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ビール王国連動記事 Column 眞鍋かをりの旅先ビール
ビールがかなえた不思議な出会い

2015/02/12

眞鍋かをりの旅先ビール

-ビールがかなえた不思議な出会い-

かつてヴィクトル・ユゴーが「世界で一番豪華な広場」と讃えた、ブリュッセルのグランプラス。あたりが夕暮れに染まり始めたころ、この広場に面する、いかにも歴史がありそうなカフェのドアをあけると、まだ閑散とした静かな店内には、若い男性店員と、馴染み客と思われる、ハンチング帽をかぶったおじさんが、入り口近くのテーブル席でひとり、ビールを飲んでいた。ベルギーではメインの観光スポットだというのに、真冬のオフシーズンだからか、このあたり一帯が静寂に包まれ、冷え切った石畳と、とげとげしたゴシック建築が美しい市庁舎が、まるで「氷の国」に迷い込んだかのような感覚にさせる。

眞鍋かをりの旅先ビール

初めてのパリ旅行をしたついでに、せっかくだからと日帰りでブリュッセルにまで足をのばしてみたのだったが、タリスという高速列車で1時間半の距離にも関わらず、パリとは比べ物にならないくらいの、底冷えのする寒さに愕然とした。一日歩いて冷たくなった体を温めようと、広場にある一軒のカフェに飛び込んで、温かいコーヒーでもと思ったのだが、席に座った私のもとへ店員がやる気なく差し出したのは、何十種類ものビールのリスト。「こ……、この寒い中、ビール!? とてもじゃないけど、今はそんなもの……」一瞬、躊躇したところで、ハッと気が付いた。ベルギーを代表する食文化といえば、何といっても個性豊かなベルギービール。普段からお気に入りの「ヒューガルデンホワイト」を買いだめするくらい大好きなはずなのに、今回の日帰り旅の最中はベルギーワッフルやベルギーチョコレートに気を取られて、すっかり失念してしまっていた。酒好きのはしくれとして、お恥ずかしい限り。せっかくブリュッセルに来ているのだから、寒いとかどうとか、そんなの関係なし! とにかく、本場でベルギービールの味をしっかり堪能しなければ。

しばし、膨大な種類のビールが載ったメニューとにらめっこして、どれにしようか迷う私。でも、写真がついていないので、それがどんなビールなのか、エールなのかエールじゃないのか、それすらも全く見当がつかない。珍しいのを飲んでみたいけど、冒険しすぎて失敗したら嫌だな……。そんなことを思いつつ、なかなか決められないでいると、突然、私の視界にスッとあらわれた、分厚い人差し指。見上げると、その指の主は、入り口にいたあのハンチングのおじさん。鬼気迫る顔でひとり真剣にビールを選ぶアジア人の女が気になったのか、わざわざ自分のオススメを教えに来てくれたらしい。

おじさんのゴツゴツした指が指し示していたのは「オルヴァル」というビール。地元のビール好きのおじさんが言うんだから間違いないだろうと、さっそくそのオルヴァルを注文してみると、愛想ゼロの店員が運んできたのは、ボウリングのピンのようにラインが美しい瓶ビールと、ワイングラスのような形をした専用グラス。注ぐと、グラスは濃い琥珀色に染まり、華やかでフルーティーな香りが立ちのぼる。ひと口含んでみると、しっかりとしたコクと苦みが広がり、濃厚な旨みを感じるも、適度な酸味があり、とてもキレが良い。うん、これは、美味い。アルコール度数も少し高めだから、なんだか冷えた体も、奥からじんわりと温まってくるような気がする。

眞鍋かをりの旅先ビール

ただ、ここまでビールとしての味わいがはっきりしていると、おつまみは何が合うのだろうな、とふと思う。私は何を飲むにも、お酒とおつまみのマリアージュを楽しむのが最高の飲み方だと思っているので、どんなに美味しい酒を口にしても、それ単体で楽しむということはあまりない。あっさりしたものだとオルヴァルのコクと苦みに負けてしまうだろうし、いったい何がいいのか……。悩んでいると、目に入ってきたのがベルギーのおつまみの定番、フリッツ(フライドポテト)。なるほど、ベルギービールのバリエーションはとんでもなく多いが、これならどんな風味のビールがきても受け止められるだけの懐の広さがある。オルヴァルを飲んだら全く違うビールに変えて、2杯目いくのもアリだな。私はすぐにフリッツを注文し、当初の予定より少し長く、このカフェに腰を据えて楽しむことに決めた。
入り口近くへ顔を向け、「驚いた! ほんとに美味しいよ!」と、表情でサインを送ると、「だろ? おれはいつもコレだよ」とばかりに、オルヴァルのグラスを軽く掲げるおじさん。薄暗がりにライトアップされたグランプラスをバックに、ハンチング帽のブラウンベージュとオルヴァルのロゴの渋いブルーが映えて、ビールを飲む姿がとても様になっていた。

撮影協力:16's Stairing Steps Case/東京都新宿区高田馬場2-9-1 2F


この記事は『ビール王国Vol.2 ワイン王国2014年4月号別冊』に掲載されたものです。


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ライターの紹介

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1980年生まれ。横浜国立大学卒。在学中よりタレント活動を始める。現在はバラエティ番組から報道番組まで幅広く活躍中。趣味は一人旅で、ビールを求め出かけることも。その他、ワイン、チーズも。2010年に「C.P.Aチーズプロフェッショナル」を取得。レギュラー番組は「たかじんのNOマネー」、「大竹まことゴールデンラジオ」

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