ビールを飲みながら聴きたい音楽を紹介してきた「ハナウタアヤノのビールノオト」。
ビールと音楽のコラムを書いていて改めて感じたのは、「音楽」と「ビール」はやっぱり合うということ。
そこで始めたのが、「音楽にこだわりのあるビアバーの店主に、音楽とビールのこだわりを聞いてみたい!」という連載「ハナウタアヤノのビアバーノオト」です。
第2回目は、五反田駅からほど近い、大人な雰囲気漂う「Beer Dining THE LEGEND 五反田店」。
オーナーである山口照尊(てるたか)さんが、「THE GRIFFON 渋谷店」「THE GRIFFON 新宿店」につづく三店舗目として、2016年11月15日にオープンさせたばかりのビアバーです。
お店の雰囲気に合う音楽はすべて山口さんが選曲していると聞き、お話をお伺いしてきました!前編です。
目の前にあった「ビール」という山に登っただけ
—お店に入った瞬間から、大人な雰囲気の家具や照明、音楽がとても良い雰囲気で、落ち着く空間だなと感じました。流れている音楽はR&Bでしょうか?
山口照尊さん(以下、敬称略):ジャンルで言えばR&Bですかね。カバー曲を結構使います。30~40代の方が「おっ?」っと思う音楽を結構使いますね。
ー音楽へのこだわりってありますか?
山口:もちろん音楽にこだわってないつもりはないんですけど…。
ーというと?
山口:今、ビールの仕事もしてますけど特別こだわりがあるとかじゃなくて。なんでビールだったんですかと聞かれたら、「たまたまビールが目の前にあったからビールという山に登っただけ」っていう感じなんですよね。
ーたまたまあったというのは、どういうことですか?
山口:福岡から東京に来て16年になるんですけど、当時は不動産の営業マンだったんです。その時「一蘭ラーメン」の社長さんと親しくしていたんですけど、飲食店を自分でもやりたいなって思っていた頃で。
—あの「一蘭ラーメン」!
山口:そんな時、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)っていうニュースで、「グローバルダイニング」っていうチェーン店を抱える会社が取り上げられてたんですよ。その番組で、飲食店なのに時給が2,000円~3,000円で、店長の給料も1,000万円とかって聞いて、これはもうやりたいって思ったんですよね。それで、当時勤めていた会社に辞表を出して、「グローバルダイニング」に転職しました。
—いろいろとタイミングがあって、思い立ったんですね。
山口:その後、「グローバルダイニング」の長谷川耕造社長と「ヤッホーブルーイング」、「星野リゾート」の星野佳路社長と話す機会があって、ビール作ったっていう話を聞いたんですよね。その流れで、僕が店長をしてた店で『よなよなエール』を一番最初に置いたんです。
—初めてヤッホーのビールを扱ったのが、山口さんのお店だったんですね! それにしても、ビッグネームばかり…!
山口:その前から「グローバルダイニング」の「権八」っていう店で、「飛騨高山麦酒」のクラフトビール、当時は地ビールって言ってましたけど、それは置いたりしていたんですけどね。当時のヤッホーのビールは、もともとアメリカの「Stone(ストーン)」という醸造所で働いていた石井敏之さんっていう方がヤッホーに来てから、味が洗練されていったんですよ。石井さんは4~5年くらいヤッホーで働いて、今ではグアムで『MINAGOF(ミナゴフ)』っていうビールを造ってるみたいですけどね。
—ヤッホーがここまで多くの人に知られるまでにも、紆余曲折あったんですね。そのあと山口さんも、ビールを扱う自分のお店を作ろうと考え始めたんですか?
山口:酒税法が改正されたのが1994年なので、日本でクラフトビール造りが始まったのが今から23年前。でも、私がクラフトビールに首を突っ込んだのは、15~6年くらい前からですね。自分の店を作る前は「グローバルダイニング」から飲食のコンサル会社に転職していて、一番最初のクライアントが五反田の「The Grafton(ザ・グラフトン)」でした。
ーお店で店長などの実践を踏まえ、コンサルタントで解決法などを探ったり広めたりなどの仕事に就いたんですね。
山口:水没とかがあった影響もあって売上が芳しくないから、なんとか利益をあげてくれって言われて。その当時「グラフトン」では、『ギネス』、『キルケニー』、『ハイネケン』、『ヱビス』の生ビールを4種類しか置いてなかったんです。これ何かって言うと、当時ギネスを扱ってた「サッポロビール」が、「ディアジオ」っていう販売促進会社と関わってて、そこのインポーターとかもやっている部門が扱っていたビールなんです。それで、『ギネス』とかをどうやって市場に増やしていくかっていうところに、私たちは入っていったんです。
—今ではおなじみのビールですよね。
山口:ヤッホーのビールとかも見ていたので、「ビールっておもしろいな」って思ったんです。今では当たり前ですが、最初は「パイント」を「ピント」って間違えて言ったり、ギネスビールをご注文された方にギネスビールを持って行ったら「ギネスって黒いの?」っていう時代で、まだまだ知られていなかったんですよね。
—これからくるなと感じたんですか?
山口:はい。ワインやウイスキー、日本酒だと昔からご存知の方も大勢いらっしゃいますし、日本での歴史もビールよりは長い。それに比べて、ビールは新しいし、これからくるんじゃないかなって思ったんです。
ーまだまだ未知の世界だったんですね。
山口:そうですね。「THE GRIFFON 渋谷店」を作った時、私は32歳。で、「一蘭ラーメン」の社長と仲良くさせてもらっていた時に話したことなんですけど、「自分の店いいですね、僕もいつか飲食店作りますよ。ところで社長今何歳なんですか?」って聞いたら32歳って言っていたので、「じゃあ僕も32歳でお店作ります」って言ったんです。
GRIFFONとLEGEND
ー山口さんは、「THE GRIFFON 渋谷店」「THE GRIFFON 新宿店」「THE LEGEND 五反田」と3店舗のオーナーでいらっしゃいますが、五反田店だけなぜLEGENDという名前なんですか?
山口:それもね、たまたまなんですよ(笑) 実は、飲食のコンサルをしてる時にいろいろなお店を見たんです。先ほども言った「グラフトン」がうまくいったんですけど、同じような形態でうまくいかなかったところもあるんですよね。それで、「グラフトン」がうまくいったのはなんでだろうって考えた時に、「G」で始まって「N」で終わる名前ってすわりがいいからかなって思って。それに、私の名前も山口なので「ぐっさん」って呼ばれるんですけど、それも「G」で始まって「N」で終わるし。
ーすごい(笑)
山口:ギネスも置いてるし、五反田だったし。「ぐ」っとつかんで「ん」で終わる。それでパラパラと調べた時に、「GRIFFON」って単語を見つけていいねってことで決まりました。グリフォンって、ドラゴンみたいな架空の生き物なんですよね。ハリーポッターのグリフィンドールにあるように。新宿店作る時も、店名一緒でも税金変わらないしこのままやっちゃおうかって思って。それで三店舗目は「なんでLEGEND?」って聞かれます。
ー伝説ですしね。
山口:五反田には、「The Grafton」、「Devil Craft」、「CRAFTSMAN」ってビアバーがあるんですけど、「GR」とか「CR」とかが多いんですよ。そこに「THE GRIFFON」がきたらカオスでしょ? 実際、その三店舗とも仲良くしてるんですけど、お店の予約して行ったら違う店でそのままその店に入っちゃって、予約されてるお店はすっぽかされたことが何回かあるっていうのも聞いたんですよ。それもあって、「GRIFFON」じゃなくて「LEGEND」にしたんです。
ー五反田にしたのは、何か思い入れがあったからですか?
山口:えっと…たまたまなんです(笑) 店舗とか住まいもですけど、普通は内見したりとかいろいろ探されるでしょ。でも私、福岡から東京に来て16年間同じ家に住んでるんですけど、内見そこだけしか見てないんです。就職活動で50社くらい受ける人もいると思いますけど、私は就職活動も一社しか受けなかったし、店も渋谷、新宿、五反田店を開く時に店舗を内見したのは、トータル3軒しかないんですよ。
ーえ!? …三店舗とも一回で決めたってことですか?
山口:そうなんですよ。もちろんネットで見ますよ、最初は。どこが空いてるかなって。それで見せてもらいたい場所があったら電話して見せてもらうんですけど、行ったら「いいじゃん、ここにしよう」って決めちゃうんです。さすがに五反田の時は「今度こそ5件くらい見て決めよう、目を肥やしてみよう」って思って行ったんですけど、やっぱり決めちゃったんですよね。だから、全部予定よりも半年早めにオープンしちゃってるんです。
ーすごすぎるー…! どうやってその、千里眼のようなものは培ったんですか?
山口:いやいや、褒めすぎです(笑) 千里眼じゃなくて、本当にこれだなって思ったらやるだけです。駅から近いとか遠いとか、地下だから6階だからとか、生ビールが一種類しかないからとか、言い訳しようと思ったらいくらでもできるんで。この五反田店だって言い訳するとしたら、外が見えすぎだったり、ラブホ街近かったり言えますけど、そういう言い訳を考えたらいくらでも出てくるんですよね。そんなこと気にしてられないし、その時間がもったいないと思うんです。
CDJで選曲した経験から自分が好きな音楽をかけるように
ー音楽についてお伺いしたいんですが、ふだんからR&Bを聴いたりしているんですか?
山口:普段車に乗ってる時は、もうちょっと激しい曲をかけたりします。
ーどういう曲ですか?
山口:正直、曲名とかはわかんないんですけど、BPMが早い洋楽とかを、音量MAXでガンガンでかけてますね。
ーお店で流れている曲は、三店舗とも山口さんが選曲していると伺ったのですが、どういう視点で選んでいるんですか?
山口:最初に選曲したのは、「グラフトン」に関わってる時に。そのお店もともとはアイリッシュパブだったんですけど変えようってことで、まず、生ビールを12種類にしたんです。その時に入れたのが『サンクトガーレン』とかだったんですけど、音楽はU2とかアイルランドの曲みたいなのが多かったんですよ。それで音楽も変えようと思って。なぜなら、置いているビールがすでにアイルランドのものではないんですよ。『ギネス』『キルケニー』まではいいんですけど、『ハイネケン』はオランダだし、『ヱビス』は日本だし、『レーベンブロイ』はドイツだし、次が『よなよなエール』でまた日本だしって。
ーもはやアイリッシュパブではないですね(笑)
山口:そうなんです。ぐちゃぐちゃになって、アイリッシュパブっていうカテゴライズができなくなったので、音楽は私がCDJで流してたんですよ。
ーCDJ!
山口:CDとCDの音を繋げていくんです。BPMの速さを合わせたりしてターンテーブルみたいなものですよ。前はアナログのレコードで繋いでいってたんですけど、CDで繋ぐのいいなということでお店で始めて、それから結局、私が好きな曲をかけるようになったんです。
—それで、自分のお店を作ってからも音楽を自分で決めるようになって、それがR&Bだったということですね。
山口:クラフトビールに一杯800円とか900円、1,000円とかを普通に払って飲んでいただける方は30~40歳かなって思ったんですよね。20代前半の方ももちろんいらっしゃいますけど、生ビールが500円とかっていうのを期待されていらっしゃるので、お店に続けて来ていただけるかと言ったら難しいですよね。私は今41歳でちょうど同じ世代なので、自分が好きな曲とお客様の好みがマッチしたのかもしれないです。でも、日本語はかけないようにしようとは決めてたんですよ。邦楽じゃなくて洋楽。
ー洋楽を流すのはなぜですか?
山口:Tシャツとかで、英語と日本語書かれているのでどっちがかっこいいですかって言われたら英語じゃないですか。英語なら、意味もわからず着てますよね。洋楽も、内容わからなくてもかっこいいと思って聴くじゃないですか。そんな感じですかね。だからたまに、外国人の方から「この状況でこの曲はそぐわない」とか言われたりしますよ(笑) あとは、日本の邦楽の英語でのカバーとか。曲が始まって「あれ?」って思わせることが新鮮なのかなって思ったりしてます。私はビールってメーカーとかであまり覚えないんですよ。それって音楽でも同じで、アーティスト名とか曲名とかって全然思い出せないんですよ。
ーえ、でもそれじゃあ音楽ってどうやって選んでいるんですか?
山口:最初はありますよ。例えば、昔だとカーペンターズとか宇多田ヒカルとかあるんですけど。その曲でいいなと思ったら、iTunesとかYouTubeとかで調べてます。もちろん色んなCDも買ったし、カセットテープなんかも前はいっぱい持ってて。でも、ボン・ジョヴィなのはわかるけど、曲のタイトルは全然わからないし、何言ってるかもわからない、でもかっこいいなっていうのを集めて。
ー面白いですね。
山口:あ、さっき邦楽は入れないって言いましたけど、そのうちの2曲は邦楽が入ってました。ドコモのCMで流れてたONE OK ROCKだっけな。
ーあー! でも、ワンオクは洋楽っぽいですもんね。もはや洋楽。
山口:そうそう! 洋楽っぽいけど、よく聴くと日本語みたいな。でも曲名はわからないんですよ。
ー(笑) 三店舗とも同じ曲ですか?
山口:そうそう、同じにしてます。
ービールも同じように、銘柄で選んでないってことなんですね。
山口:銘柄じゃなくてスタイルで見たりするんですよね。渋谷、新宿、五反田店では、毎日ビールメニューを作ってます。更新回数も書かれてるんですけど。今日、1月20日の時点で、新宿店は637回、渋谷店が2745回。そうなってくると、今まで扱ったビールは300種類は余裕に超えます。それにどんどん新しいの出てくるじゃないですか。覚えてられないですよ(笑)
ーまあ、そうですよね(笑)
山口:あとはお店に並べるのは色味で合わせたりしてるんですけど、曲にしても同じ感じですね。今Shazamっていうアプリあるじゃないですか。あれを使って街で曲をひろって「あったねこういう曲」とか、「よく聴くけどこれABBAだったのか」とか。いまだに覚えてないんですよ(笑)
イラスト:ISOGAI(Twitter/@HitohisaI、instagram/@isogaihitohisa)
写真:酒井由実