カフェやバーなどさまざまな飲食店が点在する、東京都江東区の清澄白河エリア。個性的なお店で賑わう一方、下町ならではの落ち着いた雰囲気が多くの人を魅了しています。
そんな清澄白河エリアを散策していると、落ち着いた住宅街にガラス窓と植物が目を引くお店を発見しました。
ワインバー?フラワーショップ?と考えながら扉を開くと、正面にはビールタップカウンター、左側の壁には本棚が……!
目に飛び込んでくる植物や、ソファ席に思わず「ただいま」と言いたくなってしまう空間ですが「sabo beer bar & bookstore(サボビアバーアンドブックストア)」はその名の通り、本屋を併設したクラフトビアバーのようです。
なぜビアバーと本屋を同時にオープンしたのか、店名の「sabo」に込められた想いや、クラフトビールのこだわりなど、「sabo beer bar & bookstore」の魅力をたっぷりご紹介します!
コンセプトは「写真家が東京の下町に家を借りたら」

2024年12月、都営新宿線の菊川駅から徒歩3分ほどの場所にオープンした「sabo beer bar & bookstore」。店内に足を踏み入れると、外観からは想像できないほど明るく広々とした空間が広がっています。

奥行きがある店内にはテーブル、カウンター席に加えソファー席もあり、計20席ほどが用意されていました。どの席に座っても、柔らかな日を感じられるのが嬉しいポイント。

その居心地の良さから、オープン直後の15時ごろに入店し、本を読んだりパソコンで作業したりしながらビールを飲む人も多いのだそう。

もともとは倉庫だった、築70年の家屋。店主の小林さんの手で壁や床に手を加えながら、ナチュールワインバー「sukima 半蔵門」の店主でありデザイナーである三谷さんが内装デザインを担当し、モダンな雰囲気に仕上げました。
小林さん「写真家の『ヴォルフガング・ティルマンス』が撮る部屋の写真が好きで。日本っぽさも残したかったので『写真家が東京の下町に家を借りたら』というイメージを伝えて、内装をデザインしてもらいました」
クラフトビアバーに本屋を併設した理由

家具や店内に飾られているアート、本棚の本まで一貫したこだわりを感じられますが、すべてセレクトしているのは、小林さんです。
小林さん「もともとは本や編集業務が好きで出版業界で働いていたのですが、次第に疲れてしまって。学生時代から飲食店のアルバイトをしていたこともあって、ゆくゆくは自分のお店を持ちたいと思っていたので、本が買えるクラフトビアバーをオープンすることになりました」

ビールが好きなことに加え、ビールの醸造にも興味があった小林さんは、出版業界から離れたあとに小田原に移住。
箱根の「GORA BREWERY&GRILL」で2年弱、ビールの醸造を勉強しながらブルワーとして働くなかで、クラフトビールの奥深さに気付いたのだそう。
小林さん「ビールは表現の幅が広くて自由なので、自分が作りたいものを落とし込みやすいイメージがあります。ビールをつくるのに必要な酵母って、生き物なんですよね。完全にコントロールはできないんですけど、ある程度うまく働いてもらうような環境を作ることや、完成までのプロセスが僕はすごく好きなんです。人間がコントロールできることは限られているのに、今の世の中はなんでもコントロールできると考えている、思い上がりがあるように感じていて。クラフトビールは、コントロールの効かない部分も魅力だと思っています」
そんな自由なクラフトビールと一緒に本を販売したことにも、出版業界に勤めていた小林さんならではの哲学がつまっていました。

本屋の数は年々減少しており、今の時代は本屋だけで生きていくのも大変だと小林さんは語ります。
小林さん「本はなくなってはいけないものだと思うのですが、誰かが無理してでも売るのは健全じゃない。『今、自分ができることはなんだろう』と考えたときに、飲食店の経営をベースにしつつ、本を販売するスタイルが浮かびました。なので『ビールを飲みに来たけど本を買ってみた』とか、『本を買いに来たけどビールを飲んでみた』というように、相乗効果で楽しむ使い方をしてもらえるのは嬉しいですね」
本棚を見ると、ビールについての本はもちろん、社会学や人文科学など、さまざまな哲学やカルチャーに触れられる本が陳列されています。一体どのような基準で選書されているのでしょうか。
小林さん「本屋は社会をよくするためにあるべきだと思うんです。現状の仕組みや価値観に違和感を持った人や、悩んでいる人の力になりたいので、差別の助長や対立をあおるようなヘイト本は置かないよう徹底して、多様な人々が安心して入店できるような選書を心がけています」
店名の「sabo」に込められた想いとは?

店名の「sabo」は、労働者が抗議活動として意図的に怠業したのが語源である、フランス語の「sabotage(サボタージュ)」が由来。
「日々の忙しなさを忘れて、少しくらい仕事をサボッてビールを飲んでもいいんじゃない?」という小林さんの粋なメッセージは、店名のみならず、選書や空間そのものにも込められているようです。

思わず仕事をサボッて遊びに行きたくなる「sabo beer bar & bookstore」で提供しているビールは、8タップ。クラフトビールを飲み慣れていないお客さまが多いこともあり、サワーやヘイジーなど飲みやすいスタイルを中心に、バランスを見ながらセレクトしているのだそう。
小林さん「古巣の『GORA BREWERY&GRILL』で『sabo』で、定期的にオリジナルビールも醸造していく予定です。近隣のカフェ併設型ミニシアターの『stranger』さんとコラボし、作品をイメージしたオリジナルビールなども提供しています」
ビール以外にウィスキーやカクテルも用意されており、ゆくゆくはクラフトジンやウイスキー、ナチュールワインも増えるかもしれないとのこと。

今回は小林さんおすすめの、明るい時間から飲みたい爽やかなクラフトビールを2種類いただきました!
『HANASHIZUKU』NUDE(ハーフパイント:税込1,200円)

サワーチェリー、ラズベリー、黒ブドウの爽やかでジューシーな味わいが楽しめるフルーツサワー。ハイビスカスとローズヒップによる鮮やかな色味と、ごくごく飲みたくなるさっぱりした風味が特徴的です。
「Passiflora」VERTERE(ハーフパイント:税込1,400円)

トロピカルなアロマと、ジューシーな味わい、ほのかな甘みのバランスが絶妙なヘイジーIPA。舌触りはとろりと柔らかく、ほどよい苦みの余韻が後に続きます。カラッと晴れた日に飲みたくなる一杯です。
「sabo beer bar & bookstore」はビアバーでありながら、カレーやケーキなど趣向を凝らしたフードメニューが用意されているのも魅力のひとつ。
数種類のメニューは1週間単位で変わるので、来るたびに違った料理を楽しめるようです。

今回は爽やかでジューシーなクラフトビールとのペアリングを楽しみたいと思い、「猪のソーセージ」と「大根・キュウリ・ニンジンのスパイスピクルス」を注文してみました。
「猪のソーセージ(写真右)」(1,300円)と「大根・キュウリ・ニンジンのスパイスピクルス(写真左)」(500円)※税込

「猪のソーセージ」は、臭みがなく、塩味とピリッとした辛さでビールが進むひと品。しっかりと食べ応えがあるので、お腹が空いているときにもぴったりです。スパイスの効いたピクルスはさっぱりとした味付けで、サワー系との相性も抜群。
組み合わせに迷ったときは小林さんに聞いてみることをおすすめします!
誰もが安心して飲める場所を目指して

クラフトビールと本をきっかけに集まった人たちが、ゆるやかに交わる「sabo beer bar & bookstore」。
これからの展望について小林さんは、本の著者を招いたトークイベント、アートの展示、ビールのテイスティング会やフレーバー研修など、「いろいろなイベントをやりながら多様なカルチャーに触れられる場にしていきたい」と語ります。
そして何より、「ビールの奥深さを知ってもらえる、誰もが安心して飲める場所でありたいですね」とも。「みんなに仕事をサボってビール飲みませんかって言いたいです」と笑いながら話してくれた小林さんの言葉には、冗談以上の想いが込められているように感じました。

ビールを片手にページをめくる。心地よい時間が流れるこの場所では、何気なく飲む一杯の向こう側にまだ知らない味や香り、世界が広がっています。
肩書きや立場を気にせず、自由に息を抜いて、ただ「好き」を楽しめる場所。それが「sabo」の目指す形なのかもしれません。

「sabo beer bar & bookstore」
〇住所:東京都江東区森下4丁目23-4(Google Map)
〇アクセス:都営新宿線菊川駅 A2番出口より徒歩3分
〇15:00〜23:00
〇定休日:月曜日
〇決済方法:現金、各種クレジットカード、電子マネー
〇Instagram:https://www.instagram.com/sabo_beerbar_and_bookstore/