ビールを買おうと陳列棚を眺めている時、思わず二度見してしまった名前やラベルのビールに出会ったことはありませんか?名前に隠されたストーリーを知ると、ビールを味わう楽しさがさらに増すかも。ということで、前回に引き続き、ちょっと変わった4種類のビールの名前とラベルについて紐解いてみました。
紹介する4種類のビール
1.『Dear BABY』(いわて蔵ビール)
2.『妻ビール』(湘南ビール)
3.『其の十 / No. 10 - Anniversary IPA -』(志賀高原ビール)
4.『一意専心』(京都醸造)
みんながあなたを待っていたよ
『Dear BABY』
ウインクをしている赤ちゃんが描かれているラベルが可愛らしい『Dear BABY』は、世嬉の一酒造株式会社が醸造する「いわて蔵ビール」の商品です。
この赤ちゃん、実はモデルがいます。それは、後藤工場長の長女さん。
ラベルのイラストは、いわて蔵ビールの女性スタッフによって描かれました。イラストを工場長に確認したところ、おじいちゃん、おばあちゃん達から「もっとうちの娘はこうでないか」と意見が多く、なかなかOKが出ずに大変だったのだとか。赤ちゃんのお顔とイラストを見比べながら、家族皆で意見を言い合っているという、ほほえましい風景が思い浮かびますね。
ビール好きとしては、自分の誕生を祝って造られたビールがあるなんて、とっても羨ましいお話。成人した時に、最初に味わって欲しいなと思います。「工場長の第一子は女の子で「Dear BABY」を造りました。第二子は男の子なので、男の子Ver.も造らないといけないかな」とは、佐藤社長の言葉。「男の子Ver.」はどんなビールになるのでしょうね。こちらも楽しみです。
Dear Baby
〇製造者:世嬉の一酒造株式会社 いわて蔵ビール
〇ビアスタイル:アメリカンウィートエール
〇原材料: 大麦麦芽、小麦麦芽、ホップ
〇アルコール度数:5.0%
〇容量:330ml
〇商品ページ:https://www.sekinoichi.com/fs/sekinoichi/c/DearBaby
「大磯妻」が連れて帰ってと訴えてくる
『妻ビール』
裸体の女性というインパクト抜群のラベルを持つ「妻ビール」は、湘南に残されたただひとつの蔵元、熊澤酒造株式会社(以下、熊澤酒造)が醸造する「湘南ビール」の商品です。
熊澤酒造は蔵の敷地内に「okeba」ギャラリー&ショップを構え、湘南地区を中心としたアーティストの活動を応援しています。その活動の一環でアーティストさんとコラボした「アートラベル」を発売することとなり、第一弾として誕生したのが「妻ビール」です。
ラベルに描かれているのは「大磯妻」のデザイン。
「大磯妻」とは、アートな朝一「大磯市(おおいそいち)」で誕生した裸の人形のことで、小田原のnico cafeのオーナーがデザイン、販売しています。購入されて旅立つことを「嫁ぐ」と言い変え、嫁ぎ先(購入先)の方が洋服などを作成して着せ替えを楽しんでいるそうです。(その模様はnico caféのHPで紹介されています。)コラボするにあたり、嫁ぎ先のことを考え、ビール名をただの「妻ビール」としたのだとか。強烈なデザインから年数回の限定販売をしていましたが、中身のビールと共に評判となり、現在は通年販売しています。
初めて見た時、思わずドキッとしてしまう「妻ビール」。見た目のインパクトだけでなく、味もおいしく、また飲みたいなと思えるビールでした。アートラベルシリーズ、今後どのようなコラボビールが出てくるのか気になります。今年はハロウィンラベルの発売が決定しているとのこと。要チェックです!
妻ビール
〇製造者:熊澤酒造株式会社 湘南ビール
〇ビアスタイル:ゴールデンエール
〇原材料: 麦芽、ホップ、水(丹沢山系の伏流水)
〇アルコール度数:5.0%
〇容量:300ml
〇商品ページ:https://kuma.shop-pro.jp/?pid=136079040
いままでにないIPAを目指して
『其の十 / No. 10 - Anniversary IPA -』
大蛇のロゴを有する紺色のラベルに、縦書きで記された「其の十」の白い文字。カッコイイです。
「其の十/ No. 10 - Anniversary IPA -」は、株式会社玉村本店が醸造する「志賀高原ビール」の十周年を記念して造られたもの。
ファンの間では「志賀高原ビールといえばIPAスタイル」と言われるほど、IPAスタイルにこだわりを持つ理由を担当の方にたずねました。
スタッフの皆さん、ホップが効いたビールが大好きで、現代の多様な日本の食(日本食だけのことではない)との相性がとてもいいと思っているそうです。16年前から定番として「志賀高原IPA」をつくり、当時は定番でIPAを造っているビール会社は多くなかったとのことですが、「自分たちが飲みたいビール」をコンセプトに、House IPAをはじめ、限定のIPAを次々とリリースしました。ビール事業の創業以来、「従来の日本のビールにない、個性あるビールをつくる」という想いを象徴しているのがIPAなのだそうです。
このような想いの中、十周年記念ビールをつくる際、半年以上考えて「やっぱりIPAにしよう」と決めたそうです。そこで、これまでに造った回数を数えると、ちょうど十番目のIPA。十周年で十番目、というわけで「其の十」という名前に。
「いままでにないIPAにしたい。それも、出来れば日本ならではの。」という思いで、自家栽培の酒米「美山錦」と、4種類のアメリカンホップを使用。アルコール度数7.5%、IBUは75。2014年の発売以降、大人気となり、現在は準定番商品として販売されています。
「十周年で十番目のIPA」という背景に、運命的なものを感じてしまいました。
其の十だけではなく、いずれのビールも発売以降はレシピを固定せず、小さな改良の積み重ねをしているという志賀高原ビール。「自分たちが飲みたいビール」をコンセプトに掲げ、ブラッシュアップし続ける姿勢に、ファンは惹かれているのではないでしょうか。
其の十 / NO.10 Anniversary IPA
〇製造者:株式会社玉村本店 志賀高原ビール
〇ビアスタイル:インぺリアルIPA
〇原材料: 麦芽、酒米、ホップ
〇アルコール度数:7.5%
〇容量:330ml
〇商品紹介ページ:http://tamamura-honten.co.jp/?pid=97647214
高い志を有するビール
『一意専心』
印字されたタイプのボトルビール「一意専心」は、2015年に創業した京都醸造株式会社(以下、京都醸造)の商品です。現在、定番の「一期一会」、「一意専心」、「黒潮の如く」の3種類が瓶で販売されています。この「一意専心」は2番目につくられた定番ビールです。
まず、六角形は縁起の良い形とされ、「鶴は千年、亀は万年」のように長命・長寿の象徴とされています。「ビールは人と人を結びつける「縁」の力を持ち、京都醸造が長生きしてほしい」という意味を込めて選んだそうです。また、京都の「K」が組み込まれていますが、よく見るとこの形がBrewingの「B」とCompanyの「C」も作り出しています。創業者が3人いて三角形が3つ、などなど他に沢山の「裏の意味」もあるのだとか。
横綱の若乃花が使って名言となった「一意専心」という言葉。「ほかのことを考えずその事だけに心を集中する」という意味があり、クラフトビール業界で働く多くの人々の精神をうまく表現し、この商品に限らずすべての取り組みにおいて技術や知識を研ぎ澄ます努力を続け、全身全霊で働くという高い目標にもなると思い採用したそうです。
ラベルは直接プリントされている珍しいタイプで、オレンジっぽい赤でデザインされています。この色は商品名由来の情熱を表しながら、ベルジャンIPAの大胆な味わいも表しているのだとか。
ボトルビールの販売は、これまでタップルームがメインでしたが、先日から京都府内で販売を始めました。お客さんとの近い距離での取引にこだわっているとのことなので、ぜひ京都を訪れた際は探してみてください。
一意専心
〇製造者:京都醸造株式会社
〇ビアスタイル:ベルジャンIPA
〇原材料: 麦芽、ホップ、酵母、水
〇アルコール度数:6.5%
〇容量:330ml
〇商品紹介ページ:https://kyotobrewing.com/products/ichii-senshin
〇ボトル販売:
ビール工場併設のタップルーム(金曜日 17:00~21:00(LO 20:30)、土曜日・日曜日 12:00~18:00(LO 17:30))、京都府内の販売店
今回は「Dear BABY」「妻ビール」「其の十」「一意専心」の4種類について、名前やラベルが持つ背景をご紹介しました。
ひとつのビールに、さまざまな想いが込められていますが、なかなか造った方にたずねるチャンスがありません。ですが、背景を知るとそのビールに対して愛着が湧いてくるもの。ビール女子の皆さんにも、ビールの香りや味わいを楽しみながら、名前やラベルに隠されたストーリーを楽しんでもらえると嬉しいです。