東京都・大田区、JR大森駅の西側の一帯は大森山王と呼ばれています。ここはかつて日本で活躍した文豪や政治家が住み、文化度が高いハイカラな街でした。
駅を出てすぐの坂道は「八景坂」と呼ばれ、昔はこの坂道から大森の海岸、房総半島までも一望できたといいます。
そんな大森駅の目と鼻の先に、ある1軒のビールスポット「東京∞景(トウキョウハッケイ)」が2023年12月にオープンしました。地元のブルワリー「大森山王ブルワリー」が運営するお店です。
しかしそこは、タップルームでありビアバーであり、そして、“学校”でもある。老若男女が集うことができるような“ビールをきっかけにつながりを生み出し、過去と未来をつなぐ場所”でした。
「東京∞景」は、一体どんなビールスポットなのか?その魅力を深堀りしに行ってきました。
もくじ
・大森駅から徒歩35秒、ネオンの明かりが灯る場所・大森山王ブルワリープロデュースのタップルームができるまで
・大森山王ブルワリーはなくなる?オープンと同時に「終わりの始まり」宣言
・大森の過去にフォーカスした、未来につながるビール
・きっかけが生まれる∞の可能性を秘めた場所
大森駅から徒歩35秒、ネオンの明かりが灯る場所
2024年に建立40周年を迎える大森駅の駅舎を背に、西口から徒歩35秒!八景坂を少し下った八景坂ビルという建物の3階に「東京∞景」はあります。
エレベーターで3階へ。エレベーターの扉が開いたら「BEER」という王冠の文字が迎えてくれます。
隠れ家感のある入り口。
中に入るとネオンの光が散りばめられた、カラフルでポップな広々とした空間が広がります。
ビルの外観のレトロな雰囲気からは想像できない、おしゃれで可愛らしい店内。ビールを飲みながら交流しやすいようにと、基本的にスタンディングスタイルですが、ベンチやイスもあり座って飲むこともできます。
お店の両側は窓になっていて、開放感抜群でなかなか出会うことのない珍しい構造!右側の窓の外を覗けば、大森駅のホームで電車を待つ人の姿が見えます。
店内にはピアノも設置されていて、このスペースでは定期的にジャズバンドなども招待して音楽ライブを開催予定!
駅とは反対側の窓の外には広々としたテラスもあります!
東京∞景にはタップが8つあり、6つのタップには自社オリジナルビールや他のブルワリーのゲストビールが交代で繋がります。残り2つにはスーパードライとピルスナーウルケルが常時繋がっています。
ショーケースには瓶ビールも並び、店内でも持ち帰りでも楽しめます。
グラウラーも対応していて、オリジナルのグラウラーもあります。グラウラーでお持ち帰りする時のビールの価格は2.7円/1mlです。
おつまみは、日本全国の缶詰を扱う専門店「カンダフル」から仕入れたこだわりの缶詰を取り揃えています。珍しく興味をそそられる缶詰だらけ!バケットやクラッカー、ライスも別で購入できます!
大森山王ブルワリープロデュースのタップルームができるまで
ここ「東京∞景」は、「大森山王ブルワリー」のビールを中心に提供するタップルームです。
「大森山王ブルワリー」は、“大森の人たちがビールを通してもっとこの地を好きになるきっかけを作りたい”という思いで、2019年に誕生。かつて様々な文化人が住んでいた大森にゆかりのある人物や歴史をモチーフとし、「大森の過去」にインスパイアされたストーリーやメッセージ性の高いビールを届けてきました。
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大森山王ブルワリーはこれまで、大森の商店街でボトルショップとして営業してきた「Hi-Time」(2024年1月現在休業中)、西蒲田のビアバー「Special End.」(2023年7月閉店)というお店を運営してきました。
今回オープンする「東京∞景」は、これまで各拠点で培ってきた良いところを引き継ぎつつ、今までで1番広い店内、さらにテラスもある立地で、これまでできなかったことも叶えていきたいという思いがあるのだそうです。
これまで営業してきた各拠点は閉店、または一旦お休み。その意思を受け継いでいく証として、店内には各店舗に置かれていたネオンの看板がお引越ししています。
「東京∞景」のロゴマークの周りの八角形の枠は、お店の前の八景坂と、景色がよく見える店内の窓枠をイメージしています。筋斗雲のような雲は、常に姿形を変える曖昧さを表現。人によって見え方が異なり様々な楽しみ方ができることも表しています。背景の太陽は、“終わりと始まり”を表現しているそう。
さらに、このあと代表の町田さんから衝撃な一言を聞いて、この太陽のメッセージの大きな意味を知ることになるのです…!
大森山王ブルワリーはなくなる!?オープンと同時に「終わりの始まり」宣言
「実は、新しいブルワリーを作ろうとしているんです」
なんと、お店のオープンと同時に、新しいブルワリーを作るという大発表をした町田さん。大森山王ブルワリーはどうなるのか伺うと、「大森山王ブルワリー、つまり“町田が作ったブルワリー”は終わらせ、新しいブルワリーを作ろうと思っています」とのこと。その思いを伺いました。
町田さんは元々広告の仕事をしていて、10年ほど前にご自身で会社を経営していた時から、地域とのつながりが持てるようなイベントやボランティアを開催していたそう。
その間でビールも一度作ったことがあるそうなのですが、注目を集められず…。「きちんと事業として地域とのつながりを生み出しながら、思いが伝わる仕事をしなければ、地域の人はついてきてくれない」という学びを受けたことが、大森山王ブルワリーを立ち上げるきっかけとなりました。
大森山王ブルワリーは、ビールを造って飲んでもらうだけではなく、大森駅前の広場を使って「OMORI KAORU MARKET -with しばふひろば-」というマルシェのイベントを月1回のペースで半年間開催するなど、地域とのつながりを生み出すきっかけを作ってきました。今では大田区とも連携して公のイベントに頻繁に参加するほど、大森の地域の人たちに愛されるブルワリーに。
そのようなイベント運営は、大森山王ブルワリーとして「サンデーカンパニー」という会社のようなコミュニティを作り、メンバーの方に協力してもらいながら進めているそう。しかし、やることが増えていくうちにみんなで作り上げることの喜びという感覚よりも“仕事”感が強くなってしまったことに対して、疑問を感じる機会も増えたとか。
会社、仕事、そういったものではなく、「“学校”のような場所で、ともに考えて、一緒につくる喜びを味わえるチームを作り出したい」という思いが芽生えたそうです。
驚いていたのも束の間。町田さんからさらなる事実を聞きました。
「東京∞景に学校を作って、学校のみんなでブルワリーをつくろうと思ってるんです」
予想外のワードにまたもや驚き。
東京∞景で始まる学校は、ブルワリーを作るという名目で開校します。
しかしそれは、単に美味しいビールを造ることだけが目的なのではなく、「ビールというツールをきっかけにこの大森の街にどんな楽しみ、ワクワクが生み出せるのか」という、これまで町田さんが考えてきたテーマに対して、“生徒1人ひとりの持つ考えや価値観を活かしながら、その答えを見つけることのできる場所を作る”という目的も持っています。
また、現在の大森山王ブルワリーは、大森の過去にフォーカスしてビールを作ってきましたが、今回、学校でつくるブルワリーは次の章として、大森の現在・未来に焦点を変えたものになる予定。かつて大森の文化を形づくり、愛してきてくれた文化人たちからバトンを渡され、今を生きる人が主役のブルワリーに生まれ変わるのです。
現在想定されている学校でできることはこのような感じだそう。
この学校でできることは、
1)クラフトビールのお店での企画(ホームルーム的)
2)イベント出店(遠足&修学旅行的)
3)まちのイベントづくり(文化祭的)
4)オリジナルビールづくり(部活的)
5)経営会議〜ブランドづくり(生徒会的)
などです。
ただ、ここに書くことが全てではなく、あくまでも、これからこの学校に参加してくださる方たちと一緒に作っていく予定ですので、未知の楽しみを秘めた「学校」をご想像ください。
町田さんnote「ビール屋が始める「学校」って具体的に何をするの?」より引用:https://note.com/upskch/n/naf72fbf7a6ab
大人になってからは、学校で過ごしたもう戻ることのない過ぎた青春を羨むだけだったけれど、そんな場所がまたできたら夢のようです。そして、子供の頃はできなかった、輪の中心でみんなでビールを囲めるなんて!
そんな大人の青春の地になるような“学校”という名の新しいコミュニティを作るプロジェクトが始動していて、お店がオープンした12月にクラスメイトを集めるための“学校説明会”を定期的に開催し、先日その第1期生が集まり“入学式”も実施されたそうです。
ちなみに、大森山王ブルワリー自体が継続していくかどうかは、今後の学校での話し合いによって方向性が決まると思うとのことで、別ブランドとして残る可能性もあるかもしれません。
大森山王ブルワリーが新しいブルワリーに生まれ変わる。
そしてここに学校ができてみんなでブルワリーを創る。
町田さんから発せられる斬新な発言の数々に驚きが隠せません。
なんなんだだこの構想は…想像するだけで楽しすぎる!と、東京∞景の未来にワクワクが止まりませんでした。
大森の過去にフォーカスした、未来につながるビール
そして衝撃のニュースをもうひとつ聞きました。大森山王ブルワリーとして初めて発売したビール、「NAOMI&GEORGE」の販売の終売です。残念ながらすでに販売終了していますが、取材時は終売前でしたので、最後のお別れに『NAOMI (ナオミ)』を飲ませていただきました。
大森が舞台となった谷崎潤一郎の「痴人の愛」に登場するナオミをイメージしたビール。ビアスタイルはExtra Special Bitterで、モルトの苦みや甘み、香ばしさが際立ちます。
ナオミは男性を魅了する魔性の女ともいえる魅力の持ち主で、話の中では譲治という男性を虜にし、彼をモチーフにしたビールが『GEORGE(ジョージ)』でした。終売前には、新しいブルワリーの門出を祝って、ファンの方を集めて飲み干すイベントもしたそうです。ナオミも譲治も、きっと新しいブルワリーを楽しみに待ってくれているでしょう。
この日もうひとつ飲ませていただいたのが、同じく大森山王ブルワリーの『CHIYO(チヨ)』Sサイズ/税込500円。かつて大森で、馬込文士村という文豪が集まるコミュニティを作ったといわれる女性の宇野千代さんから命名。
ビアスタイルはIPLで、ホップの香り、苦みを感じつつ、キレがあるすっきりとした飲み心地。千代さんは売れない文豪の才能を見つけ輝かせる才能の持ち主だったそうで、このビールは東京オリンピックが開催された年に発売されたこともあり、“次の世代にバトンを渡そう”というメッセージも込められたビールです。明るい香りとすっきりとキレのある味わいはそんなメッセージを表現しています。
きっかけが生まれる∞の可能性を秘めた場所
東京∞景は、時にタップルームであり、音楽ライブの会場であり、ビアガーデンであり、学校でもある。様々な形に変わりながら、人それぞれのワクワクするきっかけを生み出す場所です。
「ただ、つながりをつくりたいというメッセージを押し出した場所を作ったとしても、それはやや強制的な気もします。私はここが、人生がちょっと楽しくなるきっかけを秘めている場所になればいいなという思いです。それがビールでもいい、ここにいる人でもいい、大森という街でもいい。ここに来ることで何かに興味を持って、人生がちょっと楽しくなるようなワクワクするきっかけを見つけてほしいんです。シンプルに楽しい人が増えてほしくて。そんなこと言うとハッピーくんみたいですけど、何か小さな楽しさを見つけて前向きに考えることが増えてほしいなと思っているんです」と町田さんは言います。
さらにはこういう思いも。
「ビールというツールを使ってそんな場所を作りたいと思いつつ、ビールが人を分断するものにはなってほしくないから、ビール以外のものも取り扱ったり、子供も来ることができるような、そんな場所にしていけたらと思います」と町田さん。
町田さんのお話を聞いて、ご自身がどれだけ人と人とのつながりを大切にしているかをひしひしと感じることができました。
これまでも、出会った人たちが持つ力を活かし、関わりの中で生まれたアイデアを実現する力を持っていたからこそ、町田さんの周りには人が集まり、そして大森山王ブルワリーが地域に愛されるブルワリーに成長していったのだと感じます。
そんな町田さんを筆頭に、これから東京∞景の学校で、さらに多くの人の思いを詰め込んだ新しいブルワリーやビールをつくりだすことができれば、ビールというツールを中心に、街が変わっていく姿を見ることができるかもしれない。そんな未来に筆者もワクワクします。
過去を大切にしながら、未来へとバトンを繋ぐ、大森山王ブルワリーがつくる東京∞景の無限の可能性に目が離せません。
東京∞景(トウキョウハッケイ)
〇住所:東京都大田区山王2-2-7 八景坂ビル3F
〇アクセス:JR大森駅西口 徒歩1分
〇営業時間:
[火-金]17:00-22:30 (L.O 30分前)
[土] 14:00-20:00 (L.O 30分前)
[日月]定休
※イベント開催により変更となる場合がありますのでSNSでお知らせする営業カレンダーにてご確認ください。
〇支払い方法:カード可(VISA、Master、JCB、AMEX、Diners)
電子マネー可(交通系電子マネー(Suicaなど)、iD、QUICPay)
QRコード決済可(PayPay、d払い、楽天ペイ)
〇Instagram:https://www.instagram.com/tokyo_hakkei/
〇大森山王ブルワリー公式X(旧Twitter):https://twitter.com/sannobrewery
〇大森山王ブルワリーHP:https://omorisannobrewery.tokyo/