普段は中四国地方のブルワリーを巡っている著者ですが、今回は足を伸ばして大阪府へ。
さらに、電車を乗り継ぎ大阪駅から約1時間かけて富田林(とんだばやし)駅へ。
築120年超えの元酒蔵のなかにある醸造所「万里春醸造」が直営する“和製ビヤホール”「バンリノハル ビアホール」で、「黄金の水」と呼ばれる井戸水で醸したクラフトビールを堪能してきました。
もくじ
・江戸時代?大阪府唯一の重要伝統的建造物群保存地区・まさに、“和製ビヤホール”!
・世界一周の旅から戻り、ブルワーに
・富田林産の米や清酒酵母を使った「酒エール」も
・金剛山を水源とする黄金の水を使用したビールづくり
・常時10種のビールを提供
・杜氏(とうじ)部屋を改装し、泊まれるブルワリーに
江戸時代?大阪府唯一の重要伝統的建造物群保存地区
大阪府の東南部に位置する富田林市は、自然と歴史に恵まれた町。大阪駅から電車を乗り継ぎ、約1時間ほどで到着します。
「バンリノハル ビアホール」と「万里春醸造」がある寺内町は、1997年に国から重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
昔ながらの建物がずらり建ち並び、江戸時代の風情が今も色濃く残る町を散策していると、過去にタイムスリップしたかのようです。「バンリノハル ビアホール」以外にも、雑貨店やカフェなど個性的な店がたくさんあります。
まさに、“和製ビヤホール”!

寺内町のメインストリートである「城之門筋」の先に、「バンリノハル ビアホール」があります。町並みの中でも、一際大きな建物に驚きました。
明治築、約40年前まで酒蔵として営まれていた「万里春酒造」を改装した店内です。
店内からは醸造室の見学も可能。

奥に見える大きな窓からは、大型のタンクがずらりと並んでいる醸造室があります。タイミングが良ければ、ビールの仕込みが窓越しに見ることができるかもしれませんね。
世界一周の旅から戻り、ブルワーに

日本に帰国した後は、ゲストハウスの立ち上げにマネージャーとして関わることに。クラフトビール醸造の道へ歩みを進めたのは2019年以降のこと。最初に醸造を学んだのは伊勢角屋麦酒。その後、遠野醸造、石見麦酒など各地のブルワリーで経験を積んだ後に、上方ビールの醸造主を務めていたのだそう。
その頃、万里春酒造の6代目である石田 元孝さんは、今から約10年前に、この蔵のスペースを使ってイベントやライブの開催などを行っていたそう。
石田さんのお祖父さんの代で酒蔵としては閉業していたようですが、やはりお酒にまつわる事業を再開したいと思うようになり、さまざまな視察を行っていたところ、南さんと出会いました。
南さん「そろそろ自分でブルワリーを立ち上げたいと場所を探していた時に、“酒蔵を改装してブルワリーを作ろうとしていて、ビールを醸造できる人を探している”と話を聞き、石田さんと出会いました。せっかくやるなら面白い場所が良いなと思っていたので、トントン拍子で話は進みましたね」
ブルワリーをオープンすると決めてから、南さんと石田さんで少しずつ片付けていたそうですが40年もの間手付かずだった酒蔵は片付けも相当大変だったようで…。
facebookでボランティアの人たちを募り、そこに2人の友人も加わり、大規模な片付けを行ったのだそう。
南さん「色んなものが山ほどあったので、片付けは大変でしたね。色んな人が手を貸してくれて、本当に助かりました。片付けをしている中で見つかったんですが、万里春酒造で使われていた備品などお宝もたくさんありました」
店内には、万里春酒造のブリキの看板、酒樽、酒瓶などがあちこちに飾られています。どれも保存状態が良く、この蔵が大事に守られてきたことが伝わります。
富田林産の米や清酒酵母を使った「酒エール」も
醸造所は、500リットルの醗酵タンクが4基、1,000リットルの醗酵タンクが1基並びます。
醸造室内には、缶充填機もあり、缶ビールも登場間近だとか。現在は、店内もしくは大阪府内を中心に限られたお店でしか飲むことができないので、缶ビールの販売が楽しみですね。
500リットルの醗酵タンクには、富田林産の米、清酒酵母を使ったクラフトビール「酒エール」が醗酵中でした。華やかで甘みのある日本酒っぽさを感じる、爽やかな味わいとのこと。
金剛山を水源とする黄金の水を使用したビールづくり
江戸時代、富田林寺内町の酒蔵では、豊富な伏流水に恵まれた金剛山を水源とした井戸から湧き上がる水のことを「黄金の水」と呼び、どの酒蔵でも仕込みに使用していたのだそう。
万里春醸造では、「黄金の水」を復活させ、仕込み水として使用しています。
南さん「蔵の歴史も大切にしていきたいので、以前に使用していた黄金の水を仕込み水として使用したいと思いました。黄金の水を使ったクラフトビールは、やわらかい口当たりに仕上がります」
また、ビアホールのコンセプトが「ビールを旅させないレストラン」。「バンリノハルビアホール」に来ていただき、歴史や伝統が感じられる蔵と、すぐ隣が醸造施設だからこそたのしめるビールの味わい、そして料理を存分にたのしんでほしいという理由があるとか。
富田林市周辺にはクラフトビールを提供する店がまだまだ少ないそう。それもあってまずは地元や近隣エリアの方が足繁く通っているそうです。
南さん「この辺りってまだまだクラフトビールは浸透していない場所なんです。それもあって、クラフトビールをあまり飲まない人でも馴染みがあるように、ドリンカブルさを大切にしながら、料理に合うようなビールづくりをめざしています」
世界を旅して、さまざまな町に根差したクラフトビール文化やブルーパブに触れてきた南さんが、富田林に留まりビールをつくっていることをとても興味深く感じます。
南さん「富田林のすぐ近くの高校に通っていたこともあり、もともとゆかりのある町です。そんななか、あえて地元でという考えはなかったのですが、おもしろい場所でビールをつくりたいと思ったとき、たまたまご縁で富田林の元酒造りをしていた歴史ある場所でビールをつくることができるようになりました」
南さんは近隣の農家さんなどから旬の果物を仕入れ、それらを使ったビールも定期的に提供しています。
また、南さんの友人が営む「campsite麓(ロク)」にはホップ畑もあり、キャンプ泊→ホップ収穫→醸造体験&ビール試飲という一連の流れが楽しめるイベントも一緒に行なっているそう。
地元の方々とともにビール文化を根付かせたいという思いをひしひしと感じます。
常時10種のビールを提供
タップから注がれるビールは常時10種類です。定番は、ペールエール・ヴァイツェン・アンバーエール・スタウト・ヘイジーアイピーエーの5種類です。
今回はそのうちの3種をいただきました。
『ペールエール Pale ale』(Mサイズ660円/Lサイズ990円)※税込

「万里春醸造所」をオープンする際に初めて仕込んだのがペールエール。アメリカ産のホップを使用した華やかな香り、ほど良い苦味、軽めのモルトの風味が特徴です。
『スタウト Stout』(Mサイズ660円/Lサイズ990円)※税込
「万里春」と書かれたロゴが見えなくなるほどの黒さ…!王道・黒ビールのガツンとくる苦味があるかと思いきや、意外にも軽い飲み口。南さん曰く「黒ビールが苦手な人でも楽しめるように」作ったのだそう。カカオやナッツのようなニュアンスがあり、食事との相性もかなり良さそう。
『ヘイジーアイピーエー Hazy IPA』(Mサイズ715円/Lサイズ1,078円)※税込

シムコー、アマリロ、シトラ、モザイクの4種類のホップを使用した、ヘイジーアイピーエー。口に含んだ瞬間にホップの香りと旨みが爆発!重すぎず、甘すぎず、男女に支持されそうな味わい。スムースな口当たりと程よい苦味が楽しめるので、これからクラフトビールをはじめる人におすすめです。
『マスのフィッシュ&チップス』(1,518円)※税込は、イギリスのローカルフードとして愛されるフィッシュ&チップスを万里春醸造仕様にアレンジしたのが、マスのフィッシュ&チップス。通常はタラなど白身魚を使いますが、金剛山国定公園内にあり千早川の清流を利用したマス釣り場「千早川マス釣り場」から仕入れたマスを使用しています。ビール入りの衣は、サクふわ食感。柔らかいマスの相性が最高です!
万里春醸造のクラフトビールはどれも食事に合うことをコンセプトに作られています。
食事自体もビールに合うように考えており、「きゅうりのビール漬け」(440円)、かつおの酒盗を使用した「酒盗ピザ」(1,078円)、「万里春バーガー」(1,280円、土日祝は14時〜)など、他店にはないメニューばかり!
平日11:30〜14:00で、パスタやホットドックなどのランチメニューもあるので、一人でも気軽に訪れやすいですね。
杜氏(とうじ)部屋を改装し、泊まれるブルワリーに
さらに、まだ手付かずの建物の2階と3階まで案内してくれました。
その蔵で日本酒を作る際に最高責任者にあたる杜氏さんが寝泊まりしていた部屋、日本酒の成分を分析していた部屋など、たくさんの部屋がありました。
南さん「2階と3階も改装して、ゲストハウスにしたいと考えています。仕込みであったり、店頭での接客であったり、なかなか手が付けられていないんですが…。近隣に宿泊施設も少ないので、ここを拠点にして、富田林の街を楽しんでくれたらいいですよね」
元は酒蔵で、泊まれるブルワリーなんて、酒好きには持ってこいの宿ですね。聞いただけでも、酔っ払いそうです!
缶ビールの販売、ゲストハウスなど、今後の展開から益々目が離せない「万里春醸造」。
また、大阪に遊びに行った際には、遊びに行きたいと思える素敵な空間でした。
バンリノハル ビアホール(万里春醸造)
〇住所:大阪府富田林市富田林町21-22(Googleマップ)
〇アクセス
近畿日本鉄道「富田林駅」から徒歩10分
〇営業時間
[月〜金]11:30-14:00(LO13:30)、17:30-22:30(フードLO21:30 、ドリンクLO22:00)
[土・日・祝]11:30-22:30(フードLO21:30 、ドリンクLO22:00)
[定休日]火曜日
〇HP:https://banrinoharu.jp/
〇Instagram:https://www.instagram.com/banri_no_haru_brewery/
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