ふわっとした吹き出しのロゴでおなじみのクラフトビール、もう出会いましたか。
北陸の玄関口・福井駅のほど近くにあるブルワリー「OUR BREWING」のロゴです。
福井県は多くの化石が発掘されるなど「恐竜王国」として知られ、2024年の北陸新幹線延伸で、東京からのアクセスはよりスムーズになりました。
今回は、旅の始まりにも、帰り道の一杯にもちょうど良い場所にブルワリー&タップルームを構える「OUR BREWING」を取材しました。
福井の玄関口で迎えてくれるブルワリー&タップルーム

北陸の玄関口・福井駅前から徒歩3分、「福井駅前フードホールMINIE(ミニエ)」内の1階に、OUR BREWINGはあります。
統一感のある洗練されたデザインの中にぷかっと浮かぶ、OUR BREWINGのロゴマーク。
ふらっと立ち寄りやすい雰囲気は、観光で訪れた人はもちろん、日常の帰り道に立ち寄る地元の人が、カウンターで自然と肩を並べます。

タップは11口。基本は自社ビールを提供していますが、仕込み状況に応じてゲストビールが入ることもあります。

ビールに寄り添うのは、地元食材を活かしたフードです。
「福井ポークのビアソーセージ」は、福井のブランド豚である「ふくいポーク」を使用した、ジューシーで上品な甘みのある味わいが特徴です。「Hoppy Hour」との相性がぴったり。

また、ビールとの相性を考えて作られた、ちょっとピリ辛の「スパイシーナッツ」なども人気です。
福井のものとビールとのペアリングを大切に、さまざまなメニューを揃えています。

タップルームの空間設計のキーワードは、「福井らしさ」。
ふと見上げると飛び込んでくる天井から吊るされている紙は、福井の伝統工芸である越前和紙。光を受けるとビールの泡が立ちのぼるような表情にも見えます。越前和紙の歴史は1500年にも及ぶと言われている、日本三大和紙のひとつです。
また、目の前のカウンターは、こちらも同じくらいの歴史がある越前漆器の職人の手によるもの。
越前和紙を敷いた木材の上に、特殊な塗料を十回にわたって丁寧に塗り重ねることで、深みのある質感と独特の艶を生み出しています。

ふらっとビールを飲もうと立ち寄った福井の玄関口には、福井の伝統に自然と触れられる空間が広がっています。
OUR BREWINGが生まれるまで
OUR BREWINGの代表・岡田朋大さんは、福井県福井市出身。18歳まで地元で過ごしたあと、大学では東京に出ました。
大学では経営学を学び、海外への留学希望もあって交換留学制度で中国へ。その後、地元・福井の奨学金制度によって2014年にアメリカ・オハイオ州へ留学。その中で出会ったのがビールでした。
小さな町の中にマイクロブルワリーがいくつもあり、ビールのおいしさや多様さに驚いたと言います。その一方で、マイノリティの壁にも直面したとか。
岡田さん「僕が行ったのが小さな町で、当時はなおさら白人カルチャーを感じましたね。アジア人自体も珍しかった時代で、差別のような扱いを受けたなと感じたこともありました。英語もまだ慣れていない時期だったのもあって、疎外感を感じることもありましたね。そんなとき、アメリカの友達に連れられていったビアバーでは、『ビール好き?良いじゃん』みたいな雰囲気があって。人種や文化なども関係なく、ビール好きならその場に入れてくれるというような雰囲気を感じて、ビールのおいしさも相まってめちゃくちゃ良いなと思ったのを覚えています」
大学卒業後は、IT業界へ就職。その後、BEST BEER JAPANへ転職します。BEST BEER JAPANは、対ブルワリー向けのサービスを多数展開している会社です。

岡田さん「ビール業界のことを知りたいと思って入社しました。その中で、Passific Brewingのシステム導入に関わらせてもらったり、全国のブルワリーとも繋がることができたことで、『自分もブルワリーを立ち上げたい』という想いが少しずつ膨らんでいきました。ただ一方で、コロナがはじまったタイミングと重なったこともあり、シビアなビジネスだなとも感じていましたね。それにブルワリーを立ち上げるなら地元でという想いがあったんですが、北陸にクラフトビール文化が全然根付いていなかったこともあって、ブルワリーをはじめても大変なんじゃないかと思っていました」
そんな想いの中、共通の友人を介して知り合った中西竜也さんと出会い、共に福井でブルワリーを立ち上げたいという想いが共感。その後ふたりで、2022年にOUR BREWINGブランドを立ち上げ、ファントムにて自社のビールづくりをはじめました。
「福井でクラフトビールをはじめても勝機はあるのか」を知りたくてはじめたとのことですが、販売の道筋が見えてきたそう。そんな矢先、MINIE内でのブルワリー立ち上げの話が舞い込んできます。
岡田さん「『北陸新幹線延伸のタイミングにオープン』という話でした。立ち上げのリスクはコスト面含め多々あり悩みましたが、人が集まる場所で新鮮なビールを飲んでもらえるというのはやはり理想的ではありましたし、他の誰かがはじめたらあとでめちゃくちゃ後悔するだろうなと。ここがブルワリーをはじめるタイミングなのかなと思って、最終的にはその話をお受けすることにしました」
立ち上げ前には、ISEKADO(伊勢角屋麦酒)やBlack Tide Brewingにて研修を行いました。
岡田さん「伊勢角屋麦酒さんは醸造チームもすごい力がありますし、『定番をおいしく積み上げる土台』と『安定×挑戦の両立』、常温流通まで見据えた品質設計を学ばせていただきました。Black Tide Brewingさんは僕らが予定していた立地と環境が近いというのがあって、商業施設内でつくる運用や、僕らも使う予定だった1,000Lバッチの実務感、街の真ん中での見せ方・接客の重要性を体感し、とても勉強になりました」
また、アメリカのポートランドとシアトル、ヤキマを1ヶ月かけて視察。醸造からバックオフィス、タップルーム運営、バレルエイジングなど、さまざまなことを学んだそう。ポートランドのSteeplejack Brewingとは視察を経て、その後コラボ醸造も行いました。

これらの研修を経て、ブルワリー&タップルームの立ち上げに乗り出します。
商業施設における耐荷重の問題や給排水、ボイラーの配置場所、資材不足や人手不足、海外から輸入したもののスケジュールの遅延、そして期日が決まっている中での醸造免許申請など、立ち上げ前からさまざまな苦労があったそうですが、無事2024年3月16日、福井駅に「OUR BREWING」のブルワリー&タップルームが開業しました。
ビールづくりで大切にしていること

OUR BREWINGの根っこにあるのは、「シンプルにおいしいビールをつくる」という想いです。
岡田さん「最新ホップや個性的な酵母、副原料など、『足し算』の面白さはよくわかっています。それでも、あえて『引き算』で設計することを意識してつくっています。福井では、クラフトビールがまだ日常の選択肢になっていない人も多くて。ヘイジーIPAを出したら『なんじゃこれ』みたいな反応をする人も、いわゆる『大手のラガーみたいなビールをください』という人も少なくないんです。まだまだそんな世界の中で、ある程度驚きはあるものの奇をてらわない、飲みやすいものを。『シンプルなレシピ設計で、シンプルにうまいビールをつくろう』というのは大事にしています」
その前提があるからこそ、「ビールづくりのプロセスもしっかり丁寧に行っている」と語る岡田さん。
あるビールイベントでは、『Dino King』というビールを飲んだお客様から「こんなクラシックなIPAが飲みたかったんです」など、たくさんの嬉しい声を聞くことができたそうです。

もうひとつのこだわりは、どのビールにも福井県産の大麦麦芽を一部使用していることです。
岡田さん「福井の人って、福井が好きな人が多いんです。お正月とお盆は必ず帰省したり、東京で福井出身の人に会うと親近感も湧きますし。だからこそ、福井の人に、『福井のビールだよ』と胸を張ってもらえるものをつくれたらと思っています。福井の大麦のポテンシャルもより引き出したいですし、将来的にはウイスキーとかもできたらおもしろいのかなと構想していますね」

また、大切にしている想いがロゴでも表現されています。
岡田さん「ロゴは吹き出しのようになっているんですが、ビールが潤滑油になってコミュニケーションを円滑にしてくれるようにという想いを込めたデザインにしています。また、ビールの泡のようにも見えるように、ふわふわっとしたデザインにも見えるかなと思います」
OUR BREWINGのビール飲んでみた
今回、岡田さんおすすめの3種を飲んでみました!『Dino King』

醸造所のある福井県は“恐竜王国”。数多くの化石が見つかり、博物館には毎年たくさんの人が訪れます。そんな土地柄に敬意を込めた“ティラノサウルス”にちなみ、現代ビールの王・IPA、しかも王道のウエストコーストスタイルです。樹脂のような香りに、ベリーの酸味を思わせるアロマ、さらにグレープフルーツのニュアンスまで感じられます。
グラスに注ぐと、深いゴールド。香りは樹脂と甘い柑橘のよう。一口飲むと、しっかりとしたモルトのボディが感じられるなかに、グレープフルーツの皮のような苦みと甘みのバランスが心地よい!DDH West Coast IPAという現代的なスタイルですが、王道のクラシックなIPAらしさも感じます。このビールをDino Kingと名付けたのが秀逸!飲むたびに「うんうん、これこれ」と頷いてしまいました。
『Super Yellow Dragon』

日本酒酵母仕込みの『Yellow Dragon』が、さらにパワーアップ!スタイルはペールエールからIPAへ。アルコール度数も+1%の6.5%に。加えてドライホッピングを施した、新感覚のSake IPAです。日本酒酵母由来の青リンゴを思わせる吟醸香に続き、パイナップルや梨のようなフルーティーなアロマ。苦みは控えめに設計し、酵母とホップの果実感を存分に楽しめます。さらに米を使用することで味わいにシャープなキレが加わっています。
グラスに注ぐと濃色。注いでいるタイミングから、ビールとは違う、日本酒由来の甘い香りを感じます。一口飲んだ瞬間「うまっ」という声が漏れてしまいましたが、口当たりはやわらかく、甘い青リンゴやパイナップルのような香りを感じ、ほのかに苦みも感じます。後口の余韻には日本酒を感じますが、キレがあるので、またすぐに飲み進めたくなる味わい。お食事、特に和食にも合う味わいですが、ゆったりとした自分時間のお供にも最適な一杯です。
『Hoppy Hour』

OUR BREWINGのフラッグシップ3種のうちのひとつである「Hoppy Hour」。ビアスタイルはコールドIPA。International Beer Cup 2024で金賞を受賞しています。日本はもちろん世界中で親しまれてきたラガーの製法にドライホッピングを重ね、クラシックとモダンが同居する味わいに。ラガーらしい清涼感に、米とブドウ糖で加えたドライなキレが合わさり、ホップの表情がよりクリアに立ち上がります。原料の一部には、福井県産コシヒカリと福井県産六条大麦麦芽を使用しています。
グラスに注ぐと、淡いゴールドの液色。注いでいる瞬間から、ネルソンソーヴィンホップの香りがふわっと立ちます。一口飲むと、ドライで爽快な口当たりにホップの香りが口いっぱいに広がって、するすると進みます。心地よい苦みの余韻も感じる、もう一口飲みたいという欲に駆られる一杯!
また、定番3種をつくった理由について伺いました。
岡田さん「ブルワーたちの基準になるビールをつくりたかったんです。僕らの醸造スキルを上げるため、前の醸造と比べてこう変わったとか改善した部分など、そういった積み上げができるのが定番だなと思ったんです」

岡田さん「じつは定番3種は、毎回微妙にレシピを変えながらつくっているんです。また、「Hoppy Hour」と「Magic Flavour」は、時々複数種類使うこともありますが、基本的にシングルホップ(一種類だけのホップでビールをつくること)でつくっています。“使っているホップはこういう香りがする”っていうものを僕らの知見として貯めておきたいということもありますし、ビール好きな方も、毎回シングルホップだけど種類を変えていることで、違った楽しみ方ができるかなと思っているのもあります。逆に「Four Dimensions」はペールエールですが、モルトの構成をちょっとずつ変えています」
また、パッケージを見ると目を引くのが、3人の人物です。

岡田さん「コミュニケーションをとるのは人。そのため、人をデザインに組み込みました。「Hoppy Hour」はアクティブな若者。お米を使っているので、アジアの方をイメージしています」

岡田さん「Magic Flavour」はヘイジーIPAで、モダンなスタイル。革新的なイメージの女性をイメージしています」

岡田さん「Four Dimensions」は伝統的なスタイルなので、英国紳士をイメージしています」
よく見ると、どのビール名にも「our」が入っています。パッケージはもちろん、何度飲んでも新しい発見がいくつも出てくる、細部にまで考え抜かれた定番3種。
OUR BREWINGの軸となるビールは、定期的に飲みたくなる味わいです。
引き算の真摯なおいしさを

最後に今後の展望について伺いました。
岡田さん「ビールは、原料の組み合わせが無限で飽きない面白さがあると思います。それに、ビールのスタイルの多様さも良いなと思うと同時に、僕自身救われた部分もあります。だからこそ、ビールづくりを通して多様性を担保しながら、いろんなバックグラウンドを持った人が楽しめる場になれたらと思っていますね。まだまだ1年半と若いブルワリーとして、より多くの方に知っていただけるよう良いビールをつくり続けて、たくさんの方に飲んでもらえたらと思います。今やれることを粛々と続けて、『好き』と言ってくださる方を増やしていきたいですね」

化石の眠る大地の上で、今この瞬間も新しい一杯が生まれています。
王道のクラシックも、Sake IPAのような新鮮な香りも、共通しているのは「シンプルにおいしい」こと。
引き算で整えた設計により、よりビールの芯が際立ち、嘘がつけない味わいに挑戦される姿勢に脱帽するとともに、飲んでみると、その味わいの真摯さに加え、香りと味わいのバランスの良さを鼻と口いっぱいに感じるはずです。
そんな真っ直ぐなビールは、多様な背景の人を受け止めてくれ、会話を生んでくれます。
福井の玄関口で、「好き」がまたひとつ増えるような、わくわくと高揚感を感じられるビールをぜひ。
OUR BREWING TAPROOM
〇住所:〒910-0006 福井県福井市中央1丁目3−5 FUKUMACHI BLOCK 1F MINIE(Googleマップ)
〇アクセス:福井駅より徒歩3分
〇営業時間:
【平日】12:00〜23:00(L.O.22:30)
【土日祝】11:00〜23:00(L.O.22:30)
〇定休日:なし
〇決済方法:クレジットカード、電子マネー、QRコード、現金
〇テイクアウト・グラウラー販売:有
〇HP:https://ourbrewing.com/
〇Instagram:https://www.instagram.com/ourbrewing/

お酒は二十歳になってから。
