Interview 「家でビールがつくれる?」ホームブルーイング解禁への活動がスタート!発起人に話を聞いてみた。

2019/10/29


ビール女子の皆さんは、自分でビールをつくってみたいと思ったことはありませんか?

「このビールはどうやってつくられたんだろう。」

大好きだからこそ、知りたくなるもの。知れば知るほど、やってみたくなるもの。

でも、日本では製造免許なしにビールをつくることはできません。(※アルコール分1度以上の飲料の自家醸造は酒税法にて禁止されています。)

そんな中、「家庭でビールをつくる」ことの解禁を目指し、2019年10月1日に『日本ホームブルワーズ協会』が設立されました。会長は伊勢角屋麦酒の社長である鈴木成宗さん。


伊勢角屋麦酒 鈴木成宗 日本ブルワーズ協会
どうしてブルワリーの社長である鈴木さんが、ホームブルーイングの解禁を目指すのでしょうか?そして、ホームブルーイング解禁によって、私たち飲み手を取り巻くビールの環境はどう変わるのでしょうか?

それらを教えてもらおうと、鈴木さんにインタビューを行いました。日本のクラフトビール業界の未来について楽しそうに話す鈴木さん。情熱的な語り口とキラキラした目が印象的でした。



伊勢角屋麦酒 鈴木成宗 日本ブルワーズ協会


鈴木成宗(すずきなりひろ)さん


伊勢角屋麦酒社長。1967年伊勢市生まれ。東北大学農学部卒業後、創業1575年、20代続く家業の「二軒茶屋餅角屋本店」の餅屋の仕事に就く。1994年の酒税法改正で可能となった小規模醸造、ビール造りに「伊勢角屋麦酒」として97年に創業。レストラン経営にも乗り出すがうまく回らずどん底に。2003年、日本企業初の「Australian International Beer Awards」金賞を皮切りに数々の賞を受賞、世界で最も歴史あるビール審査会「The International Brewing Awards2019」で「ペールエール」が2大会連続で金賞に輝いた。(『発酵野郎!』著者紹介情報より抜粋)

『発酵野郎!』書籍情報(Amazon):https://www.amazon.co.jp/dp/4103527412
Twitter:発酵野郎!なりぴー@NarihiroSuzuki(https://twitter.com/NarihiroSuzuki
伊勢角屋麦酒HP:https://www.biyagura.jp/ec/



ホームブルーイングってなに?

IPA クラフトビール 呉ビール 海軍さんの麦酒

「ホームブルーイング」とは「家庭でビールをつくる」ことです。「家でビールをつくることができるの?」と思った方もいるのではないでしょうか。

クラフトビール大国であるアメリカでは、ホームブルワー(趣味としてホームブルーイングを楽しむ人のこと)が、なんと約110万人もいるそうです!もちろん販売することはできませんが、自宅で家族と楽しんだり、ホームパーティーなどでお披露目したりと楽しんでいるそうです。腕を磨いて、プロのブルワーに転身する人もいるのだとか。

趣味でビールをつくれるなんて、とっても面白そうと思ったのですが、日本では製造免許なしでビールをつくることは禁止されています。(※アルコール分1度以上の飲料の自家醸造は酒税法にて禁止されています。)


そんな現状を変えようと、「日本ホームブルワーズ協会」が設立されました。

日本でもホームブルーイングを!


2019年10月1日に「日本ホームブルワーズ協会」が設立されました。その目的は、「家庭でのビール醸造、いわゆるホームブルーイングが日本において可能となるようホームブルーイング特区の実現と、特区設立後のホームブルーイングの健全な発展に資すること(HPより一部抜粋)」。


会長である鈴木さんは、伊勢角屋麦酒の社長でもあります。伊勢角屋麦酒は「伊勢から世界に」を合い言葉に、世界一のビールを目指しつくり続けているクラフトブルワリー。「伊勢ぺ」の愛称で知られる定番『伊勢角ペールエール』、伊勢市内で採取した天然酵母を使った『ヒメホワイト』、愛らしい猫二匹のラベルが印象的な『Neko Nihiki』など、飲んだことがあるビール女子も多いのではないでしょうか。

それではさっそく鈴木さんにお話を聞いていきましょう。

日本のクラフトビール業界のレベルアップを目指して

伊勢角屋麦酒 鈴木成宗 日本ブルワーズ協会
はじめに協会について教えてください。

  鈴木さん


まず名前を「日本ホームブルワーズ協会」とさせてもらったのは、必ず日本で特区、もちろん将来的には全国でホームブルーイングを解禁したいということ。そして、できた暁には、今度は「ホームブルワー」を育てていきたい、育ってほしい、という思いがあります。

単にホームブルーイングができるようにしようという会ではなくて、将来的にホームブルワー達がいきいきと活動して、情報交換ができるような場つくりもしたいと考えています


どうしてホームブルーイングを解禁しようとしているのですか?

  鈴木さん


僕は1997年に伊勢角屋麦酒を立ち上げたその年からビールの審査員をしています。長年海外で審査員をしてた中で、日本と海外のクラフトビールを取り巻く環境が大きく違うことに気付きました。

どう違うのでしょうか?

  鈴木さん


日本のクラフトビール業界は、日本のビール市場全体の占める割合がまだわずか1〜2%。アメリカは日本とは比べ物にならない。メーカー数で約7,500社ホームブルワー人口は約110万人もいるんですよ。一方で、日本よりもずっと後からクラフトビールブームが始まったワイン国であるイタリアやフランスにおいても、もはやメーカー数は日本を超えています。日本より成長スピードがとても早い。

僕は「なんで日本はこんなに遅いんだろう」と、ずっと思っていました。いろんな要因があると思うんですが、大きな要因の一つが、家庭でお酒やビールをつくれないということその点において、日本は特殊な国であることが、だんだん分かってきました。

日本は特殊なんですか?

  鈴木さん


そうです。ほとんどの先進国では合法なんですよ。ですから、それが日本のクラフトビールを発展させない大きな一つの障害になってるなと感じてきたんですね。


“障害” ですか。

  鈴木さん


そう感じる理由はいくつかあります。

まず一つは、世界的に有名なブルワーあるいはブルワリー経営者っていうのは、ほとんどがホームブルワー上がり(経験者)なんですね。まず趣味として練習ができる、そういった環境が残念ながら日本にはない。


もう一つは、ホームブルワー達は当然お酒に興味があって自分たちでつくるわけですから、日本の消費者よりもはるかにクラフトビールに対して関わってる時間が長くて、強い興味を持っているんですね。そして、ホームブルワー達は消費量がとても多く、クラフトブルワリーにとってすごく大事なマーケットになっているんです。


さらにもう一つ大きな要因があります。今回本を出して気付いたことですけど、商品として本を出す以上は、初版で5000部か1万部は刷らないと商品にならないんだなと。そうすると、日本でビールの技術書を書いても、日本の全ブルワリーが買ったところで、たかだか300~400部しか売れないんですよ。


なるほど。

  鈴木さん


だけど、アメリカだと、かなり高度なことをやっているホームブルワー達がいっぱいいて、彼ら向けの技術書を書けば、約110万人いますから1%買ってもらっても、1万部は売れるんですよね。

だから、英語のクラフトビールの技術書って山ほどあるんですよ。その分、サイエンティフィックなリテラシーが分厚いんですよね。その点、日本は希薄なんですよ。


おっしゃる通り、全く環境が違いますね。

  鈴木さん


もちろん要因はそれだけではないんですが、ホームブルーイングができないことは、日本の業界にとって極めて大きなブレーキになっているなと思い、前から「日本でホームブルーイングができるといいよね」という話をしていました。そうしたら、いろんな所から「鈴木さん、声をあげちゃってくださいよ!」と言われるようになり、今回、日本ホームブルワーズ協会を作ったんですね。



好きであれば、当然、それをつくりたくなってくる。

これまでのお話から、解禁されると日本のクラフトビール業界のレベルアップにつながりそうだなと思いました。消費者、ビールファンとして、業界のレベルアップによりおいしいクラフトビールが飲めるようになることの他に、どんなメリットがあるでしょうか?

  鈴木さん


ビールに対して主体的に取り組めるようになりますよね。今、ビールは商品として与えられるもの、今はそれしか選択肢がないじゃないですか。でも、それっていびつじゃないですか?例えば、料理で考えてもらうと、レストランとかコンビニで買う食事以外は一切食べられないってなったら、結構不毛じゃないですか。

料理って、家庭で作れるからこそ、面白くないですか?面白いっていうか、それが当たり前じゃないですか。だから、ビールもそうなればいいなと思います。

ビールを自分でつくることで、ビールの世界がもっと面白くなると。

  鈴木さん


自分でつくるからこそ、自分の食べたい、飲みたいものを、その時につくれますよね。そして、プロのすごさも分かるようになる。そうすると、当然、評価する力も上がりますよね。厳しくもなるし、厳しいだけじゃなく、評価軸が非常に沢山できるというか、分厚くなりますよね。それは、つくり手や飲み手、双方にとっていいことなんじゃないかなって思います。


私もビールにはまりだしたころ、つくれるんだったら自分でつくってみたいって思ったことがあります。

  鈴木さん


そうでしょ?僕は餅屋であり、味噌、醤油屋であり、ビールをやってて、飲食店もやってます。原料を考えると、餅は米と小豆。味噌と醤油は大豆。ビールは麦芽とホップじゃないですか。全てが農作物なんですよ。そうすると、農業にすごく興味が出てきて、やりたくなってくるんですよね。

好きであれば、当然、それをつくりたくなってくる。原料のことに興味を持ったりだとか、自分でつくるだとかは当たり前なんですよ。

野菜を本当に好きな人は、普通に家庭菜園をするじゃないですか。それって、至極当たり前のことで、だからホームブルーイングができないっていうのは、すごく不自然だと思います。海外行ったら誰だって、当たり前にやってるものだから。



解禁に向けて今後の動き。その先へ。

伊勢角屋麦酒 鈴木成宗 日本ブルワーズ協会
特定のどこかを特区にしたいというお考えはありますか?

  鈴木さん


特定の場所を、とは考えていません。北海道から沖縄の離島まで、全国どこでもです。本気でホームブルーイング特区になりたいと思っていただける方々がいるところであれば、僕はそこと手を組んで、一緒にホームブルーイング特区を目指したいなと思っています。


行政側でネックになってることは何ですか?

  鈴木さん


地方の方では「ホームブルーイング」という言葉にピンと来ない人が多いようです。ホームブルーイングって、そもそも見たことがある人ってほとんどいないじゃないですか。だから、お話ししても「えっ、家庭でお酒つくるの。へぇー。」みたいな感じでイメージが付かない人が多いみたいです。


特区といえば「どぶろく特区」を聞いたことがあります。もう100以上あるんですね。

  鈴木さん


あるんですよ。どぶろく特区のようにホームブルーイング特区もどんどん増えていって、いずれは日本全国で当たり前になったら、一番ありがたいなと思っているんです。だから、どこか一箇所の場所だけを進める必要はなくて、複数の場所で進めていきたいと考えています。


複数での認可も可能だとお考えですか?

  鈴木さん


もちろん複数でも可能でしょう。どぶろく特区にしても、ワイナリー特区にしても、複数個同時に認可されているので。僕は一つよりも複数できた方が、おもしろいと思うんですよ。お互いに競い合うじゃないですか。その方が絶対にいいと思ってます。最初に複数できるなら、それに越したことはないと思っています。


すごく楽しみですね。では、協会はこれからどういった活動をされるのか教えてください。

日本ホームブルワーズ協会 公式HP

  鈴木さん


まだ協会を立ち上げたばかりで、ホームページがやっと完成したところです。これから皆さんの声をきちんと集めていきたいと考えています。また、それぞれの行政の方々とお会いして、お話を聞いていきます。そして、どこかのタイミングで、本当に興味がある方々で一堂に集まりたいです。できれば、アメリカでホームブルーイングをやってきた方々のお話を聞いた上で、意思を統一したいですね。

その後で、特区を担当する内閣府の担当官の方にお会いする時に、できればそういった行政の方々と一緒に行ってお話を伺っていきたいと考えているんですよ。


現在、ホームページでは会員を募集されています。どういった方に参加してもらいたいですか?

  鈴木さん


一番は「将来自分で家庭でホームブルーイングをしたい人たち」。次に「自分たちの街をホームブルーイング特区にして、街づくりに生かしたいと思っている人たち」ですね。

もちろん「自分はつくるつもりはないけど、この活動を応援してあげようっていう人たち」や、「なんか楽しそうだから、自分も一緒に参加したいという人たち」もウェルカムです。


反響はいかがですか?

  鈴木さん


個人会員は、あっという間に100人以上は入っていただいてますね。企業からも何社かお問い合わせいただいています。


興味を持っている人が多いという現れですね。

  鈴木さん


そうですね。今後、会員の皆さん向けにやっていきたいことがあります。例えば、会員限定のオンラインの会議システムや、アメリカのホームブルワーの方々とかを呼んで、お話を聞く会員限定のイベントなど。そんなことをやりたいなあと思っています。そういった所で、いろんな情報交換をしていきたいですし、こちらからもいろんな情報を流していきたい。


海外だと醸造方法を教える学校とかがありますよね。

  鈴木さん


そうですね。醸造学校とかありますよね。日本でも裾野が広がってくれば、必ずできてくると思うんですよ。公のものから個人のものまで。そういうこともできるといいなって思います。


私たちも通いたいです。

  鈴木さん


僕は厳しいですよ(笑)

でも、学んでみれば、ホントにおもしろいと思うんですよ。麦芽の粉砕の仕方一つをとっても、ビールの出来が全く変わってくるので。そういった所から、きっちりお教えしていきたいですね。


つくる側としても細かく学べるといいですよね。

  鈴木さん


僕、なんでも教えちゃいますよ(笑)

まあ、これとは別に考えているのが、原材料を小分けして、買っていただけるシステム。日本では材料を原料を少量で手に入れることが難しい状況なんです。酵母もそうです。商売になるか、ならないかは別にして、うちでやってもいいなって思ってるんですよ。麦芽やホップを小分けして、酵母はそのまま使える適当な量まで拡大して。そんな環境が整えば、けっこうホームブルーイングってやりやすくなると思うんですよ。


だから、何かお役に立てることがあれば、そんなことを考えてみてもいいかなって思ってます。まあ、めんどくさいですけどね。それでもいいんですよ。うちが手間をかけても。それでもホントに日本でホームブルーイングができるようになればね。


とても楽しそうです!すごくいいですね!

  鈴木さん


楽しそうでしょ?それで、わいわいみんなで集まってね。できたビールをみんなで持ち寄って、あーだ、こーだと言い合って。そういう飲み会があったら、絶対楽しいと思うんだよな。ホントに。

なんとかそれが実現できるように、一歩ずつ進めていきたいと思ってます。


これまで、今回のような形で動いたことはなかったように思いますがいかがでしょうか?

  鈴木さん


ちゃんと動き出したことって、たぶんないんですよ。解禁を求めて声を上げて、みなさんの声を丁寧に拾って。きちんと官庁の方や行政の方とお話をする。たぶんそういった丁寧な取り組みってなかったと思います。だから、やってみたいと思います。もし、やるだけやってダメだったとしても、クラフトビール業界に対して、何かしら爪痕を残せると思っています。

動き出したばかりですので、まだこれから何が出てくるかわからないです。ていねいに各官庁の方や行政の方とお話ししていって、出てくる問題にはちゃんと真摯に応えていきたいなって思ってます。


ありがとうございました!


鈴木さんは、日本のクラフトビール業界を知ってもらおうと著書『発酵野郎!』を執筆されたり、醸造研修生を無料で受け入れたり、クラフトビールの品質向上に取り組んだりと、日本のクラフトビール業界のために尽力されています。そこに込められた熱い想いに心動かされました。

いろいろなお話を伺う中、「好きであれば、当然、それをつくりたくなってくる。原料のことに興味を持ったりだとか、自分でつくるだとかは当たり前なんですよ。」という言葉が特に印象に残りました。

日本でのホームブルーイング解禁を目指す活動を始めた「日本ブルワーズ協会」。ホームブルーイングが日本で解禁されるまで時間がかかるかもしれませんが、今後の動向に注目です。


◯文:きのこ(Kanako Kinoshita)
◯写真・編集:酒井由実

日本ホームブルワーズ協会

〇英文名:Japan Home Brewers Association (略称:JHA)
〇会長:鈴木 成宗
〇設立:2019年10月1日
〇電話番号:0596-63-6515
〇メールアドレス:japan.homebrewers@gmail.com
〇住所:〒516-0003 三重県伊勢市下野町567-14 伊勢角屋麦酒 内
〇公式HP:https://www.japan-homebrewers.com/



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数年前に突然ビールの奥深さに目覚めて以来、寝ても覚めてもビールのことばかり考えています。全国の大手ビール工場や醸造所に通い、ビール関連の本を読み漁り、さまざまな勉強会やイベントに参加。日本地ビール協会公認「シニア・ビアジャッジ」として、IBC(インターナショナル・ビアカップ)の審査員を経験(2018年、2019年、2020年)。日本ビール検定2級。日本ビアジャーナリストアカデミー10期生。紙面協力:ライフスタイル情報『CHANTO』。

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