Bar 可愛いリクガメが待つ、美しいビールの店「ガラパゴレーシング」に行ってきた

2022/10/11

それぞれの期待が交錯する週末の新宿。小田急線急行はせわしない空気を乗せて、小田原方面へ出発しました。


猛暑を耐え抜いて溜まった疲労感、忙しかった仕事、スマホの中の輝くストレス、人の中に居座るウイルス。

「最近、ちょっと疲れている…」

頬を滑らかに冷やす秋風でふと我に返り、そう感じている人も多いのではないでしょうか?

そんな時は、何も考えず、ふらっと、ちょっとだけ遠くへ行きたくなる。私もそんな風に思う疲れた大人の一人。

自然があって、ゆっくりできて…そこにおいしいビールとお料理があれば。そう思った時、ある美しいビールが脳裏に浮かんだのです


ガラパゴレーシング

カメのパッケージが特徴のビールで、カメとビールの記事を書いた際に初めて飲んだビール。そのときの“美しい”という印象はずっと忘れられませんでした。

香りや味はしっかりとあるのに、どのスタイルのビールも澄み渡っていて、体をいたわってくれるような優しさがありました。

体や目から放出された水分をあのビールで補いたい
あの美しさが醸される場所を訪れて、その理由を知りたい

そんな想いを抱き、神奈川県の開成町にあるガラパゴレーシングに足を運びました。


きょう、小田急線急行で。


喧騒から離れると車内が少しずつ緑を含んだ綺麗な空気に入れ替わり、車窓からは広い空や穏やかな山並みの景色が見えてきて、キリキリしていた心も連動して少しずつ広く穏やかになっていきます。

新宿から小田急線に揺られること約1時間30分。

急行で小田原の1つ手前の駅「開成」。

電車を降りると、左手に新しいマンション、右手に山々、上には広い空。この町が近年人気になっていることが伺えました。


私は深呼吸をひとつ。

ここはゆっくりした時間の流れる町。

「開成時間」に歩調を合わせ、カメが散歩を楽しむ様にのんびりと歩きました。

リクガメまでの道のり


開成駅を出て国道を越え5分ほど歩くと、細い川が見えてきました。

川を右手に見ながら進むと、トンボがやってきて私を目的地まで案内してくれます。

するとこの町にピッタリのなんとも愛らしい1匹のリクガメが現れます。


あの記憶の中に蘇った美しいビールを醸す場所。「ガラパゴレーシング」に到着しました。


開成町の自然に溶け込むウッディーな外観に、ビール醸造の様子が見える開放的な大きな窓。2階には広いテラス席もあり、キャンプ気分で楽しむこともできそう。


店内はコンクリートベースで椅子やテーブルの木目が映え、海外の倉庫をリノベーションしたかのような格好良さもありつつ、ゆっくりしたくなる居心地の良い空間が広がります。

美しく醸されるビール達


ガラパゴレーシングでは、オリジナルビール6タップ(定番4タップ、季節限定2タップ)とゲスト2タップの合計8タップを飲むことができます。

到着してすぐ、乾いた喉を潤そうと早速注文。

今回は醸造長の長山一隆さんにお話をお伺いすることができ、おすすめで定番醸造の「アンバーエール」と季節限定の「南高梅のセゾン」をいただきました。

アンバーエール1/2グラス380円、グラス690円、パイント840円/税込


顔を近づけると香ばしい香りが漂ってくるアンバーエール。味わってみると、口あたりはスッと澄んでいるのに、すぐにガッツリしたモルトの風味が口いっぱいに広がり、気持ちの良いしっかりとした苦みが余韻を残していきます。

ゴリゴリにアンバーを押すブルワリーは少ないかなと思います。なので“THE 麦”なガッツリ感があるアンバーをうちがやれればなと。モルトの配合も難しく、『それ大丈夫?』って思われるような配合です。モルトの種類もですが、入れ方も贅沢に。香ばしさとビスケッティな感じも欲しいのでしっかり入れています。贅沢な配合の、ちょっと面白いアンバーです(笑)」と嬉しそうにアンバーエールを語る長山さん。

こんなにも香ばしくパワフルなのに、アルコール度数はなんと5.5%というから驚きです。

色んな種類がある中で高い度数のビールがあるのは面白いけれど、度数をあげると飲めない人も出てきてしまう。普段飲みにして欲しくて度数を上げていません。度数の割にパワフルと感じてもらえればベストです

その想いの通り、パワフルなのに疲れるような重々しさはなく綺麗なアンバーが体にじんわりしみていきます。


南高梅のセゾン』(1/2グラス380円、グラス990円、パイント1,140円/税込)


フルーティーな梅が香る、爽やかな「南高梅のセゾン」。季節限定ビールの材料はできるだけ地元のもので、知り合いから仕入れているというこだわり。飲む前から“すもも”のような香りが優しく漂ってきます。

一口飲むと、梅の優しい酸味が口の中で弾け桃のような甘みセゾンに乗って広がります。

梅は青から赤に変わってちょっとした位の香りがベスト。南高梅は毎年同じ方からいただいていて『そろそろいけそうですよ』と連絡が来ると、それに合わせてうちもビールを仕込みます。フレッシュな南高梅を贅沢に使用しています。“梅のビール”って言われて皆さんが想像するものと味のバランスを考えると、この辺りかなと

仰る通りバランスが絶妙です。正直、私が想像する「梅のビール」を遥かに超えていきました。フレッシュな梅を使っているので「梅味です」という作られた主張は一切なく、だからと言ってフレッシュだからこそ出てしまうえぐみもありません。もぎたての南高梅のいいところだけを優しくセゾンに乗せているのです。


定番の4タップは全て抑えたいけれど、地を感じられる季節限定ビールも絶対飲みたい。そんな時は選べる「4種飲み比べセット」(1,200円/税込:お好きなビール100mlずつ)もあるので、是非コンプリートしたいですね。

料理がおいしいとペアリングも楽しい


そしてガラパゴレーシングの大きな魅力のひとつ、お料理。メニューを見るとどれも魅力的で目移りが止まりません。

お料理は定番のものもありつつ、季節ごとにメニューを変え、四季折々の味を楽しめるようにしているといいます。

今回は、提供いただいた「アンバーエール 」と「南高梅のセゾン」に合うお料理でペアリングを楽しみました。

アンバーエール×じゃがいものフライ


じゃがいものフライ」(550円/税込)は定番料理のひとつ。アンバーとじゃがいものフライのペアリングは、ポートランドでビール屋さん巡りをしていた時に長山さんが1番好きだった食べ方だと言います。


じゃがいものフライとアンバーをチビチビいくのが僕は好きで。派手さはなくとも香ばしく落ち着いたアンバーと、素朴なじゃがいもフライのしっぽり感は無限にいけます(笑)。疲れている時はじゃがいもとアンバーです

ゴロゴロのじゃがいもにパルミジャーノの香り。手で砕いて断面をギザギザにすることにより、ギザギザな部分がカリッとして、食感が楽しめる工夫も。フライドポテトの端っこのカリカリ好きには堪りません。

じゃがいものフライにはIPAの印象が強いですが、この香ばしくてガッツリしたアンバーにじゃがいものフライが最高に合うのです。確かにこれはエンドレス…。


南高梅のセゾン×魚介のパエリア、メカジキのソテー


「南高梅のセゾン」とのペアリング料理に、本日のおすすめから「魚介のパエリア」(1,550円/税込)と本日のお魚料理の「メカジキのソテー」(1,300円/税込)を選んでいただきました。

開成町は小田原漁港が近いことから新鮮な海の幸が手に入ります。「南高梅のセゾン」が爽やかな味わいのため、魚介のお料理も臭みが出ることはないとのこと。白ワインに料理を合わせる時と同じ考え方ということで、今回の魚介料理をチョイスしていただきました。


魚介の旨味を吸い込んだお米とトマトの酸味・甘みが堪らないパエリア。そして絶妙な焼き加減でしっとりとしてやわらかく磯の香りが立つメカジキのソテー。

そこに「南高梅のセゾン」を合わせると、ふんわり梅の香りがそれぞれのお料理のちょっとした薬味のようになり、最高においしさが引き立ちます。


本日のお魚料理のメカジキのソテーは、ランチメニューのメインとしても選べます。(※季節によりお魚の種類やランチのメインは変わります)

ランチは、「前菜の盛り合わせ+選べるメイン(自家製パン食べ放題orライス)+選べるドリンクのセットメニュー」(1,500円/税込)。もちろん選べるドリンクはプラス料金を支払えばビールに変更も可能とのこと。


ランチの前菜の盛り合わせは、海や山の幸がちょっとずつ食べられるのが嬉しい。今回前菜に入っていたパテドカンパーニュはとろけるようで深い旨みがありビールとの相性も抜群。


ビールだけでなく、お料理も絶品の数々。お酒の飲めない方や家族連れが多いというのも納得です。

初めてのビール醸造。出会った沢山の人々。


そんなガラパゴレーシングが、開成町にオープンしたのは2018年。

社長が「ビールを造りたい!」と言ったことがきっかけで、同じく神奈川県の、新松田駅にあるイタリア料理「チェルトホノボーノ」の姉妹店としてオープンしました。

長山さんは学生時代は料理学校に通い、その後フレンチの有名店のホールで働き、ソムリエも経験。「チェルトホノボーノ」ではホールマネージャーをしていたそう。しかしビール造りは未経験だったこともあり、最初は無理だと断ったといいます。

仮に造ることができたとしてもおいしくなければ意味がない。やったことない人が造ってなんとかなる甘い世界ではないですよね

しかし社長の思いに負けて「やるだけやってみましょう」と覚悟を決めたのだとか。


ビール業界に知り合いはおらず、まずはビール屋さんに飲みに行きマスターにおいしいブルワリーを聞き回るところからはじまりました。その情報を元に様々なブルワリーに出向き、一から座学や実際の醸造、味、ビアパブとしてのあり方まで学んだそう。どの方も悩みを相談すれば熱心に聞いてくれたりと、とても有り難かったといいます。

多くのブルワーさんにお会いして感じたのは熱く真剣な人が多いこと。それがとても良かったことです。ガラパゴレーシングは100人分の意見が集まってできた、自分にとっては夢の場所みたいです。皆さんが教えてくださらなかったらたどり着けなかったです

巡れるだけブルワリーを巡った中でどんどんと繋がりができ、自分に合った良いところをそれぞれのブルワリーから吸収しでき上がったのが、今のガラパゴレーシングだったのです。

磨く、造りまくる


そんなガラパゴレーシングの醸造スペースには、直火で沸かす大きな鍋が3つに、小ぶりなタンクが6つ

ビール造りは体力勝負な点もありますので、規模は小さいけれど結構大変です」と長山さんは話します。


タンクが小さいのはお店の規模に合わせたということもありますが、小さい方が回転が良く造る回数も多くなるので、早く成長できるという考えもありました


ビール醸造の基本は「掃除」という言葉通り、全ての器材が美しく磨き上げられていました。

様々なブルワーさんから学び吸収したことを長山さんらしく熟成させ、この場所ででき上がったものが、あの美しいビールなのだと感じました。

開成町とポートランド



ガラパゴレーシングをはじめるにあたり、ビール巡りをしたなかで、ポートランドに行った時のことが印象に残っているという長山さん。

レストランも併設されている場所の光景がすごく印象に残ったんです。そこではお料理を楽しみながらビールも一緒に楽しんでいる人が多くて、ビールで伝えたいことってこれだよねって。もちろん楽しみ方は人それぞれですけど、お客さんに楽しんでもらわないとビールをやっている意味がない。俺のビールはどうだってアピールするのももちろんそれはそれでいいんですけど、ガラパゴレーシングでやりたいのはそれじゃなくて、お客さんがビールや食事を楽しめる場所を作りたいと思ったんです

とにかく来た人に楽しんで欲しい!と願う長山さん。居心地のよいこの空間はこんな想いがあったからなんですね。

名は体を表す、店名に込めた想い


あの美しさの答えは「ガラパゴレーシング」という店名とリクガメのロゴにも隠されていました。

ガラパゴス諸島のリクガメは陸上で1番長生きをする生物です。お店に来るお客さんにビールと食事で元気になってもらい、楽しく長生きして欲しい!という願いと、レーシング(泡の軌跡)ができるような品質の高いビールを提供したいという想いを名前に込めました。今まで関わってくださった先輩方に恥じないビールを造り続けたいです


店名にも、お客さんを想う気持ちやビールの先輩方への感謝が込められていました。

ロゴがリクガメなことで、熱いカメコミュニティもあるそう。

私もカメを飼っておりカメを愛していると話すと、なんとそのカメコミュニティの方からいただいたというカメのご飯をお土産にプレゼントしてくださいました。

人ばかりでなく、カメにまでおいしいご馳走をくださり楽しませてくれるなんて…。


カメの甲羅の模様も健康なカメだととても綺麗な年輪のようになると言われています。ガラパゴレーシングのリクガメの甲羅にも綺麗な年輪がしっかり描かれていて、このリクガメが元気で楽しんでいるのが伺えます。

ビールのレーシングにカメの甲羅。どちらも元気の印なのです。

クラフトビールファンも、ご近所さんも


そんな長山さんが強い想いを込めて造っているのが1番人気のセゾンだそうです。

何十種類ものモルトを様々な配合で試した結果が、今のちょうどいい素朴感のセゾンセゾンを造った回数は負けないと思うんですよね。そこに国産の小麦と、ホップはシンプルに清きヨーロッパをずっと支えた柔らかいフローラルなザーツを入れて。ホップはそんなに目立たないのですが、それで良いんです

謙虚な長山さんが「造った回数は負けない」というからには相当な回数を造られているのでしょう。


そして1番の衝撃はこのセゾンの価格。パイントで640円というから驚きです。

セゾンだけは気合を入れてできる限り安価で。店のスタンダードビールは気軽に楽しんでもらえれば嬉しいです。クラフトビールファンだけでなく、ご近所さんにも来て欲しい。かっこいいお店もいいですが、ここは敷居の高い感じのビール屋にはしたくなかったんです


すぐ近くのマンションに住んでいらっしゃる方のなかには、お風呂上がりに空のグラスを持ってきてよくテイクアウトして行く方もいるそう。それって家に最高な8タップがあるようなものですね…夢のよう…。

そして、大ファンの中の1人のブルワーさんがいる「麦雑穀工房マイクロブルワリー」に行った時のことも語ってくださいました。

ローカルでやってておしゃれで素敵なビールを出すお店なんですけど、農家のおっちゃんが『おう!来たよ。いつもの』って言いながらやってきて、めちゃくちゃうまいヴァイツェンをゴクゴク飲むんですよね、僕が横で『最高峰だー』なんて思いながら味わっているヴァイツェンを(笑)。『これこれ!』ってそのとき思ったんです。どんなにおいしいビールを提供していたとしても、それが日常になっているおっちゃんがいるような、ふらっと入れるような雰囲気で普段使いもでき、みんなが楽しめるお店。それが面白いと思うんです


長山さんのお客さんへ想いはビールの温度設定にも込められていました。

うちはクラフトビールにしては温度設定を少しだけ低くしているんです。それはクラフトビールを飲み慣れてないお客さんにも楽しんで欲しいからなんです。造り手が我を張りすぎてもお客さんは楽しくない。もっと温度が高い方がって思う方はゆっくり飲んでいただければいいかなと。温度を上げることはできても、下げることはできないので。クラフトビールファンとのバランスの良いところを目指し、どんなお客さんにも楽しんで欲しいです


終始みんなに楽しんで欲しいと語る長山さん。そんな長山さんはビールで繋がった方々とのことやビール醸造のことを楽しそうに語ります。

こんなに楽しそうにビールを語るブルワーさんがいることが、ガラパゴレーシングを楽しいお店にしている一番の理由なのかもしれません。

実際にお店に伺い、長山さんのお話を聞いて、あの美しいビールの答えにたどり着いた気持ちになりました。

90%の未来


こんなにおいしいビールを造るのに「自分としては100%のうちのまだ10%」と語る長山さん。

そう語るのは単に謙虚なだけでなく、己の“美味しい”に誠実で、一切の妥協がないからだと感じました。


今後について伺うと「まずは、コロナが落ち着いたらお世話になった皆さんに1人残らず挨拶に行きたい」と即答されました。遠くを見て微笑む長山さんの頭には、きっとたくさんの方の顔が浮かんでいるのでしょう。

そして「ビールに関してはもっと品質をあげたいし、より楽しめるビール屋としての提案をしたい。スタッフも増やしてもっと盛り上げられたらいいなと思います」と嬉しそうに語ってくださいました。

いつでもリクガメがいてくれる


カラスが空高く飛ぶ夕暮れの開成町。

私は美しいビールと絶品なお料理とガラパゴレーシングの空間に全身癒され、リクガメとサヨナラをしました。

カメ好きの私が可愛いリクガメに誘われて出会ったガラパゴレーシングのビール。

また絶対に来よう。いや、来てしまうな。あの目の前のマンション、空き部屋ないかな。


この町を離れたくない私を知るよしもなく、丹沢山系から降りてくる夕風が私を上り電車に押し込めました。

強い灯の輝く方へ突っ走る小田急線。

月曜日は目の前。

明日からまた現実の中でもみくちゃにされる。でも、ここがあるから大丈夫。


これから秋の行楽シーズンがやってきます。

美しいビールで体を綺麗に潤して楽しい時間を過ごしたくなったら、小田原の温泉とセットで開成町のリクガメに会いに行ってはいかがでしょうか?

 Garapago Racing(ガラパゴレーシング)

〇住所:神奈川県足柄上郡開成町みなみ1-3-4
〇交通:小田急線開成駅から徒歩10分
〇TEL:0465-44-4552
〇営業時間:ランチ11:30〜13:30(L.O.)/ディナー16:30~21:00(L.O.)
〇定休日:火曜
〇座席数:42席(テーブル7つ、カウンター4席)
〇支払い形式:現金、クレジットカード、PayPay
〇喫煙・禁煙:禁煙
〇HP:https://garapago-r.com
〇facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100063464773910&rf=1847934728832166
〇Instagram:https://www.instagram.com/garapagoracing/?hl=ja


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中林麻依 ライター

「亀がいる、ビールがある、多分そこには私がいる」。クサガメの甲羅♂に晩酌のお相手をしていただき、ビールに浮かぶ泡沫に己を案じる。甲羅とビールと太宰治が、私を生かしてくれている。週末は赤提灯に誘われて、酒場で夜が更けていく…。

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