ビール女子の皆さん、こんにちは!
ここ数年、世界中で「サイダー」が注目され始めていることをご存知ですか?
「サイダー」とは主に、りんごを発酵してつくられるアルコール飲料のこと。りんごの芳醇な香りとフルーティーさが飲みやすく、注目が広がっています。酒販店やクラフトビアバーなどでも「サイダー」「クラフトサイダー」を目にする機会が増えており、クラフトビール好きな人の選択肢のひとつにもなって、注目度が上がってきているように感じます。
しかし、改めてサイダーってどのようなお酒なのでしょうか?知っているようで知らないサイダーの魅力をもっと知りたい!ということで、サイダー専門家にその魅力を聞いてみました。
お話を伺ったのは、日本でサイダーの普及活動を行う『inCiderJapan(インサイダージャパン)』の代表Lee Reeve(リー・リーブ)さん。サイダーの基礎知識から、日本や海外のサイダー事情、サイダーの選び方や楽しむコツまで、いろいろと教えていただきました!
Lee Reeve(リー・リーブ)さん
「inCiderJapan」代表として、日本のおけるサイダーの普及活動を行う。その活動は幅広く、メディア・デザイン、マーケティング&プロモーション及びクリエイティブ・コンサルティングなど多岐にわたる。輸入、販売、サイダーグッズの取り扱いと、日本初で唯一のサイダー専門バイリンガル雑誌「inCiderJapan」の発行を手掛け、オリジナルイベントも開催している。
HP:https://www.inciderjapan.com/ja/
Leeさんからサイダーについて色々と話を聞いていくうちに、サイダーとクラフトビールの共通点をたくさん発見することができました。ビール好きのあなたにこそ知ってほしい、サイダーの世界をお楽しみください。
リンゴひとつでも、異なる味が生まれるサイダーの魅力
―早速ですが「サイダー」ってどんなお酒ですか?
発酵されたリンゴ果汁のことです。サイダーは酵母とリンゴ果汁を合わせて、発酵が進めばサイダーになります。
―ビールとの違いはありますか?
ビールとの大きな違いは、火を使わずに造る点です。ビール醸造では麦芽を乾燥させたり、麦汁を沸騰させたりという作業が必要ですが、サイダー生産にはそのような作業がありません。
発酵期間はだいたい2週間。ビールと比べて半分程度の期間で完成しますが、プロセスが早く進むだけで、サイダーを造ることは簡単ではありません。
―サイダーの味って、使うリンゴによって変わるものなんですか?
サイダーの味は、リンゴの品種によって大きく異なります。サイダー生産者がリンゴを選ぶ時に気にしているポイントは糖度、酸味、タンニン(渋み)。サイダー生産者は様々なリンゴの品種を見て、造りたい味にするために、いろいろな組み合わせを考えるんです。
例えば、ここにあるサイダーはいろんな品種のリンゴがブレンドされています。大体、5~7種類使われていると思います。
―へえ!ブレンドされていないサイダーもあるんですか?
もちろん。単一品種のサイダーは、一品種のみのりんごから味わいを表現するので、りんご選びの段階で特に慎重に選ばれていることがポイント。そのため、ブレンドされたサイダーと別物扱いされています。そして、単一品種のサイダー生産者のさまざまな技が駆使されており、少しワイン寄りの複雑さが味わえる傾向にあります。
―ビールで言う、バーレイワインみたいな扱いですか?
そうですね。サイダーにはいろいろな種類があるので、「これはビールのように、気軽に飲むもの」といった具合にシーンに合わせて選んだり、気分や食べ物に合わせて選ぶことができます。
※バーレイワイン:バーレー(大麦)を用い、通常6カ月~数年かけて熟成しワインに近いアルコール度数を持つビール。詳しくはこちら。
―リンゴ以外の果汁を使ったサイダーもあるんですね?
そうです。例えばバナナを使ったサイダー(写真左)や、抹茶を使ったサイダー(写真右)もあります。
これはパイナップルを使ったサイダーです(写真左の瓶)。
―面白い!バナナやパイナップルは、発酵させた後に果汁を混ぜるのですか?
そうです。発酵される糖の種類が果物によって違うので、先にリンゴの果汁のみ発酵させて、その後に果汁を足すという方法です。
―サイダーって、本当にバラエティ豊かですね。
サイダーが面白い理由は、カテゴリーがたくさんあったり、リンゴひとつとっても全く別の味を造り出せるサイダー生産者がいたりと、知れば知るほど奥が深いからです。
また、収穫されるリンゴは気温や気候に左右されるので、同じレシピで造ったとしても、毎年違った味になることも面白いですね。サイダーって単純な飲み物じゃないんです。多くの人にもっともっとサイダーのことを知ってほしいですね。
今、「クラフトサイダー」が注目されている3つの理由
―「クラフトサイダー」が世界中で注目されていると聞きました。
ビールに「発泡酒」や「クラフトビール」などのカテゴリーがあるように、サイダーにも「クラフトサイダー」と呼ばれるカテゴリーが存在します。
2019年3月のアメリカにおけるサイダーの売上データでは、大手が造る大量生産型のサイダーの売り上げが7.6%下がっているのに対し、「クラフトサイダー」と呼べるものは16.6%売り上げが伸びているんですよ。
―そんなに!
このデータから、消費者が大量生産のサイダーと「クラフトサイダー」に違いがあることに気付きはじめているということ。そして、「クラフトサイダー」の価値をしっかり理解しはじめているということが分かります。アメリカのデータから分かることですが、このような状況はアメリカに限らないでしょうね。
―今後もどんどん伸びていきそうですね。
数字だけを見ると、クラフトサイダーは今後伸びてくるだろうと考えています。世界のアルコール市場全体を見ると、サイダーは2番目に伸びが早いんですよ。ちなみに、1番はスパークリングワインのロゼです。
サイダーというのは、日本に限らず、世界の中でも新しい分野ですので、法律なども定まっていない状態で変動するでしょう。これから確立されていくことが沢山あるので、1年後、2年後がどうなっているのかは、はっきりとは分かりません。
―消費者が「クラフトサイダー」の価値に気付いて、大手とクラフトを見分けられるようになった背景に何があるのでしょうか?
最初に理解しないといけないのは、サイダーというのは実は昔からずーっと飲まれていた飲み物であるということです。
新しいカテゴリーだと思われがちですが、1800年代位までは、日常的に誰でも飲んでいたもので、世界中で最も飲まれていた、とても人気があったアルコール飲料です。しかし、ビール業界が成長したことによって、「サイダーはもういいかな」と、あまり注目されなくなった時期がありました。
そして、アメリカでは「禁酒法」が施行されてしまい、一般的にサイダーを含めたアルコールを飲めなくなってしまった時期がありました。アメリカでサイダーが多く造られていたのに、そのような法律ができたことによって、約200年の間で、サイダーはあまり飲まれなくなっていったのです。
―なるほど。その後、再び注目されるようになったのはどうしてですか?
1990年代後半頃、クラフトビールが盛り上がり始めた時に、消費者はクラフトビールに注目し始めました。そして、クラフトビールの成長を見た人達がサイダーを同じようにリバイバルすれば、またサイダーの時代が来るのではないかと考えました。サイダーは昔からあったものですが、新たなイメージを付けて、また流行らせよう、広めようという動きが、世界で起きています。このようなトレンドに消費者が気付き、またサイダーを飲み始めました。
―クラフトビールブームがきっかけとなったんですね。
では、なぜ消費者がクラフトサイダーを選ぶようになったかという質問に戻りましょう。理由は3つあると考えています。一つ目は、健康的な生活のため。二つ目は、自然なものや元々あるものを大切にしようという気持ち。そして三つ目は、「クラフト(手造り)」に、こだわりを持っている人達が増えてきたから。大手企業が造る砂糖が投入されたものではなく、より自然な「クラフトサイダー」を飲みたいという全体的なトレンドが影響していると考えられます。
世界に認められはじめている、日本のサイダー
―日本でもサイダーは注目され始めていますよね。
はい。サイダー造りが盛んな長野県と青森県の生産者が、積極的にサイダーを飲んでいるようです。彼らが率先してイベントを行ったり、イベントに参加して商品をPRしたりするので、消費者が飲む機会は増えています。
また、クラフトビールが飲めるレストランなどでもサイダーが提供され始め、サイダーが人気となり注目を集めています。認知度が上がるにつれ、サイダーを求めるお客さんが増え、それに応えるレストランが増えてきました。
―そういえば最近、ナガノトレーディングでサイダーを取り扱い始めましたよね?
そうなんです!彼らから相談があった時、「絶対、サイダーを取り扱うべきだ」と猛プッシュして、取り扱いが始まりました。そして、ナガノトレーディングのような大きな企業でサイダーを取り扱い始めたという情報が広まるにつれ、他のインポーターがサイダーに興味を持ってくれるのではないかと思っています。そうなれば、日本全体で飲めるサイダーの種類や量が増えていく。そうなったらいいなと思っています。
―楽しみですね。ところで、日本で造られるサイダーにはどのような特徴があるのでしょうか。
日本は世界の中で、サイダー生産者や業界が新しいのでこれから成長する市場だと思います。そのような意味では、生産者の方たちも、まだ自分たちのスタイルを探っている段階だと思います。
日本のサイダーの特徴を説明するのに、ぴったりなエピソードがあります。今年の2月にアメリカで「CiderCon(サイダーコン)」という大きなコンベンションが開かれました。毎年行われている、サイダー業界の人たち向けのコンベンションです。そこで日本のサイダーを紹介したところ、アメリカやイギリスの生産者や業界の人たちから、「日本のものは繊細な味がする、きれい。上品な味」という感想が多く寄せられたんです。日本のサイダーは、リンゴをピュアに使って、リンゴそのものの味を出しているというのが特徴だと思います。
―上品なリンゴの味のサイダー、おいしそうですね。
日本はこれから生産方法が上達していく段階で、今はシンプルな造り方をしている生産者が多いため、繊細で上品な味が出されていると思います。日本の生産者も海外のトレンドに注目しているので、他の国が使っている生産方法や材料などを試すでしょうし、その中で日本のサイダーの味が少しずつ変わっていくのではないかと思います。
―どんどん進化していく、ということですね。
はい。青森のA-FACTORYという生産者が、イギリスの「International Cider Challenge 2019」というコンペティションで金賞を受賞しました。日本のサイダーの味が海外でも認められ、日本のサイダーを輸入したいという海外からの問い合わせが増えています。イギリスやアメリカのサイダーとは違う味わいで、日本のサイダーの良さが認められ始めているのかなと考えています。
―とっても楽しみです! では、続いてサイダーのおすすめの楽しみ方について詳しく教えてください。
後編は、種類豊富なサイダーの選び方について深掘り!
今回は、Leeさんにサイダーについて教わりました。日本だけでなく、世界においても、どんどん変わっていきそうなサイダー業界。どのように変わるのか楽しみです。そして、クラフトビールのように気軽にサイダーを楽しめるようになるといいですね。次回は、種類豊富なサイダーの選び方や、おすすめの銘柄などを紹介いたします。