長野県松本市には、地元の人達を愛し、地元の人達に愛されるクラフトブルワリーがあります。その名前は「松本ブルワリー」。企業コンセプトを「あなたにAle(Yell/エール)を、地域に潤いを!」と掲げるマイクロブルワリーです。7割が松本市内で消費されるということからも、その相思相愛ぶりがわかります。
【目次】
・松本の魅力がぎゅっと詰まったビールをつくる“松本ブルワリー”
・松本産のビールがないなら、造ってしまおう。松本ブルワリーの始まり
・設立から1年半、待ち望まれていた自社ブルワリー
・50箇所以上のブルワリーを視察!細部まで徹底的にこだわった野溝醸造所
・直営1号店は小さなタップルーム
・テラス席からの展望も楽しめる本町店
・地元・松本の人達と共にあるブルワリー
松本の魅力がぎゅっと詰まったビールをつくる“松本ブルワリー”
松本ブルワリーは、2016年に設立された松本市初のクラフトブルワリーです。設立当初から“松ブル”と呼ばれ、地元の人だけでなく多くの方に親しまれています。北アルプスや美ヶ原の山々を水源とした水や、地元産のホップや麦、そして果物などの農作物を使用するなど、地元の魅力がぎゅっと詰まったビールを醸造しています。
ラインナップには、ビール本来の“麦”の風味をゆっくりと味わうことができる『MATSUMOTO Traditional Bitter』、フルーティーなアロマと豊かな味わいが特徴の『MATSUMOTO Awesome! Pale Ale』、歴史ある松本城に敬意を表して造られた『MATSUMOTO Castle Stout』などの定番ビールから、季節ごとに発売される限定ビールがあります。
松本産のビールがないなら、造ってしまおう。松本ブルワリーの始まり
世界中から音楽ファンが集う「サイトウ・キネン・フェスティバル松本(現セイジ・オザワ 松本フェスティバル)」。このフェスティバルで松本ブルワリーの代表取締役の林幸一さんと常務取締役の福澤崇浩さんは出会いました。その時、福澤さんはサイトウ・キネン・フェスティバル松本のボランティア団体の役員で、林さんは松本市内にオーセンティックバーとアイリッシュパブを営む地元でも有名なバーテンダー。福澤さんが林さんに、フェスティバルでカクテルを提供したいと相談したことが始まりでした。フェスティバルに設置された特設バーで、信州のクラフトビールを求めて並ぶ人の列を見て、その人気ぶりに林さんは驚いたそう。お客さん達の笑顔を見て、改めて「信州のビールっておいしいんだな」と思ったのだとか。
「ビールで地元を盛り上げたい!」
林さんと福澤さんは同じ思いを持つ仲間とともに、2014年に「ビアフェス信州・クラフトビールフェスティバル in 松本」を開催しました。初開催時は1万6000人が会場である松本城公園を訪れ、翌年には2万人を超える人が参加する大きな会に。ビアフェスは盛況でしたが、お客さんから「松本産のビールはないの?」と質問されることが多く、それが心残りになったそう。
「松本産のビールがないなら、造ろう!」
そう決めて、2016年1月12日に株式会社松本ブルワリーを設立しました。
北アルプスや美ヶ原の山々を水源とした、どこまでも清らかな水を仕込み水として、さらには地元産のホップや麦、果物などの農作物を使用した、この地域ならではの魅力を“ぎゅっ”と詰め込んだ「テロワール」を感じてもらえるようなビールを心を込めて造りたい。
目指すは「愛され度」世界一のビール!
設立から1年半、待ち望まれていた自社ブルワリー
会社設立以来、自社ブルワリーを建設する場所を探しながら、県内外の醸造所に製造を依頼し、委託醸造でオリジナルビールを造っていました。林さん達は各所の醸造所に出向きビールを仕込み、完成したビールを松本に運び、松本市内限定で販売。委託醸造ということもあり、ビールを造る量が安定せず、夏場などビールが多く飲まれる時期には欠品することもあり、一刻も早い自社ブルワリーの建設が望まれていました。そして、会社設立から1年半が経った2017年7月16日。ようやくブルワリーを建設する場所が見つかりました。これで「松本産のビールはありますか?」に胸を張って「あります!」と答えることができると、本当に嬉しかったそう。
この喜びを生涯忘れることなく、松本で「うまいビール」を醸していく。そして、きちんとした商品を届けるのが自分達の使命であると心に刻み、ある程度の規模の設備が必要だと考えたそう。
醸造アドバイザーにアメリカ中西部マディソンで「グレートデーン」醸造所を経営するロバート・ロブレグリオさん(ロブさん)を迎え、醸造設備やタンクなどの設備にも徹底的にこだわりました。
そんなこだわりが詰まったブルワリーは2018年3月に小規模な醸造システムでの醸造をスタート、6月には醸造所が完成、同月18日の竣工式の後に支援者とともに初仕込みが行われました。
50箇所以上のブルワリーを視察!細部まで徹底的にこだわった野溝醸造所
ブルワリーは、松本の中心市街地から南へ5km、北アルプスの麗、野溝西に構えました。460坪の敷地は元はタイヤの倉庫だったそう。120坪の建屋には、動線を考えて、材料の倉庫、醸造設備、発酵タンク、貯酒タンク、瓶詰めの機械、出荷前ビールの保管庫が配置されています。
国内は20箇所、海外は20~30箇所のブルワリーを視察し、さまざまなブルワーさんから話しを聞き、どのような設備を導入し、どのように設置するのか、どのくらいの生産量が妥当なのかなど、検討を重ね進めたそう。
麦芽粉砕機もアメリカ・シカゴの工場を視察した上で機種を決定。この粉砕機は粉砕刃がとても重く、安定して麦芽を粉砕することができるそう。麦芽の粉砕具合は、糖化工程やろ過工程に影響するためとても重要です。何度も調整を行い、ベストな粉砕具合をロブさんと決めました。
麦芽は、主にカナダ産、イギリス産、ドイツ産を使用。ビアスタイルに合うものを選び、いろいろな麦芽を使っています。その他、ボヘミアンスタイルのピルスナー醸造時にはチェコ産麦芽を、さらには松本産麦芽もあるそう。
松本市内は北アルプスや美ヶ原の山々を水源とし、たくさんの湧水群に恵まれた土地です。そんな清らかな水を仕込み水に使用。飲んでみると、無味無臭ですっと喉に流れ落ちるような感じがします。ビアスタイルにより水質調整はしますが、この土地のビールになってほしいと考え、できる限り調整は行わない方針とのこと。
米国シカゴ製の醸造システム(ABT社)を日本で初めて導入しました。左側が煮沸釜兼ワールプール、右側が糖化釜兼ろ過槽、中央はコントロールパネル。
1回の仕込み量は15バレル(1,800L)、年間の醸造量は最大で120KL。ヘッドブルワーの勝山さんは、ホップを効かせたビールでなはく、ホップと麦のバランスを大事にしたビール造りを心掛けているそう。
トラブル発生時に対応できるように弁は手動にし、コントロールパネル、釜の間のスペースやブルーハウスの高さなどは、清掃や作業がしやすいように全てカスタマイズしました。
完成した麦汁は一気に冷やされ、クールゾーンにある発酵タンクに移されます。5基の発酵タンク(1,800L)、2基の貯酒タンク(1,800L)、そして1,000Lの発酵兼貯酒タンクが1基あります。
発酵、貯酒が終わると、瓶や樽に詰めてお客様の元に届けられます。こちらはボトリングシステムの一部。ここ空き瓶を並べると、ラベルを貼り、瓶詰め機と打栓機に空き瓶が送られます。
1時間で800本を瓶詰めすることができるイタリア製のICフィリング。値段はなんとフェラーリ1台分!「瓶詰めしてくれるから、フェラーリよりとってもかわいいです」と笑う林さん。
冷蔵保管庫には、飲食店などに提供される金属樽や瓶ビールが出荷されるのを待っています。
清潔が保たれるように、床やしっかりした排水溝を設置。今後の増設を見越した発酵タンクの設置場所を考えるなど、計画性をもって設計されたことが随所にうかがえます。今後の展開も気になりますね。
続いて、こだわりの詰まったブルワリーで造られたビールがたのしめる直営店にも行ってきました。
直営1号店は小さなタップルーム
2016年4月にオープンした直営店「タップルーム中町店」は、松本城へのアクセスが便利な中町通りにあります。
タップ数は5つで、もちろん松本ブルワリーのビールが提供されています。
ワンフロア5坪と小さな店内は、1階はカウンター席で海外のパブのような雰囲気。レトロなステンドグラスが素敵な2階にはテーブル席が用意されています。
中町店は毎日13時からオープンしています。プラカップでの持ち帰りも可能。街歩きのお供にいかがでしょうか。
テラス席からの展望も楽しめる本町店
中町店から徒歩で5分の場所にある本町店は、信毎メディアガーデンの3Fにあります。
タップ数は10個あり、醸造所の配管をあしらったタップタワーが印象的。
中町店では、地元の食材を使ったピザやピクルスなどの料理が提供されています。焼きたてのピザと冷えたビールの贅沢なペアリングが楽しめますね。
テラス席からは松本市街と北アルプスを望むことができます。さわやかな風を感じながらビールを飲む時間は最高のひととき。
キャップ、Tシャツ、バッグ、栓抜き、キーホルダー、ステッカーなど、オリジナルグッズが販売されいてます。松本に来たお土産として、どれも欲しくなっちゃいますね。
本町店は11時30分からオープン。お得なピザとビールのセットもあります。ビール好きで笑顔が素敵なスタッフさん達が、皆さんの来店を待っていますよ。
地元・松本の人達と共にあるブルワリー
最後に、代表の林さんにお話を伺いました。
松本ブルワリーは設立以来、地元の人達に支えられてきました。自社ブルワリーができ、醸造できる量を増やすことができるようになりましたが、やみくもに量産しようとは考えていません。これからも地元の人達や松本を訪れる多くの方に楽しんでもらうためにビールを造っていくつもりです。さらには、私達のビールを通じて全国のクラフトビールファンの方に松本のことを知ってもらい、「松本に行ってみよう」と思ってもらえれば嬉しいですね。
地元を愛する人達が、心を込めて丁寧に造るクラフトビール。せっかくなので現地で味わってみたいところ。ですが、今は現地に行くことは難しい方もいらっしゃるでしょう。現地に行けるその日までは、通販サイトで購入したり、お近くのビアパブで飲んだりして、松本に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。
松本ブルワリー
〇本社:長野県松本市中央3-4-21
◯公式HP:https://matsu-brew.com/
◯Twitter:@matsubrew2
◯Instagram:matsumoto.brewery
◯Facebook:@matsu.brew
BEER ON TAPで情報をみる!