ビールを飲みながら聴きたい音楽を紹介してきた「ハナウタアヤノのビールノオト」。
ビールと音楽のコラムを書いていて改めて感じたのは、「音楽」と「ビール」はやっぱり合うということ。
そこで始めたのが、「音楽にこだわりのあるビアバーの店主に、音楽とビールのこだわりを聞いてみたい!」という連載「ハナウタアヤノのビアバーノオト」です。
第2回目は、五反田駅からほど近く、大人な雰囲気漂う「Beer Dining THE LEGEND 五反田店」。
オーナーである山口照尊(てるたか)さんが、「THE GRIFFON 渋谷店」「THE GRIFFON 新宿店」につづく三店舗目として、2016年11月15日にオープンさせたばかりのビアバーです。
お店の雰囲気に合う音楽はすべて山口さんが選曲していると聞き、お話をお伺いしてきました! 後編です(前編はこちらの記事へ)。
渋谷、新宿、五反田—次は?
ー次にお店を出そうとかって考えてますか?
山口:うーん、どうなんでしょう。いや、本当、店舗が空くかどうかわからないですからね。麹町、四谷、六本木、丸の内辺りがいいかなとは思ってますが。でも、それぞれの場所でやり方も客層も全然違うと思いますけど、それはやってみて変えていけばいいとは思うので。丸の内なんかは面白いかなと思いますけどね。でも、4~5店舗くらい作ったらアパレルとかジュエリーにいこうかなって思ってます。
ーえ! そうなんですか!
山口:だって、ビアバーで働いてもらってても、50~60歳になったら手も荒れてくるし、体もついていけなくなったり、子供ができたりするじゃないですか。そうなったら事務作業をできるようにとかって割り振っていきたいので。だからよく、ビール仲間に「え、ジュエリー?」って言われて馬鹿にしたなって言うんですけど、本当にこだわりはあんまりないんですよね。
ーでも今お話を聞いていたら、いけると思いました。山口さんが作る世界観と求心力があるので。
山口:もちろん楽じゃないっていうのも知ってるつもりですけど、できるっていうなんの根拠もない自信が大切だと思うんですよ。無理だって最初から決めつけるのもいやなので。そうじゃなくて、やってみないとわからないと思っています。
クラウドファンディングでお店を作った
—山口さんの手腕があれば、色んな仕事を経験できる会社になるのも夢じゃない気がします。
山口:実は今まで、個人事業主だったんですよ。去年の4月から株式会社にしたので、まだ1年経ってなくて。みんなからもタイミング遅かったねとは言われるんですけど。だから、渋谷店を作ってから8年間は個人事業主だったんです。
ー個人事業主で、二店舗も営業してたんですか? すごい…。
山口:そんなことないんです。渋谷と新宿は、融資を受けず現金で。ただ、足りないぶんはお客様に一口50万円で貸してもらえませんかって言って借りたんです。今でいうクラウドファンディングですね。公証役場っていうのがあって、公証役場と弁護士のサイン入れて、そこに行って借用書をきちんと作ったんです。でも、50万お借りしても50万円しか返せませんよと。その代わり、飲みにいらっしゃったら、私が返すまで、10%オフでお出ししますっていう風に書いたんですよ。こちらとしては、原価で仕入れたものに利益つけて売ってるものだから、10%オフは痛くもかゆくもないわけですよ。それで、渋谷の時に集まったのが800万円以上ですね。
ーえー!!! そんなに…! でも、渋谷って最初のお店ですよね。お客様って…
山口:あ、五反田グラフトンの時のお客様です。
ーなるほど!
山口:グラフトンにいた時に、お店を作りたいけどちょっと足りないと思って借りたんですよね。本当は銀行から借りた方が良かったんですよね。銀行から1,000万円借りて1,000万円返したら信用がつくので、今度は1,500万円借りられるんですよ。そのシステムを当時わからなかったので、クラウドファンディングして、渋谷店を作りました。
ーその次の新宿店も、クラウドファンディングですか?
山口:渋谷店を始めて5年くらいしてから新宿の場所を見つけて。その時、持ってる預貯金でなんとかなるなって最初は思ったんですけど、実際なんとかならなくて、そしたら今度は渋谷店のお客様方が。別にこの時は募ったわけじゃないんですけど、前回クラウドファンディングで集めてたし、今回も良かったら使ってくれってお客様が3~4人いらっしゃったんですよ。でも今度は額が違って、数百万とかがぽんぽんと貸していただいたわけですよ。もちろんそれは全部返してます。
ーありがたいお話ですね。
山口:そのあと、株式会社にしました。会社作ると、消費税が約2年間免除になるんですよね。だから実は、消費税が10%になるのを待ってたんですよ。10%になってから株式会社にすれば、2年間も免除になるから。でもならなかったから、もうしびれ切らして会社にしちゃいました。
ブルワーとの交流
ービールも、色んな場所のものが置いてありますけど、実際交渉は行かれるんですか?
山口:行きますよ。実際に足を運んで行くこともあるし、イベントや物産展などで東京の方にいらっしゃったら挨拶に行ったりだとか。つい最近まで、東京ドームで「ふるさと祭り」ってあったんですけど、その時にもスタッフ40人くらい連れてお客さんとして行ったりして。
ーそんなに大勢で飲んだら、すごい楽しそう(笑)
山口:あとは、『多摩の恵み』っていうビールを販売してる「石川酒造」は、コンタツっていう問屋さんを介して販売してるんですけど、もともと外に出さないビールだったんですよ。そんな時に、「石川酒造」の幼馴染の人が渋谷店によくいらっしゃってて、「石川酒造の人と知り合いなんですよね?全然外に出してくれないんですよー」とか言ったら「俺言っとくわ」って言って、初めてうちに出してくれたみたいだし。あと、大阪の高槻市の『國乃長ビール』ってご存知ですか?
ーはい、カエルの。
山口:あそこの方とかも、電話したら「え?東京から?」という感じだったんですけど、お話させていただいて初めての取引をさせていただいたり、三重県の『上馬ビール』もそうですし。
ー『上馬ビール』ですか?
山口:はい。『上馬ビール』は細川酒造っていうところが造ってまして、この社長さんは1月いっぴに毎年来ていただいてます。造ってる佐々木さんって方は、お盆とかゴールデンウィークとか、休みがちょっとできたら渋谷店とか新宿店に必ずいらっしゃってますね。海外とかはさすがに行けてないんですけど、「Brew Dog(ブリュードッグ)」のジェームズワットとかは逆に、3~4回お店に来てくれてますね。
ーブリュワーの方がお店にもいらっしゃるのは嬉しいことですよね。
山口:いらっしゃるようになってからビールを扱い始めたわけじゃなくて、こちらからお願いして取ることになって、顔を出してくださるようになったんですよね。
ー地道な人脈作りの賜物ですね。
山口:いやー、適当ですよ、本当。『所沢ビール』を造ってる緒方さんという方は、11月15日に五反田店がオープンした時には駆けつけてくれてたり。『富士桜高原麦酒』の宮下天通さんとか、「KOBATSUトレーディング」のこばつさんとか。あとは、「箕面ビール」の社長、大下香緒里ちゃんとかも来てくれますね。昨日は、「宮崎ひでじビール」の人が新宿に来てました。だから、現地に行ったりもしてますね。まぁ、あんま覚えてないけど。
ー(笑) 最高ですね。
山口:この前びっくりしましたよ。「サンクトガーレン」の広報の中川美希ちゃん知ってます? 一週間くらい前に渋谷店にひょっこり来たんですけど、なぜかっていうと2016年に「サンクトガーレン」のビールを一番出したお店が「THE GRIFFON 渋谷店」だって。
ー見ました! あの感謝状、中川さんが直接届けに来られたんですか?
山口:そうそう。その時は私は渋谷店で、各店舗のビールメニューを作ってたんです。そしたら「え?なんで来てるの?」という感じで。
やってもいないことの文句は言いたくない
ークラフトビールがブームになる前から、ビールに関わっていらっしゃると思うんですが、今のクラフトビールブームはどう思いますか?
山口:いいんじゃないですか? もちろん廃れる時もあるでしょうし、みんなそういう風に考えるでしょ。でも、廃れたら廃れたで、さっき言ったジュエリーに行ってもいいし。でも結構ネチっこい性格ですよ、A型なので。だからそこまでサクサクしてないですが、今のブームはいいんじゃないって感じですね。
ーでも、考え方の転換も早いですよね。私自身、考えて考え尽くさないと行動できない人なので、山口さんの行動力や直感もすごいと思います。
山口:そいういう面だと、猪突猛進っていうんですかね。もちろん後悔したり失うこともあったりするんですけど。あとね、やってもないのに文句は言いたくない。例えば車とかも、乗ってもないのにその車のことは言いたくないんですよね。ちょっとでもいいから乗ってみて、あれこうだよねって言いたいっていうか。だからバイクとか車とか好きなんですけど、結構な車種を乗ってます。
ースポーツカー? アメ車とかですか?
山口:あ、なんでも。今、車もバイクもアメリカのもので、「アメ車好きなの?」って聞かれるんですけど、いや、たまたまなんだ、そんなに好きなわけじゃないって。
ーまずは、乗ってみると。
山口:もちろん前はすごいこだわったりとかしてたんですけど、本当はどうでもいいなって思ってるんですよ。だから綺麗事で、常とう文句のように定型文でこうこうこうなんですよって言うんですけど、実際はどうでもいい。
ブレない、媚びない、諦めない
ーどうでもいいとおっしゃいますけど、本当はまったくそうじゃないんだろうなってお話を聞いていると思います。それに、ブレてないというか、直感的ですよね。
山口:どうでもいいって、あんまりよくない言葉ですけど、気にしないようになりました。私、口癖のように「ブレない、媚びない、諦めない」とか言うんですね。だから「BKA」。だからAKBの逆だよとか言ってるんですけど(笑) AKBだったら、「当たり前のことを、確実に、バッチリやる」とか言ったりするんですけど。ただ、ブレないと思ってやってるんじゃなくて、むしろ私はブレてると思ってるんで。
ーえ?
山口:本当に思ってるんです。
ーどこがですか?(笑)
山口:もう、飲んだらグダグダですよ。
ーそれは(笑)
山口:グダグダ過ぎます。何人敵に回したか、という感じなんです。それに、写真を撮っていただくなら私よりも、店長の方が映えますよ。あんまり言わないでくれって言われましたけど、モデルとか、プロモーションビデオにも出てるみたいです。
THE LEGEND 五反田店の島津店長
ブリューパブはやらない派
ーこれからビールを作ろうとかも考えてないんですか?
山口:今そういうブリューパブ流行ってますよね。でも、餅は餅屋だと思ってるんですよ。私は、やらない派。うちのスタッフ実は、みんな魚さばけません。それでもいいんです。江戸時代の頃から、飲食店でご注文いただいて、「今からにんじん育てますね」って言うわけないと思うんですよ。八百屋から買ってきたものを使うじゃないですか。さすがに野菜は自分たちで切りますけど、カットされた魚とかを使いますね。オープンの1時間前くらいに出勤して、終わったらすぐ帰るっていうようにしてます。よくあるじゃないですか、仕込みの時間がめちゃめちゃ長いお店とか。うちはまったくしないです。それで、ブリューパブってなると丸一日かかるので。僕、そこまでビール好きじゃない(笑)
ー正直ですね(笑)
山口:好きなことやりたいですよね。車乗りたいし、バイクにも乗りたいですし、いろいろあるじゃないですか。そこまでビールに染まろうと思ってないんです。すいません。だからいろいろな物を食べるし、いろいろやりますよ。それで楽しむことによって、みんながここで楽しく会話していただけるなら。そのギアは、ビールじゃなくてもなんでもいいと思ってます。
ー以前ブルワーの方に、ビールを造ることは生半可な努力じゃできないということも聞きました。
山口:ビールを造る知識を持ってても、造るビールがうまいとも限らないんですよね。例えば、飲食店でおいしい食事を作って繁盛するかもわからない。逆に、全然おいしくない冷凍食品を出していても繁盛してる店もあるので。だから、1+1=2って簡単にも言えないですし。単純ではないですよね。やってみないとわからないじゃんっていうのもあるんですけどね。やってみたら意外にうまくいったりしてね(笑)
「ビールにあまりこだわりがない」などとおっしゃってもいましたが、これまでのエピソードを語る姿からわかるのは、本当はそんなことまったくないことです。苦労を外には見せず、自分の信じる道を突き進み、人から信頼し、信頼される山口さんが作る、良い雰囲気の音楽が流れるビアダイニングでビールを飲めば、自分も良い方向に向かえる気がします。(編集員:山吹)
イラスト:ISOGAI(Twitter/@HitohisaI、instagram/@isogaihitohisa)
写真:酒井由実