2017年8月3日。この日、ビール業界にとって歴史的な契約が締結されました。2016年現在、アメリカ国内で総計5301にまで増加したマイクロブルワリー(小規模醸造所)。その発端と言えるカリフォルニア州サンフランシスコにあるアンカー・ブリューイング・カンパニー社の全持分(※)をサッポロホールディングス株式会社が取得し、同社がサッポログループの傘下として加わることになったのです。
120年以上に渡りアメリカ国内で愛され続け、そして世界でも有名なアンカー・ブリューイング。ここで改めてその魅力を大解剖します!
アンカー・ブリューイングってこんなところ!
始まりはゴールドラッシュ
今から169年前の1848年、サンフランシスコのアメリカン川で農夫が砂金を見つけます。農夫のボスはそのことをしばらく内緒にしていましたが、いつしか口伝で噂が広まり、それを聞きつけた人々が一攫千金を夢見て、国内外からおよそ30万人もサンフランシスコに集結します。これがあの有名な“ゴールドラッシュ”です。
その中にドイツ人ブルワーであったゴットリーブ・ブレークルも彼の家族と共にやってきました。そして、まずはビール&ビリヤードの店を購入します。ここからアンカー・ブリューイングの歴史の歯車が回り始めます。
看板ビール スチームビールの誕生
彼は母国ドイツと同じように、大麦、ホップ、水のみを原料とする純粋令に沿ってビールを造り始めます。しかし、当時はまだ冷蔵設備が整っておらず、またカリフォルニアの温暖な気候の中ラガー酵母で発酵させるため、その方法を様々試行錯誤して、とうとう独自の製法によるスチームビールが誕生します。これは、アメリカで生まれた独自のビアスタイルになります。(詳細は次章「スチームビールってどんなビール?」をご覧ください)
長い歴史の中の紆余曲折
その後1896年には太平洋に面した場所の古いブルワリーを購入し、いよいよ「アンカー」と名付けます。が、1906年には共同経営者の死亡、そしてアメリカの歴史に残る災害となったサンフランシスコ大地震などの受難が続きます。翌年に新たな場所に醸造所を移転しなんとか醸造を継続しますが、1920年から1933年にはアメリカ合衆国で禁酒法が施行され、活動停止を余儀なくされます。
禁酒法がやっと解かれた1933年、オーナーのジョー・クラウスは新たな場所でアンカースチームビールの再醸造を始めます。その後、1955年以降1959年後半までアメリカではライト系のビールが人気を博します。これは少なからず、アンカー・ブリューイングの売上減少の影響を及ぼし、1965年までの間、何度も閉所の危機に襲われます。
フリッツ・メイタック氏により黒字化へ
1965年、スタンフォード大学大学院を卒業したフリッツ・メイタグ氏が廃業寸前のアンカー・ブリューイング社を購入したことで運命は大きく舵を切ります。
ビール醸造に関しては素人であったメイタック氏は自ら様々ビールについて勉強し、それまでどちらかというと古めかしく汚かったブルワリー内を清掃し、品質向上に努め、安売りをせずにクオリティの高いビールを造り続けたことで、業績を伸ばしていきました。
2010年にメイタック氏は惜しまれつつ引退しますが、彼が推し進めた「味や香りが良くクリエイティブ、伝統や歴史があって夢を感じるビール造り」そして「安心安全な商品作りと、社員全体の謙虚さという教育」で、アンカー・ブリューイングはアメリカが誇るブルワリーとして世界中から愛され続けています。
今回、サッポロホールディングスが海外パートナーとしてこのアンカー・ブリューイングを選んだ理由は、「強いブランド力」「特定エリアやチャネルで影響力がある」「プレミアムである」「高い醸造・製造技術がある」という4条件。そのどれも見事にクリアしていることはもちろんでしたが、それだけではなく現地を訪問した際、ここまで世界的にメジャーなブランドでありながら、実際に働いているスタッフの方々がとても誠実で、皆、目を輝かせながら手塩をかけてビール造りをやり続けている、そして、アンカーの伝統としてとにかく良く清掃していることにとても驚き、共に手を携えてやっていけるパートナーだと感じたと、アンカー・ブリューイングの担当であるサッポロホールディングス株式会社戦略企画部事業構築グループリーダー塩見俊介さんが話してくれました。
スチームビールってどんなビール?
アンカー・ブリューイングといえば『アンカー・スチーム』。これは、まさにこのブルワリーで生まれた独自の製法で造られます。これはゴールドラッシュを目指してやってきた人々が、労働の後にビールが飲みたい!という需要に応えるため、手間暇のかかる輸送をしてきたビールではなく、この地でビールを醸造しようと試行錯誤した結果誕生しました。
当時は冷蔵施設もなく、低温醸造に適したラガー酵母で温暖なカリフォルニアの気候の中で醸造するため、見つけ出した醸造方法は発酵槽を広く浅いもので行うというやり方。これで出来上がったビールは、まさにアメリカ生まれの独自のビアスタイルとなり、ラガーの爽やかなキレとエールの香り豊かさの両方の魅力を持つビールとなりました。ちなみにスチームという名前の由来は、樽やボトルの栓を開けるとき、まるで蒸気機関車のようにプシューっと吹き出すことから。この製法のビールはゴールドラッシュの時代には周辺のブルワリーでもたくさん造られるようになりました。
現在、このビールは別名ラガーエール、クリームエールとも呼ばれ、ビアスタイルは、スチームビール、または、カリフォルニア・コモン・ビールとなります。
地元サンフランシスコでは、ビアパブでこのビールをオーダーするときは「Beer(ビール)!」ではなく「Steam(スティーム)!」とオーダーします。
それではゴクリ!『アンカー・スチーム』のおいしさは?
グラスにはこんもりと細かなクリーム色の泡をたたえた琥珀色のビール。グラスを口に運ぶと、蜂蜜のような甘さとかすかにフルーティな香りが鼻をくすぐります。一口飲めば、モルトの豊かな甘さとカラメルの香ばしさが口に広がり、でも、喉越しはラガー酵母らしいすっきりさで、飲み干した後もモルトのやわらかな香ばしい余韻を楽しめます。
このビールの持つモルトの香ばしい甘みは、醤油を使った味付けの料理と相性抜群。中でも、お勧めは「焼き鳥」!
ちなみにこれはサッポロホールディングスの塩見さんもイチ押しのペアリングです。
モルトのロースト感と焼き鳥の香ばしい焼き加減や醤油ダレの甘辛い味付けが実にいいハーモニー!ビールのほんのりとしたフルーティさが鶏肉はもちろん、焼き鳥にかけた七味の山椒や陳皮の風味も引き立てます。
その他には「肉団子の甘酢あんかけ」、「ハンバーグ」、「BBQ」などもおすすめですね。
また、アンカー・ブリューイングは毎年クリスマスエールを発売することでも知られています。ツリーをモチーフにしたラベルのイラストは毎年変わるので、それをコレクションしている人も多く、クリスマスパーティのためにマグナムボトルを毎年購入するファンも多数です。
↑アンカービールの王冠の裏にはそれぞれのビールに関する豆知識やIPAラベルに描かれた象のイラストなどがプリントされています
アンカー・ブリューイングの大解剖、いかがでしたでしょうか?
ちなみに静岡のベアードブリューイングでは、フリッツ・メイタック氏に敬意を表して、スチーム・ビールとは逆にエール酵母をラガー酵母に適した低温の温度帯で発酵させて造った『レッドローズ アンバーエール (Red Rose Amber Ale)』を造っています。
こんな風に多くのブルワーやビールファンに愛され、尊敬されるメイタック氏が育て上げたこの歴史と伝統あるビールが、さらに身近となって日本のビール文化とともに歩んでいくことは実に嬉しい限りです。
ますます広がるビールの世界を楽しみに、まずは祝杯しちゃいましょう!
(※)アンカー社は有限責任会社のため、株式ではなく「持分」の取得となります。
アンカー・ブリューイング情報
◯ニュースリリース「米国アンカー・ブリューイング・カンパニー社の全持分を取得」(サッポロホールディングス株式会社)