Bar 【東京・東十条】6人のチームで醸す“美味しい時間”を味わえる、Let's Beer Worksに行ってきた

2024/04/24

好きこそものの上手なれ

そんな言葉をそのまま体現したようなブルワリーの小さなタップルームが、東京・東十条に週末限定で現れます

そこには「ビールが好き!」という共通点で出会った、年齢も仕事も違う6人が集結して楽しく醸すビールと、彼らのキラキラとした笑い声が溢れています。

今回は、2020年3月にオープンした「Let's Beer Works」にお邪魔しました。



週末に出現するテントの先のタップルーム


下町の風情漂う穏やかな商店街が駅前に広がる東十条。昔ながらの酒場からお洒落なお店まで、酒飲みなら一度は訪れたい魅力がたっぷりな街。


そんな商店街から少し離れた住宅地の中に、土日だけ突如テントが出現します。それが、今回お邪魔した「Let's Beer Works」


拳を突き上げるマークの看板にワクワクしつつ中を覗くと…


テントの中には、外の日差しを感じながらビールを飲めるスペースが。このスペースでは、散歩途中のお子様連れやペット連れの方々が、ちょっとした休憩にビールを楽しむことが多いそう。


店内に入ると、奥の醸造スペースを見ながら飲める特等席があったり、1人でもゆっくりと楽しめるカウンターがあったり。


こじんまりとしている店内だからこそ、醸造スペースの片隅で飲んでいるような贅沢な気分を味わえます。


グラウラーや、ブルワリーの方とお揃いのTシャツなどの、ついつい欲しくなってしまうお洒落なオリジナルグッズも。


そしてなんといってもお店の1番の特徴は、スタッフが明るい笑顔でお出迎えしてくれること。

そんなLet's Beer Worksは、なんと元は全く知らない者同志だった6人が「ビールが大好き」という想いの元で出会い、意気投合してできたブルワリーなのです。

Let' Beer Worksのメンバー。写真左から 小野保さん、阿川裕之さん、阿川裕子さん(中央上段)、青柳遊大さん(中央下段)、中山淳さん、西山郁夫さん(写真不在)

代表は、女性の阿川裕子さんブルワーは3名いて、裕子さんの旦那さんである阿川裕之さんと、小野保さん(ヘッドブルワー)青柳遊大さん。さらに、タップルームの案内人&カンニング(缶への充填)職人の中山淳さん、最年長でブルワリーのアドバイザーである西山郁夫さんの合わせて6人で、1つのチームです。年齢も仕事も全く違う6人の出会いは、ビールのワークショップ(勉強会)だったのだとか。

また、皆さんそれぞれ特技を持っていて、Let' Beer Worksのあれこれはビールのこと以外も全て自分たちの手で行っています

例えば、愛称「TIM(ティム)」ことヘ
ッドブルワーの小野さんは、デザイナーの仕事もしていて、ブルワリーのロゴやラベルを全て担当。

物作りが大好きな裕之さんは、店頭のテントや店内の扉・梯子・ディスプレイ用のハンガーラックなどプロ並みの技術でなんでも作ってしまう職人気質。

さらに、この日は不在だった西山さんは、ご自身のホップ畑を持っているのだとか!西山さんが育てたホップを使ったビールが醸造される日も近いかもしれません。


なんでも自分たちの手でやってしまう、器用な6人。何もない状態からのブルワリー造りでしたが、出来る限り自分たちの手で造るという信念を持って前に進み、友人たちの協力も得ながら、タンクの導入や醸造スペースのセッティングなど、全て自分たちで行ったのだとか。

美しく効率的に作られている醸造スペースやおしゃれで心地良い空間となってるタップルームを、手塩にかけて育てた我が子のように感慨深い目でみるブルワリーの皆さん。醸造スペースのそこかしこにある思い出話を聞いていると、このブルワリーへの愛を感じました。

そんな6人が一丸となって醸造するビールをご紹介します。


味で、ネーミングで、デザインで…ビールに広がる物語を堪能する


お店では、常時約8種類ほどのビールがタップで楽しめます。

また、定番は設けておらず次から次へと新作が登場するので、毎週通っても新しいビールに出会えるのが嬉しい。


個性的なネーミング、おしゃれなデザイン、魅力的な説明文にどれにしようか迷ってしまう…そんな時は150mlのチューリップグラスで楽しめる、自由に選べるフライト(飲み比べ)3杯セットがおすすめ。

今回はフライトを含め、この日繋がっていた4種のビールを堪能しました。


『BB Pale ale』(Pint 税込1,100円、Half 税込700円)
鼻を近づけると柑橘系の香りがする「BB Pale ale」。一口飲むと柑橘が爽やかに口の中に広がり、穏やかなコクのあるモルトの風味と調和します。するとガッツリとした苦みも漂い、深みを残します。

「BB」とは「Biter Boosted」の略で、しっかり苦みのあるクラシカルなアメリカンペールエールスタイル。口いっぱいにホップが弾けます。


『フライト(飲み比べ)3杯セット』(ビール種により1,300円前後/各150ml)

今回は、黄色くが霞み輝く『HEFE WEISSE』(左)、発色のいい赤がとても美しい『As Your Wish』(中央)、ポップなクリームイエローが可愛い『UMM HMM ンー↗ フー↘』(右)の3種をチョイス。

小麦麦芽をたっぷりと70%使用した、南ドイツ伝統のスタイルが楽しめる「HEFE WEISSE」。飲む前から優しいバナナ香が漂ってきます。口当たりはすっきりと感じつつ、すぐにバナナの香りがやってきて、小麦のコクに包まれると余韻には柔らかいヴァイツェンの優しさが残ります。

ラベルには、青白く今にも溶けて消えてしまいそうな美しく繊細なライオンが。南ドイツ・バイエルン州の紋章に描かれたシンボルのライオンをモチーフにしたのだそう。澄み渡る繊細な1杯に、ぴったりのデザイン。


発色のいい赤がとっても可愛い見た目でありながら、刺激的な甘酸っぱい香りがするサワーIPAの「As Your Wish」。発酵終了後にラズベリーとクランベリーを入れて醸造しています。一口飲むと口いっぱいに広がる、ベリー系の甘酸っぱさ。サワービール好きにはたまらない酸味。IPAらしい優しい苦みも広がり、フルーツとの調和はお見事。

ラベルは、飲んだ瞬間に思い浮かんだというベリーをまとった「赤ずきんちゃん」がモチーフです。

UMM HMM
5種類のホップをブレンドした、リッチなHazy Double IPA「UMM HMM」。クリームイエローのビールから、注いだ瞬間に南国の風が漂います。グビッと飲むと、トロピカルフルーツのような甘味が。するとすぐにココナッツがふわっと香り、バニラのようなコクも感じられます。トロっとジューシーでクリーミーな1杯。

独特なビール名は、クエンティン・タランティーノ監督の映画『パルプ・フィクション』が由来。ギャングがお金を取り立てに行った家にいた若造が、「これはおいしいね」という意味で、ハンバーガーを「ンーフー」と食べるシーンがあり、そこから取って名付けたのだそう。

そして、ラベルの月は、ブルワーがビールを飲んで感じた「ホップがムンムン香るなと思って、そこからムンムン…ムーンで月。」という、ちょっとしたいたずら心から。このホップの香りが月まで届くようにという願いも込められています。



Let's Beer Worksの6人のメンバーのうち、ブルワーは3人いますが、各々でレシピを作成し、基本的に1人が1つのビールを造っているので、ブルワーそれぞれの醸すビールには個性が反映されています

ヘッドブルワーの小野さんは、持ち前の感性をビールに映し出す天才肌で、特にサワーエールが大好き。物作りが得意な阿川裕之さんは、目の奥に静かに情熱を宿すブルワーで、スタウトが大好き。そして青柳さんは、アメリカンブルワーズギルドで学び、実際にアメリカでの醸造経験もあるという圧倒的な知識を活かした超理論派ブルワー。自らが立ち上げた新宿にある「新月ビア」でビールを造りながら、Let's Beer Worksのブルワーとマネジメントも行っています。

このような性格が味わいに出ているため、「推しブルワー」がいるお客さんもいるそう。ぜひ通い詰めてビールを飲みながら推しを見つけたいところ。

また、ビールの味わいだけでなく、ネーミングやデザインにも面白い裏話が込められているので、是非お店に立ち寄った際には聞いてみてください。


ビールと一緒に楽しめる、ちょっとしたおつまみのメニューもあります。

今回は『本日のシェフの気まぐれおつまみ』(税込200円)を2つ注文してみました。すると出てきたのは、アテに最高な『茄子の焼浸し』と、焼き加減にそそられる『ベイクドチーズケーキ』。しかも味はとっても本格的で、どちらもメンバーの手作りというから驚きです。

持ち込みもOK なので、ビールとお食事のペアリングも楽しみたいという方は、近くの東十条商店街でおつまみを調達してビールと合わせるのもいいかも(持ち込んだ物のゴミは各自持ち帰り)。

週末限定のタップルームには行けない…という方は、公式通販サイトで缶の購入もできます。


「美味しい、楽しい、心地いい」理由とは


ワクワクするラベルやネーミングからも、ビールを楽しんで造っていることを感じるLet's Beer Worksのコンセプトは「美味しい、楽しい、心地いい

このコンセプトを元に、Let's Beer Worksの魅力や想いを紐解いていきたいと思います。


まず「美味しい」は、ビール好きなメンバー6人の妥協のない徹底的なこだわり。

3人のブルワーが常に情報を収集しレシピを考えるのはもちろん、そのブルワーが造ったビールを最高の状態で提供したいという想いで、缶や樽の酸素量を計測できるDO測定器を導入しました。

缶に入ると中の状態が分かりにくくなるため、酸素量を計測できるDO測定器を導入しました。23区内のブルワリーでは初導入だったみたいです。高額でしたが、缶でも私たちがタップから注いで手渡しする位の状態のものを販売したくて。」と、裕子さん。

おいしいビールを最高の状態で飲んでもらえるよう、品質管理は徹底的に。そしてこの決断は、お客様への想いばかりでなく、ブルワーへの想いも込められていました。

この機械で計測し品質が保証されていることが分かれば、ブルワーも納得して次へ進めます。ブルワーにはビール造りに専念して欲しいんです。

週末だけのオープンと言っても、常にビール造りのことを考えているという3人のブルワー。“美味しい”へのこだわりは、お互いへの思いやりでもあるのです。


次に「楽しい」
「ビールは楽しい」という気持ちを忘れず、遊ぶように楽しみながらビールを造るという6人。現在も平日は違う仕事をしているため、タップルームの営業は週末だけになります。だからこそ、「自分たちが飲みたいビールを思い切り!」という気持ちで醸造しているのだそう。羽を伸ばした遊びゴコロ満載のビールを醸造できるというのは、Let’s Beer Worksの強み。

それは「Let's Beer Works」という店名からも感じることができますし、それぞれのビールからも6人の「楽しい」が溢れています。

また裕之さんは語ります。

美味しいビールを造るだけじゃなくて、ビールを通じたコミュニティーの場を造りたい。そこにはビールの味わいを上回るほどの嬉しさがあって、そうした場での楽しさがとても大事。

その想いは笑い声が溢れるタップルームに居るとヒシヒシと感じます。


そして最後の「心地いい」

これは、「楽しい」が積み重なり、いつしかそこが自分の「心地いい」居場所となっていくような、「楽しい」の延長線上の一段階踏み込んだ部分にある感情のような気がします。

私がタップルームでお話を伺っていて1番感じたのは「ここにずっといたいな」ということでした。それはブルワリーのみなさんの良い意味で肩の力が抜けている、真剣だけど業務として仕事をしていない様子から、ここに来れば何も考えず愛想笑いをせずにゆるっと出来る気配を感じたから。

平日は違う仕事をする6人だからこそ、お客さんとの距離感が近く、同じ気持ちでビールを楽しめる。また6人自身の関係性もとてもフラットで、冗談を言い合いいじり合いながらも、根底にある信頼とリスペクトを感じました。
そうした6人のスタンスや関係性が、Let's Beer Worksが持つ唯一無二の心地よさの元なのかもしれません。


地元に愛されて


実は東十条は、誰も縁がなかった土地。しかし元々サッシ屋さんだったというこの物件の天井の高さや、この街の昔ながらの商店街があれば新しいマンションもあったり、様々な国籍の方がいたりと良い意味での「カオス」な雰囲気に惹かれたという裕子さん。

混沌としたところから新しいものって生まれてくるよねって。それでもう決めました。


オープンしてすぐに緊急事態宣言出され、タップルームの閉鎖を余儀なくされますが、お店の外に販売スペースを設けてビールを販売することで、たくさんの人たちにLet’s Beer Worksのビールを知ってもらうように努めたのだそう。その期間も地元の方たちに支えられたといいます。

最初コロナに入った時はどうしようと思いましたが、地元の方がビールを買ってくれて、そのうち店の前でビール購入するための列が出来るようになって。列になってまでビールを購入してくれる様子にすごく感動しました。

こうして多くの地元民やクラフトビール好きに愛されるブルワリーになったLet's Beer Worksは、2024年3月21日に4周年を迎えました。


ずっとやりたかった熟成ビールを


これからのLet' Beer Worksについて話を伺うと、裕子さんから重大発表が。

実は、現在のLet's Beer Workのランナップとは別に『Time Flow』という熟成型のビールをメインにするラインを発表する予定なんです。※取材時はリリース前だったため「予定」と記載

フレッシュなビールだけでなく、時間をかけたビールの良さも伝えていきたいという想いを込め、熟成型のビールを周年を迎える2024年3月下旬頃にリリースしました。

第一弾は1年以上熟成した『インペリアルサワーエール』、そして同時期にリリースする第二弾は『バーレーワイン』です。今回なんと特別に、取材時にはリリース前だった「バーレーワイン」を試飲させていただくことに。


グラスに注がれた瞬間から漂う、甘く刺激的なシナモンの香り。渋いブラウンの色に見惚れながら一口飲むと、熟成した深いコクと甘み、シナモンの香りが広がりますが、ほのかに柑橘の爽やかさがやってくるので、くどさはなくすっきりと飲み干せてしまいました。

これは去年の5月に醸造しました。バレル樽はどうしてもここでは出来ないのでアメリカンオークのウッドチップを使って。またドライのオレンジを漬け込むことで爽やかさもプラスしました。

アルコール度数12.5%と高めでありながら、スッと入ってくるので飲む手が止まらなくなってしまいました。

「Time Flow」シリーズは不定期でリリースされ、750mLの瓶と樽での販売になる予定です。お楽しみに!


先週を癒し、来週のエネルギーをチャージ


最後に、裕之さんが「こっちに見て欲しいものがあるんです」と醸造スペースの奥に案内してくれました。そこにはペンキで塗られた「Let's Beer Works」のロゴが。

このロゴのペインティングは、プロジェクターで壁にロゴを映し出しながら、泊まりがけで夜中まで皆で作業して完成させたんです。

自分たちや友人の手で作り上げたブルワリーは、1つ1つに様々な思い出があり、皆で壁に塗った「Let's Beer Works」は、その象徴のような存在です。

スタートメンバーの6人が誰一人欠けることなく4周年を迎えたLet's Beer Works。

週末の東十条には、6人の「楽しい」が詰まった美味しいビールと心地良い空間が待っています。

 Let's Beer Works

〇住所:東京都北区東十条2-15-7
〇交通:JR京浜東北線/東十条駅から徒歩2分、JR埼京線/十条駅から徒歩10分、東京メトロ南北線/王子神谷駅から11分
〇営業時間:土日のみ 13:00~19:00(祝日は不定休)
〇席:カウンター、テラス席(屋根あり)
〇支払い形式:現金、クレジットカード、電子マネー
〇喫煙・禁煙:禁煙
〇HP:https://lets.beer/
〇Instagram:https://www.instagram.com/letsbeerworks
〇Facebook:https://www.facebook.com/lets.beer.works/

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中林麻依 ライター

「亀がいる、ビールがある、多分そこには私がいる」。クサガメの甲羅♂に晩酌のお相手をしていただき、ビールに浮かぶ泡沫に己を案じる。甲羅とビールと太宰治が、私を生かしてくれている。週末は赤提灯に誘われて、酒場で夜が更けていく…。

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