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お酒は二十歳になってから。

ビールと味わう、映画のお話 Column ビールと味わう、映画のお話 〜「紅の豚」と「ラ・ロッサ」〜

2017/02/03

この世に数え切れないほどの映画があるように、ビールだって個性あふれる味わいがたくさんあります。ほろ酔い気分の金曜日の夜に、ビールと映画のお話に舌鼓を打ってみませんか? お酒片手に物を書くビール女子、植井皐月のエッセイがスタートします。

 

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コバルト色の海、輝く太陽、美しい女たち。そして何より、それらすべてを反射させて空を飛ぶ、飛行艇。ここで新しくエッセイを持たせていただけることになった。自己紹介代わりに、わたしの師匠の話をしようと思う。彼の名前はポルコ・ロッソ。映画「紅の豚」に登場する、お馴染みの豚である。

 

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まだ酒を飲み始めたばかりの頃、彼がなんてことのないタンブラーでごくごくとワインを飲む姿に目を奪われた。彼のような気楽で骨太の酒飲みになりたいと、憧れとも決意ともつかない思いを胸に抱えたわたしは、それ以来彼に倣ってワインをタンブラーで飲んでいる。わたしにとってのワインというのは、タンブラーに並々と注がれる安いそれだ。中にたっぷりと氷が入っていると尚良い。

 

劇中で、彼は幾度となく酒を口にする。イタリアの酒は説明するまでもなく豊かで、色味からリモンチェッロかと想像するものもあれば、明らかに白ワインであろうそれもあり、しかし大抵、彼は赤ワインを口にしている。おそらく好みなのだろうが、もしかしたらそれがアドリア海に一番合う酒なのかもしれない。あの海には、ワインの赤が良く映える。

 

 

メジャーな酒であるにもかかわらず、劇中で彼が一度も口にしない酒がある。それはビールだ。

 

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もしも彼がビールを飲むとしたら何だろうと、わたしは想像してみる。あそこはイタリアであるから、やはり「モレッティ」であろうか。しかし、普段赤ワインを片手に生活をする彼には「モレッティ」など水代わりにもならないだろう。イタリアの飛行艇乗りであることに誇りを持ち、カーチスを毛嫌いする彼が、例えばベルギービールなんてものを飲んでいる姿もまた想像し難い。きっと彼はあくまでイタリアのビールを飲むに違いないのだ。

 

そういえば。

その時わたしの脳裏には一本のビールが思い浮かぶ。あるではないか。彼にぴったりのものが。

 

それは、モレッティ社が出す「ラ・ロッサ」。よく焼いた肉のような濃い琥珀色をしていて、度数が7.2%と一般的なビールよりも高い。カラメルの味わいがよく出ていて、冷たいときはもちろん、温くなってからでも豊かに味わうことの出来るタイプのビールだ。

 

飛行艇で風を切り、宙を舞い、ひと汗かいた後の彼を想像する。赤ワインも悪くはないが、もっと一息で喉の渇きを潤せるもの。出来れば炭酸の爽やかさも欲しい。そんな時に、このビールであれば彼を十分に満足させられるだろう。

 

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アジトに帰った彼は「ラ・ロッサ」を喉にぐっと流し、マッチで煙草に火を付ける。そこには海と同じ色の空が広がっていて、テーブルの上にはお決まりのラジオと林檎が用意されているのだろう。林檎の酸味とビールの甘みが、彼の疲れを癒すのだ。

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酒を片手に、物を書く。著作:小説「チョコレート工場のある町」 、連載エッセイ「月刊ビミー」

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