Interview 【岐阜県・東濃地方】レジェンド醸造家と地域を想う2人のビール好きが創る「カマドブリュワリー」

2021/11/19

クラフトビール業界には「レジェンド」と呼ばれるブルワーがいます。

25年以上のキャリアで立ち上げに関わりビールを醸したブルワリーは5つ。指導・輩出したブルワーは20人以上。

そんなクラフトビール界の匠が地域を想う2人のビール好きと出逢い、生まれたブルワリーがあります。



その名は、「CAMADO BREWERY(カマドブリュワリー)」。

長年業界を牽引してきたブルワー・丹羽 智(にわ さとし)さんが自身のキャリア最後のステージとして故郷で立ち上げたブルワリーです。

醸造を開始して以来ビールファンの注目を集めてやまないカマドブリュワリー。その魅力に迫ります。


東濃地方に生まれたビールファン大注目のブルワリー


カマドブリュワリーがあるのは岐阜県瑞浪市・釜戸町。

東濃と呼ばれる地域に位置し、農業が盛んで「美濃焼」の産地としても知られる町です。

古くから続く地元の産業の象徴であり、醸造所を構える地名にも通じる「カマド」はブランドロゴにも使われています。


そんなロゴには「地域を支え、 新しいものを生み出すシンボルにしていきたい」という想いが込められています。ちなみに、名前は「カマドン」っていうそうです。


カマドブリュワリーは、写真に映る3人の出逢いから始まりました


もともとまちづくりに関わる仕事をしていた釜戸町出身の東 恵理子さん(写真中央・代表取締役)と静岡県出身の岡部 青洋さん(写真右・飲食部長)が、とある飲み会で顔を合わせたことが事の始まり。

互いにまちおこしに関する経験を持ち、クラフトビールが大好きだった2人はその場で意気投合。東濃エリアの観光に携わる方や陶芸家などを招き、自分たちで選んだビールと地元のソウルフードとのペアリングを楽しむ「ビールの会」を開催することに。そこで東濃出身の醸造家である丹羽さん(写真左)のことが話題になりました。

すぐに2人は、当時山梨県のブルワリーでビールをつくっていた丹羽さんの下を訪問したそう。そのとき丹羽さんから「最後は故郷でやりたいと思っている」という驚きの言葉をもらうのです。東さんと岡部さんはその後も定期的に「東濃の食とビールのペアリング会」を開催し、丹羽さんも山梨から遥々駆け付けるようになりました。



クラフトビールでこの地域を盛り上げたい



会を重ねるごとに東さんと岡部さんのビールと東濃への想いは確かなものとなり、丹羽さんも2人の強い想いにつられるように、醸造家としての最後の地を故郷である東濃地方にするという決意を少しずつ固めていったそうです。

地域への想いと経験のある2人のビール好きと、還暦を過ぎ地元でビールをつくることを考えていたレジェンドとの出逢いは、まるで必然だったかのように思える偶然の重なりがありました。


“変幻自在”!レジェンドが醸す多種多様なビール


丹羽さんには、ハイアルコールビールや自然酵母を使ったビールを日本で初めてつくった、という「国内初」の経歴がいくつもあります。多種多様なビールをつくり出すその姿からメディアでは「酵母の魔術師」と称されることもあるそう。

そんな経歴や異名にも表れているように、これまでのブルワー人生を通して丹羽さんは常に挑戦と進化を続け、日本のクラフトビールシーンの最前線を走ってきました。

四六時中ずーっとビールのことを考えている」「常に自分の技量をあげていきたい」「身体が動かなくなるまでいろんなビールづくりに挑戦したい」という言葉からも感じるように、65歳を過ぎた今でも丹羽さんのビールに対する姿勢はずっと変わっていません。



開業してたった10ヶ月ほどですが、その期間に丹羽さんがつくったビールは、28種類にものぼります。「変幻自在」という言葉がぴったりな多種多様なカマドブリュワリーのビールは、大きく分けて「定番」「準定番」「限定」の3つがあります。

東濃地方の方言がつけられた「定番4種」


丹羽さんのブルワー人生の集大成といってもいいカマドブリュワリーの定番ビールはこちらの4種類。

「クラフトビールに馴染みのある人にも、そうでない人にも楽しんでいただける定番をつくりたい」と、3人で何度も何度も話し合いを重ねてこの4種類に行き着いたそうです。



Yatto Came Ale(やっとかめエール)』(スタイル:ペールエール)

定番4種の名前にはそれぞれ東濃地方の方言が使われていて、この「やっとかめ」は「久しぶり!」という意味だそうです。「かつて東美濃の地で美酒を醸した醸造家が帰ってきた!」という丹羽さんの帰郷をお祝いするようなメッセージも込められています。

やっとかめ」と単にひらがな表記にするのではなく、英語の「Came(来るの過去形)」を入れて「Yatto Came」と表記し「やっと帰ってきた」とも読み取れる遊び心も大切にされています。

記念すべきカマドブリュワリー最初のビールで、 乾杯にふさわしい華やかな1杯です。積もる話に花を咲かせ、笑顔を交わす、そんな飲み会の最初は、ぜひこのビールで乾杯してください。



Fond de White(ほんでホワイト)』(スタイル:ベルジャンホワイト)

2つ目は、会話を進める「それでそれで?」という意味の方言「ほんで」と、フランス語のような語感の掛け合わせからその名をつけられた「Fond de White(ほんでホワイト)」。

淡い白色に、バナナやピーチを思わせるフルーティなアロマとジューシーな味わい、すっきりとしたフィニッシュが特徴で、苦みのあるビールが苦手な女性にもおすすめです。



Kan&Co.IPA(かんこうアイピーエー)』(スタイル:IPA)

3つ目は、「工夫すること」を意味する「かんこう(勘考)」という言葉を冠した「Kan&Co.IPA(かんこうアイピーエー)」。勘考(工夫)することは、丹羽さんのビールづくりそのもの。より良い1杯を作るため、最後まで妥協せず工夫をし続ける、その姿勢が名前に込められています。

スパイシーかつウッディな味わいと、ホップの苦みとモルト由来のコクのあるボディが特徴です。「ビールづくりはバランスが大事」とおっしゃっている丹羽さんの言葉は「こういうことだったのか!」と思わず膝を叩いてしまいそうになる、勘考して見出したアロマ、コク、苦みのバランス感が絶妙な1杯です。


Anky Lager(あんきーラガー)』(スタイル:ラガー)

定番4種の最後は、「Anky Lager(あんきーラガー)」。「あんき(安気)」とは、「安心・気楽なさま」を表す言葉で、いつまでも飲んでいられるような、“あんき”なラガーを目指してつくられたビールです。

毎回レシピを変えて仕込まれているこのラガーは、モルティな満足感は感じられつつも、スッキリとした仕上がりになっていて、1杯目だけでなく「〆のラガー」としてもおすすめです。


窯業の精神を伝える「準定番4種」


準定番の4種『組曲 窯焚物語(くみきょく かまたきものがたり)』は、東濃が誇る文化のひとつ・窯焚きの工程や様子、窯業の精神を伝えることをコンセプトに名付けやラベルデザインがおこなわれました。

〜第一楽章〜着火の儀(ちゃっかのぎ)』(スタイル:ウエストコーストIPA)
〜第二楽章〜窯焚(かまたき)セッション』(スタイル:レッドエール)
〜第三楽章〜寝落ち(ねおち)』(スタイル:コーヒーインペリアルスタウト)
〜第四楽章〜霞む稜線(かすむりょうせん)』(スタイル:ヘイジーIPA)

今後カマドブリュワリーでは、実際に窯焚きを見学・体験し、オリジナルビアタンブラーを制作しビールも味わえる「リアル窯焚物語体験ツアー」も企画予定だそうです。

「窯焚き文化を実際に体験し、窯焚きの工程に着想を得てつくられたクラフトビールを味わう」

地域文化とビールの融合によるカルチャーミックスな体験が東濃で形創られています。



他にもカマドブリュワリーでは、丹羽さんが醸造人生で培った数多くの引き出しの掛け合わせからたくさんの限定ビールが続々と発売されています。

すもも、チェリー、梅、杉、ゆず、オレンジ、ももなどなど、副原料に使用する地域の食材もさまざま。「ヘイジーIPA」「スタウト」「セゾン」「ラオホ」「ダブルIPA」「サワーエール」ほか、つくり出されるビアスタイルも多種多様です。

「今週はどんな新しいビールが生まれるんだろう?」

ぜひ、毎週わくわくしながらカマドブリュワリーのSNSをチェックしてみてください。

続々と進む新プロジェクト!


まだまだ、その道を歩み始めたばかりのカマドブリュワリー。立ち上げ当初から人気も高く、発売開始後すぐに売り切れとなってしまうことも。売り切れ前の購入を求めてオンラインストアへ人が殺到するさまは「カマドマッチ」と呼ばれています。

そこで、「もっと多くの方にビールを飲んでもらいたい」と、醸造所併設のビアバーの建設・醸造設備の拡大というプロジェクトも現在進行中です。今年の6月に実施されたプロジェクトのサポートを募集したクラウドファンディングでは、目標金額の500%にあたる750万円もの支援が集まりました。

立ち上げ中のビアバーでは、さまざまな種類の美濃焼を用意し、容器の違いでビールの味わいが変わる新しい体験もできる予定とのこと。年内の完成が待ちきれません。

ほかにも、上でも少し触れた「窯焚体験イベント」だけでなく、「中山道の宿場町と醸造所をめぐるビアツアー」「瑞浪市窯業技術研究所ともグラスの研究」などなど、気になるプロジェクトがどんどん進行中とのこと。

カマドブリュワリーが創る「ここだけのビアカルチャー」、目が話せません!



今回カマドブリュワリーを取材をして、「クラフトビールが世界中で日々進化しつづけているのは、丹羽さんのように常に飽くなき好奇心を持ち、自身の研摩と挑戦を続けるつくり手がいるからじゃないだろうか」と強く感じました。

変わり続けるクラフトビールシーンそのもののような、そんな丹羽さんが創り上げるカマドブリュワリーのビール。ご自宅で、そして釜戸町で、ぜひ味わってみてください。

最後に。

丹羽さんからビール女子読者のみなさんに向けてメッセージをいただきました。

「今も昔も、ブルワーの思い、魂が込もったビールをつくるという情熱と、そして良いビールを作りたいという愛情は私の中で変わらないものです。今度できるカマドのビアバーは、飲み手の皆さんと作り手が交流できる場所。ビール女子読者の皆さん、ぜひカマドで乾杯いたしましょう!」

 CAMADO BREWERY(カマドブリュワリー)

〇住所:岐阜県瑞浪市釜戸町3154-3

〇醸造所販売:毎週日曜9:30〜11:45

〇ネット販売:毎週土曜12:30〜

〇公式HP:https://camado.jp/

〇オンラインストア:https://camado.stores.jp/

〇電話番号:0572-51-2620

〇FAX番号:0572-51-8107

〇メールアドレス:info@hmbw.jp

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kai takaba ライター

新米ビール職人。高知県の『Mukai Craft Brewing』での修行を経て、現在、自身の醸造所とブランドを立ち上げ中。ビールづくりを通して「調和を生み出す補助線を引くこと」を目指しています。

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