期間中の1年半はとにかく様々なビールを飲み、味わいの勉強をしたと言います。
また実技は、宮崎県に数ヶ月間滞在し「宮崎ひでじビール」で研修。その後関東近郊にある複数のブルワリーに分かれて研修を実施しました。

街や人々と繋がりたいという想いから立ち上がり、元駅員がブルワーを務める「中央線ビアワークス」。
店内ではどんなビールが楽しめるのか、詳しくご紹介します。
オリジナルビールと、旅に繋がるゲストビール

中央線ビアワークスで飲めるビールは、タップで最大8種類。そのうち3種類は中央線ビアワークスのオリジナルビール『ゴールデンエール』『ヴァイツェン』『アメリカンIPA』を常備。その他はゲストビールを繋いでいます。
まずは、オリジナルビールについてご紹介します。
『ゴールデンエール』

『ヴァイツェン』

『アメリカンIPA』


今後、定番ビールも数種類ほど増やして限定ビールも醸造したいと考えてはいるそうですが、しばらくはこの3種類を極めようとお二人で決めているのだそう。
木村さん「師匠である宮崎ひでじビールの社長から『人の手がたくさん加わっているクラフトビールは、同じ味をひたすら再現し続けることが一番難しい。同じクオリティで作り続けられることが真のブルワーである』というお言葉をいただいて。実際今、私たちは開業してからはたったの3回しか仕込んでいませんが、同じレシピで造っているはずなのに毎回若干味わいが違うんです。レシピを年に何十種類と書いて新商品を作り続けているブルワリーももちろん凄いと思うんですが、始まったばかりの我々としては、まずは数種類をしっかり自分たちの求める味に完成させ、安定させるところを目指したいと考えています」

定番ビールは、缶でも販売しています。テイクアウトしてご自宅で楽しんでみるのもおすすめです。

また、駅員が育てたホップを使用して、今は26K BreweryでOEMとして醸造してもらっている「ぽっぽやエール」も、今後は自社醸造を予定しているとのこと(2025年冬頃)。
木村さん・平野さん「レシピは指導していただいて造る予定ではありますが、醸造機器も違いますし、ここ小金井市と26K Breweryさんがある武蔵野市とで水も違うので、全く同じ味にはならないかなと。なので、そこも楽しみにしてていただけたらと思います」

ちなみに、お店の裏でもホップを育てていて、お店の中の窓から見ることができます。お店で育ったホップも、自社醸造ビールで使用していく予定です。

次は、ゲストビールについて。
中央線ビアワークスでは、オリジナルビールに限らずゲストビールも必ず提供するようにしています。中央線のビール文化を発信する場所でありたいという想いから、中央線沿線のブルワリーのビールはもちろん常備。
また、ブルワーのお二人が研修に行っていたご縁のあるブルワリーなど、中央線以外のビールも提供しています。武蔵小金井周辺に住んでる人が遠方のおいしいビールを飲むことで「現地に行ってみよう」と思うきっかけを作りたい、中央線ビアワークスがお出かけや旅の起点になるような場所でありたいという思惑があるのだそう。いろんな地域に足を運んでほしいという想いは、なんとも鉄道らしい考え方。

タップに限らず、テイクアウト専用の瓶・缶ビールにも、ゲストビールが20種類ほどズラリと並んでいます。

小金井市周辺でクラフトビールが買える酒屋はあまり多くないとのことで、テイクアウトとしての利用を重宝している近隣の住人も多くいらっしゃるのだそう。テイクアウトだけの利用も可能なので、気軽に入店してみてくださいね。
おつまみ、オリジナルグッズの販売も

ビールに合うおつまみも提供しています。
取材に訪れた2025年10月の時点では、「生ハムグリッシーニ&ピクルス」や「やわらかチキンナゲット(トマト風味バーガーマヨソース)」「シナモンバナナチップス」など、軽食を中心とした食事が提供されていました。

ちなみに、中央線ビアワークスの周辺には、パン屋やハム・ソーセージの専門店など、人気店も点在しています。将来的には、そういったお店と地域交流を通してコラボしたビールに合うおつまみメニューを提供できたら、と考えているのだそう。乞うご期待です!

また、店内にはグッズコーナーも。かわいいロゴ入りのグッズを販売しています。

グラスはもちろん、Tシャツやステッカー、缶バッジ、コースターなど、ビールを飲むときに使える小物からアパレルまで勢揃い。

お土産やプレゼントにぴったり。訪問した際には、ぜひチェックしてみてください。
“中央線”の発信基地

最後に、今後の展望をブルワーのお二人にお伺いすると、「まずは地元に愛され、それから“中央線のビール”として定着させていきたい」と話してくれました。
缶ビールは、近隣や沿線を中心としたコンビニやスーパーなどで手に取ってもらえたりと、店の外でも楽しんでもらえる環境を作っていきたいという目標があるのだとか。いつかは列車内でも購入できたら…と夢が膨らみます。
実際にも、東小金井駅近くのスーパー「ヨークフーズ東小金井店」など販路が拡大しているのだそう。

また、自社ビールだけでなく、中央線沿線全体の魅力を伝える役割も担っているため、中央線に属する地域の特産物を使ったビールの醸造も検討中だそう。
木村さん・平野さん「当社の事業エリアは甲府まで広がっていますが、甲府でもビールの原材料になるものを育てているので、例えばそこで採れたホップと副原料を使い、いずれは地域の魅力を伝えられるビールを醸造するなどできたら嬉しいです」

中央線沿線の魅力の発信地として、新たに動き出した「中央線ビアワークス」へ、皆さんもぜひ足を運んでみてください!
中央線ビアワークス
◯住所:〒184-0003 東京都小金井市緑町5丁目3-45(Googleマップ)◯アクセス:JR中央線「武蔵小金井駅」より徒歩10分、「東小金井駅」より徒歩14分
◯営業時間:
[木・金] 17:00〜21:00
[土] 11:00〜21:00
[日] 11:00〜19:00
◯定休日:月〜水
◯決済方法:クレジットカード、電子マネー、QRコード
◯Instagram:https://www.instagram.com/chuolinebeerworks_/

お酒は二十歳になってから。
