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Bar 遠野から世界へ。日本産ホップの未来を照らすブルワリー&タップルーム「GOOD HOPS」誕生

2025/09/17


岩手県遠野市。日本におけるホップの一大産地として知られる場所です。

そんな遠野の玄関口であるJR遠野駅から徒歩2分の場所に、新たなブルワリー&タップルーム「GOOD HOPS」がオープンしました。

GOOD HOPSは、ビールをつくるだけではなく、遠野産・日本産ホップの研究と開発を担い、その価値を高めることを目的とした全国的にも珍しい拠点です。

今回、遠野のホップを盛り上げようと尽力されている、代表取締役の田村淳一さんにインタビューを実施。「GOOD HOPS」に加え、立ち上げの背景にあった田村さんの「ホップを守り、未来につなぐ」という想いについても伺いました。


遠野駅から徒歩2分のブルワリー&タップルーム


2025年5月17日にオープンした「GOOD HOPS」。JR遠野駅から目と鼻の先にあるこの場所では、自社開発&栽培のホップを中心に使用したビールがつくられ、提供されています。


ロゴにも使用されているテーマカラーの白と青で統一された店内からは、堂々たる醸造設備を間近に望めます。タイミングがあえば、仕込みの様子を眺めながら一杯を楽しめます。

1,000リットルの発酵タンク5基に加え、実験用として25リットルの発酵タンクも設置されています。実は、「GOOD HOPS」はビールをつくり、楽しむ場であると同時に、「ホップのプレゼンテーションの場」でもあるそうです。

『GOOD HOPS』は、“日本産ホップの価値を高める研究をするブルワリー”と位置付けています。このタップルームでは、ホップ農家やブルワーも接客を担当し、育てたホップがどうビールになるかを直接お客様に伝えているんです」と語るのは代表の田村さん。


提供されるのは、ビールと軽食のみ。6タップの自社製造ビールを提供している他、プラカップやグラウラーでの量り売り、缶でも販売しています。

遠野に到着がてらさっそく一杯いただくのもよし。帰りがけに立ち寄って、旅の余韻に浸りながらビールを堪能するもよし。ビールのお土産を購入することもできます。

気軽に立ち寄れる場所にありながらも、日本の最先端ホップに触れることができ、ホップ農家やブルワーにも会えるかもしれないーー旅行をはじめ、ビールやホップを求めて遠野を訪れる人の玄関口である遠野駅に、ビール好き必見の場所が誕生しました。

和歌山の小さな村から東北へ

田村淳一さん
日本産ホップの価値を高める研究をするブルワリー”設立に至る背景には、田村さんのこれまでの歩みと想いが込められています。

田村さんの原点は、和歌山県の人口3,000人ほどの小さな村。過疎化が進む故郷で育った経験から、「地域を元気にしたい」という思いを抱いていたといいます。

大学卒業後は株式会社リクルートに就職。新規事業の立ち上げなどを経験しながらも、「いつか地方で働こう」と心に決めていたそう。その思いをさらに強めたのが、東日本大震災。2015年に訪れた宮城県気仙沼市の内湾の風景が、故郷と重なったと振り返ります。

田村さん「私の地元・和歌山県田辺市は、過去に地震や津波の被害を受けたことがある場所で、高校の近くにも“ここまで津波が来ました”というような水害関連の石碑や注意標識がありました。東日本大震災が起きた時、いつか同じようなことが地元でも起きるのではないかという不安がずっとあったんです。そんななか、東日本大震災の被災地を巡るなかで復興に挑む人たちの姿を見て、『自分も同じように地域に貢献できる存在になりたい』と思うようになりました。そのとき、もし地方に行くならいきなり地元に戻るのではなく、まずは東北で学ぶべきだと感じたんです」

その後は福島の原発周辺や沿岸部など、さまざまな地域を見て回りました。そんな中で「新しいプロジェクトがある」と声をかけられ足を運んだのが遠野。そして、ホップとの出会いへとつながっていきます。

衰退の危機にあった遠野のホップをもう一度


1963年よりはじまった遠野のホップ栽培ですが、長い歴史を持ちながらも、衰退の危機にありました。

田村さん「このホップ畑がある景色は遠野の町にとって大切な景色なはずなのに、それがなくなってしまいそうな気配を感じてとても悲しくなりました。それと同時に、何かしたいという想いも生まれてきたんです。そこで、ホップとビールの関係や日本ホップと海外ホップの状況などを調べていくと、じつは非常にポテンシャルのある作物だと感じました。世界的に有名なホップ生産地では、ホップが一つの産業になって盛り上がっていましたし、当時は国内でもクラフトビールが広がり始めていた時代でした。その流れでもう一度、ホップに注目が集まるんじゃないかと思ったんです。課題に対する使命感と、ホップが持つ可能性の両方を感じました」

そして、2016年に会社を退職して遠野市に移住後、遠野のホップを守っていくプロジェクトに参加。遠野醸造の設立や、株式会社BrewGoodを創業へと乗り出します。

ホップの研究開発を担う醸造所


田村さんが遠野市に移住して一番最初に仲間と立ち上げたのが遠野醸造でした。

田村さん「遠野醸造の立ち上げではすごく忙しくしていたんですが、ふと『このままで良いのか』と感じたんです。そのなかで、『自分たちのゴールは醸造所を一つつくることじゃない。ホップ栽培を守り続けていくことだ』と気づきました」

その思いから、2018年に株式会社BrewGoodを創業。BrewGoodでは、「ホップ栽培を持続可能にしていくための仕組みを作る」ことを目的に、ビールやホップなどに関わる全体を見据えたプロデュースを行うべく、新規就農者の採用や現場の課題解決を進めてきました。

しかし、それだけでは限界が見えてきたそうで、そこから「GOOD HOPS」の構想が立ち上がったといいます。

田村さん「『ホップの付加価値を上げる研究によって非連続な成長を生み出す』というビジョンを実現するために、どうしても自前の醸造所が必要だと考えました。そうして構想してきたのが、研究開発型ブルワリーのGOOD HOPSなんです」


「GOOD HOPS」の名前の由来も、田村さんたちが目指す未来に向けた想いが込められていると言います。

田村さん「自分たちの活動の根底には『地域や社会を良くしたい』という想いがあるんです。ホップを守ることも課題を解決することも、全部“良くするため”に行なっている。会社名の「BrewGood」にも入っていますが、“GOOD”は入れたいと思っていました。そのうえで、新しいブルワリーの名前を考えたときに、やっぱり僕たちが注目しているのはホップなので、「GOOD HOPS」に。さらにロゴの下に「BREW & GROW」をつけたのは、ホップを育てることとビールをつくること、その両方をやっていく拠点にしたいっていう意味を込めました」


実際、GOOD HOPSではブルワーや農家が直接お客さんと関わることで、ホップ栽培から醸造・販売まで一連の流れを共有できる場となり、「ホップのプレゼンテーションの場」としても機能しています。

田村さん「普段は裏で研究者や醸造家が作業しているなかで、フロントでは販売スタッフや農家が接客をしていたりという光景が当たり前にあります。お客さんからホップについて質問があれば、実際に栽培している本人や関係者が直接答えるという環境が大切だと思っているので、栽培だけで終わらず、販売や情報発信にまで関わっていく場としても機能しています」

日本産ホップの新しい2つの付加価値


GOOD HOPSが取り組んでいる日本産ホップについての取り組みは、大きく2つ。

ひとつは「世界にない新品種の開発」。もうひとつは「独自のホップの加工技術によるルプリンの抽出」です。
村上敦司博士
遠野の新品種ホップといえば、前職のキリンビールでホップの研究を行ってきたホップ博士・村上敦司さんが開発した「MURAKAMI SEVEN(ムラカミセブン)」が代表的。マスカットのような爽やかな香りが特徴のホップです。

現在もキリンビールの契約栽培地で栽培されているMURAKAMI SEVENですが海外からの注目度も高く、遠野には定期的に海外のホップ関係者やバイヤーが訪問し、「すべて買いたい」という問い合わせがくるほどとか。

田村さん「日本産ホップが海外と本格的に競争していくためには、量ではなく付加価値や品質で勝負する必要があると思っています。そのためには、新しい品種を開発し、それをどうビールに活かせるかを示す場所が必要になってくると考えています。それに海外では、ホップを農家から買い取り、世界中に流通させる『ホップサプライヤー』という存在がいます。彼らは会社に小さな醸造設備を持っていることもあり、自分たちが扱うホップで実際にビールを仕込み、研究開発を行いながら、その香りや特徴を顧客にプレゼンテーションしています。そのビールを試飲したブルワーや企業が『このホップを買いたい』と判断する仕組みです」

田村さん曰く、日本ではこういった海外のようなホップサプライヤーは存在しないといいます。

田村さん「ホップを販売している事業者は国内にもいらっしゃいますが、醸造や研究開発機能を持った海外のようなサプライヤーはいません。国内のホップ農家のほとんどは大手ビールメーカーとの契約栽培農家が中心です。だからこそ、日本においては僕たちが会社としてそうした役割を担っていけたらと思っています。今は自社のホップを自社のビールに使っていますが、将来的には他のブルワリーにも販売できるようにしたいと思っています。そのために、ホップ研究と栽培、ビールの醸造、ビールの販売に加えホップの販売もGOOD HOPSで担っていきたいと思っているんです」


もうひとつが、独自のホップの加工技術によるルプリンの抽出

GOOD HOPSでは、熱を加えずにホップからルプリンを取り出す方法を開発しました。その加工法で開発したのが「非加熱ルプリンパウダー」です。

日本のブルワリーのほとんどが、海外から輸入したペレットホップという、加熱乾燥後、粉砕して円筒状にしたものを中心に使用しています。

一般的にペレットホップは加熱乾燥したホップを使用して加工しますが、ホップは熱を加えて乾燥させると香りの一部が飛んだり変化したりしてしまいます。

海外ではルプリンだけを抽出した原材料なども商品化されていますが、国内で使われるホップの加工形態はペレットが多いのが現状です。


そこで遠野では、収穫したホップをすぐに大型冷凍庫に保管し真冬に加工することで、「フレッシュなまま香りを抽出する」という方法を実現しました。この方法は生ホップを扱える生産地だからこそできる加工方法です。

田村さん「非加熱ルプリンパウダーは、大型冷凍庫でホップを丸ごと保存し、真冬に熱を加えない状態でルプリンだけを抽出し、加工することで、ホップ本来の香りを引き出しています。弊社の村上曰く、海外のような大規模な産地では、収穫したものをそのまま全部冷凍庫で保管するなんて物理的に不可能だと言います。私たちが小規模だからこそできる加工方法です。また、非加熱でルプリンパウダーを抽出する私たちの技術について、世界のホップ研究に詳しい村上も「同様の事例は知らない」と言います。私たちの独自の加工方法には、生ホップが必要となります。日本産ホップを育てる意義は、こうした独自の技術によっても示せるんじゃないかと思っています」

GOOD HOPSのビールを飲んでみた


研究や開発の話を聞いたあとは、やっぱり気になるのがその味わい。

新品種ホップやルプリンパウダーを使ったビールを実際に飲んでみました!

promise saison


自社開発の新品種ホップ3種をブレンドした、GOOD HOPS初めてのセゾン。今年結婚したホップ農家のふたりが醸造を担当しています。「自分たちの未来に、そして仲間と共に遠野産ホップを守り続ける」という誓いを込めて、「promise」と名付けられました。ホップの茎の形にも注目!

【使用ホップ】
・遠野産アンカウンタブル(新品種)
・遠野産コンパクトグリーン(新品種)
・遠野産ノー・ウィンド(新品種)


香りづけにも苦みづけにも、新品種ホップ3種のみを使用したという「promise saison」。それぞれの個性を生かした、香り豊かなセゾンです。グラスに注ぐと、爽やかなホップの香り。柑橘の香りと甘み、程よい苦みのバランスが心地よい。セゾンらしいごくごくと飲みたくなる味わいで、爽やかな苦みと香りの余韻も心地よい。


Dear Gene


アメリカのGene Probasco(ジーン プロバスコ)氏が開発したホップの品種「シトラ」。Good Hopsの醸造責任者である村上さんにとっての長年のホップ研究の仲間であり大切な友人。そんなジーン氏への感謝の気持ちを込めて、シトラの香りの魅力を最大限に引き出すことに挑戦したペールエールです。

【使用ホップ】
・アメリカ産シトラ
・ドイツ産ヘルスブルッカー
・遠野産ザーツ


液色は明るいゴールド。ほのかに柑橘を思わせながらもグラッシーですっきりとした香り。味わいもとってもすっきり!シトラの香りを過度に強調していないというビールは、ベースがとってもクリアで、使用したホップのバランスが絶妙なのだと感じます。


No Wind IPA


自社開発に新品種ホップ「No Wind(ノー・ウィンド)」を使用した、遠野産ホップ100%のIPA。“風に弱い”という栽培特性を持つホップで、強い風が吹かないでほしいという願いを込めて名付けられました。

【使用ホップ】
・遠野産ノー・ウィンド(新品種)
・遠野産ザーツ

香りは木や松などのウッディ感が強く、飲んでみるとほんのり青リンゴのような風味も感じつつ、ベースはとってもクリアでそこに苦みが爽快にのった、初めて飲むテイストのビール。これがNo Windの特徴なのでしょうか。少し時間を置くと青リンゴ感が強くなり、ゆったりとした時間に時間をかけて飲みたい一杯。


総じて感じたのは、ベースがとてもクリアで、飲み口が驚くほど洗練されているということです。ひと口含むと余計な雑味がなく、ホップの香りや苦みがストレートに感じられる。シンプルでありながら、素材の輪郭がくっきり浮かび上がってくるような印象でした。

その理由のひとつが、GOOD HOPS独自の技術である「ルプリンパウダー」なのかと。飲んでみて改めて、「ここまで風味の純度を左右するのか」と実感させられました。

遠野産ホップを世界へ


田村さんが遠野、そしてホップに関わるようになった当時、遠野のホップはまさに今なくなってしまいそうな気配を感じていたといいます。

しかし現在、「ホップ農家になりたい」という人が増えているそう。

田村さんここ2年くらいで『ホップ農家になりたい』という問い合わせが80件以上きているんです。現在、国内のホップ生産者は95人前後なので、ほぼ同じくらい。ただ、すべての人を受け入れられない現状があります。一番の問題は、畑が足りないこと。土地はあっても、整備をするにもコストも人手も必要ですし、地権者さんとの交渉も進めなければならなくて、それが今の課題ですね」

最後に、ホップの面白さ、そして今後の展望をお聞きしました。

田村さん「全体感でいうと大変なことはたくさんありますが、知れば知るほどポテンシャルがある作物だなと感じています。課題を解決していけば、その先に日本のホップの歴史が変わるような面白さがあると思っていますし、日々、醸造の現場では驚くことばかりです。新しいホップを使うからこそ、『このホップってこんな香りが出てくるんだ』『こんなニュアンスになるんだ』など自分たちが一番に驚きながら、ホップの奥深さを感じ、魅了されていますね」

最終的な展望としては「遠野産ホップ・日本産ホップの価値を上げていきたい」と語る田村さん。とてつもない規模の話に思えますが、もうその未来に向けて着実に歩みを進めています。

田村さん「新しくて面白い品種を開発して、みんなが飲んだことのないようなビールをつくって届けていきたい。私たちの新しいホップを外に販売できる体制も進めていきたいですし、そのためにも、僕ら自身が農業の部分にもっと本格的に参入していきたい、というのがこれからのビジョンですね」


畑で芽吹いたホップが、研究と醸造を経て、タップルームで一杯のビールへと姿を変える。その瞬間に立ち会えるのが「GOOD HOPS」です。

新品種の開発や独自の加工技術を通じて、日本産ホップの価値を国内外に広げていく――その挑戦は、遠野の町から始まり、世界へと続いています。

あともう少ししたら、GOOD HOPSで聞いたホップの名前が、海外産のビールに当たり前に使用される未来も、もうすぐそこまできているかもしれません。

GOOD HOPSから生まれる、遠野産・日本産ホップの未来が詰まった一杯。ぜひ、味わってみてください。

 GOOD HOPS

〇住所:〒028-0522 岩手県遠野市新穀町5-13(Googleマップ
〇アクセス:JR遠野駅から徒歩2分
〇営業時間:土・日・祝11:00〜18:00(L.O.17:30)
〇定休日:月〜金
〇決済方法:現金、クレジットカード、電子マネー(交通系以外の支払いが可能)
〇Instagram:https://www.instagram.com/goodhops.jp/
〇HP:https://goodhops.jp/
〇オンラインショップ:https://goodhops.shop/

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山吹彩野 編集・ライター

好きなビアスタイルはサワー。犬が好き。

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