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ビールを飲みながら聴きたい音楽を紹介してきた「ハナウタアヤノのビールノオト」。ビールと音楽のコラムを書いていて改めて感じたのは、「音楽」と「ビール」はやっぱり合うということ。そこで、「音楽にこだわりのあるビアバーの店主に、音楽とビールのこだわりを聞いてみたい!」という思いから、「ハナウタアヤノのビアバーノオト」を始めます!

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第1回目は、店内で流れるメタルとこだわりのクラフトビールが、ハマる人にどハマりすると噂の「THRASH ZONE(スラッシュゾーン)」。横浜駅きた西口から徒歩約5分の場所にあるTHRASH ZONEは、2006年に店主である勝木恒一さんによって作られたビアバーで、ビールに稲妻が落ちたような手作り看板が目印です。

 

「メタル」と「ビール」という、一見交わりのないこのふたつが、どのようにしてTHRASH ZONEで表現されているのか。店主である勝木さんにお話を伺ってきました!前編と後編にわけてお届けする、後編です。

▶︎前編はこちら

 

日本とアメリカの違い

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ー日本とアメリカのビール文化がどうしてそこまで違うのかって、日本では法律で禁止されているホームブリューができないことも関わっていると思いますか?

勝木:やっぱりそう思いますね。ホームブリューがアメリカでは合法なので。酒税が日本とはだいぶ違いますしね。要は、今アメリカでビジネスとしてブルワリーをやっている人も、元々はホームブリューで、そういう裾野が広い中から勝ち残ってきたシーンなんですよ。日本では自分でビールを作ってはいけないから、そういった流れは生まれないですよね。だから、免許を取った時もなんか変なんですよ。免許を取る要件として、「税金払えますか?」「あなた、ちゃんとビール作れますか?」のそのふたつを満たさなきゃいけないんですよね。

 

ーその「ビール作れますか」っていうのはどうやって審査されるんですか?

勝木:そう思いますよね(笑)日本ではビールを作るのが禁じられているのにどうやって作れるの? って。どこかの工場で働いていたっていうのならわかりますけど、0から始めた人はどうするのって感じですよね。

 

ーそうですよね。自分で作ったりしちゃいけないのに、作れなきゃいけないっていう(笑)

勝木:僕はその経験がなかったんですけど、当時、厚木ビールで委託製造してもらったり、研修などもさせてもらっていたので、「厚木ビールで、いつからいつまで研修しました」と伝えて通りました。

 

ーなんだか、不思議ですね。

勝木:そう、不思議なんです。

 

バンドを作るようにビールを作る

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ー日本の制度が変わらない限り、日本で広まるのは難しいですよね。

勝木:なかなかね。あともうひとつ言えるのは、アメリカには大きなブルワリーとか小さいブルワリーなど色々あって、実際に見てくるとわかるんですけど、彼らのビール造りはサブカルチャーのサイドなんですよね。要は、メジャーじゃなくインディーのバンドみたいな感じでやってるんですよ。そういう土壌が日本にはあまりないし、アメリカの方がそういうサブカルチャーって、普通の人にも割と浸透してるかなって思いますね。

 

ー自分の色を出すひとつのものの中に、クラフトビールがあるんですね。

勝木:そうそう。

 

ーへぇ~おもしろい! でも確かに、日本でも例えば、家でビールを作ってよくなったとしても、みんながやるのかって言ったら微妙ですよね。

勝木:アメリカってやっぱり、バンドや音楽シーンの裾野の広さという点で、日本と比べて全然違います。だから、ビールもバンドになぞらえると非常にわかりやすいんですよ。うちのスタッフは私も含めて、インディーシーンでバンドをやってきています。バンドのやり方をそのままビール造りに当てはめているんですよ。

 

ーどういうことですか?

勝木:要は、バンドをやるとなると何人かで集まりますよね。それから、こんな音を入れよう、曲を作ろう、ライブをやろうっていうプロセスを、ビール造りにも反映させるんですよね。例えばこのTHRASH ZONEは、ビールを提供する場所。バンドで言えば、ライブ会場のようなものじゃないですか。

 

ー披露する場ってことですね。勝木さんにとって、元々当たり前にパンクとビールがあって、それらが地続きになっていてバンドとビールの作り方も同じ考え方というか。

勝木:もちろんね、かたや楽器、かたやタンクとかそういう使うものは違うんです。でも、例えばこのビールをもうちょっと良くしたいなって思った時に、バンドの考え方と一緒なんですよ。曲をカチッとタイトにするためには、ひとつずつ細かいところを積み重ねていかなきゃいけなくて。ビールもひとつひとつ積み重ねなんですね。それで少しずつブラッシュアップしていくんですよ。

 

—なるほど。私、バンドはやったことないんですけど、吹奏楽部に所属していました。そして、大勢で演奏している時に、「ちょっと音程が合ってない」っていうのを周りを気にしつつ少しずつ合わせていったらバシっとハマった、みたいなことですかね。

勝木:まさにそういうことです。

 

—例えば、「音程もうちょっと上じゃない?」っていうのは、ホップの量を変えていったりするってことですよね。テンポもうちょっと早くしてとか、ちょっとずつ調整するってことですよね。

勝木:皆さんも自分の経験に当てはめてなんでもやると思うんですけど、僕はたまたま自分の持っていた経験が、バンドだったんです。

 

ー料理とかは単独作業ですけど、作る工程で言えば、塩ひとつまみで味がまったく変わるような。料理に例えて言えば、そういう味の積み重ねが、ビールを造る上での調整というか。

勝木:そうそう。ギターのアンプって、低音・中音・高音を調整したり、音の歪をつかったりして音作りをするんです。ビールを仕込む時もこれをあてはめて、例えば、ホップをたくさん入れたかったらHighをちょっと上げようとか、ボディがほしかったらベースあげようかなとかいうイメージを自分の頭に描いて、それを僕らは材料をちょっと増やしたりとかすればできるんですね。

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ーそれって、自分達で作るブルワリーだからこそできることですよね。今も新しいビールって作っていますか?

勝木:この1年くらい『SPEED KILLS』が出過ぎちゃって間に合っていない状態で、そればっかり作っていますね。それで、他のビールの欠品が多いんですけど、新しいお店もできたので、今タンクを大きくしようと工事をしている最中です。他のも、もうちょっと種類作りたいなと思って。

 

ータンクがある場所は、ここから近いんですか?

勝木:歩いて10分くらい。だから、輸送コストもかからないんです。

 

メジャーになったクラフトビールの未来

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ークラフトビールってマイナーなものだったのに、メジャーになったと最近感じています。今の日本のクラフトビールブームについて、どう思いますか?

勝木:日本に関して言うと、商材としては仕入れが高いのでビールって儲からないんですよ。普通によそから仕入れて売るって、うちら作ってる者ですらそうですけど、半分くらい原価なんですよね。普通の飲食店とか、例えばチューハイとかに関して言うと、8割くらい利益になると思うんです。それで、今クラフトビールブームで、色んな所がお店を始めたかもしれないけど、利益もよくないし、今後は本当に好きでやっている人たちだけが、生き残っていくんだと思います。

 

—廃れていくのではないかと。

勝木:日本のブルワーの大体の人が言うのが「多くの人に飲んでもらいたい」「食事に合うビールを造りたい」とかだと思うんです。うちの場合、求めてる人のために、このビールを作りにいくっていくか。みんなのためとか、誰が飲んでもおいしいっていうのは、もうちょっと諦めてるんですよね。

 

—あとは、ビールの量や種類が多ければいいみたいなところもあるんですかね。

勝木:ビールが50種類あるお店とかありますよね。でも、種類が多いと、ビールひとつ辺りの回転率は悪いはずなんですよ。

 

ー新鮮じゃないのかも…。

勝木:そうかもしれないです。

 

ーブームだからっていう安易な考えでやっちゃうと、それこそブームで終わっちゃうかもしれないっていうことですよね。

勝木:なんでもそうですけど、その人が好きでやってるんだったら辞めないでしょうけどね。あとは、1994年に酒税法の改正があった時、一斉にブルワリーが立ち上がって、これが日本のクラフトビールの第一世代なんですけど、その5年〜10年後くらいにできたのが「ベアード」とか「志賀高原」なんですね。その次の世代が僕らなんですよ。僕らブルワリーを起こした時に、神奈川の「横浜ベイブルーイング」「ヨロッコビール」「ブリマーブルーイング」辺りと同じ時期に立ち上がって、ついにそういう時代がきたなとは思ったんですが、その後に新規で立ち上げるブルワリーなんかほとんどいなかったですね。最近新しいところが立ち上がってるみたいですけど、僕が思っていたほどそんなに多くないなっていうのもあるし。ホップをガツッと効かせたビールばっか作るところが出てくると思ってたんですよ。そんなにないんですよね、意外と。

 

ーそうですね。

勝木:ちょっとそういう意味で、数が少ないような感じありますね。例えば都内のビール屋さんに行ってメニューみるじゃないですか。大体一緒じゃないですか?

 

ーそうなんです。

勝木:ビール専門店とかは、ビールの種類のパイ不足だと思いますよ。あそこのお店にはない、うちのもの出したいと思ってると思うんですけど、それがなかなか手に入らない。だから僕らのところに「出してくれないか」ってすごく問い合わせきますね。

 

ーでもダメ…っていうか、できないですよね。

勝木:そう、できない。自分のとこですら切らしてるのに。よそで出せません。

 

ーそのために大きくするっていうのはあんまり考えてないんですか?

勝木:それを今やってる最中ですね。

 

ーそのうちどこかで、飲めるかもしれない。

勝木:そうですね。ものが足りないっていうのもひとつなんですけど、まずは地場を横浜で固めたいという理由もあります。「横浜のビールはこれだ!」っていうビールにしたいってこともあって、他にはあまり出さないという。関内のお店を作ったのも、地場を固めたいという理由です。足りないのはわかってるので、今頑張って工場建ててます。

 

—地場を固めたいという思いで、他に活動していることはありますか?

勝木:うちのスタッフはバンドやってる人もいますし、お客さんでも多いんですよ。

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ーハードコアとかそういうバンドですか?

勝木:そうですね。横浜で、相鉄線の西横浜にある「EL PUENTE」っていうライブハウスとうちが組んで、色々活動してるんです。例えば、そこの前売り券をうちで売ったり、僕らのビールを持って行って販売したり。横浜のアンダーグラウンドを固めようって色々動いてますね。

 

ー盛り上げよう、広めようじゃなく、固めようっていう所がいいですね。勝木さんのバンドはなんていうバンドですか?

勝木:marbullmenっていうバンドです。

 

ーこういう今流れてるような音楽ですか?

勝木:もうね、ひどいの。

 

ーひどい?

勝木:早くて短い。ライブやっても、7曲12分くらいで終わっちゃう。

 

ー早い!(笑) 今の落ち着いた佇まいと話し方からは想像できないんですけど、この映像みたいに髪振り乱したりするんですか?

勝木:僕、実はね、髪長くて。

 

ーえっ!?

勝木:帽子の中に、髪の毛を格納してるんですよね。だから、ライブやってると、誰も声かけないっていうか、わからないみたいで。着替えてこの状態に戻ると、あ、みたいな(笑)

 

ーえー! そうなんですね! あ、いたんですねみたいな。

勝木:そう。そういう意味ではすごいやりやすいですね。切り替えが。

 

ー勝木さんのバンドのライブ、気になります。それ、知ってて行きたいですね。

 

お客さん対応もアメリカ仕様!

—私が前来た時に、マナーが悪いお客さんがいたんです。その人に対する店員さんの対応がすごいかっこよかったんです。「帰ってください!」ってびしっと言っていて。それを見て私、このお店大好きになったんです。味もそうなんですけど、お客さんを選んでいないというか、本当にビールが好きで飲みたい人だけ飲み来ると感じがしました。

勝木:びしっと言ってました? そうなんですよね。そう言っていただけて、ありがとうございます。結構、そこは容赦ないですね。泥酔してる人には、「このままだと帰れなくなっちゃうからもう帰りなさい」とか。あと、ちょっとトラブルになりそうな場合とかって、カウンターの中にいると全部わかるんですよ。だから、ヤバイと思ったら、もう早めに店の外に出てもらうようにしてます。でも、そういう傾向にあるものですから、トラブルも多いですよ。態度が悪いだとか。でもね、アメリカのバーとか行くと、やっぱりバーテンダーってそういうもんですよ。態度がつっけんどんなんですよ。

 

ー確かに。映画の情報ですけど、バーテンダーってかっぷくがよくて、いかついっていうイメージは確かにありますね。

勝木:横柄に見えるんですけど、それくらいじゃないと、酔っ払いはコントロールできないですよ。

 

ーいや、本当そうですよね。店員さんは男らしい、体格のいい人なんですか?

勝木:そうですね。でもまあ、そういう風にして嫌われてもしょうがないと。好きでビールを飲みに来てる人に、おいしく飲んでもらいたいってそれだけなんです。

 

—正直、そうやって店員さんがちゃんと観てくれてるなら、ビール女子にも安心してオススメできそうです。勝木さん、本日は本当にありがとうございました!

 

勝木さんは終始、「バンドのやり方を、ビール作りや僕らのすべての運営に反映させてるということを伝えたい」とおっしゃっていました。例えばそれが人によっては、料理の調味料の加減だったり、シンクロナイズドスイミングの手の使い方やチームワークだったり、吹奏楽部のピッチを半音下げたりすることかもしれません。人それぞれ、その人が生きてきた中で、ちょっとつまみを動かしただけで、物事がかっちりハマった経験ってあるのではないでしょうか。勝木さんはバンド作りをビール造りに反映させて、ガッツリホップの効いたビール造りをしているのだそうです。

インタビューを通して感じたのは、「店に入りづらい、怖い」というよりも、ビールが好きな人にとっては本当に居心地の良い場所なんだろうなということ。メタルとビール、そして人への想いが詰まったビアバー・THRASH ZONE。お一人様女子でも、屈強な店員さんがちゃんと見てくれているので、心配無用ですよ!(編集員:山吹)

 

 

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イラスト:ISOGAI(Twitter/@HitohisaI、instagram/@isogaihitohisa