
代官山の街の一角に、ぽつりと現れる白い壁に浮かんだ黒い文字「ビビビ。」。
全国を巡り、つくり手の背景まで汲み取ったビールだけを10のタップから注いで提供するお店です。
提供される一杯のビール。ただ、「ビビビ。」には「ただの一杯」で終わらせない深いこだわりがありました。
一杯のビールと、その背景にあるストーリーを添えて提供する「ビビビ。」を取材しました。
代官山の坂の下で

東急東横線代官山駅から坂を下り、徒歩3分。店舗が並ぶ道沿いでふいに視界に飛び込んできたのは、白い背景に浮かぶ「ビビビ。」の黒い文字です。
電流がビビビっと走るような文字に誘われるように店内へ。

細長く奥へ続く店内は、入り口近くにテーブル、その奥がカウンターになっています。
椅子はなく立ち飲みのビアバーで、おつまみはポップコーンなどの乾き物のみ。
純粋にビールを楽しみながら、自然と人とのコミュニケーションもできるようなつくりになっています。
オーナーふたりの“ビビビ。”な出会い
企業広報や新規事業の支援、コミュニティづくりなどを手掛ける日比谷尚武さんと、ライター兼編集者として活動する友清哲さんです。
おふたりの出会いは渋谷の紹介制レコードバー。以前、日比谷さんが他の方と共同で営業していたお店で、友清さんも他の友人を介して遊びに行くようになりました。

日比谷さん「もともと、いろんな人が繋がったみんなのたまり場みたいな店で、最初は友清とは直接の知り合いじゃなかったんです。ですが、最終的にこのふたりの関係性だけが残りました」
親交を深めてからというもの、お酒全般が好きなおふたりは、日本各地のお酒や食を求めて各地を飛び回るように。
そんななか、もともとお互い地方創生に関心があり、また、仕事にもしてきた経緯もあったからか、「ローカル×○○」で場づくりをはじめたいと思いはじめたそう。

友清さん「僕はこれまでに『日本クラフトビール紀行』や『横濱麦酒物語』といった本を執筆するなど、クラフトビールに強い関心を持ってきました。旅先ではその土地のビールを楽しみたいし、ブルワリーに日比谷を連れていくのも好きなんです。もちろん日本酒やウイスキーも飲みますが、『次に新しい場所をつくるなら、地方創生ともつながりやすいクラフトビールが一番合っているな』と思っていて、ビアバーをはじめるに至りました」
店名「ビビビ。」に込めた意味とこだわりの10タップ
つい口にしたくなる店名「ビビビ。」。その店名の由来について伺いました。
友清さん「『ビビビ。』は10個のタップにビールが繋がっていることから生まれた店名です。そのため正式名称は『ビビビビビビビビビビ。』ですが、さすがに長すぎるので、3つの『ビ』にビールの気泡を思わせる『。』を添えています」

日比谷さん「名前を決めるとき、『友清が物書きのプロだからコピーぐらい決められるでしょ』と思って任せていました。ただ僕はユニークで埋もれない、語感が良くて一瞬変だなって思う、でも結局あとで馴染んでいくものが良いなと思っていました。そんななか、友清が考えてくれた候補のなかに『ビビビ。』があって。これが良いと伝えました」
また、10タップにした理由については設置できるスペースが限られていることなども理由としてあったそうですが、他にも理由が。
友清さん「クラフトビールのお店をはじめた理由のひとつに、『タップリストを自分で編集したかった』からというのがあるんです。これまで、紹介したいブルワリーのことはずっと本や連載など、メディアを通して発信してきましたが、それを『実店舗でやるならこういう形になるよね』というのが今のスタイルなんです」

そんな店内には、白壁に貼られた写真やビール缶の数々、ウイスキー樽のテーブルなど、さまざまなものが散りばめられています。
この場所は以前スポーツ用品店だったそうで、ほぼそのままの状態でお店をスタートしました。その後、DIYが得意だという日比谷さんの手により、棚が設置されたり装飾が増えるなど、内装も変化しているそうです。

日比谷さん「このテナントに出会った段階でオールスタンディングにせざるを得なかったという感じではあるんですが、気楽に入っていただきさっと飲んで、隣の人とビールを飲みながら自然と会話が始まるようになればいいかなっていうつくりですね」
入り口はガラス張りになっていて、入る前に中の様子がわかるのも嬉しい。「おひとり様もWelcome!!」

取材に訪れた際にも、店員さんが海外から観光に来た方に積極的に声をかけていたり、初めて会う人同士をご紹介いただいたりなど、自然と会話がはじまっているのが印象的でした。

また、店内は犬を連れての来店も可能です!この日も、常連さんがワンちゃんを連れて来店されていて、束の間の交流をさせていただきました。
「つくり手のストーリー」を届けるワケ
「酒はつくり手を知ると、何倍も美味しくなる――。」をモットーにお店を展開してる「ビビビ。」。その理由を伺いました。友清さん「僕はこれまで、さまざまなブルワリーを訪れて取材してきました。その中で、『このビールの背景にはこんな人がいて、こんな想いがあるんだ』ということを知るたびに、一杯のビールが完成するまでには必ずストーリーがあると感じていたんです。たとえば、今日繋がっているカールヴァーンは、もともと貿易会社でその流れでビールをつくっていて。そんな人がつくったビールですっていってビールと共に提供できたら素敵かなと思ったんです」

つくり手のストーリーを届ける仕組みがこのQRコード。
お持ちのスマホでアクセスしていただくと、その日繋がっているビールを取材した記事のリストを見ることができます。
▶︎note記事はこちら:【ビビビ。】本日のブルワー(醸造家)
友清さん「基本的に店に繋がっているビールは全部、取材したブルワリーのものを繋いでいます。気になるブルワリーがあるとアポを取って会いに行って、話を聞いてから『実は店もやってまして…』と取引の相談に入ることが多いですね」

最近では、常連さんの推しブルワリーのビールを繋いでみたり、スタッフが情報を持ってきてくれることもあるそう。
取材自体はお二人で行くこともあれば、個々に訪れることもあるそうです。
お店で繋いだブルワリーの数でいうと60ほどだそうですが、取材した数でいうと300を超えるとか。
そのなかで、お店で繋ぐビールはどのように選んでいるのでしょうか。

友清さん「クラフトビールは他のお酒より、地方創生を絡めたことができると考えているのもこの店をはじめたきっかけです。そのため、多くのお店で繋がっているビールを提供することもあるんですが、他ではあまり飲めないようなビールを提供したいという想いがあります。ビアスタイルもなるべくバランスよく、いろいろな種類を飲んでほしいという想いでタップリストをつくっています」
また、店内イベントも頻繁に開催していて、ブルワーを招いたトークイベントなども開催するとか。
友清さん「『タップテイクオーバーをやってほしい』と言われることはよくあるんですけど、正直あまりやりたくないんです。というのも、僕たちはいろんなブルワリーのビールをバリエーション豊かに見せたいと思っていて、同じブルワリーで10タップすべてを埋めるような形にはちょっと抵抗があるんですよね。それに、冷蔵庫のストックスペースが限られているので、現実的に難しいというのもあります。
だったら、その日だけ3タップぐらい繋いで、つくり手の方に来てもらい、店内のモニターでプレゼンしてもらうっていう方が自分たちのスタイルにも合っているし、お客さんも喜んでくれるんです。それに、ブルワーの方も東京で発信できたという満足感をもって帰ってもらえるので、結果的にウィン-ウィンかなと思っていますね」
国内産の選りすぐりビール
たっぷりとお話を聞いたところで、さっそくビールをいただきました!『タカキビエール』ミヤタビール(グラス:税込1,050円)

東京都押上に醸造所を構えるミヤタビールがつくる「タカキビエール」。アフリカ原産の雑穀・タカキビ(英語名:ソルガム)や、お茶などで飲まれることも多いモリンガを使用してつくられた5%のFree Style Light Ale。なんとも芳醇な香りで、飲んでみるとすっきりとした飲み口で、ほんのりモリンガ由来の苦みを感じます。タカキビの雑穀感も感じますが、するするとのどを通っていきます。
『カールヴァーン・ベルジャンホワイト』CARVAAN(グラス:税込1,050円)

埼玉県飯能市に醸造所を構えるCARVAAN(カールヴァーン)。もともとは塩の貿易から歴史が始まった貿易会社で、現在ではビールも醸造しています。「カールヴァーン・ベルジャンホワイト」は、小麦に加え、エジプト産のコリアンダーと飯能産の柚子ピールを使用してつくられた一杯。コリアンダーと柚子の香りのバランス感が心地よい、ごくごくと飲んでしまいます。

店内には缶や瓶ビールの販売もあります。支払いはクレジットカードやQRコード決済などの電子マネーのみです。
店内で提供するおつまみはポップコーンのみですが、なんと店内への持ち込みOK!

また、「ビビビ。」のお隣「O'denbar うまみ 代官山」のメニューもあり、直接店舗に注文しに行くと、お店まで持って来てもらえる仕組みです!

お出汁しみしみのおでんは五臓六腑に染み渡るお味。そして、ビールに合う!ちなみに友清さんおすすめはカレーです!
物語ごとビールを味わい、場を広げていく

「ローカル×ビール」を伝えていくために、「ビビビ。」を通しての今後の展望を伺いました。
日比谷さん「最近の取り組みとしては『ビビビビアフェスin福島』を開催したり、『ビビビツアー』として全国のブルワリーを巡る企画も継続的に行っています。バス移動やフェス会場を歩いて回るなどスタイルはさまざまですが、各地のつくり手と出会い、その土地の空気を感じることを大切にしています。
最近では自治体から声がかかることも増え、宇都宮や福島にも行きました。特に福島では、クラフトビールを通じて地域の活性化や関係人口づくりに貢献できると感じましたね。こうした地域と連携した企画を、今後さらに広げていきたいですね」

友清さん「僕らは『背景を伝える』というのをすごく大事にしていて、ビアフェスやビビビツアーのときには、毎回公開インタビューの時間を入れるようにしています。その中で、手話通訳士さんにもご協力をお願いしています。じつは手話ユーザーのクラフトビールのファンは多くて、そういったコミュニティもあったりするほどなんです。『ビビビビアフェスin福島』でもすごく喜んでいただけて、ステージの前にはたくさんの手話ユーザーの方たちが集まってくれました」
日比谷さん「たくさんの方が来てくれて盛り上がってましたよね。最終的に20人近くが集まって、ビールを楽しまれていました」
友清さん「僕としては、手話通訳士を1人入れるだけで、こんなにも多くの方が集まってくれるということをもっと世の中に伝えていきたいです。エンタメの場こそ、そういう包括的な工夫が必要だと思っていて。行政の説明会に手話がつくのは普通かもしれませんが、当事者が本当に求めているのは、そういった“堅い場”だけじゃないんですよね。
福島のビアフェスでは観光課と連携しつつ、福祉課を通して手話ユーザーの団体にもアプローチしました。ビラを配ったり、手紙を書いたりして、丁寧に呼びかけたんです。こうした活動を通じて、これまで届きづらかった人たちにも、少しずつ場を開いていけたらと思っています」
また、今後の展望のひとつに、「ビビビ。」のブルワリーをつくる構想があるとかないとか…!
地方と絡めた企画や手話ユーザーさんたちが楽しめる場づくりも相まって、今後の展開が楽しみです!
伝えていく一杯のビールのストーリー

たった一杯のビール。
その一杯のビールがつくられた背景には、なんだかおもしろいお話が眠っている。
クラフトビールのストーリーを伝える「ビビビ。」は、偶然出会った日比谷さんと友清さんという、まったく異なるバックグラウンドを持つふたりが、それぞれの得意分野を持ち合わせてつくりあげたお店です。
違う道を歩んできたふたりが、今は「ビビビ。」で一杯のストーリーを発信しているーーその不思議な出会いについ「最強なふたりですね」と呟いていました。
「このビール、誰がつくってるの?」
そんな会話が、今日も「ビビビ。」では繰り広げられているのでしょう。
つくり手と飲み手をゆるやかに繋ぐ「ビビビ。」は、クラフトビールの楽しさをさらに広げてくれます。
ぜひふらりと足を運んで、気になる1杯を、そのストーリーを味わってみてください。
ビビビ。
〇住所:〒150-0034 東京都渋谷区代官山町13-8 キャッスルマンション102号(Googleマップ)
〇最寄駅:代官山駅 3分、恵比寿駅 10分
〇営業時間:
[平日]18:00~23:00
[土日祝]15:00~23:00
〇定休日:不定休
〇支払い方法:完全キャッシュレス&前払い
〇ペット可
〇Instagram:https://www.instagram.com/bibibi.daikanyama/

お酒は二十歳になってから。
