
こんにちは!旅とビールが大好き、ブラジル在住Ayumiです。
普段は、ブラジルの比較的大都市でサラリーマン生活をしている私とパートナー。せかせかした日常を離れてたまには自然の中で週末をゆっくり過ごしたいね、という話になり、さっそく Google Maps で目的地を探していたところ、偶然興味深いお宿を発見しました。
Google Maps によると、そこではお宿オリジナルのビールを提供しており、しかもなんと「ビール風呂」なるものを堪能できるとか。これは行くでしょ!と即決。予約をして実際に行ってきたので、その様子をご紹介します。
どんなお宿?

お宿の名前は「A Mi Manera Pousada(ア・ミ・マネラ・ポウザーダ)」。ポウザーダとはポルトガル語でペンション等の小規模宿泊施設を指します。
ちなみに、ブラジルにある宿泊施設を大きく分類すると、上流階級向けに特化したゴージャスリゾート、コスパ重視の宿、その中間とありますが、「オリジナルビールを提供する」「ビール風呂がある」といった、日本のようにコンセプトを掲げた宿泊施設はとても珍しいです。

ここ「A Mi Manera Pousada」は、我々の住む州都から車で約1時間、Brumadinho(ブルマジーニョ)市の郊外にあり、自然林や舗装されていない赤土の道が続き、朝には都会では聞けない、珍しい野鳥の鳴き声が響くような自然に囲まれています。

全室8部屋と、静かな環境でゆっくりと過ごせます。

そしてここが、お宿の中にあるレストラン。ここでオリジナルビールが飲めるとのことで、到着するや否や早速お食事と共にいただいてきました。
提供されるお宿オリジナルのビール「イングリッシュストロングエール」

この宿では、女性オーナーであるYvine(イヴィニ)さんがレシピを考案した宿オリジナルのイングリッシュストロングエール『Getto(ゲットー)』を提供しています。味わえるのはこのお宿でのみ。外販も一切していないようです。
なぜ1種類しか造らないのか、そしてどんな味なのか、興味津々の我々は早速ビールを注文。今回は瓶ビールでいただきましたが、時期によってはタップ(生ビール)での提供もあるそうです。

ちなみに、現在イヴィニさんは海外に在住しているため、1泊2日の滞在中は、宿を切り盛りしているTânia(タニア)さん、Deborah(デボラ)さん母娘が暖かくかつ細やかなサービスを提供くださいました。

まずはカラメルと紅茶が混じったような香りを楽しんでから一口飲んでみると、ハっとしました。これはゆっくり時間をかけて飲みたいやつだ!
ラガーの喉越し重視のビールとは一線を画す、ディープでふわっと、じわっと広がる芳醇な香りとその複雑な味。喉を通った後も口内に残る麦芽由来のほんのりとした甘みと苦み。

大自然を眺めながら、日々の喧騒も忘れ、スマホも手放して、ただただゆっくりと味わいながら贅沢な時間を過ごすのに最適なビールでした。ここでしか飲めないという貴重性が、さらに「Getto」の美味しさと愛おしさをブーストします!

お宿で提供するお料理は前菜が3種類、そしてメイン料理が6~7種類。前菜に牛肉の煮込み、そしてメインに牛肉ステーキとブルーチーズのリゾットを選びましたがどちらも大正解!濃厚で「Getto」の深みに負けないおつまみでした。ゆっくり飲み、味わい、自然を眺め、鳥の鳴き声を聞く。最高の週末でした。

また、オリジナルビール「Getto」だけではなく、同じBrumadinho(ブルマジーニョ)市にある別のブリュワリーBebrumの『Pilsner』と『IPA』もタップで提供しています。Bebrumでは、化学添加物を一切使わず、自然の原料と地元の天然ミネラル水を使用して造られているそう。
「Pilsner」はすっきりしながらも喉越し重視というよりは麦芽の味わいを舌で確認しながら飲みたい。そんな記憶に残るビールでした。

「IPA」は比較的苦み控えめで優しく、温度が上がると柑橘の華やかな香りが匂いたつのでゆっくり飲みたくなる。これも自然の中でのんびりまったりに最適なビールでした。

ちなみに、ここ「A Mi Manera Pousada」では朝食からビールが飲めます。朝食時はブラジルの朝食ではおなじみ、キャッサバ粉とチーズでつくるモチモチパン「ポンジケージョ」と、地元の牧場手作りチーズに合わせてビールを堪能しました。「Getto」は、濃厚なチーズにこれまたすっと寄り添えるビール。すっかりその魅力にはまってしまいました。
ビール風呂を堪能!

この宿のもう1つの目玉は、「ビール風呂」。バスタブ付のお部屋予約者限定で、1回150レアル(=日本円で約4.100円)で利用することができます。

ビール風呂は、麦芽・ホップ・そして「Getto」をバスタブに入れ、温度調整したお湯を入れて完成!ほのかにビールの香りが漂い、アルコールに弱い方はこの香りだけで酔ってしまうかも。

宿泊時(7月末)はブラジルは冬にあたり、気温も15度前後と(ブラジルにしては)かなり冷え込んでいましたが、ビール風呂に入った後は、冷え性の私でもしばらく身体がポカポカのままでした。ビール風呂の効能、恐るべし!

ビールのお宿ですから、もちろん写真のように、ビール片手にビール風呂を楽しめます。お部屋のバスタブで準備してもらえるので、気兼ねなく好きなだけゆっくりできるのも最高ですよね。
オーナーに話を聞いてみた

すっかりお宿の大ファンになった私。後日、オーナーのイヴィニさんに詳しいお話を伺いました。

「A Mi Manera Pousada」は2012年7月に開業。宿の営業が軌道に乗るまでに5年の歳月がかかりました。
しかし、2019年1月、宿の近くにある鉱山会社のテーリングダムが決壊、住民を多く含む272名が命を落とし、近隣地域が泥濘に埋まるというブラジルでも最も悲惨な事故の1つが発生。宿の営業は大打撃を受けたといいます。
さらに2020年にはパンデミックの影響で予約が激減と、決して順調な歩みではなかったのだそう。

しかし、彼女の「美味しいビールと食事、自然の中でリラックスできる場所と人との出会いを提供する宿でありたい」という思いは強く、現在では週末は予約が立て込むほど人気の宿になりました。

イヴィニさん「私はいつも『イノベーション』を考えているの。自家製のビールを持つ宿なんて他にはないでしょ。これこそイノベーションよね(笑)ビールについては、オランダに10年間住んでいたときに現地でコースを受け、その経験からヨーロッパ風のビールを作りました。スタイルは『イングリッシュ・ストロングエール』。多くの人はアメリカンタイプのビールを作りますが、私はオランダに住んでいた経験を反映させ、自分の物語に合ったビールを作りたかったんです」

ところで、なぜ1種類のビールしか提供しないのか。私の疑問に対し、彼女はこのように答えてくれました。
イヴィニさん「私はプロのブルワーという意識がなくて、要は好奇心旺盛な人間なの。宿とレストラン経営で多忙な中、なにか1つだけ、オリジナルでユニークなビールを造ろうと思ったんです。それで、オリジナルのビールレシピを造り、同じ市内のブリュワリー「Bebrum」に製造を委託しています。今のところ他のビールを作る予定はありません。なぜなら他のスタイルは誰でも作っているから」

いつも新しいことに挑戦しようとしている彼女。ビール風呂も、何か新しいことを!と調べているうちにチェコのビール風呂について知り、宿で再現したことからスタートしたそう。
ちなみに、ビール風呂を提供する施設はブラジル国内でも非常に珍しく、まだ4軒ほどしかないそう。ビール風呂の効能としては、血行促進・若返り効果・鎮静・殺菌効果などが期待されるとか。

最後にどうしても気になっていたビールの名前、「Getto」について聞いてみました。
イヴィニさん「『Getto(ゲットー)』という名前は、世界中でマイノリティや差別を受けた人々の住む場所を意味しますが、私がこの名前をつけたのは、私たちのポウザーダには一切の偏見や差別を許さないという姿勢を示すためです。」
何度も経営存続の危機に直面しながらも、諦めずにオリジナルでユニークなビールの提供にこだわり、そして同時に「イノベーション」を模索し続けるイヴィニさん。
そんな前向きでパワフルな彼女の生き方とビールへの思いに、同じ女性として、そして同じビール好きとして深く心を打たれました。ビールで繋がったイヴィニさんと「A Mi Manera Pousada」のご縁を、これからも大切にしていくつもりです。
ブラジルに足を運ぶ際は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
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