最近、贈り物にビールを選ぶことが多くなった。
友人・知人の誕生日祝いから、お世話になっている飲食店の周年祝い、気になる女性へのちょっとしたプレゼントなどなど、いろんな場面でビールを贈っている。
お酒を飲まない人もたくさんいるけれど、もし相手がビールOKだった場合の、イベントの大小や稀少さ問わずビールが贈り物として成立する度合いはすごい。
これまではあまりやってこなかった「ビールを贈り物に選ぶ」という自分の行動理由を考えたとき、パッと思いつくのは「お祝いの席との相性がとてもいい」という、ビールがもともと持つ資質みたいなものが挙げられる。
あとは、僕自身がビールをつくる側の人間になったから、ということも大きい。もらう相手からしても「it makes sense」感があるというか、贈り物として辻褄が合うよなぁとも思う。
ただ、それ以外にも、贈り物としてビールを選ぶことに僕が楽しさを覚えたのは、「ビールを選び、贈る」という行為が、贈り物界の筆頭である「花」のそれと何かしら共通する部分があるからじゃないんだろうか、とふと思ったのだ。
- 【ライター】kai takaba
新米ビール職人です。自身の醸造所とブランドの立ち上げを目指し、高知県の『Mukai Craft Brewing』で修行中(21.1~)。
花を贈る、ということ
花を贈ることの素晴らしさをあげると、枚挙にいとまがない。
まずはそもそも、美しい。見た目そのものの美しさはもちろん、「咲き、散る」というサイクルの短さから「儚さ」の象徴として古くからこの世や命の儚さにも例えられながら、人々の心に美しいものとして認識されつづけてきた。
また、季節性、地域性もある。そして、種類が多い。とんでもなく。その数、20万と言われている。
(花が嫌いな人以外)相手が誰であろうと、花を贈る人の生い立ちや人柄、好み、外見、渡すタイミングやシチュエーションなどなど、「自分なりに贈る相手のことを想い、その人にぴったりな花を選ぶ」という行為を受け入れてくれるだけの種類がこの世に存在している。
加えて、誕生花や花言葉といった「人類が花に込めた意味」も存在していて、花そのものがメッセージを持ち得る。
この「多様性」と「それぞれの花が内包する様々な意味」が、花を「プレゼント界の横綱」たらしめているのだと思う。
花とビールの共通点
...と、花という贈り物についての考察を不意に僕が行ったのが、クラフトビール専門店からの帰りの車内だったのだ。
近く誕生日を迎える友人のお祝い用にと、ショーケースの前でビールを眺めているときの感覚が、花屋さんでの買い物体験にすごく近く感じられた。
考えてみれば、多様性という点ではビールもなかなかすごい。ビアスタイル(ビールの種類)は100種類以上あるし、その100種類のビールを醸し得るブルワリー(醸造所)は世界で2万に至る。1つのブルワリーが100種類全部をつくることは滅多にないけれど、単純なかけ算で言うと花の20万にも負けない。
各ビアスタイルには、そのスタイルが生まれた歴史や地域性、原料やつくり方、そしてもちろん味わいの違いもしっかりとある。最近は「美しい」「かわいい」という形容詞がぴったりのパッケージに包まれたビールだってたくさんある。
花言葉のように、それぞれのビールに贈る相手の特徴に合わせた自分なりの意味やメッセージを込めることもできるんじゃないかと思うし、なんだか楽しそうだ。
そんなことをぼんやりと考えていたとき、ミラノ工科大学でイノベーションの研究をしているロベルト・ベルガンティ教授の言葉が想起された。
「相手が気に入ってくれるギフトとは、受け手にとっての特別な意味を、あなた自身が見つけたものだ」
数あるビールの特徴やストーリーを知り、渡す相手のことを想いながら1つのビールを選ぶ、という行為には、何か特別で自分なりの意味を見出す喜びがあるのかもしれない。
よし、先月贈りそびれた母の誕生日と、今月迎える兄の誕生日プレゼントを選びに、近々ビールを買いに行こう。
【合わせて読みたい】