普段何気なく手にする缶ビール、実はすごい技術が詰まっているものなんです。今回は“ビールの缶”に注目し、ビール缶の歴史やその進化、話題の商品に使われている技術について深堀りしてみました。
「生ジョッキ缶」が話題
最近、ちょっと面白い缶ビールが登場し話題となってます。それがアサヒビール株式会社(以下、アサヒビール)の『アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶』(以下、生ジョッキ缶)。「生ジョッキ缶」は、飲食店のジョッキで飲む樽生ビールのような味わいを体験できる“缶ビール”です。なんと缶のフタがパカッとフルオープンし、フタを開けた直後からきめ細かい泡が自然に発生する日本初※の商品として登場しました。※フルオープンかつ自然発泡する缶を用いた日本初の商品(2020年9月Mintel社製品データベース及びアサヒビール社調べ)
日本初、フタを丸く取り外せる缶ビールが登場すると聞き、一足先に試してみました。飲み口が平らになっていて、手や口を切る心配なし。開栓したらきめ細かい泡が自然発生して、ジョッキみたいにゴクゴク飲めちゃう。こ...これ、とても良いのでは...!?!? pic.twitter.com/ZQ3rdGg5FD
— ビール女子 (@beergirl_net) January 14, 2021
4月6日(火)にコンビニで先行発売され、あちこちで話題になっています。生産が追いつかず、一時出荷停止になる事態に。
実は過去にもフルオープンの缶商品は販売されていて、「覚えてるよ!」という方もいるのでは? 今回、大手ビールメーカー各社に協力を依頼し、過去にあったフルオープンの缶商品を教えていただきました。
過去にあったフルオープンの缶商品
(1)サッポロビール『サッポロカップ<生>』提供:サッポロビール
サッポロビール株式会社(以下、サッポロビール)から1984年3月に発売された「サッポロカップ<生>」は世界初のフルオープンの缶商品でした。銀色を基調とした斬新なデザインで容量は650mlと大瓶よりも大きいサイズ。輸出され北米で人気となりました。(2)アサヒビール『キャンボーイ300』
提供:アサヒビール
1984年3月発売の「キャンボーイ300」は、現在の缶商品より少し細身の缶で容量は300ml。飲み口部分が本体よりも細くなっていますね。(3)サントリー『サントリー生ビール CAN300』『サントリー生ビール CAN400』
提供:サントリービール
サントリービール株式会社(以下、サントリービール)からは1985年に発売されていました。容量はそれぞれ300mlと400mlです。こちらも飲み口部分が本体より細くなっています。提供:サントリービール
特徴的なのは缶の底に付いているアワクリップ。このクリップを2~3回弾いて泡を発生させるもので、発売当時は日本初の商品でした(サントリービール社調べ)。実はすごい!ビール缶の歴史
ひとことで「缶ビール」と言っても、実はすごい進化を遂げているんです。各社の初めての缶ビール登場年を抑えつつ、簡単にビール缶の歴史を振り返ってみましょう。1935年 世界初の缶ビールが登場
世界で初めての缶ビールは、アメリカのクルーガー・ビール社から発売されました。この缶ビールは上部が瓶ビールのように細くなっており王冠で打栓されたもの。
なお、日本でも大日本麦酒株式会社(サッポロビール、アサヒビール、ヱビスビールの前身)が缶ビールの発売を検討していたそうです。結果的には缶や内面塗料による異臭が強く、また瓶ビールに比べて品質面で問題があると断念。戦後、朝日麦酒株式会社(以下、朝日麦酒)として開発を再開し、完成までに9年も費やしたそう。
1958年 日本初の缶ビールが登場
提供:アサヒビール
朝日麦酒が日本で初めての缶ビール『アサヒゴールド』を1958年に発売しました。提供:アサヒビール
この缶ビールは専用の缶切りで開けるタイプ。この後、朝日麦酒に続いて缶切りで開けるタイプの缶ビールが各社から発売されていきます。1959年 サッポロビール初の缶ビールが登場
提供:サッポロビール
1959年に日本麦酒株式会社から発売された『サッポロビール』。缶フタ中央には赤星マーク、缶全体には金色でSの文字があしらわれ、赤星マークと「SAPPORO」の文字がデザインされていました。1960年 キリンビール初の缶ビールが登場
提供:キリンビール
キリンビール株式会社(以下、キリンビール)初の缶ビールは、1960年発売の『缶詰キリンビール』です。缶フタの中央には聖獣(キリン)のマークがあり、白をベースにした缶本体には赤い聖獣と黒文字で「KIRIN」がデザインされていました。世界で初めて缶ビールが登場してから23年、日本初の缶ビールが登場してからは各社看板商品を掲げて缶ビールに参入したんですね。しかし、当時はスチール製の缶だったこともあり、缶切りで開けるのは大変だと不評だったそうです。そんなお客さんの声を受け、上のフタだけアルミ製の缶が登場するなど「開けやすさ」を追求した商品が登場します。
1965年 プルトップ式の缶ビールが登場
提供:アサヒビール
1965年発売の『缶入アサヒ』はプルトップ式で、ツマミ(プルタブ)をひいて口金を缶本体から取り外す方式です。今と違い飲み口はとても狭いですね。提供:キリンビール
同じ年にキリンビールからもプルトップ式が発売されました。1967年 サントリービール初の缶ビールが登場
提供:サントリービール
1963年にビール業界に参入したサントリービール株式会社(以下、サントリービール)。参入後4年で初めての缶ビール『サントリービール<純生>』を発売しました。缶をジョッキに見立てたようなデザインで、泡があふれる様子やグラス表面が結露しているような瑞々しさが印象的。1967年 リングプルトップ式の缶ビールが登場
提供:キリンビール
さらに開けやすさにこだわって開発されたのが「リングプルトップ」です。つまみに指をかけられるようになり、より手軽に開けることができるようになりました。1971年 オールアルミ製の缶ビールが登場
提供:アサヒビール
日本初のオールアルミ缶『アサヒビール<アルミ缶>』がアサヒビールより発売されました。これ以降、軽量で加工しやすく、ビールの品質にも適したアルミ缶が主流になっていきます。1972年 ヱビスビール初の缶ビールが登場
提供:サッポロビール
1972年に缶ビールの『ヱビスビール』が発売されました。ゴールドを基調とした缶本体に、七福神のえびす様があしらわれていました。1990年 ステイオンタブ式の缶ビールが登場
提供:キリンビール
缶を開けるために引くツマミの部分「プルタブ」は、プルトップ式ではプルタブと一緒に口金の部分も缶本体から外れます。当時はプルタブのポイ捨てが横行し、大きな社会問題となっていました。そこで開発されたのが、プルタブや口金が缶本体から外れない「ステイオンタブ式」です。これ以降、ビールだけでなく缶飲料はステイオンタブ式に切り替わっていきます。今回は紹介しきれませんが、より飲みやすいように飲み口の形状が変化したり、輸送コストを下げるために軽量化や強度向上の工夫がなされたりと、ビールの中味だけでなく容器においても各社の様々な技術がつぎ込まれています。
「生ジョッキ缶」はこんな技術で作られた
さて、話を現在に戻しましょう。
フタがパカッと開き、自然に泡が立つと話題の「生ジョッキ缶」には様々な技術が使われています。
一つ目の特長が、缶のままで、飲食店のジョッキで飲む樽生ビールのような味わいを体験してほしいと採用された「パカッと開く缶フタ」です。
これは「フルオープンエンド」と呼ばれる容器です。ジョッキグラスでビールを飲む場合、ジョッキの口が広い分、香りが鼻に届きやすく、口に流れ込むビールの量が多くなります。この「香り」と「流入感」を缶で体験してもらうため採用されました。
提供:アサヒビール
フタが外れると聞くと、「断面で怪我をするのではないか?」と心配する方もいると思います。この生ジョッキ缶では、飲料缶で初めて「ダブルセーフティ構造」を採用しているため、手や口を切る心配はありません。提供:アサヒビール
そして、二つ目の特長といえば「自然に泡が立つ」こと。そのヒミツは缶の内側にあります。ヒントにしたのはシャンパングラスや陶器製のビールグラス。シャンパングラスはグラスの内側に入れられた小さなキズにより発泡し、素焼きの陶器は内側のザラつきにより発泡します。そこで、缶の内側に塗る塗料を使い“あえて缶の内側を荒らす”ことに。さらに発泡が増幅されるように、塗料でクレーター状の凹凸を作りました。
そして、缶を開けた時の気圧差がきっかけとなり、ビール中に溶け込んでいる炭酸が内側の凹凸部分で弾け、クリーミーな泡が生まれます。
ビール中に炭酸が残っている限り泡が立ち続るので、早く飲まないと缶から泡が溢れてしまいます。泡が立ち始めたら、いつまでも眺めずに飲んでくださいね。
これからも缶ビールを楽しもう!
最初は缶切りで開けていたという缶ビール。今が便利すぎてちょっと想像がつかないですよね。スチールからアルミに変わったこと、プルトップの形が変わっていったこと。様々なサイズが登場し、より丈夫になり軽くなっていったこと。その時々のニーズに合わせ、開発者の想いや技術により進化していったのだなと感じました。「生ジョッキ缶」はフタが本体から外れる方式です。「またポイ捨てされ環境問題に影響するのでは?」という声も聞かれます。フタも本体と同じくリサイクル可能ですので、飲み終わった後はフタを缶本体に入れてリサイクルに出してくださね。ポイ捨てが心配されるのは缶フタだけではありません。飲み終わったらゴミ箱に。
これからも楽しく缶ビールを飲みましょう!