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Column こんなブルワーになりたくて、こんな人になりたい人が上司にいます。

2021/06/07


尊敬する人はだれですか?

面接以外でほとんどされたことのない質問ですが、もし今この質問をされたら「うちの醸造長です!!!」と食い気味に答えると思います。答えるときの勢いは、語尾についている「!!!」から感じ取ってください。





こんにちは。
『Mukai Craft Brewing』の髙羽 開(たかば かい)です。

週イチ連載「拝啓、ビール職人になりました。」、第6回の今週は上にも書いた僕が尊敬してやまない「うちの醸造長・Kenさん」をテーマに書いていこうと思います。

1番近くで働いている僕が同じブルワリー(醸造所)の上司の魅力を書きまくるというヘンテコ回です。



手前味噌も、何のその!


教師歴28年、ホームブルワー歴15年の日系4世アメリカ人


まずはKenさんの基本情報からご紹介します。

本名は、Kenneth Mukai(ケネス・ムカイ)。ラストネームの「Mukai」から「もしや?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、Kenさんは日系4世のアメリカ人です。(日本人だったひいおじいちゃん・ひいおばあちゃんがアメリカに移住し、アメリカ国籍を取得されたということです)


ロサンゼルスで生まれ、生粋のバスケ少年として育ち、古着好きな人にはお馴染みの『UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)』に進学したKenさんは、「部活動を通じて子どもたちにバスケットボールの楽しさを伝えたい」と学校教員を目指すことに。もともと日本に興味があったKenさんは大学を卒業した1992年に日本にやってきて、島根県で英語教師としてキャリアをスタートさせました。

日本で3年間働いた後は化学と物理の高校教師として、ロサンゼルス(1995-2003) 、南アフリカ共和国(2004) 、ロサンゼルス(2005-2019)の順に働き、キャリアの後半ではアメリカでトップクラスの大学へ進む学生たちを教えていたそうです。


そんなKenさん、教師をする傍らで2005年頃からホームブルーイング(自家醸造)が趣味となり、ロサンゼルスのホームブルワー(自家醸造家)コミュニティの仲間たちと自分たちでつくったビールを一緒に飲み合いっこしたり、日本人の妻・正子(まさこ)さん(現・弊社代表)と自宅でBBQをしながらビールを飲むことが何よりの楽しみでした。


その後、高知県で暮らす知人とのご縁がきっかけとなり、2019年2月に夫婦で高知県仁淀川町へ移住し、2020年11月に『Mukai Craft Brewing』をスタートさせました



これまでのコラムでも何度か書きましたが、ビールづくりに深く関係している化学・物理学に関して教鞭をとっていたKenさんは、日々の業務の合間に「ビール×自然科学」という切り口で「ビール講座」を開いてくれます。

講座がある日には、出勤してすぐのタイミングで「今日は授業をしようか」と伝えてくれるのですが、そのときKenさん自身もちょっとわくわくしているのが伝わってきます。ブルワーになっても変わらない、根っからの教育者なんだなぁ、と生徒側の僕が感じるほどです。


異次元の「DIY精神」を持つ無類の「実験好き」


ブルワーという職業人は、何でも自分で作ってしまう方が比較的多いように思いますが、Kenさんも例外ではありません。テラスに置く机や椅子、ブルワリー内の棚から、ブルワリー横の倉庫、BBQゾーン、ビールサーバーといったものまで自分で作ります。


極めつけは、「排水処理施設」のDIYです。

ブルワリーがあるのが高知県仁淀川町の山奥なので、都市部ではどこでも整備されている下水処理の設備がブルワリーを立ち上げる土地にはありませんでした。そこで専門の業社に頼んで新しく作ってもらおうと依頼をしたら、返ってきた見積もり金額はなんと1,500万円

「そこまで大金がかかるなら」と、Kenさんはお隣徳島県のブルワリー『2nd Story Ale Works』さんからビールの排水を譲り受け...


法政大学で教授をされている友人や高知工業高専の先生のお力も借りながら、ブルワリー立ち上げの準備と並行して約半年間の実験を重ね...


オゾンと空気中の菌の力を利用して、川に流しても全く問題ない水質まで浄水する「排水処理施設」をイチから作り上げてしまいました。(排水の色やにおいを無くし、pH(ペーハー)を水と同じ7にして、BOD値(生物学的酸素要求量)を下げています)

制作にかかった費用は15万円業社の方にいただいた見積もり金額の100分の1です。


「DIY精神」や「実験好き」という資質は、多種多様な原料を使って自分のつくりたいビールを創るブルワーという職業にとってとても重要であることはたぶん間違いありません。『Mukai Craft Brewing』に入った今年はじめの時点では、どちらの資質も全く持ち合わせていなかった僕ですが、日々の業務の中で「Kenさんイズム」を少しずつ(めちゃくちゃ少しずつ)受け継いでいるなぁとここ最近感じるようになりました。

ブルワー以前に、人として尊敬するところ


ここまでは、Kenさんの知識や経験、ブルワーとしてのスキルみたいな文脈からお話をさせていただきましたが、最後にひとりの人間としてKenさんを尊敬していることを5つ書いて終わりにしたいと思います。

その1、
「いい奥さんでしょ」と正子さんがいないところで正子さんのことをお話されること。


その2、
部下を信頼してくれて、フラットな立場で接してくださること。


その3、
自然の機微を感じることを楽しみ、生き物に敬意を持ち暮らしていること。


その4、
人と仕事にまっすぐで誠実なところ。


その5、
僕が退勤するとき「いつもありがとうね」と必ず感謝の気持ちを伝えてくださること。






最後に

ここまで書いてきて、自分は恵まれた環境で働かせてもらっているなぁ、と改めて思いました。なんなら毎日のように感じています。

と同時に、ある種のプレッシャーのようなものも今後感じるようになるんだろうなぁ、とも思っています。Mukai Craft Brewingで働きながら、近い将来独立を予定している(自分のブランドを立ち上げる)僕は、「Kenさんからビールづくりを学んだこと」と「そのことを発信し続けたこと」をプレッシャーに感じることになります、おそらく。Kenさんが誠実に丁寧にビールづくりを教えてくださるからこそ、余計に思います。

僕が将来つくったビールが原因で、Kenさんの顔に泥を塗ることは絶対できません。

僕を育ててくださったKenさんの株を上げまくるくらいのブルワーにならなければですし、Kenさんに「I'm proud of you」と言ってもらえるような人間にもなりたいです。


Kenさんは日本語で書かれた文章をほとんど読むことができないので、この決意表明を読むことはおそらくないですが、いつか立派なブルワーになったときに「昔こんな内容の記事書いてたんですよ!」とビールを飲みながらお話しようと思います。

その日がちゃんと来るように、これからもKenさんの元で勉強がんばります。





今週も読んでくださってありがとうございました。

それでは、また来週です。




Cheers(乾杯)!!


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kai takaba ライター

新米ビール職人。高知県の『Mukai Craft Brewing』での修行を経て、現在、自身の醸造所とブランドを立ち上げ中。ビールづくりを通して「調和を生み出す補助線を引くこと」を目指しています。

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